上 下
25 / 88
第2章 いがみ合うふたり

2-15 招かれたお茶会②

しおりを挟む
 自分は女だ。と主張するルイーズを、エドワードはしげしげと見つめる。そして、くすりと笑う。

「いや、どっからどう見ても、お前から色気も女も感じないんだから、男だろ」
「はぁぁーっ、何ですって! エドワードってば、パトリシア様のことを見て、緊張してガチガチになっって。普段どれだけ令嬢にモテないのよ! 何か気の毒で、同情するわね」
「はぁぁーっ、っなわけないだろう。俺はお前と違って、選び放題だ!」

 それを聞いたルイーズは彼に怪訝けげんな視線を向ける。
 ……この男は最低だ。今まで知らなかったけど、エドワードには恋人や愛人がいっぱいいるのかもしれない。エドワードの端整な容姿なら……あり得る。そう結論付けた。

 その類の被害を、先日ルイーズ自身が元婚約者から、くらったばかり。
 ルイーズの中では、エドワードへのいら立ちは高まる一方だ。


「選び放題って、最っ低ねっ! 色んな令嬢に手を出して、泣かせているんじゃないでしょうね! パトリシア様を泣かせたら、ただじゃ置かないわよ」
「お前なぁ、自分が俺に興味を持ってもらえないからって、ひがむなよ」
「はぁぁーっ、誰がひがんでいるって!」

 そこに、エドワードのためにお茶を持って、戻ってきたパトリシアが2人へ声を掛けた。
「2人ってやっぱり仲がいいのですね。もしかしてお付き合いなさっているのですか?」
「「そんなことは絶対にないっ!」」
 と、息もピッタリに重なって訴えるルイーズと彼。

 そして、一呼吸置いたエドワードがいつもと全く違う口調で穏やかに話を始める。
 それは、パトリシアに向けてのものだと分かり、心臓がキュッとなったルイーズ。彼女は笑顔を失っている。
 ……何故かエドワードは、自分にだけ冷たい。それも初めて会ったそのときから。……いつだって、自分はそんな存在。やるせない気持ちが彼女の心を占める。

「パトリシア嬢が、こいつと仲が良いとは意外ですね。こんなガサツなのと、パトリシア嬢では気が合うようには見えませんが」
「騎士の訓練場の外で具合が悪くなっていたわたしを、ルイーズ様が助けてくれたんです。わたしを木陰まで運んで、体調が良くなるまでそばにいてくれたんです。今日は、そのお礼でして」
 それを聞いた彼は、ルイーズの方を見て、そっけなく言った。

「お前って、たまには良いことをするんだな」
「はぁぁーっ、余計なお世話。いつも良いことしかしていないわよ!」

「お前、本当に口が悪すぎるな! パトリシア嬢、こいつと付き合うのは、ほどほどにしないと、悪い影響を受けますよ」
「誰が悪い影響よ、失礼ね!」
「本当、お2人って仲が良いですね」
 パトリシアの言葉に、又も息がピッタリの2人は重ねてこう言った。

「「どこがっ!」」

「そういえば、エドワード様はどうして、いつも手袋をはめているのですか?」
 パトリシアからの唐突な質問。 
 エドワードは、訓練のときは皮の手袋を、そして今はシルクの手袋をはめていた。今、それを問われている。
 その質問は、エドワードにとって、返答に困る内容だ。取りあえず、ごまかす必要があるだろう。
 さてどうするかと、彼はこめかみ辺りに指を置きかけた。

「パトリシア様、エドワードなんて、ただ格好を付けたいだけですから、大した理由なんてないですよ、どうせ」
「はぁぁーっ、誰が恰好を付けているだけだとっ!」
「エドワードのことでしょう! そうじゃなかったら、見えっ張りがいいかしら」
「どっちも同じだ! 本当に馬鹿だなお前は」

 会話の切り口を作りたかったパトリシアは、小さく口を開けて気落ちしている。
 パトリシアは緊張しながら、やっとのことでエドワードに質問した。けれど、ルイーズに話の骨を持っていかれてしまう。しまいにそのまま、2人だけで会話をしている。それも生き生きと。

 どうにかして、エドワードの婚約者になりたかったパトリシアにとっては、思っていた以上に2人が親密そうに見えて、内心焦っていた。

 今年社交界デビューしたばかりのパトリシアは、エドワードが、王女たちとだけ踊っていることまでは知らないようだ。
 家同士のつながりが強いエドワードと、うまくいけば婚約者になれると期待している。

 甘い想像をしているパトリシアの心境なんてものはお構いなしの2人。
 当人たちは、互いの馬車に乗り込むまで、いがみ合っているのだけれど。

「あーっ、もっとあのケーキ食べてくれば良かった」
「お前って、どこまで食い意地張っているんだよ。茶会でケーキにがっつく令嬢なんていないだろう」
「はぁぁーっ、出されているものをおいしく頂いて、何が悪いのよ! ふん。痛っーい、エドワードが要らないことを言うから、馬車の扉に指を挟めたじゃない、もう」 
「知るかっ! 俺の責任じゃないだろう、馬鹿。……どうせすぐ治るだろう」
 と言いながら、心配になり手袋を脱ぎかける。……が、もちろん無意識だから、彼は全くそれに気付いていない。
 彼が脱ぎ終わるより先に、ルイーズが話しを終わらせていた。

「はいはい、じゃあ、またあした」

 その言葉でハッとしたエドワードは、手袋をはめ直す。
 どうして手袋を脱ごうとしたのか? 疑問に思うも、日頃の仕事の条件反射だろうと、エドワードは結論に至った。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

挙式後すぐに離婚届を手渡された私は、この結婚は予め捨てられることが確定していた事実を知らされました

結城芙由奈 
恋愛
【結婚した日に、「君にこれを預けておく」と離婚届を手渡されました】 今日、私は子供の頃からずっと大好きだった人と結婚した。しかし、式の後に絶望的な事を彼に言われた。 「ごめん、本当は君とは結婚したくなかったんだ。これを預けておくから、その気になったら提出してくれ」 そう言って手渡されたのは何と離婚届けだった。 そしてどこまでも冷たい態度の夫の行動に傷つけられていく私。 けれどその裏には私の知らない、ある深い事情が隠されていた。 その真意を知った時、私は―。 ※暫く鬱展開が続きます ※他サイトでも投稿中

側妃、で御座いますか?承知いたしました、ただし条件があります。

とうや
恋愛
「私はシャーロットを妻にしようと思う。君は側妃になってくれ」 成婚の儀を迎える半年前。王太子セオドアは、15年も婚約者だったエマにそう言った。微笑んだままのエマ・シーグローブ公爵令嬢と、驚きの余り硬直する近衛騎士ケイレブ・シェパード。幼馴染だった3人の関係は、シャーロットという少女によって崩れた。 「側妃、で御座いますか?承知いたしました、ただし条件があります」 ********************************************        ATTENTION ******************************************** *世界軸は『側近候補を外されて覚醒したら〜』あたりの、なんちゃってヨーロッパ風。魔法はあるけれど魔王もいないし神様も遠い存在。そんなご都合主義で設定うすうすの世界です。 *いつものような残酷な表現はありませんが、倫理観に難ありで軽い胸糞です。タグを良くご覧ください。 *R-15は保険です。

裏切りの代償

志波 連
恋愛
伯爵令嬢であるキャンディは婚約者ニックの浮気を知り、婚約解消を願い出るが1年間の再教育を施すというニックの父親の言葉に願いを取り下げ、家出を決行した。 家庭教師という職を得て充実した日々を送るキャンディの前に父親が現れた。 連れ帰られ無理やりニックと結婚させられたキャンディだったが、子供もできてこれも人生だと思い直し、ニックの妻として人生を全うしようとする。 しかしある日ニックが浮気をしていることをしり、我慢の限界を迎えたキャンディは、友人の手を借りながら人生を切り開いていくのだった。 他サイトでも掲載しています。 R15を保険で追加しました。 表紙は写真AC様よりダウンロードしました。

【完結】亡き冷遇妃がのこしたもの〜王の後悔〜

なか
恋愛
「セレリナ妃が、自死されました」  静寂をかき消す、衛兵の報告。  瞬間、周囲の視線がたった一人に注がれる。  コリウス王国の国王––レオン・コリウス。  彼は正妃セレリナの死を告げる報告に、ただ一言呟く。 「構わん」……と。  周囲から突き刺さるような睨みを受けても、彼は気にしない。  これは……彼が望んだ結末であるからだ。  しかし彼は知らない。  この日を境にセレリナが残したものを知り、後悔に苛まれていくことを。  王妃セレリナ。  彼女に消えて欲しかったのは……  いったい誰か?    ◇◇◇  序盤はシリアスです。  楽しんでいただけるとうれしいです。    

「お前を妻だと思ったことはない」と言ってくる旦那様と離婚した私は、幼馴染の侯爵から溺愛されています。

木山楽斗
恋愛
第二王女のエリームは、かつて王家と敵対していたオルバディオン公爵家に嫁がされた。 因縁を解消するための結婚であったが、現当主であるジグールは彼女のことを冷遇した。長きに渡る因縁は、簡単に解消できるものではなかったのである。 そんな暮らしは、エリームにとって息苦しいものだった。それを重く見た彼女の兄アルベルドと幼馴染カルディアスは、二人の結婚を解消させることを決意する。 彼らの働きかけによって、エリームは苦しい生活から解放されるのだった。 晴れて自由の身になったエリームに、一人の男性が婚約を申し込んできた。 それは、彼女の幼馴染であるカルディアスである。彼は以前からエリームに好意を寄せていたようなのだ。 幼い頃から彼の人となりを知っているエリームは、喜んでその婚約を受け入れた。二人は、晴れて夫婦となったのである。 二度目の結婚を果たしたエリームは、以前とは異なる生活を送っていた。 カルディアスは以前の夫とは違い、彼女のことを愛して尊重してくれたのである。 こうして、エリームは幸せな生活を送るのだった。

私はただ一度の暴言が許せない

ちくわぶ(まるどらむぎ)
恋愛
厳かな結婚式だった。 花婿が花嫁のベールを上げるまでは。 ベールを上げ、その日初めて花嫁の顔を見た花婿マティアスは暴言を吐いた。 「私の花嫁は花のようなスカーレットだ!お前ではない!」と。 そして花嫁の父に向かって怒鳴った。 「騙したな!スカーレットではなく別人をよこすとは! この婚姻はなしだ!訴えてやるから覚悟しろ!」と。 そこから始まる物語。 作者独自の世界観です。 短編予定。 のちのち、ちょこちょこ続編を書くかもしれません。 話が進むにつれ、ヒロイン・スカーレットの印象が変わっていくと思いますが。 楽しんでいただけると嬉しいです。 ※9/10 13話公開後、ミスに気づいて何度か文を訂正、追加しました。申し訳ありません。 ※9/20 最終回予定でしたが、訂正終わりませんでした!すみません!明日最終です! ※9/21 本編完結いたしました。ヒロインの夢がどうなったか、のところまでです。 ヒロインが誰を選んだのか?は読者の皆様に想像していただく終わり方となっております。 今後、番外編として別視点から見た物語など数話ののち、 ヒロインが誰と、どうしているかまでを書いたエピローグを公開する予定です。 よろしくお願いします。 ※9/27 番外編を公開させていただきました。 ※10/3 お話の一部(暴言部分1話、4話、6話)を訂正させていただきました。 ※10/23 お話の一部(14話、番外編11ー1話)を訂正させていただきました。 ※10/25 完結しました。 ここまでお読みくださった皆様。導いてくださった皆様にお礼申し上げます。 たくさんの方から感想をいただきました。 ありがとうございます。 様々なご意見、真摯に受け止めさせていただきたいと思います。 ただ、皆様に楽しんでいただける場であって欲しいと思いますので、 今後はいただいた感想をを非承認とさせていただく場合がございます。 申し訳ありませんが、どうかご了承くださいませ。 もちろん、私は全て読ませていただきます。

お久しぶりです、元旦那様

mios
恋愛
「お久しぶりです。元旦那様。」

愛想を尽かした女と尽かされた男

火野村志紀
恋愛
※全16話となります。 「そうですか。今まであなたに尽くしていた私は側妃扱いで、急に湧いて出てきた彼女が正妃だと? どうぞ、お好きになさって。その代わり私も好きにしますので」

処理中です...