【完結】ヒロインになれなかった妃の 赤い糸~突然、愛してるなんて言われて、溺愛されるのは、聞いてない!~

瑞貴◆後悔してる/手違いの妻2巻発売!

文字の大きさ
上 下
104 / 116
第4章 夢の実現へ

王太子と弟の秘密①

しおりを挟む
【SIDE アリーチェ】

 わたしが妃になっていれば、フレンツ王国との交渉が上手くいく確信があったのに……、駄目だった。

 持っていた朝食のパンを落したわたしに、フレデリック様が声をかけてきた。
「ぼんやりして大丈夫か? まだ気分が悪いのか?」

 全く問題はないけど、食べたくないのだから、そうなのかもしれない。
「また馬車に乗ると思うと食べたくなくて」

「じゃあ、湖畔のベンチへ行くか。歩けば気分も変わるだろう」
 あのベンチで、フレデリック様と交わしたい気持ちが見つからない。優しく気にかけて貰うのでさえ、今のままでは罪悪感を感じてしまう。
 わたしは、首を横に振って断ることにした。

「一晩休んだのに、船の疲れが取れなくて。やっぱり無理して行かなきゃ良かったわね。城まで遠いんだもの、早く帰りましょう」
 こんなに気持ちが晴れない状況で、遊んでいる暇は無い。会談の場で、何があったのか確かめなきゃ。まだ、わたしには出来る事があるかもしれないから。
 
「ねえ、いつからフレンツ王国とドメヌ帝国の間に介入するのかしら?」
「いや、それはまだ正式に決まっていないが、……ワーグナー公爵次第だろうな」
「わたしはフレデリック様に大事な数字を一つも教えていなかったのに、よく交渉が出来たわね?」

「――アリーチェがいつも私の腕の中で教えてくれていただろう、それでだ」
 信じたくなかったけど、これも嘘だ。
 なんだ、そうだったのか……、端からわたしの事は同席させる気はなかったのか。
 そうだった……期待してなかったのよね。

「そうでしたね」

 何度交渉の事を聞いても、上手くいったとしか言ってくれないフレデリック様。しかも、その話をする時は、決まって瞳は右に振れる。

 早く帰って、ファウラーから会談の事を聞き出さなきゃ気が済まない。
 フレデリック様は、必ず陛下へ報告に行く。だけど、何かを警戒しているフレデリック様は、直ぐに戻って来るでしょう。
 でも、ファウラーなら15分あれば十分だ。

****

 リンゼーから城へ帰って来るだけで、疲れ果てているわたしは、自分の執務室で突っ伏していた。
「ファウラー、私は陛下の元へ報告へ行って来る。アリーチェの事を見ていてくれ、心配だから直ぐに戻るから」
「女神様の事は、僕がしっかり見ておきますからお任せください」
 案の定、フレデリック様はファウラーを残して、陛下へ報告に行った。

 わたしは気持ちを切り替えて、勝負に出た。

「ファウラー、会談について報告して頂戴」
「えっ、フレデリック様の説明の通りですよ、僕からお伝え出来る事は何もありませんから」
「ふーん、そう。わたし、貴方が適当な妃試験の監督をしてたことに気付いてなかったとでも? なのに、ワーグナー公爵家の秘匿情報を、わたしの全てをかけて、持ち出して来た。この意味が分かる?」
「はっ、はい。感謝しかありません」

「貴方の為に、ワーグナー公爵家の納品書を開示したリスクは相当な痛手だった。それに、マックスが貴方の為に使ったお金、あれも随分と大きな金額ね。わたしが何十通も取引先と交渉した苦労、貴方は分かってる? なのに、わたしにフレンツ王国の会談の報告をしないのは、わたしを馬鹿にしてるわね。そういう人間は嫌いなの、だからもう、貴方と貴方の家に、わたしは2度と力を貸さない。あー困ったわ、これだけ言っても気持ちが収まらない。そうね……、マックスに相談するわ。良い案がある筈だから」

「申し訳ありません。全て、女神様にお話しいたします」
「初めから、そうすればいいのよ。長い話は聞けないから、わたしの質問に答えなさい。最後に、フレンツ王国の国王は、なんて言ったの」

「女神様の提案は願っても無い事だって。ですが、ワーグナー公爵家の情報の把握に疑問を抱いていたことなど、疑念があるようで、女神様を1年間身代にしたいと」
「それで、フレデリック様はなんて答えたの?」
「自分1人では決められないから、ワーグナー公爵家の当主と相談して後日、文書で調整する予定です」
 
 フレデリック様が、上手くいったと話したのは、嘘の様で嘘じゃなかった。わたしの父が承諾したら、交渉が成立する訳だから。
 でも、その確証が持てないから、わたしから聞かれる度に動揺していたのか。
 

 フレデリック様は、どうしてフレンツ王国にいる時に、わたしに教えてくれなかったのかと、腹立たしく思えてきた。
 1年位、平気でフレンツ王国に居られるのに。
 それに、フレデリック様だって……。
 それなら、わたしが父を説得すればいいのか。いや、フレンツへ手紙を送る方が早いわ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】彼を幸せにする十の方法

玉響なつめ
恋愛
貴族令嬢のフィリアには婚約者がいる。 フィリアが望んで結ばれた婚約、その相手であるキリアンはいつだって冷静だ。 婚約者としての義務は果たしてくれるし常に彼女を尊重してくれる。 しかし、フィリアが望まなければキリアンは動かない。 婚約したのだからいつかは心を開いてくれて、距離も縮まる――そう信じていたフィリアの心は、とある夜会での事件でぽっきり折れてしまった。 婚約を解消することは難しいが、少なくともこれ以上迷惑をかけずに夫婦としてどうあるべきか……フィリアは悩みながらも、キリアンが一番幸せになれる方法を探すために行動を起こすのだった。 ※小説家になろう・カクヨムにも掲載しています。

ごめんなさい、お姉様の旦那様と結婚します

秘密 (秘翠ミツキ)
恋愛
しがない伯爵令嬢のエーファには、三つ歳の離れた姉がいる。姉のブリュンヒルデは、女神と比喩される程美しく完璧な女性だった。端麗な顔立ちに陶器の様に白い肌。ミルクティー色のふわふわな長い髪。立ち居振る舞い、勉学、ダンスから演奏と全てが完璧で、非の打ち所がない。正に淑女の鑑と呼ぶに相応しく誰もが憧れ一目置くそんな人だ。  一方で妹のエーファは、一言で言えば普通。容姿も頭も、芸術的センスもなく秀でたものはない。無論両親は、エーファが物心ついた時から姉を溺愛しエーファには全く関心はなかった。周囲も姉とエーファを比較しては笑いの種にしていた。  そんな姉は公爵令息であるマンフレットと結婚をした。彼もまた姉と同様眉目秀麗、文武両道と完璧な人物だった。また周囲からは冷笑の貴公子などとも呼ばれているが、令嬢等からはかなり人気がある。かく言うエーファも彼が初恋の人だった。ただ姉と婚約し結婚した事で彼への想いは断念をした。だが、姉が結婚して二年後。姉が事故に遭い急死をした。社交界ではおしどり夫婦、愛妻家として有名だった夫のマンフレットは憔悴しているらしくーーその僅か半年後、何故か妹のエーファが後妻としてマンフレットに嫁ぐ事が決まってしまう。そして迎えた初夜、彼からは「私は君を愛さない」と冷たく突き放され、彼が家督を継ぐ一年後に離縁すると告げられた。

【完結】お飾りの妻からの挑戦状

おのまとぺ
恋愛
公爵家から王家へと嫁いできたデイジー・シャトワーズ。待ちに待った旦那様との顔合わせ、王太子セオドア・ハミルトンが放った言葉に立ち会った使用人たちの顔は強張った。 「君はお飾りの妻だ。装飾品として慎ましく生きろ」 しかし、当のデイジーは不躾な挨拶を笑顔で受け止める。二人のドタバタ生活は心配する周囲を巻き込んで、やがて誰も予想しなかった展開へ…… ◇表紙はノーコピーライトガール様より拝借しています ◇全18話で完結予定

【完結】愛してるなんて言うから

空原海
恋愛
「メアリー、俺はこの婚約を破棄したい」  婚約が決まって、三年が経とうかという頃に切り出された婚約破棄。  婚約の理由は、アラン様のお父様とわたしのお母様が、昔恋人同士だったから。 ――なんだそれ。ふざけてんのか。  わたし達は婚約解消を前提とした婚約を、互いに了承し合った。 第1部が恋物語。 第2部は裏事情の暴露大会。親世代の愛憎確執バトル、スタートッ! ※ 一話のみ挿絵があります。サブタイトルに(※挿絵あり)と表記しております。  苦手な方、ごめんなさい。挿絵の箇所は、するーっと流してくださると幸いです。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

あなたには、この程度のこと、だったのかもしれませんが。

ふまさ
恋愛
 楽しみにしていた、パーティー。けれどその場は、信じられないほどに凍り付いていた。  でも。  愉快そうに声を上げて笑う者が、一人、いた。

【完結】二度目の恋はもう諦めたくない。

たろ
恋愛
セレンは15歳の時に16歳のスティーブ・ロセスと結婚した。いわゆる政略的な結婚で、幼馴染でいつも喧嘩ばかりの二人は歩み寄りもなく一年で離縁した。 その一年間をなかったものにするため、お互い全く別のところへ移り住んだ。 スティーブはアルク国に留学してしまった。 セレンは国の文官の試験を受けて働くことになった。配属は何故か騎士団の事務員。 本人は全く気がついていないが騎士団員の間では 『可愛い子兎』と呼ばれ、何かと理由をつけては事務室にみんな足を運ぶこととなる。 そんな騎士団に入隊してきたのが、スティーブ。 お互い結婚していたことはなかったことにしようと、話すこともなく目も合わせないで過ごした。 本当はお互い好き合っているのに素直になれない二人。 そして、少しずつお互いの誤解が解けてもう一度…… 始めの数話は幼い頃の出会い。 そして結婚1年間の話。 再会と続きます。

「お前を妻だと思ったことはない」と言ってくる旦那様と離婚した私は、幼馴染の侯爵から溺愛されています。

木山楽斗
恋愛
第二王女のエリームは、かつて王家と敵対していたオルバディオン公爵家に嫁がされた。 因縁を解消するための結婚であったが、現当主であるジグールは彼女のことを冷遇した。長きに渡る因縁は、簡単に解消できるものではなかったのである。 そんな暮らしは、エリームにとって息苦しいものだった。それを重く見た彼女の兄アルベルドと幼馴染カルディアスは、二人の結婚を解消させることを決意する。 彼らの働きかけによって、エリームは苦しい生活から解放されるのだった。 晴れて自由の身になったエリームに、一人の男性が婚約を申し込んできた。 それは、彼女の幼馴染であるカルディアスである。彼は以前からエリームに好意を寄せていたようなのだ。 幼い頃から彼の人となりを知っているエリームは、喜んでその婚約を受け入れた。二人は、晴れて夫婦となったのである。 二度目の結婚を果たしたエリームは、以前とは異なる生活を送っていた。 カルディアスは以前の夫とは違い、彼女のことを愛して尊重してくれたのである。 こうして、エリームは幸せな生活を送るのだった。

処理中です...