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第3章 入れ替わりのふたり
3-6 見えてくるルイーズの姿
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エドワードは、ルイーズが言っていたとおり、静かに彼女の部屋で過ごそうと思っていた。
そんな彼の気持ちを知らずに、姉がバタバタと部屋に突入してきた。
何事だ? と、考える時間もない。またたく間の展開にエドワードは、「ひゃっ」とかわいい声を出して動揺する。
訳も分からず突然、ミラベルから腕をつかまれたエドワード。眉間にしわを寄せた姉から、射抜くような視線でにらまれている。
まるで鼻息でも聞こえそうな姉の気迫。エドワードでさえ圧倒され、口を固く結んで顔をこわばらせる。
何より、この状況が全く理解できない彼は、うかつに何も言えずにいた。
痛みで顔がゆがむエドワード。姉が強くつかんでいるルイーズの腕は、じんじんと伝わる鈍い痛みに変わるほど。
日頃言い返さないルイーズには何をしても構わない。そう思っている姉は、いつも目いっぱいの力を込め、威圧的にルイーズの体を拘束しているのだ。
「あんた、もしかしてエドワード様を狙っているつもりじゃないでしょうね」
姉の口から自分の名前が出たエドワードは、目をパチクリさせる。
それでも平静を装う姿勢の彼は、間違って「俺」と言わないように細心の注意を払う。
だが、姉からにらみつけられる気迫に押され、何度か言い間違えながらの、たどたどしい口調だ。
「お、エドワードは、ルイーわたしに興味はない」
「当たり前でしょ。スペンサー侯爵家の嫡男が、あんたなんかに、なびくはずないんだから。それに、エドワード様を呼び捨てだなんて、失礼だわ。調子に乗らないで」
「いや、訓練の同期だ。この期間は別に」
「あんたもしかして、モーガンとわたしのことに気付いて、モーガンの誕生日だけ、訓練から早く帰ってきたんじゃないでしょうね! 分かっていて、わたしの部屋に入ってきたんでしょう! それで婚約者を押し付けて、エドワード様に乗り換えようとしていたんでしょう」
「はぁぁ? 何を言っている?」
「しらばっくれないでよ。わたしがモーガンの子を妊娠していなかったら、あんな取り柄のない男は返してあげるわ」
「なんだ、返すって? いくら馬鹿でも姉と婚約者がそんなことをしていると分かったらだませないって、分かるだろう」
彼にとっての「馬鹿」は、ルイーズを指す。けれど、姉にとってはモーガンだと理解し、にらみ合う2人の会話は、止まることなく続く。
「あんたが毎日わたしに泣いてすがってくるってモーガンに言えば、その気になるわよ。今だって、あんたの方が都合良いって、わたしに文句ばっかり言っているんだから。あんたが部屋に入ってきたせいで失敗したのよ。わたしをこんなに悩ませているんだから、その仕返しはさせてもらうわよ。彼をけしかけて、あんたの部屋に届けてあげるから。エドワード様を落とそうなんて考えないで」
姉の言動に驚愕しているエドワードは、つかまれていた手を振り払い、冷たい視線を向け言い放つ。
「お前、最低だな」
そう言って、エドワードはミラベルの背中を強く押して部屋から追い出し、鍵を掛けた。
……突然のことに焦り、心臓がバクバクとうるさい。ただでさえしんどい体。耐えられず、エドワードはそのままへたり込んだ。
(断片的な情報と父の指示で、嫌々ルイーズに関っていたせいで、彼女のことを勘違いしていたのか?
今更だが、彼女の態度を改める必要がありそうだ。何で、あいつはいつも怒っていたのに本当のことを言わなかったんだ……)
エドワードは少しずつ、ルイーズのことが気になりだしている。
乱れた呼吸を整えたエドワード。もんもんとしている彼は、何かがおかしいと部屋中をあさっていた。
クローゼットの中を開けると、サイズの小さなドレスが1着とワンピースが数枚掛かっているだけ。どれも新しいとは言えない。
慌てて机の上にあるノートを手当たり次第に見始めた。
中にはルイーズが付けていた帳簿もあった。
(あいつ、この屋敷でどんな暮らしを送っているんだ)
「ルイーズ様、夕食の時間です。食堂にお越しください」
「あ、ああ……」
ルイーズが話していたとおり、執事が扉の外から声を掛けてきた。
そうなれば違和感もなく、エドワードは執事の後ろを付いて食堂へ向かう。
彼が座るように誘導された席には、小さなパン1個と具無しスープのみだ。
それにハッと驚き彼は周囲をうかがうように見回す。
すると彼の目に映るのは、他の家族の食事と、自分の目の前に並べられているメニューが全く違っていた。
案の定、ルイーズがいつも以上に、まじまじと主菜を見ていることは、あっと言う間に他の家族に気付かれてしまう。
「何かあったの?」
継母が不愉快そうに、エドワードに話し掛けてくる。
いつもの口調で口を開きかけたけれど、彼は、ぐっとこらえて口をつぐむことにした。
(そういえば、あいつは無言で食べろと言っていたか……。言っても無駄なんだろうし、ここは黙っておくか。
だが、このままでは駄目だな。こいつが細いままなのも、こんなに体が気だるいのも、こういうことか……。体が戻ったら、あいつを屋敷に連れてきて何か食わせてやるか)
そう思っていた彼は、何も言わずに出されたものを食べて、急いで部屋へ戻った。
自分の体に戻る方法をルイーズの体を使い試行錯誤し、深い罪悪感を抱くことになる。
そんな彼の気持ちを知らずに、姉がバタバタと部屋に突入してきた。
何事だ? と、考える時間もない。またたく間の展開にエドワードは、「ひゃっ」とかわいい声を出して動揺する。
訳も分からず突然、ミラベルから腕をつかまれたエドワード。眉間にしわを寄せた姉から、射抜くような視線でにらまれている。
まるで鼻息でも聞こえそうな姉の気迫。エドワードでさえ圧倒され、口を固く結んで顔をこわばらせる。
何より、この状況が全く理解できない彼は、うかつに何も言えずにいた。
痛みで顔がゆがむエドワード。姉が強くつかんでいるルイーズの腕は、じんじんと伝わる鈍い痛みに変わるほど。
日頃言い返さないルイーズには何をしても構わない。そう思っている姉は、いつも目いっぱいの力を込め、威圧的にルイーズの体を拘束しているのだ。
「あんた、もしかしてエドワード様を狙っているつもりじゃないでしょうね」
姉の口から自分の名前が出たエドワードは、目をパチクリさせる。
それでも平静を装う姿勢の彼は、間違って「俺」と言わないように細心の注意を払う。
だが、姉からにらみつけられる気迫に押され、何度か言い間違えながらの、たどたどしい口調だ。
「お、エドワードは、ルイーわたしに興味はない」
「当たり前でしょ。スペンサー侯爵家の嫡男が、あんたなんかに、なびくはずないんだから。それに、エドワード様を呼び捨てだなんて、失礼だわ。調子に乗らないで」
「いや、訓練の同期だ。この期間は別に」
「あんたもしかして、モーガンとわたしのことに気付いて、モーガンの誕生日だけ、訓練から早く帰ってきたんじゃないでしょうね! 分かっていて、わたしの部屋に入ってきたんでしょう! それで婚約者を押し付けて、エドワード様に乗り換えようとしていたんでしょう」
「はぁぁ? 何を言っている?」
「しらばっくれないでよ。わたしがモーガンの子を妊娠していなかったら、あんな取り柄のない男は返してあげるわ」
「なんだ、返すって? いくら馬鹿でも姉と婚約者がそんなことをしていると分かったらだませないって、分かるだろう」
彼にとっての「馬鹿」は、ルイーズを指す。けれど、姉にとってはモーガンだと理解し、にらみ合う2人の会話は、止まることなく続く。
「あんたが毎日わたしに泣いてすがってくるってモーガンに言えば、その気になるわよ。今だって、あんたの方が都合良いって、わたしに文句ばっかり言っているんだから。あんたが部屋に入ってきたせいで失敗したのよ。わたしをこんなに悩ませているんだから、その仕返しはさせてもらうわよ。彼をけしかけて、あんたの部屋に届けてあげるから。エドワード様を落とそうなんて考えないで」
姉の言動に驚愕しているエドワードは、つかまれていた手を振り払い、冷たい視線を向け言い放つ。
「お前、最低だな」
そう言って、エドワードはミラベルの背中を強く押して部屋から追い出し、鍵を掛けた。
……突然のことに焦り、心臓がバクバクとうるさい。ただでさえしんどい体。耐えられず、エドワードはそのままへたり込んだ。
(断片的な情報と父の指示で、嫌々ルイーズに関っていたせいで、彼女のことを勘違いしていたのか?
今更だが、彼女の態度を改める必要がありそうだ。何で、あいつはいつも怒っていたのに本当のことを言わなかったんだ……)
エドワードは少しずつ、ルイーズのことが気になりだしている。
乱れた呼吸を整えたエドワード。もんもんとしている彼は、何かがおかしいと部屋中をあさっていた。
クローゼットの中を開けると、サイズの小さなドレスが1着とワンピースが数枚掛かっているだけ。どれも新しいとは言えない。
慌てて机の上にあるノートを手当たり次第に見始めた。
中にはルイーズが付けていた帳簿もあった。
(あいつ、この屋敷でどんな暮らしを送っているんだ)
「ルイーズ様、夕食の時間です。食堂にお越しください」
「あ、ああ……」
ルイーズが話していたとおり、執事が扉の外から声を掛けてきた。
そうなれば違和感もなく、エドワードは執事の後ろを付いて食堂へ向かう。
彼が座るように誘導された席には、小さなパン1個と具無しスープのみだ。
それにハッと驚き彼は周囲をうかがうように見回す。
すると彼の目に映るのは、他の家族の食事と、自分の目の前に並べられているメニューが全く違っていた。
案の定、ルイーズがいつも以上に、まじまじと主菜を見ていることは、あっと言う間に他の家族に気付かれてしまう。
「何かあったの?」
継母が不愉快そうに、エドワードに話し掛けてくる。
いつもの口調で口を開きかけたけれど、彼は、ぐっとこらえて口をつぐむことにした。
(そういえば、あいつは無言で食べろと言っていたか……。言っても無駄なんだろうし、ここは黙っておくか。
だが、このままでは駄目だな。こいつが細いままなのも、こんなに体が気だるいのも、こういうことか……。体が戻ったら、あいつを屋敷に連れてきて何か食わせてやるか)
そう思っていた彼は、何も言わずに出されたものを食べて、急いで部屋へ戻った。
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