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第2章 いがみ合うふたり
2-15 招かれたお茶会②
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自分は女だ。と主張するルイーズを、エドワードはしげしげと見つめる。そして、くすりと笑う。
「いや、どっからどう見ても、お前から色気も女も感じないんだから、男だろ」
「はぁぁーっ、何ですって! エドワードってば、パトリシア様のことを見て、緊張してガチガチになっって。普段どれだけ令嬢にモテないのよ! 何か気の毒で、同情するわね」
「はぁぁーっ、っなわけないだろう。俺はお前と違って、選び放題だ!」
それを聞いたルイーズは彼に怪訝な視線を向ける。
……この男は最低だ。今まで知らなかったけど、エドワードには恋人や愛人がいっぱいいるのかもしれない。エドワードの端整な容姿なら……あり得る。そう結論付けた。
その類の被害を、先日ルイーズ自身が元婚約者から、くらったばかり。
ルイーズの中では、エドワードへのいら立ちは高まる一方だ。
「選び放題って、最っ低ねっ! 色んな令嬢に手を出して、泣かせているんじゃないでしょうね! パトリシア様を泣かせたら、ただじゃ置かないわよ」
「お前なぁ、自分が俺に興味を持ってもらえないからって、ひがむなよ」
「はぁぁーっ、誰がひがんでいるって!」
そこに、エドワードのためにお茶を持って、戻ってきたパトリシアが2人へ声を掛けた。
「2人ってやっぱり仲がいいのですね。もしかしてお付き合いなさっているのですか?」
「「そんなことは絶対にないっ!」」
と、息もピッタリに重なって訴えるルイーズと彼。
そして、一呼吸置いたエドワードがいつもと全く違う口調で穏やかに話を始める。
それは、パトリシアに向けてのものだと分かり、心臓がキュッとなったルイーズ。彼女は笑顔を失っている。
……何故かエドワードは、自分にだけ冷たい。それも初めて会ったそのときから。……いつだって、自分はそんな存在。やるせない気持ちが彼女の心を占める。
「パトリシア嬢が、こいつと仲が良いとは意外ですね。こんなガサツなのと、パトリシア嬢では気が合うようには見えませんが」
「騎士の訓練場の外で具合が悪くなっていたわたしを、ルイーズ様が助けてくれたんです。わたしを木陰まで運んで、体調が良くなるまでそばにいてくれたんです。今日は、そのお礼でして」
それを聞いた彼は、ルイーズの方を見て、そっけなく言った。
「お前って、たまには良いことをするんだな」
「はぁぁーっ、余計なお世話。いつも良いことしかしていないわよ!」
「お前、本当に口が悪すぎるな! パトリシア嬢、こいつと付き合うのは、ほどほどにしないと、悪い影響を受けますよ」
「誰が悪い影響よ、失礼ね!」
「本当、お2人って仲が良いですね」
パトリシアの言葉に、又も息がピッタリの2人は重ねてこう言った。
「「どこがっ!」」
「そういえば、エドワード様はどうして、いつも手袋をはめているのですか?」
パトリシアからの唐突な質問。
エドワードは、訓練のときは皮の手袋を、そして今はシルクの手袋をはめていた。今、それを問われている。
その質問は、エドワードにとって、返答に困る内容だ。取りあえず、ごまかす必要があるだろう。
さてどうするかと、彼はこめかみ辺りに指を置きかけた。
「パトリシア様、エドワードなんて、ただ格好を付けたいだけですから、大した理由なんてないですよ、どうせ」
「はぁぁーっ、誰が恰好を付けているだけだとっ!」
「エドワードのことでしょう! そうじゃなかったら、見えっ張りがいいかしら」
「どっちも同じだ! 本当に馬鹿だなお前は」
会話の切り口を作りたかったパトリシアは、小さく口を開けて気落ちしている。
パトリシアは緊張しながら、やっとのことでエドワードに質問した。けれど、ルイーズに話の骨を持っていかれてしまう。しまいにそのまま、2人だけで会話をしている。それも生き生きと。
どうにかして、エドワードの婚約者になりたかったパトリシアにとっては、思っていた以上に2人が親密そうに見えて、内心焦っていた。
今年社交界デビューしたばかりのパトリシアは、エドワードが、王女たちとだけ踊っていることまでは知らないようだ。
家同士のつながりが強いエドワードと、うまくいけば婚約者になれると期待している。
甘い想像をしているパトリシアの心境なんてものはお構いなしの2人。
当人たちは、互いの馬車に乗り込むまで、いがみ合っているのだけれど。
「あーっ、もっとあのケーキ食べてくれば良かった」
「お前って、どこまで食い意地張っているんだよ。茶会でケーキにがっつく令嬢なんていないだろう」
「はぁぁーっ、出されているものをおいしく頂いて、何が悪いのよ! ふん。痛っーい、エドワードが要らないことを言うから、馬車の扉に指を挟めたじゃない、もう」
「知るかっ! 俺の責任じゃないだろう、馬鹿。……どうせすぐ治るだろう」
と言いながら、心配になり手袋を脱ぎかける。……が、もちろん無意識だから、彼は全くそれに気付いていない。
彼が脱ぎ終わるより先に、ルイーズが話しを終わらせていた。
「はいはい、じゃあ、またあした」
その言葉でハッとしたエドワードは、手袋をはめ直す。
どうして手袋を脱ごうとしたのか? 疑問に思うも、日頃の仕事の条件反射だろうと、エドワードは結論に至った。
「いや、どっからどう見ても、お前から色気も女も感じないんだから、男だろ」
「はぁぁーっ、何ですって! エドワードってば、パトリシア様のことを見て、緊張してガチガチになっって。普段どれだけ令嬢にモテないのよ! 何か気の毒で、同情するわね」
「はぁぁーっ、っなわけないだろう。俺はお前と違って、選び放題だ!」
それを聞いたルイーズは彼に怪訝な視線を向ける。
……この男は最低だ。今まで知らなかったけど、エドワードには恋人や愛人がいっぱいいるのかもしれない。エドワードの端整な容姿なら……あり得る。そう結論付けた。
その類の被害を、先日ルイーズ自身が元婚約者から、くらったばかり。
ルイーズの中では、エドワードへのいら立ちは高まる一方だ。
「選び放題って、最っ低ねっ! 色んな令嬢に手を出して、泣かせているんじゃないでしょうね! パトリシア様を泣かせたら、ただじゃ置かないわよ」
「お前なぁ、自分が俺に興味を持ってもらえないからって、ひがむなよ」
「はぁぁーっ、誰がひがんでいるって!」
そこに、エドワードのためにお茶を持って、戻ってきたパトリシアが2人へ声を掛けた。
「2人ってやっぱり仲がいいのですね。もしかしてお付き合いなさっているのですか?」
「「そんなことは絶対にないっ!」」
と、息もピッタリに重なって訴えるルイーズと彼。
そして、一呼吸置いたエドワードがいつもと全く違う口調で穏やかに話を始める。
それは、パトリシアに向けてのものだと分かり、心臓がキュッとなったルイーズ。彼女は笑顔を失っている。
……何故かエドワードは、自分にだけ冷たい。それも初めて会ったそのときから。……いつだって、自分はそんな存在。やるせない気持ちが彼女の心を占める。
「パトリシア嬢が、こいつと仲が良いとは意外ですね。こんなガサツなのと、パトリシア嬢では気が合うようには見えませんが」
「騎士の訓練場の外で具合が悪くなっていたわたしを、ルイーズ様が助けてくれたんです。わたしを木陰まで運んで、体調が良くなるまでそばにいてくれたんです。今日は、そのお礼でして」
それを聞いた彼は、ルイーズの方を見て、そっけなく言った。
「お前って、たまには良いことをするんだな」
「はぁぁーっ、余計なお世話。いつも良いことしかしていないわよ!」
「お前、本当に口が悪すぎるな! パトリシア嬢、こいつと付き合うのは、ほどほどにしないと、悪い影響を受けますよ」
「誰が悪い影響よ、失礼ね!」
「本当、お2人って仲が良いですね」
パトリシアの言葉に、又も息がピッタリの2人は重ねてこう言った。
「「どこがっ!」」
「そういえば、エドワード様はどうして、いつも手袋をはめているのですか?」
パトリシアからの唐突な質問。
エドワードは、訓練のときは皮の手袋を、そして今はシルクの手袋をはめていた。今、それを問われている。
その質問は、エドワードにとって、返答に困る内容だ。取りあえず、ごまかす必要があるだろう。
さてどうするかと、彼はこめかみ辺りに指を置きかけた。
「パトリシア様、エドワードなんて、ただ格好を付けたいだけですから、大した理由なんてないですよ、どうせ」
「はぁぁーっ、誰が恰好を付けているだけだとっ!」
「エドワードのことでしょう! そうじゃなかったら、見えっ張りがいいかしら」
「どっちも同じだ! 本当に馬鹿だなお前は」
会話の切り口を作りたかったパトリシアは、小さく口を開けて気落ちしている。
パトリシアは緊張しながら、やっとのことでエドワードに質問した。けれど、ルイーズに話の骨を持っていかれてしまう。しまいにそのまま、2人だけで会話をしている。それも生き生きと。
どうにかして、エドワードの婚約者になりたかったパトリシアにとっては、思っていた以上に2人が親密そうに見えて、内心焦っていた。
今年社交界デビューしたばかりのパトリシアは、エドワードが、王女たちとだけ踊っていることまでは知らないようだ。
家同士のつながりが強いエドワードと、うまくいけば婚約者になれると期待している。
甘い想像をしているパトリシアの心境なんてものはお構いなしの2人。
当人たちは、互いの馬車に乗り込むまで、いがみ合っているのだけれど。
「あーっ、もっとあのケーキ食べてくれば良かった」
「お前って、どこまで食い意地張っているんだよ。茶会でケーキにがっつく令嬢なんていないだろう」
「はぁぁーっ、出されているものをおいしく頂いて、何が悪いのよ! ふん。痛っーい、エドワードが要らないことを言うから、馬車の扉に指を挟めたじゃない、もう」
「知るかっ! 俺の責任じゃないだろう、馬鹿。……どうせすぐ治るだろう」
と言いながら、心配になり手袋を脱ぎかける。……が、もちろん無意識だから、彼は全くそれに気付いていない。
彼が脱ぎ終わるより先に、ルイーズが話しを終わらせていた。
「はいはい、じゃあ、またあした」
その言葉でハッとしたエドワードは、手袋をはめ直す。
どうして手袋を脱ごうとしたのか? 疑問に思うも、日頃の仕事の条件反射だろうと、エドワードは結論に至った。
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