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第3章 入れ替わりのふたり

3-5 エドワードとルイーズの弟

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 エドワードルイーズの体がルイーズの部屋へ戻ろうと思ったとき、弟のアランが声を掛けてきた。
「姉上、勉強を教えてくれませんか? ここが分からなくて」
 そう言って、真剣な顔でノートとペンを差し出す弟。
 弟の勉強を見てくれと、ルイーズに頼まれていた彼だが、子どもの相手をこれまでしたことがなかったため、あまり乗り気ではなかった。

 それに、この家にはルイーズよりしっかりした姉がいる。それならそちらに聞くべきだろう。そう思っていた彼は、さらりとこう言った。
「ミラベルに聞けばいいだろう」

 ……いつものルイーズではない、別人だ。姉の不信すぎる言動に恐れをなして1歩後ずさる弟のアラン。
「ミラベル姉上に聞いても勉強なんて分かるわけがないのに、姉上、一体どうしたんですか? 1週間以上高熱が出ていたせいで、まだ意識が混乱しているのでしょうか……。それなら、また出直します」

 ……何だ? 話がかみ合わないと、エドワードは目を見開いて弟アランを凝視する。だが、どう見ても、冗談を言っているようには見えない。納得しきらない、おかしさを考え込む……。
 
(ルイーズの婚約者だった男は、姉はしっかり者だと、言っていただろう。それなのに、この弟がミラベルを全く頼っていないのは、どういうことだ? 
 それに、あいつが休んでいたのは本当に体調が悪かったのか。なんか、悪いことをしたな)
 そう思っていたエドワードルイーズの体は、立ち去ろうとしていた弟のシャツの背中をつかみ慌てて静止させた。

「待て待て。分かったから、教えてやるよ」
「ありがとう姉上。でも今日は随分と男っぽい話し方をしていますが、騎士の訓練の影響ですか?」
「いつもと大して変わらんだろう」
「いや、いつもと違うけど、まあいいや」
 頭をポリポリとかきながら、弟が分からないと言っていた勉強を、エドワードルイーズの体はその場で教えてあげる。
 うんうんと、しきりにうなずく弟だけど、いつもより断然に分かりやすい説明に違和感を覚える。

「そういうことだったのか。あとは僕、自分で考えてみる。また分からなくなったら聞きますね。なんかやっぱり今日の姉上はいつもと違うけど……。姉上だったら、またいい人がすぐに見つかるから元気を出して、じゃあね」
「おい待て、今日リンゴをもらったから分けてやる」
 そう言ってアランを部屋に招き、いくつかリンゴを分けてあげたエドワード。

「こんなにいいのですか? 姉上が食べた方がいいですよ。僕は1個でいいですから。この前だって、チョコレートをもらったばかりなのに、いつも僕を気遣ってくれてありがとう」
 弟は受け取ったリンゴの内1個だけを持ち、他は机に置いて立ち去っていた。

(ルイーズは、随分と弟に慕われているのか。チョコレートって……、カーティスからもらったと言っていたやつか……。家族に嫌われているとルイーズを笑って悪いことをしたな。あした会ったときに謝るか……)
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