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第2章 あなたは暗殺者⁉

初めて②

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「きっと、ナグワ隊長なら駄目とは言わないでしょう」と、彼の参加を歓迎した。

 話の切れ目ができたところで、厨房から持ってきていたマグカップを、アンドレのトレーにコトンと乗せた。
 朝から奮闘した、例のコーヒーゼリーだ。どんな反応をするかと、期待で胸が踊る。
 微笑むわたしは、アンドレを見つめた。

 すると「これは?」と、眉間に皺を寄せ訝しむ。

「アンドレのためだけに、特別に作ってみたの。冷やして固めるために朝早く起きたのよ」

「わざわざ早起きして僕のために?」

「そうよ。おいしくできたはずだから、食べてみて」
 ねッと、満面の笑みで勧める。

「ジュディが、たった一人で作ったんですか?」
「うん。だから、アンドレが来るのを待っていたのよ、ふふっ」
 アンドレに笑顔を向けたが、怖いくらい固い彼の表情は変わらない。

 少し前まで、おどけて笑っていたのに、どうしたというのだろう。

 てっきりアンドレは、喜んでくれると思っていたのだ。
 全く喜んでいない彼は、むしろピリピリとした緊張感を放つため、胸がチリチリする。

 おかしいな。気に障る事でも口走ったのかもしれないと、不安になって彼の顔を覗き込む。

 すると、低い声で喋る彼は、今しがたトレーに乗せたコーヒーゼリーを静かに突き返してきた。

 理解できないわたしは、戻ってきたマグカップとアンドレの顔を交互に見る。
「ん? どうしたの?」

「僕だけに作られたものは、食べる気はありませんから。そんな特別なことはしないでくれますか」

「え、あ、こ、これは服を買ってもらったお礼で……」

「理由が何であれ、要らないものは要らないから」

「……冗談でしょう」

「二度とこういうことはしないでください。僕は、個人的に作られたものを食べる気はありませんので」

「どうして……。わたし、アンドレのために……」
「何を言われようと、食べる気はありませんから」
「嘘よね。わたし……初めて自分で作ったのに。てっきり喜んでくれると思って」

「頼んでもいない、余計なことはしないでください」
「じゃあこれは……」

「ジュディが食べるといいですよ。もし、食べないなら、捨ててください」
 冷たく拒絶された。

 あまりのショックに、全身が氷のように冷え、唇が小さく震えたまま止まらない。

 予期せぬ反応に、どう言葉を返していいか分からず、ただ呆然とする。

 謝った方がいいんだろうか? いや、悪い事はしていないし、そんな必要はない。
 ――そう考えると、それ以降は押し黙るだけだった。


 そして再び、白いマグカップに目をやる。
 魔法で氷を作り、アンドレが来るまでキンキンに冷やしていたのだ。結露がたらりと伝り、カップの底に円を描いて広がる。

 昨日のうちに、エレーナから作り方のレクチャーを受け、アンドレのために作ったゼリーである。
 カフェでコーヒーを注文したアンドレだし、これなら彼も食べてくれる気がしていたのに。

「分かったわ、もう作らないから」
「……ええ」

 突き返されたゼリーを、とても食べる気にはなれず。口を付けずに厨房へ戻しておいた。

 後で食べる気になれるか分からないが、捨てる気にもなれず、とりあえず再び冷やしておく。
 頭が混乱して今は判断できないし、あとで考えることにした。

 そして、スモックを脱いだわたしは、ナグワ隊長と待ち合わせた厩舎へ向かう。

 そこにはすでに、魔猪狩りに同行する許可を、ナグワ隊長に取り付けたアンドレの姿があった。
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