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第2章 いがみ合うふたり

2-4 チョコレート②

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 騎士試験開始1週間。
 相変わらず、ルイーズの姿は騎士の訓練場にあった。

「どうして今日も来たんだよ。お前、本当に才能がないから辞めろよ」

 世間一般の形式的な朝の挨拶。そんなものはない。エドワードとは、いつも決まってこの言葉から始まる。これがいつも「おはよう」の代わりだ。

 彼は笑うのだろうか? いつも仏頂面しか見たことがないし、他の候補生と話しているのを見たこともない。
 ちなみに「さようなら」の代わりは「あしたは来るな」だ。言動から彼の素行の悪さが随所から伝わり怖い。
 正直なところ、自分から率先して嫌いな人物に関る、エドワードの気が知れない。
 自分であれば、御免だ。毎日毎日、どうしてこうなっているのか全く分からず、ルイーズはエドワードをきつくにらんで威嚇いかくする。
 

「はぁぁーっ、何を言っているのよ! じゃあ、わたしの近くにいなきゃいいでしょ。もう、すっかり剣を振れるようになった。っとっとっと」

 そう言いながら、ルイーズは素振りをしようと剣先を天に向けたものの、反動を付けたせいで姿勢を保てない。重い剣に体をとられ、ふらふらと動き出す。

 よろついたルイーズは、エドワードに自分の肩をガシッと抑えられてしまった。調子に乗った直後に気まずい。
 ばつが悪い顔を彼らに向けると、エドワードは既に物言いたげで、ギョッとした。
 彼は、露骨に感情を顔に出し、不愉快そうにルイーズを見ている。

「剣を持ち上げてよろける時点で自滅だろう。警護は無理だ。それに、変な動きをされたら俺がけがをする。それとも俺を刺しに来たのか、この馬鹿っ!」

 ルイーズが多少抱いた申し訳なさ。
 そんなものは、エドワードの言葉で、あっという間に消え去る。
 たかがよろついたくらいで、大袈裟おおげさな言い方をされた。
 カチンときた。その上、馬鹿と言われて感情的になる。


「もう、うるさいわね。エドワードに抑えてもらわなくても、何とかなっていたわよ」

「ならねーだろ、どう見ても。お前はどうして、こんなに諦めが悪いんだ?」
「大切な婚約者と約束しているからよ。2人で一緒に暮らすのに騎士になりたいの」
「男と暮らすためって……。お前は本当に不純な動機だな」

「勝手に言っていればいいでしょう。どうしてエドワードはそんなに意地悪ばかり言うのよっ」
「意地悪ではなく事実を言っているだけだ。ってお前、剣を振り回してよそ見するな、馬鹿」

 エドワードが、危ない動きをするルイーズの剣先に注意を払っている。それにもかかわらず、その剣を持っている張本人は、ブラウン公爵家のカーティスの姿をチラリと見ていたのだ。それがエドワードにバレていた。

「はぁぁーっ、馬鹿じゃないし。昨日、カーティスからチョコレートをもらったんだけど、まだちゃんと、お礼を言っていなかったことを思い出して」

 それを聞いたエドワードは、ムッとしながらルイーズをにらんでいる。この訓練でぬけぬけと、男をあさっているのかもしれないと、疑念を抱く。

(この訓練にはカーティスって名前は2人いるはずだが、こいつが言っているのは、陛下の側近の息子ってことだよな。こいつ、訓練が終わった後に、真っすぐ帰らないで何しているんだよ。俺が毎日こんなことに付き合わされているのに、この女は何を考えているんだ)

「お前って、男なら誰でもいいのか?」

「はいぃ? 何を言っているの? だって、ちゃんとお礼を言っておけば、また、もらえるかもしれないから」
(あのチョコレート、弟にあげたらすごく喜んでいたのよね……)

「お前って、どこまでも下品な女だな。食い意地まで張っているのか……」
「はぁぁーっ、張ったことはないわよ、そんなもの。失礼しちゃうわね。わた……」
 わたしの食事は毎回パン1個と具無しスープと決まっている。そう言いかけるが、それは、グッと堪えてエドワードに伝えることはない。これは屋敷の中の話だ、と感情を抑えた。



 エドワードからは、婚約者のいる身でより条件の良い男をあさっているように見えたのだろう。ルイーズに抱くイメージが更に悪くなる。
 ルイーズは、わけも分からずエドワードに腹を立てられ、憤慨している。


 ……町で売られ始めたばかりのチョコレートは、一般人は買えない高価なものだった。けれど、さすが公爵家のカーティスだ。彼はためらいもなく、人に分け与えられる程、気前が良かった。
 ……何気なく渡したチョコレートが、これからの2人に大きな影響を与えるとは思ってもいない。

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