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挿話②
サプライズ
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【SIDE アリーチェ】
今日はリックと2人で、久しぶりのお出かけをしている。その目的は、リックへのサプライズなのだ。
「アリーチェが、マックスの披露宴で寝て起きないから『王太子は我が家に姉上の部屋はいらないと言ったけど、やっぱりいるようですね』と、あいつに散々嫌味を言われた。いいかアリーチェ、今後絶対に酒は飲むなよ、絶対だぞ」
「分かったわよ。なんだかリックがマックスに似てきた気がする」
「アリーチェとファウラーが一緒にいると、碌な事が無いからだろう」
「わたしの事、嫌いになっちゃった?」
「なる訳無い。愛してる、――」
「駄目よ、外でキスしたら、またマックスから言われるわよ。『劇場の前で王太子と王太子妃がキスをしてて、目のやり場に困ったと、苦情が来てます。大概にしてください』って」
「くくっ、今のアリーチェのマックスの真似も、そっくりだったぞ」
2人で馬車に乗り、王都の外れに用意した学校へ到着した。
今では、その隣は更地になっている。
ミカエル殿下が借りていた屋敷は、リックが買い取って壊してしまった。
多分、リックはあの屋敷を見ると、弟を思い出して寂しいんだと思う。
だから、それは、そっと触れないようにしている。
フレデリック様から外出禁止を言い渡され、学校の準備が頓挫していた。
無理を押して出掛けられなかったのは、トミー事務官が、城で別の仕事を任されたと、講師を辞退してきたから。
誰かと一緒に何かをすると、思った通りにいかないものだ。
トミー事務官の提案で、マックスに相談して新しい講師も見つかった。
いよいよ今日から生徒たちが集まっている。
「ねぇ、初めて会った時に、学校の話をしていた事を、リックは覚えてる?」
「ああ、もちろん。忘れる訳が無いだろう。2人で何を話したか諳んじれる程に覚えているさ」
「実はね、リックに内緒で学校を用意したの。それで、今日から生徒たちが集まっているのよ」
それを聞いたリックは驚いたのか、下を向いてしまった。
もしかして、王太子のリックを差し置いて勝手な事をしたから、怒らせてしまったのかもしれない。……どうしよう。
「――それは、驚いた。まさか、わたしに隠れて、アリーチェが学校を作っていたとは……」
「怒ってない?」
「まさか、怒る訳無いだろう」
顔を上げて、手を握ってきたリックは微笑んでくれているから安心した。
「今日から生徒が集まってるの。わたしの可愛い子供たちに会えるのが楽しみなんだ」
「アリーチェは、学校で子供たちに何を教えたいんだ?」
「小さい子たちに、読み書きを教えたくて。平民だって読み書きが出来るようになったら、この国の識字率が高くなって可能性は広がるし、それに、わたしだって自由に羽ばたけただろうし。今からだって、子供たちと走り回って遊べるわ。実は、ボールを持って来たんだ」
そう言いながら、一番大きな部屋へ向かっている。
あーワクワクする。
そう思って、わたしは教室の扉を開けた。
「わたしの可愛い子供達を見て…………」
違う、違う、そうじゃない。
全然小さくない……。
何これ……、皆どう見ても、成人したばかりの貴族じゃない……。
何がどうなって、こうなっているのよ。
期待とかけ離れた事態に驚愕したわたしは、体の力が抜けて、手からボールを滑り落としてしまった。
ポンッ、ポンッ――…………。
何度か跳ねたボールは、どこかへ転がっていった。
わたしは、肩を落として言葉を失っている。
そして、フレデリック様に肩を抱き寄せられて、こう言われた。
「アリーチェが、わたしに内緒で学校を作るからだ。マックスに協力して貰ったんだろう」
「そうだけど…………」
「わたしに相談すれば、国民全員に知らせを出せるが、マックスに頼めば貴族だけだろう。相談する相手を間違ってるからだ、アリーチェが悪い」
「そんなぁ~、どうしよう」
「いいだろう、この国の貴族は教養が足りないからな。王子と妃を突き飛ばすなと、教えてやればいい」
そう言われて、講師の姿を見ると、どこかで見覚えがある……。
妃試験でよく顔を合せていた人よね……。
フレデリック様の顔を見上げた。
「ねぇ、フレデリック様は知ってたでしょう」
「気付いたか……。私とマックスからのサプライズだな。以前、アリーチェが貴族議会で納品書の話をしただろう。あれから、妃との面会を求める要望が、ひっきりなしに届いてて、それに手を焼いてるのがマックスだ。社交界に参加しない妃が開設する学校は、入学希望者が殺到したそうだ。『姉上が城を抜け出し、子どもたちと遊ぶ魂胆は見え見えなんです。僕は忙しいんです。呑気な姉上が遊ぶ場所なんて用意しませんから』と、マックスからの伝言だ」
「酷~い。子ども達と一緒に遊びたかったのに……」
「気を落とさなくても、そのうち遊べるだろう。アリーチェは良い母になるぞ。自分の事ばかり考えて、駄々をこねるマックスを、あんなに素直な大人にさせたんだから」
フレデリック様から、良い母になると言われて、まあそれならいいかと考える事にした。
それにしても……、わたしが浮かれてフレデリック様にサプライズを考えると、上手くいかない事ばかりだわ。
「わたしフレデリック様にサプライズを考えるの、止めようかしら」
「そうしてくれると、助かるな」
少しの躊躇いも無く言われてしまい、ちょっとカチンときた。
「分かったわ」
そう答えておけば、まさかわたしが、サプライズを仕掛けるとは思わないでしょう。
次こそ、上手く驚かせるんだから。
今日はリックと2人で、久しぶりのお出かけをしている。その目的は、リックへのサプライズなのだ。
「アリーチェが、マックスの披露宴で寝て起きないから『王太子は我が家に姉上の部屋はいらないと言ったけど、やっぱりいるようですね』と、あいつに散々嫌味を言われた。いいかアリーチェ、今後絶対に酒は飲むなよ、絶対だぞ」
「分かったわよ。なんだかリックがマックスに似てきた気がする」
「アリーチェとファウラーが一緒にいると、碌な事が無いからだろう」
「わたしの事、嫌いになっちゃった?」
「なる訳無い。愛してる、――」
「駄目よ、外でキスしたら、またマックスから言われるわよ。『劇場の前で王太子と王太子妃がキスをしてて、目のやり場に困ったと、苦情が来てます。大概にしてください』って」
「くくっ、今のアリーチェのマックスの真似も、そっくりだったぞ」
2人で馬車に乗り、王都の外れに用意した学校へ到着した。
今では、その隣は更地になっている。
ミカエル殿下が借りていた屋敷は、リックが買い取って壊してしまった。
多分、リックはあの屋敷を見ると、弟を思い出して寂しいんだと思う。
だから、それは、そっと触れないようにしている。
フレデリック様から外出禁止を言い渡され、学校の準備が頓挫していた。
無理を押して出掛けられなかったのは、トミー事務官が、城で別の仕事を任されたと、講師を辞退してきたから。
誰かと一緒に何かをすると、思った通りにいかないものだ。
トミー事務官の提案で、マックスに相談して新しい講師も見つかった。
いよいよ今日から生徒たちが集まっている。
「ねぇ、初めて会った時に、学校の話をしていた事を、リックは覚えてる?」
「ああ、もちろん。忘れる訳が無いだろう。2人で何を話したか諳んじれる程に覚えているさ」
「実はね、リックに内緒で学校を用意したの。それで、今日から生徒たちが集まっているのよ」
それを聞いたリックは驚いたのか、下を向いてしまった。
もしかして、王太子のリックを差し置いて勝手な事をしたから、怒らせてしまったのかもしれない。……どうしよう。
「――それは、驚いた。まさか、わたしに隠れて、アリーチェが学校を作っていたとは……」
「怒ってない?」
「まさか、怒る訳無いだろう」
顔を上げて、手を握ってきたリックは微笑んでくれているから安心した。
「今日から生徒が集まってるの。わたしの可愛い子供たちに会えるのが楽しみなんだ」
「アリーチェは、学校で子供たちに何を教えたいんだ?」
「小さい子たちに、読み書きを教えたくて。平民だって読み書きが出来るようになったら、この国の識字率が高くなって可能性は広がるし、それに、わたしだって自由に羽ばたけただろうし。今からだって、子供たちと走り回って遊べるわ。実は、ボールを持って来たんだ」
そう言いながら、一番大きな部屋へ向かっている。
あーワクワクする。
そう思って、わたしは教室の扉を開けた。
「わたしの可愛い子供達を見て…………」
違う、違う、そうじゃない。
全然小さくない……。
何これ……、皆どう見ても、成人したばかりの貴族じゃない……。
何がどうなって、こうなっているのよ。
期待とかけ離れた事態に驚愕したわたしは、体の力が抜けて、手からボールを滑り落としてしまった。
ポンッ、ポンッ――…………。
何度か跳ねたボールは、どこかへ転がっていった。
わたしは、肩を落として言葉を失っている。
そして、フレデリック様に肩を抱き寄せられて、こう言われた。
「アリーチェが、わたしに内緒で学校を作るからだ。マックスに協力して貰ったんだろう」
「そうだけど…………」
「わたしに相談すれば、国民全員に知らせを出せるが、マックスに頼めば貴族だけだろう。相談する相手を間違ってるからだ、アリーチェが悪い」
「そんなぁ~、どうしよう」
「いいだろう、この国の貴族は教養が足りないからな。王子と妃を突き飛ばすなと、教えてやればいい」
そう言われて、講師の姿を見ると、どこかで見覚えがある……。
妃試験でよく顔を合せていた人よね……。
フレデリック様の顔を見上げた。
「ねぇ、フレデリック様は知ってたでしょう」
「気付いたか……。私とマックスからのサプライズだな。以前、アリーチェが貴族議会で納品書の話をしただろう。あれから、妃との面会を求める要望が、ひっきりなしに届いてて、それに手を焼いてるのがマックスだ。社交界に参加しない妃が開設する学校は、入学希望者が殺到したそうだ。『姉上が城を抜け出し、子どもたちと遊ぶ魂胆は見え見えなんです。僕は忙しいんです。呑気な姉上が遊ぶ場所なんて用意しませんから』と、マックスからの伝言だ」
「酷~い。子ども達と一緒に遊びたかったのに……」
「気を落とさなくても、そのうち遊べるだろう。アリーチェは良い母になるぞ。自分の事ばかり考えて、駄々をこねるマックスを、あんなに素直な大人にさせたんだから」
フレデリック様から、良い母になると言われて、まあそれならいいかと考える事にした。
それにしても……、わたしが浮かれてフレデリック様にサプライズを考えると、上手くいかない事ばかりだわ。
「わたしフレデリック様にサプライズを考えるの、止めようかしら」
「そうしてくれると、助かるな」
少しの躊躇いも無く言われてしまい、ちょっとカチンときた。
「分かったわ」
そう答えておけば、まさかわたしが、サプライズを仕掛けるとは思わないでしょう。
次こそ、上手く驚かせるんだから。
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