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第3章 入れ替わりのふたり

3-15 憤慨する姉

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 スペンサー侯爵家の馬車で、伯爵家へ送り届けられたエドワードルイーズの体は、自分の帰りを待ち構える伯爵夫人の姿におののき、1歩、後ずさっている。

(ゲッ、なんだこの圧力は……。俺に用事なんだよな……)

「流石、泥棒猫の娘。次々と男を引っかけて来るのね。まさかお前が、スペンサー侯爵家のエドワード様に取り入るとは思ってもいなかったけど。今日届いた、エドワード様からの贈り物は部屋に運んであるわ」

「ああ、そう、……助かります」

 そう言いつつも、既に足は部屋へ向かっている。その背中に、伯爵夫人が力強く脅しをかけてきた。
「絶対に、逃がすんじゃないわよ」

 返事もしないまま歩き続けていたエドワードルイーズの体は、正直なところ、返答に困っている。その表情は硬い。

(泥棒猫って、ルイーズはあの夫人の娘ではないのか……。どうりでな、おかしな家族関係の理由はそれか。
 もし俺たちの体がこのままなら、エドワードからルイーズへ、婚約を願う書面を送るつもりだ。
 俺が、男に、それもカーティスに抱かれるなど、まっぴらごめんだからな。
 だが、それは戻れなかったときだ。
 自分の体に戻ったら、選択肢は違うだろう。
 あえてフォスター伯爵家のルイーズと婚姻を交わす理由は、……ないな。
 取りあえず、すぐに戻れなかったとしても、俺がルイーズに興味を持っていると思えば、この家の当主も迂闊うかつな縁談に食いつかないだろう)
 
 部屋へ戻った彼は、届いた品々を確認する。が、途中から顔つきが変わった。宝石の付いた装飾品が足りないことに気付いたのだ。
 今日の買い物は、全て自分で買っている。届くべきものは全て把握済み。思い当たるのは、姉しかいない。

 すぐさま姉の部屋に向かおうとした。けれど、その姉自らルイーズの部屋を訪ねてきた。

 エドワードの中では、何も言わないルイーズへの贈り物だった。勘違いしていた自分は、何も知らずにルイーズに冷たいことを言ったびでもあった。それを盗まれ、頭に一気に血が上る。
 彼女のために盗難対策まで施していた。にもかかわらず、それをルイーズが手にする前になくなっているのだ。

「ちょっとルイーズ。あんた本当に調子に乗っているわね。エドワード様から、あんたなんかに贈り物って、弱みでも握って何かしたの?」
「弱みっ……。お前に言われたくはない」
「ちょっと生意気ね。今、お前って言ったわね。姉に向かってなんて口を利いているの!」
 ルイーズの頬をたたこうと手を出しかけた姉の手首を、エドワードルイーズの体は、ガシッとつかんでいた。いつもは抵抗しないルイーズが、反抗した。姉の眼光に鋭さが増す。
 だが、それくらいで、ひるむエドワードではなかった。

「妹のものを盗むやつに言っているんだ。ルイーズのために贈った、ネックレスに、イヤリング、指輪、宝石の付いたもの全てがなくなっている」
「あんたの勘違いでしょう。買ってもらったと思って、結局ケチられたんでしょう」
「はぁぁーっ、そんなことはない」

「あんたは、エドワード様にとっては、その程度だったってことよ。あっ、それから聞いて、わたし妊娠していなかったから、めでたくモーガンとは結婚しなくなりました。言っていたとおり、あんたに返してあげるから喜んで。ちょっと、わたしの手をいい加減に離しなさいよ」

 姉の言葉に放心するエドワードの隙を突いて、ミラベルは手の拘束をとく。

「男を返す? 馬鹿か」
「エドワード様と少し親しくしているからって、本当に生意気。そのうちモーガンが、あんたの所にいくんじゃないかしら、良かったわね」

 そう言い放って、プリプリ怒りながら部屋を後にした姉。

(あの馬鹿男が来たら、俺が追い返しておけばいいか)
 そう思っている彼の前へ、モーガンは言い寄ってくることはないのだけれど――。
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