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第4章 夢の実現へ
王太子と弟の秘密①
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【SIDE アリーチェ】
わたしが妃になっていれば、フレンツ王国との交渉が上手くいく確信があったのに……、駄目だった。
持っていた朝食のパンを落したわたしに、フレデリック様が声をかけてきた。
「ぼんやりして大丈夫か? まだ気分が悪いのか?」
全く問題はないけど、食べたくないのだから、そうなのかもしれない。
「また馬車に乗ると思うと食べたくなくて」
「じゃあ、湖畔のベンチへ行くか。歩けば気分も変わるだろう」
あのベンチで、フレデリック様と交わしたい気持ちが見つからない。優しく気にかけて貰うのでさえ、今のままでは罪悪感を感じてしまう。
わたしは、首を横に振って断ることにした。
「一晩休んだのに、船の疲れが取れなくて。やっぱり無理して行かなきゃ良かったわね。城まで遠いんだもの、早く帰りましょう」
こんなに気持ちが晴れない状況で、遊んでいる暇は無い。会談の場で、何があったのか確かめなきゃ。まだ、わたしには出来る事があるかもしれないから。
「ねえ、いつからフレンツ王国とドメヌ帝国の間に介入するのかしら?」
「いや、それはまだ正式に決まっていないが、……ワーグナー公爵次第だろうな」
「わたしはフレデリック様に大事な数字を一つも教えていなかったのに、よく交渉が出来たわね?」
「――アリーチェがいつも私の腕の中で教えてくれていただろう、それでだ」
信じたくなかったけど、これも嘘だ。
なんだ、そうだったのか……、端からわたしの事は同席させる気はなかったのか。
そうだった……期待してなかったのよね。
「そうでしたね」
何度交渉の事を聞いても、上手くいったとしか言ってくれないフレデリック様。しかも、その話をする時は、決まって瞳は右に振れる。
早く帰って、ファウラーから会談の事を聞き出さなきゃ気が済まない。
フレデリック様は、必ず陛下へ報告に行く。だけど、何かを警戒しているフレデリック様は、直ぐに戻って来るでしょう。
でも、ファウラーなら15分あれば十分だ。
****
リンゼーから城へ帰って来るだけで、疲れ果てているわたしは、自分の執務室で突っ伏していた。
「ファウラー、私は陛下の元へ報告へ行って来る。アリーチェの事を見ていてくれ、心配だから直ぐに戻るから」
「女神様の事は、僕がしっかり見ておきますからお任せください」
案の定、フレデリック様はファウラーを残して、陛下へ報告に行った。
わたしは気持ちを切り替えて、勝負に出た。
「ファウラー、会談について報告して頂戴」
「えっ、フレデリック様の説明の通りですよ、僕からお伝え出来る事は何もありませんから」
「ふーん、そう。わたし、貴方が適当な妃試験の監督をしてたことに気付いてなかったとでも? なのに、ワーグナー公爵家の秘匿情報を、わたしの全てをかけて、持ち出して来た。この意味が分かる?」
「はっ、はい。感謝しかありません」
「貴方の為に、ワーグナー公爵家の納品書を開示したリスクは相当な痛手だった。それに、マックスが貴方の為に使ったお金、あれも随分と大きな金額ね。わたしが何十通も取引先と交渉した苦労、貴方は分かってる? なのに、わたしにフレンツ王国の会談の報告をしないのは、わたしを馬鹿にしてるわね。そういう人間は嫌いなの、だからもう、貴方と貴方の家に、わたしは2度と力を貸さない。あー困ったわ、これだけ言っても気持ちが収まらない。そうね……、マックスに相談するわ。良い案がある筈だから」
「申し訳ありません。全て、女神様にお話しいたします」
「初めから、そうすればいいのよ。長い話は聞けないから、わたしの質問に答えなさい。最後に、フレンツ王国の国王は、なんて言ったの」
「女神様の提案は願っても無い事だって。ですが、ワーグナー公爵家の情報の把握に疑問を抱いていたことなど、疑念があるようで、女神様を1年間身代にしたいと」
「それで、フレデリック様はなんて答えたの?」
「自分1人では決められないから、ワーグナー公爵家の当主と相談して後日、文書で調整する予定です」
フレデリック様が、上手くいったと話したのは、嘘の様で嘘じゃなかった。わたしの父が承諾したら、交渉が成立する訳だから。
でも、その確証が持てないから、わたしから聞かれる度に動揺していたのか。
フレデリック様は、どうしてフレンツ王国にいる時に、わたしに教えてくれなかったのかと、腹立たしく思えてきた。
1年位、平気でフレンツ王国に居られるのに。
それに、フレデリック様だって……。
それなら、わたしが父を説得すればいいのか。いや、フレンツへ手紙を送る方が早いわ。
わたしが妃になっていれば、フレンツ王国との交渉が上手くいく確信があったのに……、駄目だった。
持っていた朝食のパンを落したわたしに、フレデリック様が声をかけてきた。
「ぼんやりして大丈夫か? まだ気分が悪いのか?」
全く問題はないけど、食べたくないのだから、そうなのかもしれない。
「また馬車に乗ると思うと食べたくなくて」
「じゃあ、湖畔のベンチへ行くか。歩けば気分も変わるだろう」
あのベンチで、フレデリック様と交わしたい気持ちが見つからない。優しく気にかけて貰うのでさえ、今のままでは罪悪感を感じてしまう。
わたしは、首を横に振って断ることにした。
「一晩休んだのに、船の疲れが取れなくて。やっぱり無理して行かなきゃ良かったわね。城まで遠いんだもの、早く帰りましょう」
こんなに気持ちが晴れない状況で、遊んでいる暇は無い。会談の場で、何があったのか確かめなきゃ。まだ、わたしには出来る事があるかもしれないから。
「ねえ、いつからフレンツ王国とドメヌ帝国の間に介入するのかしら?」
「いや、それはまだ正式に決まっていないが、……ワーグナー公爵次第だろうな」
「わたしはフレデリック様に大事な数字を一つも教えていなかったのに、よく交渉が出来たわね?」
「――アリーチェがいつも私の腕の中で教えてくれていただろう、それでだ」
信じたくなかったけど、これも嘘だ。
なんだ、そうだったのか……、端からわたしの事は同席させる気はなかったのか。
そうだった……期待してなかったのよね。
「そうでしたね」
何度交渉の事を聞いても、上手くいったとしか言ってくれないフレデリック様。しかも、その話をする時は、決まって瞳は右に振れる。
早く帰って、ファウラーから会談の事を聞き出さなきゃ気が済まない。
フレデリック様は、必ず陛下へ報告に行く。だけど、何かを警戒しているフレデリック様は、直ぐに戻って来るでしょう。
でも、ファウラーなら15分あれば十分だ。
****
リンゼーから城へ帰って来るだけで、疲れ果てているわたしは、自分の執務室で突っ伏していた。
「ファウラー、私は陛下の元へ報告へ行って来る。アリーチェの事を見ていてくれ、心配だから直ぐに戻るから」
「女神様の事は、僕がしっかり見ておきますからお任せください」
案の定、フレデリック様はファウラーを残して、陛下へ報告に行った。
わたしは気持ちを切り替えて、勝負に出た。
「ファウラー、会談について報告して頂戴」
「えっ、フレデリック様の説明の通りですよ、僕からお伝え出来る事は何もありませんから」
「ふーん、そう。わたし、貴方が適当な妃試験の監督をしてたことに気付いてなかったとでも? なのに、ワーグナー公爵家の秘匿情報を、わたしの全てをかけて、持ち出して来た。この意味が分かる?」
「はっ、はい。感謝しかありません」
「貴方の為に、ワーグナー公爵家の納品書を開示したリスクは相当な痛手だった。それに、マックスが貴方の為に使ったお金、あれも随分と大きな金額ね。わたしが何十通も取引先と交渉した苦労、貴方は分かってる? なのに、わたしにフレンツ王国の会談の報告をしないのは、わたしを馬鹿にしてるわね。そういう人間は嫌いなの、だからもう、貴方と貴方の家に、わたしは2度と力を貸さない。あー困ったわ、これだけ言っても気持ちが収まらない。そうね……、マックスに相談するわ。良い案がある筈だから」
「申し訳ありません。全て、女神様にお話しいたします」
「初めから、そうすればいいのよ。長い話は聞けないから、わたしの質問に答えなさい。最後に、フレンツ王国の国王は、なんて言ったの」
「女神様の提案は願っても無い事だって。ですが、ワーグナー公爵家の情報の把握に疑問を抱いていたことなど、疑念があるようで、女神様を1年間身代にしたいと」
「それで、フレデリック様はなんて答えたの?」
「自分1人では決められないから、ワーグナー公爵家の当主と相談して後日、文書で調整する予定です」
フレデリック様が、上手くいったと話したのは、嘘の様で嘘じゃなかった。わたしの父が承諾したら、交渉が成立する訳だから。
でも、その確証が持てないから、わたしから聞かれる度に動揺していたのか。
フレデリック様は、どうしてフレンツ王国にいる時に、わたしに教えてくれなかったのかと、腹立たしく思えてきた。
1年位、平気でフレンツ王国に居られるのに。
それに、フレデリック様だって……。
それなら、わたしが父を説得すればいいのか。いや、フレンツへ手紙を送る方が早いわ。
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