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第5章 祝福されるふたり
5-18 不穏な空気①
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回復魔法師の自分をこき使う国王が、怪しい動きをしていそうでならない。
そんな不穏な空気を感じ、居ても立ってもいられないエドワードは、陛下の執務室へ駆け込んでいた。
珍しく真面目に書類を読んでいる陛下の姿を見たエドワードは、じれる気持ちを堪えながら、大人しく様子を窺う。
陛下は分かっていて、下を向いている気がしてならない……。エドワードの顔に、焦りの色が濃くなる
陛下がゆっくりと前を向いた途端、エドワードは食い気味に話を始めた。
「陛下、昨日俺たちが帰ったあと、何があった? 貴族たちからルイーズ宛てに、機嫌取りの品が届いている」
「おー、随分と動きが早いな。……2人が帰ったあと、舞踏会は大混乱だったぞ。正体不明の回復魔法師様の素性が分かった記念に祝賀会が必要だと、言い出す者が多くてな……」
「そんなものは、どう考えても要らないだろう。しなくて結構だ! 俺は出席する気はない」
エドワードは両手で机をバンッとたたき、断固拒否の意思を示す。
「まあ、そんなことは分かり切っているから、却下したが……。3か月後のエドワード様の結婚披露宴は王宮の大広間で、王家主催の祝賀会に置き換えろと暴動が起きた」
「何だよそれ。俺とルイーズの結婚式を変なことに巻き込むなよ。披露宴はしないと伝えただろう。まさか、勝手なことを決めたんじゃないだろうな」
陛下を疑いの眼差しで見るエドワードは、嫌な予感の的中を確信している。
「昨日の騒ぎでは、承諾するしかなかったからな。エドワード様の父と意見も一致した。エドワード様がいつも仕事をしている午後の時間を、王宮の大広間で過ごすだけだ、問題なかろう」
「……どう考えても、問題しかないだろう」
(仕事中の俺を公式の場に呼び出して、治療をしてもらう魂胆しか見えないだろう……)
全く納得できずにエドワードは身悶えていた。
「エドワード様が、あの場で公表して、そのまま帰ったんだ。……仕方がないだろう」
痛い所を衝かれ、うっ、と息をのむエドワード。
舞踏会で正体を明かした自分にも、落ち度があると痛いほど認識しているのだ。
淡々と言い切る陛下を見て、今更言っても無駄だろう。とりあえず、結婚式にかこつけた1回だけだと、エドワードは半ばあきらめている。
「信じられないな、俺の結婚式の日まで働かせるつもりなのか……」
「結婚式の翌日は休んでいいぞ。他の2人と違って、今まで疲れた姿を見たことのないエドワード様も、もしかして疲れるかもしれないから」
「あのなぁ、俺は規則にない治療はしないからな」
くつくつと、うれしそうに笑う国王陛下を、エドワードは怪訝そうに見つめている。
「まあ、大半の者たちは、回復魔法師のエドワード様の結婚を祝いたいだけだ。昨日2人が退席したあとは、今朝までお祭り騒ぎだった」
そう言いながら陛下は、すっとエドワードの前に手を差し出し、握手を求めている。
それを見たエドワードは、息を吐くように笑って握り返している。
……けれど、国王の手を離したエドワードは、呆れて冷たく言い放っていた。
「国王なんだから、適当なところで退席すべきだろう。いつも言っているけど、2日酔いになるまで飲むな」
「ああ、次からは気をつける……。今朝は、エドワード様も忙しそうだと断られてしまったからな」
「おい、まさか……、今朝も俺のことを迎えに来ていたのか⁉ それも、ただの2日酔いで。ふざけんなよっ、じじぃ! 昨日夜会で治療してやっただろう」
「お陰で、その後も酒が進んだんだ」
そう言った陛下は、がははっと、うれしそうに笑っている。
言葉を失ったエドワードは、自分の部屋の前で、聞き耳を立てていたマルロの姿を想像して、顔を引きつらせている。
「そうだった。レベッカから『エドワード様と婚約者に失礼なことを言って申しわけなかった』と、伝えて欲しいと言われていたな」
エドワードは、あの気位の高い王女でさえ、自分が回復魔法師だと分かれば、途端に掌を返すのだと、苦笑いをしている。
どんなに謝罪されようと、ルイーズを直接侮辱していたから、彼の中で許す気はなかった。
当のルイーズはエドワードの部屋で、贈られたチョコレートの箱を開けて、「わぁ~」と、呑気に喜びの声を上げている。
そんな不穏な空気を感じ、居ても立ってもいられないエドワードは、陛下の執務室へ駆け込んでいた。
珍しく真面目に書類を読んでいる陛下の姿を見たエドワードは、じれる気持ちを堪えながら、大人しく様子を窺う。
陛下は分かっていて、下を向いている気がしてならない……。エドワードの顔に、焦りの色が濃くなる
陛下がゆっくりと前を向いた途端、エドワードは食い気味に話を始めた。
「陛下、昨日俺たちが帰ったあと、何があった? 貴族たちからルイーズ宛てに、機嫌取りの品が届いている」
「おー、随分と動きが早いな。……2人が帰ったあと、舞踏会は大混乱だったぞ。正体不明の回復魔法師様の素性が分かった記念に祝賀会が必要だと、言い出す者が多くてな……」
「そんなものは、どう考えても要らないだろう。しなくて結構だ! 俺は出席する気はない」
エドワードは両手で机をバンッとたたき、断固拒否の意思を示す。
「まあ、そんなことは分かり切っているから、却下したが……。3か月後のエドワード様の結婚披露宴は王宮の大広間で、王家主催の祝賀会に置き換えろと暴動が起きた」
「何だよそれ。俺とルイーズの結婚式を変なことに巻き込むなよ。披露宴はしないと伝えただろう。まさか、勝手なことを決めたんじゃないだろうな」
陛下を疑いの眼差しで見るエドワードは、嫌な予感の的中を確信している。
「昨日の騒ぎでは、承諾するしかなかったからな。エドワード様の父と意見も一致した。エドワード様がいつも仕事をしている午後の時間を、王宮の大広間で過ごすだけだ、問題なかろう」
「……どう考えても、問題しかないだろう」
(仕事中の俺を公式の場に呼び出して、治療をしてもらう魂胆しか見えないだろう……)
全く納得できずにエドワードは身悶えていた。
「エドワード様が、あの場で公表して、そのまま帰ったんだ。……仕方がないだろう」
痛い所を衝かれ、うっ、と息をのむエドワード。
舞踏会で正体を明かした自分にも、落ち度があると痛いほど認識しているのだ。
淡々と言い切る陛下を見て、今更言っても無駄だろう。とりあえず、結婚式にかこつけた1回だけだと、エドワードは半ばあきらめている。
「信じられないな、俺の結婚式の日まで働かせるつもりなのか……」
「結婚式の翌日は休んでいいぞ。他の2人と違って、今まで疲れた姿を見たことのないエドワード様も、もしかして疲れるかもしれないから」
「あのなぁ、俺は規則にない治療はしないからな」
くつくつと、うれしそうに笑う国王陛下を、エドワードは怪訝そうに見つめている。
「まあ、大半の者たちは、回復魔法師のエドワード様の結婚を祝いたいだけだ。昨日2人が退席したあとは、今朝までお祭り騒ぎだった」
そう言いながら陛下は、すっとエドワードの前に手を差し出し、握手を求めている。
それを見たエドワードは、息を吐くように笑って握り返している。
……けれど、国王の手を離したエドワードは、呆れて冷たく言い放っていた。
「国王なんだから、適当なところで退席すべきだろう。いつも言っているけど、2日酔いになるまで飲むな」
「ああ、次からは気をつける……。今朝は、エドワード様も忙しそうだと断られてしまったからな」
「おい、まさか……、今朝も俺のことを迎えに来ていたのか⁉ それも、ただの2日酔いで。ふざけんなよっ、じじぃ! 昨日夜会で治療してやっただろう」
「お陰で、その後も酒が進んだんだ」
そう言った陛下は、がははっと、うれしそうに笑っている。
言葉を失ったエドワードは、自分の部屋の前で、聞き耳を立てていたマルロの姿を想像して、顔を引きつらせている。
「そうだった。レベッカから『エドワード様と婚約者に失礼なことを言って申しわけなかった』と、伝えて欲しいと言われていたな」
エドワードは、あの気位の高い王女でさえ、自分が回復魔法師だと分かれば、途端に掌を返すのだと、苦笑いをしている。
どんなに謝罪されようと、ルイーズを直接侮辱していたから、彼の中で許す気はなかった。
当のルイーズはエドワードの部屋で、贈られたチョコレートの箱を開けて、「わぁ~」と、呑気に喜びの声を上げている。
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