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第3章 入れ替わりのふたり
3-10 予期せぬライバルの登場
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訓練の終了を知らせる笛の音が響いた。それを聞きエドワードとルイーズは、顔を見合わせうなずくと、すぐさま控室へ戻っていった。
ルイーズのロッカーから荷物を持ったエドワードは、ルイーズの元へ向かおうとした。
だが、エドワードは、突然目の前に立つカーティスに道を塞がれてしまう。危なくぶつかるところだ。何事だと、エドワードはカーティスに嫌な顔を向けそうになるが、グッとこらえた。
「ルイーズ嬢、訓練中ずっとエドワードと何を話していたの? エドワードが随分とルイーズ嬢のことをにらんでいたし、押さえつけているようだったけど、何か脅されているの?」
「えっ。お、エドワードが脅すって。それはない」
またしても、エドワードの名前が出てきて、うろたえるエドワード。それも、自分が令嬢を脅しているとは、全く持って聞き捨てならない。思わぬ誤解に激しく動揺し、あたふたする。
「さっきは舞踏会のパートナーに誘うだけで話を終えたけど、僕はルイーズ嬢と婚約を考えている。正式にブラウン公爵家から、フォスター伯爵家に申し込もうと思う」
少し前まで戸惑っていたエドワードは、その言葉を聞いて、ふぅ~っと、息を整える。そして、数拍置いてから冷静に話し出す。
「いや。エドワードから申し込みを受けたので断る」
「朝までは、エドワードのことを否定していたのに、どうして急に……」
「さっきの訓練中に、そうなった。申し訳ない、急いでいるから」
そう言って、カーティスの横をすり抜け、急いでルイーズの元へ向かう。
ルイーズの横に並ぶと同時に、ルイーズへ頼み事をする。その声は冷静だが、作り笑いを浮かべている。
「後ろにいるカーティスを見てから、すぐに前を向け。絶対に笑うなよ」
思わず聞き返そうとしたルイーズは、意味が分からなかった。
……けれど、エドワードの張り詰めた声に何かある、と、何も言わず大人しく従った。
ルイーズが振り返れば、ルイーズの姿を目で追っていた、カーティスと自然に目が合う。振り向いたところで、やはり何のことやら分からず頭の中に疑問符が浮かぶだけ。
だが、エドワードの狙いは達成だ。視線に気付いたエドワードが、自分を牽制した。そう捉えたカーティス。
訳の分からないルイーズは、前を向いてから、エドワードに問いかける。
「どっ、どういうこと?」
「後で説明する。いいから俺の屋敷へ急いで帰るぞ」
そう言って、エドワードは、ルイーズの腕を組んだ。
訓練場から2人で寄り添って出てきた2人。まるで恋人同士にしか見えない。女豹の群れから悲鳴が上がっていた。
その2人の関係を、気にもせず声を掛けてきたのはパトリシア侯爵令嬢だった。
「やっぱり2人は仲良しなのね。良かったらこのまま3人で出掛けませんか?」
エドワードの姿を見ながら、話し掛けるパトリシア。
ルイーズは、自分より爵位が上の人間に言われて、断れる気がしない。どうすべきかと固まる。
それに気付いた、エドワードに肘で小突かれ、慌てて口を開く。
「あっ、今日は2人で出掛ける予定なので申し訳ありません、それでは」
「そうなのですね……。では、舞踏会でお願いします」
満足そうな顔をしているルイーズは、危機を脱したと安心している。
そして今。エドワードと2人きりのスペンサー侯爵家の馬車に乗り込んだ。彼と2人なら何の気兼ねも要らないと、完全に気を抜いていた。
馬車の中で、何か腑に落ちていないエドワードは、難しい顔をしている。
「なあ、さっきパトリシア嬢が言っていた、舞踏会って、次の王家主催の舞踏会だよな。俺、何を頼まれていたか全く思い出せないが、お前が何か言ったのか?」
「そうよ、『一緒に踊って』だって。だから、その当日に声を掛けてと伝えたわ」
「はぁぁーっ。お前っ、断れよ!」
「そのときまでに自分の体に戻っていなかったら、男性パートなんて踊れないから、欠席するわよ」
額に手をやるエドワードは、心底あきれている。
「……馬鹿だな、その舞踏会は休めない。考えたら分からんか? 王家主催の舞踏会や夜会は貴族籍の人間は全員参加、それくらい常識だ。だからお前も参加する予定なんだろう」
ひゅっと息を吸うルイーズ。正直なところ、自分は父の命令に従っているだけで、そんな事情は知らなかったのだ。
「えー、どうしよう。わたし……、もしかして自分で自分の首を絞めているの?」
泣きそうな顔で、エドワードにすがりつくルイーズ。実際に、ギュウギュウつかんでいる腕は、ルイーズ自身の体だが。
「やっと気付いたか。俺の体で適当なことを言うな。ほら屋敷に着いたから降りろ!」
ルイーズにエスコートされて、馬車から降りてくるエドワード。
……それを間近で侯爵家の御者は見ていた。
この家のお坊ちゃんが、令嬢にエスコートされている……。
不思議な2人が、スペンサー侯爵家の屋敷へ帰ってきていた。
ルイーズのロッカーから荷物を持ったエドワードは、ルイーズの元へ向かおうとした。
だが、エドワードは、突然目の前に立つカーティスに道を塞がれてしまう。危なくぶつかるところだ。何事だと、エドワードはカーティスに嫌な顔を向けそうになるが、グッとこらえた。
「ルイーズ嬢、訓練中ずっとエドワードと何を話していたの? エドワードが随分とルイーズ嬢のことをにらんでいたし、押さえつけているようだったけど、何か脅されているの?」
「えっ。お、エドワードが脅すって。それはない」
またしても、エドワードの名前が出てきて、うろたえるエドワード。それも、自分が令嬢を脅しているとは、全く持って聞き捨てならない。思わぬ誤解に激しく動揺し、あたふたする。
「さっきは舞踏会のパートナーに誘うだけで話を終えたけど、僕はルイーズ嬢と婚約を考えている。正式にブラウン公爵家から、フォスター伯爵家に申し込もうと思う」
少し前まで戸惑っていたエドワードは、その言葉を聞いて、ふぅ~っと、息を整える。そして、数拍置いてから冷静に話し出す。
「いや。エドワードから申し込みを受けたので断る」
「朝までは、エドワードのことを否定していたのに、どうして急に……」
「さっきの訓練中に、そうなった。申し訳ない、急いでいるから」
そう言って、カーティスの横をすり抜け、急いでルイーズの元へ向かう。
ルイーズの横に並ぶと同時に、ルイーズへ頼み事をする。その声は冷静だが、作り笑いを浮かべている。
「後ろにいるカーティスを見てから、すぐに前を向け。絶対に笑うなよ」
思わず聞き返そうとしたルイーズは、意味が分からなかった。
……けれど、エドワードの張り詰めた声に何かある、と、何も言わず大人しく従った。
ルイーズが振り返れば、ルイーズの姿を目で追っていた、カーティスと自然に目が合う。振り向いたところで、やはり何のことやら分からず頭の中に疑問符が浮かぶだけ。
だが、エドワードの狙いは達成だ。視線に気付いたエドワードが、自分を牽制した。そう捉えたカーティス。
訳の分からないルイーズは、前を向いてから、エドワードに問いかける。
「どっ、どういうこと?」
「後で説明する。いいから俺の屋敷へ急いで帰るぞ」
そう言って、エドワードは、ルイーズの腕を組んだ。
訓練場から2人で寄り添って出てきた2人。まるで恋人同士にしか見えない。女豹の群れから悲鳴が上がっていた。
その2人の関係を、気にもせず声を掛けてきたのはパトリシア侯爵令嬢だった。
「やっぱり2人は仲良しなのね。良かったらこのまま3人で出掛けませんか?」
エドワードの姿を見ながら、話し掛けるパトリシア。
ルイーズは、自分より爵位が上の人間に言われて、断れる気がしない。どうすべきかと固まる。
それに気付いた、エドワードに肘で小突かれ、慌てて口を開く。
「あっ、今日は2人で出掛ける予定なので申し訳ありません、それでは」
「そうなのですね……。では、舞踏会でお願いします」
満足そうな顔をしているルイーズは、危機を脱したと安心している。
そして今。エドワードと2人きりのスペンサー侯爵家の馬車に乗り込んだ。彼と2人なら何の気兼ねも要らないと、完全に気を抜いていた。
馬車の中で、何か腑に落ちていないエドワードは、難しい顔をしている。
「なあ、さっきパトリシア嬢が言っていた、舞踏会って、次の王家主催の舞踏会だよな。俺、何を頼まれていたか全く思い出せないが、お前が何か言ったのか?」
「そうよ、『一緒に踊って』だって。だから、その当日に声を掛けてと伝えたわ」
「はぁぁーっ。お前っ、断れよ!」
「そのときまでに自分の体に戻っていなかったら、男性パートなんて踊れないから、欠席するわよ」
額に手をやるエドワードは、心底あきれている。
「……馬鹿だな、その舞踏会は休めない。考えたら分からんか? 王家主催の舞踏会や夜会は貴族籍の人間は全員参加、それくらい常識だ。だからお前も参加する予定なんだろう」
ひゅっと息を吸うルイーズ。正直なところ、自分は父の命令に従っているだけで、そんな事情は知らなかったのだ。
「えー、どうしよう。わたし……、もしかして自分で自分の首を絞めているの?」
泣きそうな顔で、エドワードにすがりつくルイーズ。実際に、ギュウギュウつかんでいる腕は、ルイーズ自身の体だが。
「やっと気付いたか。俺の体で適当なことを言うな。ほら屋敷に着いたから降りろ!」
ルイーズにエスコートされて、馬車から降りてくるエドワード。
……それを間近で侯爵家の御者は見ていた。
この家のお坊ちゃんが、令嬢にエスコートされている……。
不思議な2人が、スペンサー侯爵家の屋敷へ帰ってきていた。
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