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第3章 入れ替わりのふたり
3-16 入れ替わりから戻れない
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執事に朝食だと呼ばれたエドワードは、皿の数を見て目をパチクリさせて驚く。
昨日までは、パンとスープしかなかったメニューに、主菜と副菜が並んでいる。
スペンサー侯爵家の自分とルイーズの関係がチラついた途端。掌を返すフォスター伯爵家に腹立たしさを感じながら、エドワードは黙々と食事を取って訓練に向かった。
訓練開始時刻が近づけば、自然とルイーズの近くからは訓練生が消え、エドワードだけが残っていた。
「練習をしましょうか」
そう言った、ルイーズは訓練をする気満々だ。ルイーズは騎士になるのを、少しも諦めていない。
「お前の体で剣の稽古って、地獄だな」
「はぁぁーっ、言い方に、もっと気遣いや優しさはないわけ。昨日の夜、少しだけ見直したけど、やっぱりエドワードだわ」
「おっ、やっと俺のことを敬う気持ちになったか、遅いぞ」
教官が、一向に練習を始めない2人を見ていた。それに気付いたのは、ルイーズだった。
「はいはい、そういうことにしてあげるわよ。教官ににらまれたわ、練習するわよ」
「いや、剣を交えているフリだけにしてくれ」
「ふふっ、弱気でかわいいわね」
笑っているのはルイーズだけ。目の前には、引きつった表情のルイーズの顔が見えている。
持ち上げた互いの剣をコツンとぶつけたまま、2人は、ただ会話をしていた。
「今日も、俺の屋敷へ行く」
「いいけど、こんなにわたしのことを屋敷に連れていって、侯爵家は問題ないの?」
「父の耳に入っているか知らないが、もし、知っていても、俺が遊んでいるくらいにしか思っていないだろう。何も言われることはないから安心しろ」
**
スペンサー侯爵家の、エドワードの部屋に着いた2人は、寄り添うようにソファーに座っていた。
「屋敷の中で、困っていることはないか?」
「今のところは大丈夫よ。でも昨日の夜考えていたんだけど、スペンサー侯爵家のお金をたくさん使っているようだったけど、わたし、お父様から怒られないかしら」
「そんなことを気にしていたのか? 大丈夫だ、あれは俺個人の金だ。侯爵家とは全く関係ないから問題はない」
「どうしてそんなにお金が……」
「もう少したっても体が戻らないなら、その理由を教えるが……」
この話をしているときのエドワードは、緊張でかすかに体がこわばる。
(俺が救護室の人間だと伝えていなことが、どうしてこんなに気が咎めるんだ? 別にだましていたわけではないが……。以前、回復魔法師の話をしたときに、適当に誤魔化したせいだろうか)
言葉に詰まった彼は、そう思っていた。
「ふふっ、デリカシーのないエドワードでも、悩むことはあるのね。大丈夫よ、困ったら、すぐに相談するわ」
「悪いな。入れ替わったのはおそらく俺のせいだ。原因が分からないから、戻り方も分からない。あれから何度も、心当たりを試したが無理だった。本当は、もうとっくに戻れると思っていた……」
「大丈夫、そんな不安そうな顔をしなくても、きっと戻れるわよ。ふふっ、それに、心配しなくても、エドワードの重要なものは勝手にいじらないから」
そう言って、エドワードの頭をなでる。
「手を握ってもいいか?」
「いいわよ」
しばらく2人で手を握り合い、エドワードが、ルイーズに寄り掛かっていた。
(どうして戻れないんだ……。ルイーズに剣が向かっていたとき、俺がルイーズと替わりたいと思っていたのは間違いない。それなのに、あれから何度念じても戻ることはない。いよいよ、王宮の仕事をどうにかしないといけないか……)
そう思っている彼の頭の中には、ある不安が過っていた。
昨日までは、パンとスープしかなかったメニューに、主菜と副菜が並んでいる。
スペンサー侯爵家の自分とルイーズの関係がチラついた途端。掌を返すフォスター伯爵家に腹立たしさを感じながら、エドワードは黙々と食事を取って訓練に向かった。
訓練開始時刻が近づけば、自然とルイーズの近くからは訓練生が消え、エドワードだけが残っていた。
「練習をしましょうか」
そう言った、ルイーズは訓練をする気満々だ。ルイーズは騎士になるのを、少しも諦めていない。
「お前の体で剣の稽古って、地獄だな」
「はぁぁーっ、言い方に、もっと気遣いや優しさはないわけ。昨日の夜、少しだけ見直したけど、やっぱりエドワードだわ」
「おっ、やっと俺のことを敬う気持ちになったか、遅いぞ」
教官が、一向に練習を始めない2人を見ていた。それに気付いたのは、ルイーズだった。
「はいはい、そういうことにしてあげるわよ。教官ににらまれたわ、練習するわよ」
「いや、剣を交えているフリだけにしてくれ」
「ふふっ、弱気でかわいいわね」
笑っているのはルイーズだけ。目の前には、引きつった表情のルイーズの顔が見えている。
持ち上げた互いの剣をコツンとぶつけたまま、2人は、ただ会話をしていた。
「今日も、俺の屋敷へ行く」
「いいけど、こんなにわたしのことを屋敷に連れていって、侯爵家は問題ないの?」
「父の耳に入っているか知らないが、もし、知っていても、俺が遊んでいるくらいにしか思っていないだろう。何も言われることはないから安心しろ」
**
スペンサー侯爵家の、エドワードの部屋に着いた2人は、寄り添うようにソファーに座っていた。
「屋敷の中で、困っていることはないか?」
「今のところは大丈夫よ。でも昨日の夜考えていたんだけど、スペンサー侯爵家のお金をたくさん使っているようだったけど、わたし、お父様から怒られないかしら」
「そんなことを気にしていたのか? 大丈夫だ、あれは俺個人の金だ。侯爵家とは全く関係ないから問題はない」
「どうしてそんなにお金が……」
「もう少したっても体が戻らないなら、その理由を教えるが……」
この話をしているときのエドワードは、緊張でかすかに体がこわばる。
(俺が救護室の人間だと伝えていなことが、どうしてこんなに気が咎めるんだ? 別にだましていたわけではないが……。以前、回復魔法師の話をしたときに、適当に誤魔化したせいだろうか)
言葉に詰まった彼は、そう思っていた。
「ふふっ、デリカシーのないエドワードでも、悩むことはあるのね。大丈夫よ、困ったら、すぐに相談するわ」
「悪いな。入れ替わったのはおそらく俺のせいだ。原因が分からないから、戻り方も分からない。あれから何度も、心当たりを試したが無理だった。本当は、もうとっくに戻れると思っていた……」
「大丈夫、そんな不安そうな顔をしなくても、きっと戻れるわよ。ふふっ、それに、心配しなくても、エドワードの重要なものは勝手にいじらないから」
そう言って、エドワードの頭をなでる。
「手を握ってもいいか?」
「いいわよ」
しばらく2人で手を握り合い、エドワードが、ルイーズに寄り掛かっていた。
(どうして戻れないんだ……。ルイーズに剣が向かっていたとき、俺がルイーズと替わりたいと思っていたのは間違いない。それなのに、あれから何度念じても戻ることはない。いよいよ、王宮の仕事をどうにかしないといけないか……)
そう思っている彼の頭の中には、ある不安が過っていた。
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