記憶と魔力を婚約者に奪われた「ないない尽くしの聖女」は、ワケあり王子様のお気に入り~王族とは知らずにそばにいた彼から なぜか溺愛されています
瑞貴◆後悔してる/手違いの妻2巻発売!
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第2章 あなたは暗殺者⁉
離したくないあなたは……僕の暗殺者⑥
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「ああ、まあ。僕の買い物はいいんですよ。それよりジュディは気に入ったのがありましたか?」
「う~ん、何色にしようかなって、決めかねているくらいかな」
わたしが小首を傾げていると、ナグワ隊長がワンピースタイプのものを手に取って、ぐいっと勧めてきた。
「ジュディちゃんは絶対に白。白のこれがいいっすよ。俺としては棚の上にあるのも着て欲しいけど、両方買いますか?」
隊長が棚の上に視線を向け、危うく手を伸ばしかけている。
ちょっと! それだけは勘弁だ。
彼は真顔で言っているが、棚の上の商品というのは、お話にならない。用途が違うでしょうに。
だってあれは相当に攻めた、すけすけの寝衣だもの。
着ているのか着ていないのか分からない薄い素材でできた、魅惑の夜化粧……。
まあね、びらびらとしたレースは可愛いけど、紐一本でとめるだけの、心もとない夜用の衣裳は、好いた殿方と寝る時に使うやつだ。
ナグワ隊長ってば、女性たちと相当遊んでいそうなのに知らないのかな。意外だわ。
そう思いながら、嬉しそうに勧めるナグワ隊長をまじまじと観察する。
いやいやいや。ナグワ隊長が知らないのはどうでもいいし。そもそも、そんな淫らなのは、絶対にいらないから!
もう! ナグワ隊長のせいで、破廉恥な想像を頭の中に浮かべてしまったじゃない。
男の人二人に挟まれているのに非常識だわ。そう思って、顔が熱くなる妄想を咄嗟にもみ消した。
――あれ……。
そうなると、わたしは男性と閨事の経験があるのだろうかと、また新たな疑問が頭の中に浮かぶ……。
だって、そうでなければ説明がつかないくらい……詳しく知っている。
そう……。
誰に教えてもらったのか分からないけど、随分と丁寧に閨事の指導を受けた記憶がある。真面目な口調で教えられ、ひたすら義務的に聞いていた気がする。
――誰だ。わたしにこの知識を植え付けたのは? 一体誰だというのだ。
あり得るとすれば……フィリかもしれない。普通に考えれば、どこかに実在する男性が教えたはず。
だからフィリのような気がする。
フィリ……。もう何度目になるか分からないが、その人物の名前を頭に浮かべた。
すると、何かを吐き出さなければと胸がムカムカした。
やっぱり何かある。
――フィリは危険だと、何かがわたしの中で警告する。
自分の中にある根拠のない不安が、いよいよ確信へと変化し、表情が強張る。
すると、右肩辺りにアンドレの手が伸びてきた。
この場で考える必要のないことをひとしきり悩み、浮かない顔をしていたのが悪かったのだろう。アンドレが自分の胸へとわたしを引き寄せたのだ。
「ナグワ隊長の言葉で、ジュディが真っ青な顔で引いていますよ」
「エェッ! ワッ、本当だ! じょ、冗談、冗談。冗談だよ。もしかしてジュディちゃんは真に受けちゃった⁉」
「えっ、冗談ですか? ああ、そうですよね。わたしったら揶揄われているのに気づかなかったわ」
「あははっ、申し訳ない」
あれ? あのエッチな寝巻着。本来は「彼女に買ってあげたらいかがですか?」とでも言って、笑うところだったのだろうか?
それに気づきもせず、この場にそぐわない妄想を始めたことに苦笑いを浮かべ、隊長を見つめる。
そうすれば、隊長がますます気まずそうに顔を引きつらせた。
この場を誤魔化そうと、隊長が「ははははは――……」と、大きな空笑いをする。
おかげで、おしゃれな店内が、隊長の嘘くさい笑い声に包まれた。
まずい。わたしに遊び心がないばかりに、たかだか買い物一つで何がどうなっているのだ。
――ここは戦場か?
わたしを含めたこの三人。ただパジャマを買いに来ただけなのに、魔猪の討伐より張り詰めた緊張感が漂う。
全くもって話の盛り上がらない自分たちの空間だけ、息が白くなりそうなほど、寒い空気が流れる。
それに、ちょっと鈍いと思っていたナグワ隊長でさえ、この三人の雰囲気に何かを感じているのだろう。
彼なりに場を盛り上げようと、必死に取り繕っている。
それは分かるのだが、彼の「ははは」という乾いた笑いが、三人の間に妙な空気を更に誘う。
ちらりと見える冷静な顔のアンドレが怖い。
隊長よ……笑うのを頼むからやめてくれ!
たかがエッチなパジャマ一つで気まずい雰囲気だ。それを一掃しようと気を取り直す。
「さてと、わたしは何を買ってもらおうかな~」
「ジュディは、上下に分かれたのがいいですよ」
「どうしてよ」
「寝相が悪いんだから、脚の出ない方がいいからね。明け方になれば、寒いと言って僕にしがみつくんですから、温かいのにするといいよ」
それを聞いて目を見開いたナグワ隊長が、わたしとアンドレを交互に見る。
「ぇ……。二人はそういう関係だったのか……」
「う~ん、何色にしようかなって、決めかねているくらいかな」
わたしが小首を傾げていると、ナグワ隊長がワンピースタイプのものを手に取って、ぐいっと勧めてきた。
「ジュディちゃんは絶対に白。白のこれがいいっすよ。俺としては棚の上にあるのも着て欲しいけど、両方買いますか?」
隊長が棚の上に視線を向け、危うく手を伸ばしかけている。
ちょっと! それだけは勘弁だ。
彼は真顔で言っているが、棚の上の商品というのは、お話にならない。用途が違うでしょうに。
だってあれは相当に攻めた、すけすけの寝衣だもの。
着ているのか着ていないのか分からない薄い素材でできた、魅惑の夜化粧……。
まあね、びらびらとしたレースは可愛いけど、紐一本でとめるだけの、心もとない夜用の衣裳は、好いた殿方と寝る時に使うやつだ。
ナグワ隊長ってば、女性たちと相当遊んでいそうなのに知らないのかな。意外だわ。
そう思いながら、嬉しそうに勧めるナグワ隊長をまじまじと観察する。
いやいやいや。ナグワ隊長が知らないのはどうでもいいし。そもそも、そんな淫らなのは、絶対にいらないから!
もう! ナグワ隊長のせいで、破廉恥な想像を頭の中に浮かべてしまったじゃない。
男の人二人に挟まれているのに非常識だわ。そう思って、顔が熱くなる妄想を咄嗟にもみ消した。
――あれ……。
そうなると、わたしは男性と閨事の経験があるのだろうかと、また新たな疑問が頭の中に浮かぶ……。
だって、そうでなければ説明がつかないくらい……詳しく知っている。
そう……。
誰に教えてもらったのか分からないけど、随分と丁寧に閨事の指導を受けた記憶がある。真面目な口調で教えられ、ひたすら義務的に聞いていた気がする。
――誰だ。わたしにこの知識を植え付けたのは? 一体誰だというのだ。
あり得るとすれば……フィリかもしれない。普通に考えれば、どこかに実在する男性が教えたはず。
だからフィリのような気がする。
フィリ……。もう何度目になるか分からないが、その人物の名前を頭に浮かべた。
すると、何かを吐き出さなければと胸がムカムカした。
やっぱり何かある。
――フィリは危険だと、何かがわたしの中で警告する。
自分の中にある根拠のない不安が、いよいよ確信へと変化し、表情が強張る。
すると、右肩辺りにアンドレの手が伸びてきた。
この場で考える必要のないことをひとしきり悩み、浮かない顔をしていたのが悪かったのだろう。アンドレが自分の胸へとわたしを引き寄せたのだ。
「ナグワ隊長の言葉で、ジュディが真っ青な顔で引いていますよ」
「エェッ! ワッ、本当だ! じょ、冗談、冗談。冗談だよ。もしかしてジュディちゃんは真に受けちゃった⁉」
「えっ、冗談ですか? ああ、そうですよね。わたしったら揶揄われているのに気づかなかったわ」
「あははっ、申し訳ない」
あれ? あのエッチな寝巻着。本来は「彼女に買ってあげたらいかがですか?」とでも言って、笑うところだったのだろうか?
それに気づきもせず、この場にそぐわない妄想を始めたことに苦笑いを浮かべ、隊長を見つめる。
そうすれば、隊長がますます気まずそうに顔を引きつらせた。
この場を誤魔化そうと、隊長が「ははははは――……」と、大きな空笑いをする。
おかげで、おしゃれな店内が、隊長の嘘くさい笑い声に包まれた。
まずい。わたしに遊び心がないばかりに、たかだか買い物一つで何がどうなっているのだ。
――ここは戦場か?
わたしを含めたこの三人。ただパジャマを買いに来ただけなのに、魔猪の討伐より張り詰めた緊張感が漂う。
全くもって話の盛り上がらない自分たちの空間だけ、息が白くなりそうなほど、寒い空気が流れる。
それに、ちょっと鈍いと思っていたナグワ隊長でさえ、この三人の雰囲気に何かを感じているのだろう。
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それは分かるのだが、彼の「ははは」という乾いた笑いが、三人の間に妙な空気を更に誘う。
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「さてと、わたしは何を買ってもらおうかな~」
「ジュディは、上下に分かれたのがいいですよ」
「どうしてよ」
「寝相が悪いんだから、脚の出ない方がいいからね。明け方になれば、寒いと言って僕にしがみつくんですから、温かいのにするといいよ」
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