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第4章 離れたふたり
4-14 ルイーズの捕獲④
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左手の甲にされた優しいキス。触れていたエドワードの唇が、ゆっくりと離れていった。
……胸が高鳴ったルイーズは、名残惜しく思う。
けれど、顔を上げたエドワードから、ぬくもりを感じさせる甘い笑顔が、ふっとルイーズに向けられた。
初めて見る彼の笑顔に、ルイーズはさらに胸がきゅっとなる。
……エドワードに自分の気持ちを伝えてもいいの? ……そう思ったルイーズの瞳は、じんわりと熱くなる。
自分の左手を包んでいたエドワードの手が、ゆっくり離れていこうとしている。
駄目。もっと、エドワードのぬくもりを感じていたい。
そう思ったルイーズは、咄嗟に右手を出して、彼の手を引き止める。
……すると何の違和感もなく動く右手に、ルイーズはハッとする。
けがをしてから、何をどうやっても、一切動かなかった。それなのに、全く違和感もなく動く。
何が起きたのか分からない。でも間違いなくエドワードが治してくれた。
エドワードを見つめていたルイーズは、喜びのあまり、見る見るうちに表情を変えていく。
「エドワードっ! 信じられない。右手が動くわ」
何度も手を開いたり握ったりして動かすルイーズ。
エドワードはうれしそうな表情で、まるで子どものようにはしゃぐルイーズを見ている。
「今まで、たくさん治療をしてきたけど、治した後に、初めて俺もうれしいと思った。これまでは治して当たり前みたいな感じでやっていたからな」
「ありがとう、すごいわ、こんな奇跡が起きるなんて。あれっ、でも、元々救護室で治してもらっていたのに、どういうこと?」
「さあな? 陛下は俺のヒールが一番効くって、いつも言っているけどな。相性か何かあるんじゃないのか? 入れ替わったときからルイーズの体は全部知っているし」
「その言い方、ちょっと恥ずかしいわ。もう、相変わらずデリカシーがないんだから」
ルイーズの言葉を聞いたエドワードは、表情をこわばらせている。
「悪い、伝えていないことがある。俺は素手で触れると相手の体のイメージが伝わってくるんだ。のぞくつもりはないが、色々分かることもある。普段、手袋を着けているのはそういう理由だ……、嫌だろうから……」
そう言って、エドワードは手袋をはめようとする。
それに気付いたルイーズは、彼の手にそっと手を置き、制止する。
「なんだ、カッコ付けているわけじゃなかったのね、ふふっ。ちょっと恥ずかしいけど、嫌じゃないし、どうせ、わたしのことは色々知っているんでしょう。気にしないわよ」
「おい、いいのか? ルイーズの腹が減っているのだって、聞かなくても分かっていた、そういう意味だぞ……」
「いいわよ。考えようによっては便利でしょ。だって、手を繋ぐのは直接がいいもん」
「お前、どんだけお気楽なんだよ……。いや、そうでもないのか。ルイーズはあの家を出るのか? それならこのまま、俺の所に来るか」
(弟が言っていた、ルイーズを売るって話……奴隷、いや娼館だろうな。そんなことを考える母親がいるなら、あの屋敷から、早急に出るべきだろう)
首を振って、申し訳なさそうに断るルイーズ。
「ううん大丈夫。だって、エドワードが手を治してくれたし、アランのこともあるから、すぐにはちょっと……」
今日からずっと一緒にいられると期待したエドワード。
申し出を断られ、肩を落とす。
(俺は弟のせいで断られたのか? まあ、いいか。アランが来なければ、この先2度とルイーズに会えなくなっていたんだろうから)
「アランに礼を言っておけよ。ルイーズのことを心配して、わざわざ訓練場まで、チョコレートとリンゴをくれた人を探していたからな」
「え、あの子、そんなことをしていたの……。ふふっ、でも、エドワードから、もらった記憶はないわね」
「あのリンゴは俺が食べたから、今度ルイーズに返してやるよ。そうすれば、リンゴをくれた人になるからいいだろう。チョコレートは、この前ケーキを食っていたから、それだ」
「ふふっ、そうしておくわ」
……胸が高鳴ったルイーズは、名残惜しく思う。
けれど、顔を上げたエドワードから、ぬくもりを感じさせる甘い笑顔が、ふっとルイーズに向けられた。
初めて見る彼の笑顔に、ルイーズはさらに胸がきゅっとなる。
……エドワードに自分の気持ちを伝えてもいいの? ……そう思ったルイーズの瞳は、じんわりと熱くなる。
自分の左手を包んでいたエドワードの手が、ゆっくり離れていこうとしている。
駄目。もっと、エドワードのぬくもりを感じていたい。
そう思ったルイーズは、咄嗟に右手を出して、彼の手を引き止める。
……すると何の違和感もなく動く右手に、ルイーズはハッとする。
けがをしてから、何をどうやっても、一切動かなかった。それなのに、全く違和感もなく動く。
何が起きたのか分からない。でも間違いなくエドワードが治してくれた。
エドワードを見つめていたルイーズは、喜びのあまり、見る見るうちに表情を変えていく。
「エドワードっ! 信じられない。右手が動くわ」
何度も手を開いたり握ったりして動かすルイーズ。
エドワードはうれしそうな表情で、まるで子どものようにはしゃぐルイーズを見ている。
「今まで、たくさん治療をしてきたけど、治した後に、初めて俺もうれしいと思った。これまでは治して当たり前みたいな感じでやっていたからな」
「ありがとう、すごいわ、こんな奇跡が起きるなんて。あれっ、でも、元々救護室で治してもらっていたのに、どういうこと?」
「さあな? 陛下は俺のヒールが一番効くって、いつも言っているけどな。相性か何かあるんじゃないのか? 入れ替わったときからルイーズの体は全部知っているし」
「その言い方、ちょっと恥ずかしいわ。もう、相変わらずデリカシーがないんだから」
ルイーズの言葉を聞いたエドワードは、表情をこわばらせている。
「悪い、伝えていないことがある。俺は素手で触れると相手の体のイメージが伝わってくるんだ。のぞくつもりはないが、色々分かることもある。普段、手袋を着けているのはそういう理由だ……、嫌だろうから……」
そう言って、エドワードは手袋をはめようとする。
それに気付いたルイーズは、彼の手にそっと手を置き、制止する。
「なんだ、カッコ付けているわけじゃなかったのね、ふふっ。ちょっと恥ずかしいけど、嫌じゃないし、どうせ、わたしのことは色々知っているんでしょう。気にしないわよ」
「おい、いいのか? ルイーズの腹が減っているのだって、聞かなくても分かっていた、そういう意味だぞ……」
「いいわよ。考えようによっては便利でしょ。だって、手を繋ぐのは直接がいいもん」
「お前、どんだけお気楽なんだよ……。いや、そうでもないのか。ルイーズはあの家を出るのか? それならこのまま、俺の所に来るか」
(弟が言っていた、ルイーズを売るって話……奴隷、いや娼館だろうな。そんなことを考える母親がいるなら、あの屋敷から、早急に出るべきだろう)
首を振って、申し訳なさそうに断るルイーズ。
「ううん大丈夫。だって、エドワードが手を治してくれたし、アランのこともあるから、すぐにはちょっと……」
今日からずっと一緒にいられると期待したエドワード。
申し出を断られ、肩を落とす。
(俺は弟のせいで断られたのか? まあ、いいか。アランが来なければ、この先2度とルイーズに会えなくなっていたんだろうから)
「アランに礼を言っておけよ。ルイーズのことを心配して、わざわざ訓練場まで、チョコレートとリンゴをくれた人を探していたからな」
「え、あの子、そんなことをしていたの……。ふふっ、でも、エドワードから、もらった記憶はないわね」
「あのリンゴは俺が食べたから、今度ルイーズに返してやるよ。そうすれば、リンゴをくれた人になるからいいだろう。チョコレートは、この前ケーキを食っていたから、それだ」
「ふふっ、そうしておくわ」
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