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第5章 祝福されるふたり
5-15 大波乱の舞踏会⑪
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ルイーズが、エドワードと一緒に会場を立ち去ろうとしたときだった。
「ルイーズ、待ちなさい」
突然、ルイーズの聞き覚えのない声に制止された。
ルイーズは、恐る恐るゆっくりとその声の方へ視線を向ける。もちろん、全く見覚えがない顔だ。
はて誰だ? とエドワードに助けを求めれば、やはり来たかと、ため息をつき、その夫人を見ている。
(もしかして、エドワードのお母様……?)
「私はあなたとエドワードの婚約はずっと反対だった。今日あなたが屋敷に来ても、招き入れないように家令に指示していたのよ……。もし、黄色いドレスを着ていたら、帰りの馬車には乗せるなと命じているわ」
エドワードの母がそう思うのは当然だろう。今、自分もそう感じている。
エドワードの母から向けられる感情は至極当然。ルイーズは、すっと納得してしまった。
やはり、どう考えても代々続く名門スペンサー侯爵家の嫡男と、全くさえないフォスター伯爵家の妾の子では全く釣り合わない。
それなのに、こんな騒ぎまで起こして……。
エドワードに結婚しようと言われて、自分の立場もわきまえず受け入れたことが恥ずかしくて仕方がない。悔しさで口元が震えないようにと、グッと唇かみしめる。
けれど、血相を変えたエドワードが、詰め寄っている。
「はぁぁーっ、母は何を言うんですか⁉」
「当然でしょう、もっと素晴らしい縁談があるのに、この子と結婚すると突然言いだして。私だって調べたわよ。ルイーズ嬢へ贈るドレス……。仕立屋で完成したのを見て確信したの、この結婚は何かあると」
「どうして……、何もないだろう」
「どう見てもおかしかったわよ。何でも名前を付けたがる侯爵家の人間が贈るドレスに、名前が付いていないのだから」
それは、ルイーズも疑問に思っていた。
青いドレスには、美しい花柄と合わせながら、家紋が刺繍されていたのだ。
それなのに、女店主から当然のように着せられた黄色いドレス。
それは、ふたりのイニシャルだけが内側に刺繍されていた。
まあ、今となっては関係ない。
エドワードとの結婚は、いっときの夢だったと思えばいい。
そう決意し独りで伯爵家に帰ろうと踵を返そうとした。
「このストールを使いなさい。ほら、頭からかぶったらあなたの濡れた髪もドレスもすっぽりと包めるわ。全く我が家の男どもは気が利かないのだから、濡れたままなんて寒いでしょう」
予期せぬことに、ルイーズを気遣う言葉が、エドワードの母から発せられたのだ。
えっ? と驚いた顔をしているルイーズは、どうしていいのか戸惑ったまま。
そうしている間に、エドワードが侯爵夫人の差し出したストールを、奪い取るように握っていた。
彼は、それをふわっと広げ、ルイーズの頭からストールをかぶせる。そして、いつものように、ルイーズを抱き寄せた。
ストール越しに伝わる彼の体温が、より一層ルイーズを温かい気持ちにさせる。
「ありがとうございます……」
「エドワードを守ってくれる、とても良いお嬢さんと結婚するようでうれしいわ。私は、この子が、こんなに悪態をつくことも、回復魔法師様だと知らなかったから驚いちゃったわ。でも屋敷の中で、困ったことがあれば、私に何でも相談なさい」
「…………えっ、あ、はい」
彼がヒーラーであることはともかく、悪態をつくのはルイーズと出会った瞬間からずっと変わらない。
母親ならそれくらい知っているだろうと疑問を抱く。
ルイーズは、義母の言葉が腑に落ちず、「いつもですよ」と、言いそうになるのをこらえた。
エドワードが、ルイーズにうれしそうに話し掛ける。
「良かったな、これで馬車の中でも俺にくっ付けるぞ」
「ふふっ、わたしを抱き寄せたいのはエドワードの方でしょ」
彼女は彼と見つめ合い、噴き出して笑っている。
楽しそうに寄り添って歩くふたりは、レベッカ王女の前を通って、会場を去っていた。
ふたりが消えた舞踏会の会場。
今まで謎だったヒーラーの1人がエドワードだと知れ渡り、大歓声が上がっていたことを、当のふたりだけが知らなかった。
その会場では、モーガンが眼帯を外して歓喜の叫びを上げる。
その姿を恨めしそうに見る者たちが、陛下を取り囲み、切実に懇願していた。
エドワードとルイーズの結婚式は、3か月後……。
※※※
【作者からの御礼メッセージ】
本作品を読んでいただき、ありがとうございます。
読者の皆様に、この作品に没頭していただきたいことと、この作品の世界観を壊さないようにと、あとがきを入れておりませんでした。本好きな方の中には、作品後のあとがきが苦手な方もいると思いまして……(私だけか?)
……が、どうしても伝えたくて書かせていただきました。
アプリの新機能、応援(エール)を送っていただいた読者様、本当にありがとうございます。
その応援のお気持ち、すっごくうれしくて感動しております。
感想であれば、返答ができるのですが、応援(エール)には気持ちを返せないので、ここに書かせていただきました。
「ルイーズとエドワードの恋」
最後まで読んでいただけるとうれしいです。
投稿前の確認に時間を要しており、投稿速度はバラつきますが、引き続きよろしくお願いします。
「ルイーズ、待ちなさい」
突然、ルイーズの聞き覚えのない声に制止された。
ルイーズは、恐る恐るゆっくりとその声の方へ視線を向ける。もちろん、全く見覚えがない顔だ。
はて誰だ? とエドワードに助けを求めれば、やはり来たかと、ため息をつき、その夫人を見ている。
(もしかして、エドワードのお母様……?)
「私はあなたとエドワードの婚約はずっと反対だった。今日あなたが屋敷に来ても、招き入れないように家令に指示していたのよ……。もし、黄色いドレスを着ていたら、帰りの馬車には乗せるなと命じているわ」
エドワードの母がそう思うのは当然だろう。今、自分もそう感じている。
エドワードの母から向けられる感情は至極当然。ルイーズは、すっと納得してしまった。
やはり、どう考えても代々続く名門スペンサー侯爵家の嫡男と、全くさえないフォスター伯爵家の妾の子では全く釣り合わない。
それなのに、こんな騒ぎまで起こして……。
エドワードに結婚しようと言われて、自分の立場もわきまえず受け入れたことが恥ずかしくて仕方がない。悔しさで口元が震えないようにと、グッと唇かみしめる。
けれど、血相を変えたエドワードが、詰め寄っている。
「はぁぁーっ、母は何を言うんですか⁉」
「当然でしょう、もっと素晴らしい縁談があるのに、この子と結婚すると突然言いだして。私だって調べたわよ。ルイーズ嬢へ贈るドレス……。仕立屋で完成したのを見て確信したの、この結婚は何かあると」
「どうして……、何もないだろう」
「どう見てもおかしかったわよ。何でも名前を付けたがる侯爵家の人間が贈るドレスに、名前が付いていないのだから」
それは、ルイーズも疑問に思っていた。
青いドレスには、美しい花柄と合わせながら、家紋が刺繍されていたのだ。
それなのに、女店主から当然のように着せられた黄色いドレス。
それは、ふたりのイニシャルだけが内側に刺繍されていた。
まあ、今となっては関係ない。
エドワードとの結婚は、いっときの夢だったと思えばいい。
そう決意し独りで伯爵家に帰ろうと踵を返そうとした。
「このストールを使いなさい。ほら、頭からかぶったらあなたの濡れた髪もドレスもすっぽりと包めるわ。全く我が家の男どもは気が利かないのだから、濡れたままなんて寒いでしょう」
予期せぬことに、ルイーズを気遣う言葉が、エドワードの母から発せられたのだ。
えっ? と驚いた顔をしているルイーズは、どうしていいのか戸惑ったまま。
そうしている間に、エドワードが侯爵夫人の差し出したストールを、奪い取るように握っていた。
彼は、それをふわっと広げ、ルイーズの頭からストールをかぶせる。そして、いつものように、ルイーズを抱き寄せた。
ストール越しに伝わる彼の体温が、より一層ルイーズを温かい気持ちにさせる。
「ありがとうございます……」
「エドワードを守ってくれる、とても良いお嬢さんと結婚するようでうれしいわ。私は、この子が、こんなに悪態をつくことも、回復魔法師様だと知らなかったから驚いちゃったわ。でも屋敷の中で、困ったことがあれば、私に何でも相談なさい」
「…………えっ、あ、はい」
彼がヒーラーであることはともかく、悪態をつくのはルイーズと出会った瞬間からずっと変わらない。
母親ならそれくらい知っているだろうと疑問を抱く。
ルイーズは、義母の言葉が腑に落ちず、「いつもですよ」と、言いそうになるのをこらえた。
エドワードが、ルイーズにうれしそうに話し掛ける。
「良かったな、これで馬車の中でも俺にくっ付けるぞ」
「ふふっ、わたしを抱き寄せたいのはエドワードの方でしょ」
彼女は彼と見つめ合い、噴き出して笑っている。
楽しそうに寄り添って歩くふたりは、レベッカ王女の前を通って、会場を去っていた。
ふたりが消えた舞踏会の会場。
今まで謎だったヒーラーの1人がエドワードだと知れ渡り、大歓声が上がっていたことを、当のふたりだけが知らなかった。
その会場では、モーガンが眼帯を外して歓喜の叫びを上げる。
その姿を恨めしそうに見る者たちが、陛下を取り囲み、切実に懇願していた。
エドワードとルイーズの結婚式は、3か月後……。
※※※
【作者からの御礼メッセージ】
本作品を読んでいただき、ありがとうございます。
読者の皆様に、この作品に没頭していただきたいことと、この作品の世界観を壊さないようにと、あとがきを入れておりませんでした。本好きな方の中には、作品後のあとがきが苦手な方もいると思いまして……(私だけか?)
……が、どうしても伝えたくて書かせていただきました。
アプリの新機能、応援(エール)を送っていただいた読者様、本当にありがとうございます。
その応援のお気持ち、すっごくうれしくて感動しております。
感想であれば、返答ができるのですが、応援(エール)には気持ちを返せないので、ここに書かせていただきました。
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