【完結】ヒロインになれなかった妃の 赤い糸~突然、愛してるなんて言われて、溺愛されるのは、聞いてない!~

瑞貴◆後悔してる/手違いの妻2巻発売!

文字の大きさ
上 下
100 / 116
第4章 夢の実現へ

フレンツ王国③

しおりを挟む
【SIDE アリーチェ】

 フレンツ王国へ向かうには、船でリンゼー湖を渡る。
 波に揺られて船尾に立てば、わたしとリックが出会った場所が見える。

 フレデリック様は、馬車での道中で、何度も進行を止めたわたしを、王室の別荘に置いて行くと言い出した。
 フレデリック様と離れるのは嫌と言い張れば、明日の夜に戻る船へ予定を急遽変更していた。
 だから、夜は一緒に過ごせるから大丈夫だって。

 違う。そうじゃない。そんな事、絶対にいや。
 わたしは、フレデリック様の役に立ちたいから。
 昨夜、フレデリック様は、わたしが交渉に使おうとしていた数字を、わたしから何度も聞きだそうとしていた。
 だけど、それを言ったら絶対に置いて行かれるもの、わたしは口を割らなかった。
 船に乗った今、わたしの勝ちだ。

「せっかく始めて国の外へ行くのに、日帰りなんて寂しいわね」
「今回は、臨時の会談だからな」
「ねぇ、初めて出会った時のこと、覚えてる? あのベンチまだあるかしら? 帰りは寄って行きましょう」
「ああ、帰りに寄ろう」
「リックってば、1人で本を読む危なっかしい子だったのよね」
「アリーチェだけには言われたくない。あの日、私にはきちんと護衛がいたんだ。1人で危なくウロウロしてたのは、アリーチェだけだ。使用人が走って迎えに来なければ、送り届けていただろう」

「えー、そうだったの。全然気が付かなかった」

「アリーチェ……、顔色が悪いぞ」

「……リック」
 わたしが浮かれていられたのも、船が出港した直後までだった。胸に込み上げるのは、あの日の2人の想い出ではなくて、うっ……気持ち悪い。

 船の上で早々に蹲るわたしに駆け寄って来たクロエは、わたしが着ていた正装用のドレスをあっという間に脱がせ、胸を締め付けるコルセットを外していた。
 そして、一番動きやすい、クロエのお仕着せを着せられた。
 全くもって、手際のいい侍女に、頭が上がらない。

**

 フレンツ王国の王宮の前に着いた後も、一向にわたしの体調は良くならない。
 全ての準備を整えた筈なのに、船に酔うのは想定外だった。

 王宮の前に馬車が停まて、もうしばらく経っている。
 わたしは、馬車から立ち上がる事も出来ずに、そのまま座り込んでいる。
 不安そうな顔で、私を覗き込んで来るフレデリック様。

 いつもなら、彼の優しい手で頭を撫でられると、ご機嫌になるけど、今は、全く違う。

 王都の町の中で、部屋を借りて休むように言われたけど、もしかして、回復するかもしれないからと説得して、この王宮までついて来た。でも……。

「大丈夫か? アリーチェはこのままここに居て。私1人で国王と話をしてくるから」
「だから……聞いて……」
「そんな、青い顔をして無理だろう。会談が終われば、直ぐに戻って来る。だから、クロエと一緒にここで休んでいてくれ。何度も言っているが、その状態では無理だ。それに、もう約束の時間だ」

 わたしが余計な手間をとらせた事で、会談開始時刻が迫っている。
 ごめんなさい……。
 謝る事も出来ずに、フレデリック様は、ファウラーと共に、足早に会談へ向かってしまった。

 ――分かってる。
 このままついて行けば、もっと迷惑をかけると言う事は。
 だから、伝えたかったのに、言えなかった。
 わたしは、この日の為に入念に計画をしていた。
 自分でやろうと意気込んでいたから、フレデリック様には、概要だけで重要な数字は1つも伝えしていない。

 なのに、どうしてこんな大事な時に役に立てないのか、自分が情けなくなる。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】彼を幸せにする十の方法

玉響なつめ
恋愛
貴族令嬢のフィリアには婚約者がいる。 フィリアが望んで結ばれた婚約、その相手であるキリアンはいつだって冷静だ。 婚約者としての義務は果たしてくれるし常に彼女を尊重してくれる。 しかし、フィリアが望まなければキリアンは動かない。 婚約したのだからいつかは心を開いてくれて、距離も縮まる――そう信じていたフィリアの心は、とある夜会での事件でぽっきり折れてしまった。 婚約を解消することは難しいが、少なくともこれ以上迷惑をかけずに夫婦としてどうあるべきか……フィリアは悩みながらも、キリアンが一番幸せになれる方法を探すために行動を起こすのだった。 ※小説家になろう・カクヨムにも掲載しています。

ごめんなさい、お姉様の旦那様と結婚します

秘密 (秘翠ミツキ)
恋愛
しがない伯爵令嬢のエーファには、三つ歳の離れた姉がいる。姉のブリュンヒルデは、女神と比喩される程美しく完璧な女性だった。端麗な顔立ちに陶器の様に白い肌。ミルクティー色のふわふわな長い髪。立ち居振る舞い、勉学、ダンスから演奏と全てが完璧で、非の打ち所がない。正に淑女の鑑と呼ぶに相応しく誰もが憧れ一目置くそんな人だ。  一方で妹のエーファは、一言で言えば普通。容姿も頭も、芸術的センスもなく秀でたものはない。無論両親は、エーファが物心ついた時から姉を溺愛しエーファには全く関心はなかった。周囲も姉とエーファを比較しては笑いの種にしていた。  そんな姉は公爵令息であるマンフレットと結婚をした。彼もまた姉と同様眉目秀麗、文武両道と完璧な人物だった。また周囲からは冷笑の貴公子などとも呼ばれているが、令嬢等からはかなり人気がある。かく言うエーファも彼が初恋の人だった。ただ姉と婚約し結婚した事で彼への想いは断念をした。だが、姉が結婚して二年後。姉が事故に遭い急死をした。社交界ではおしどり夫婦、愛妻家として有名だった夫のマンフレットは憔悴しているらしくーーその僅か半年後、何故か妹のエーファが後妻としてマンフレットに嫁ぐ事が決まってしまう。そして迎えた初夜、彼からは「私は君を愛さない」と冷たく突き放され、彼が家督を継ぐ一年後に離縁すると告げられた。

【完結】お飾りの妻からの挑戦状

おのまとぺ
恋愛
公爵家から王家へと嫁いできたデイジー・シャトワーズ。待ちに待った旦那様との顔合わせ、王太子セオドア・ハミルトンが放った言葉に立ち会った使用人たちの顔は強張った。 「君はお飾りの妻だ。装飾品として慎ましく生きろ」 しかし、当のデイジーは不躾な挨拶を笑顔で受け止める。二人のドタバタ生活は心配する周囲を巻き込んで、やがて誰も予想しなかった展開へ…… ◇表紙はノーコピーライトガール様より拝借しています ◇全18話で完結予定

【完結】愛してるなんて言うから

空原海
恋愛
「メアリー、俺はこの婚約を破棄したい」  婚約が決まって、三年が経とうかという頃に切り出された婚約破棄。  婚約の理由は、アラン様のお父様とわたしのお母様が、昔恋人同士だったから。 ――なんだそれ。ふざけてんのか。  わたし達は婚約解消を前提とした婚約を、互いに了承し合った。 第1部が恋物語。 第2部は裏事情の暴露大会。親世代の愛憎確執バトル、スタートッ! ※ 一話のみ挿絵があります。サブタイトルに(※挿絵あり)と表記しております。  苦手な方、ごめんなさい。挿絵の箇所は、するーっと流してくださると幸いです。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

あなたには、この程度のこと、だったのかもしれませんが。

ふまさ
恋愛
 楽しみにしていた、パーティー。けれどその場は、信じられないほどに凍り付いていた。  でも。  愉快そうに声を上げて笑う者が、一人、いた。

【完結】二度目の恋はもう諦めたくない。

たろ
恋愛
セレンは15歳の時に16歳のスティーブ・ロセスと結婚した。いわゆる政略的な結婚で、幼馴染でいつも喧嘩ばかりの二人は歩み寄りもなく一年で離縁した。 その一年間をなかったものにするため、お互い全く別のところへ移り住んだ。 スティーブはアルク国に留学してしまった。 セレンは国の文官の試験を受けて働くことになった。配属は何故か騎士団の事務員。 本人は全く気がついていないが騎士団員の間では 『可愛い子兎』と呼ばれ、何かと理由をつけては事務室にみんな足を運ぶこととなる。 そんな騎士団に入隊してきたのが、スティーブ。 お互い結婚していたことはなかったことにしようと、話すこともなく目も合わせないで過ごした。 本当はお互い好き合っているのに素直になれない二人。 そして、少しずつお互いの誤解が解けてもう一度…… 始めの数話は幼い頃の出会い。 そして結婚1年間の話。 再会と続きます。

拝啓 お顔もお名前も存じ上げない婚約者様

オケラ
恋愛
15歳のユアは上流貴族のお嬢様。自然とたわむれるのが大好きな女の子で、毎日山で植物を愛でている。しかし、こうして自由に過ごせるのもあと半年だけ。16歳になると正式に結婚することが決まっている。彼女には生まれた時から婚約者がいるが、まだ一度も会ったことがない。名前も知らないのは幼き日の彼女のわがままが原因で……。半年後に結婚を控える中、彼女は山の中でとある殿方と出会い……。

処理中です...