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第4章 夢の実現へ
フレンツ王国③
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【SIDE アリーチェ】
フレンツ王国へ向かうには、船でリンゼー湖を渡る。
波に揺られて船尾に立てば、わたしとリックが出会った場所が見える。
フレデリック様は、馬車での道中で、何度も進行を止めたわたしを、王室の別荘に置いて行くと言い出した。
フレデリック様と離れるのは嫌と言い張れば、明日の夜に戻る船へ予定を急遽変更していた。
だから、夜は一緒に過ごせるから大丈夫だって。
違う。そうじゃない。そんな事、絶対にいや。
わたしは、フレデリック様の役に立ちたいから。
昨夜、フレデリック様は、わたしが交渉に使おうとしていた数字を、わたしから何度も聞きだそうとしていた。
だけど、それを言ったら絶対に置いて行かれるもの、わたしは口を割らなかった。
船に乗った今、わたしの勝ちだ。
「せっかく始めて国の外へ行くのに、日帰りなんて寂しいわね」
「今回は、臨時の会談だからな」
「ねぇ、初めて出会った時のこと、覚えてる? あのベンチまだあるかしら? 帰りは寄って行きましょう」
「ああ、帰りに寄ろう」
「リックってば、1人で本を読む危なっかしい子だったのよね」
「アリーチェだけには言われたくない。あの日、私にはきちんと護衛がいたんだ。1人で危なくウロウロしてたのは、アリーチェだけだ。使用人が走って迎えに来なければ、送り届けていただろう」
「えー、そうだったの。全然気が付かなかった」
「アリーチェ……、顔色が悪いぞ」
「……リック」
わたしが浮かれていられたのも、船が出港した直後までだった。胸に込み上げるのは、あの日の2人の想い出ではなくて、うっ……気持ち悪い。
船の上で早々に蹲るわたしに駆け寄って来たクロエは、わたしが着ていた正装用のドレスをあっという間に脱がせ、胸を締め付けるコルセットを外していた。
そして、一番動きやすい、クロエのお仕着せを着せられた。
全くもって、手際のいい侍女に、頭が上がらない。
**
フレンツ王国の王宮の前に着いた後も、一向にわたしの体調は良くならない。
全ての準備を整えた筈なのに、船に酔うのは想定外だった。
王宮の前に馬車が停まて、もうしばらく経っている。
わたしは、馬車から立ち上がる事も出来ずに、そのまま座り込んでいる。
不安そうな顔で、私を覗き込んで来るフレデリック様。
いつもなら、彼の優しい手で頭を撫でられると、ご機嫌になるけど、今は、全く違う。
王都の町の中で、部屋を借りて休むように言われたけど、もしかして、回復するかもしれないからと説得して、この王宮までついて来た。でも……。
「大丈夫か? アリーチェはこのままここに居て。私1人で国王と話をしてくるから」
「だから……聞いて……」
「そんな、青い顔をして無理だろう。会談が終われば、直ぐに戻って来る。だから、クロエと一緒にここで休んでいてくれ。何度も言っているが、その状態では無理だ。それに、もう約束の時間だ」
わたしが余計な手間をとらせた事で、会談開始時刻が迫っている。
ごめんなさい……。
謝る事も出来ずに、フレデリック様は、ファウラーと共に、足早に会談へ向かってしまった。
――分かってる。
このままついて行けば、もっと迷惑をかけると言う事は。
だから、伝えたかったのに、言えなかった。
わたしは、この日の為に入念に計画をしていた。
自分でやろうと意気込んでいたから、フレデリック様には、概要だけで重要な数字は1つも伝えしていない。
なのに、どうしてこんな大事な時に役に立てないのか、自分が情けなくなる。
フレンツ王国へ向かうには、船でリンゼー湖を渡る。
波に揺られて船尾に立てば、わたしとリックが出会った場所が見える。
フレデリック様は、馬車での道中で、何度も進行を止めたわたしを、王室の別荘に置いて行くと言い出した。
フレデリック様と離れるのは嫌と言い張れば、明日の夜に戻る船へ予定を急遽変更していた。
だから、夜は一緒に過ごせるから大丈夫だって。
違う。そうじゃない。そんな事、絶対にいや。
わたしは、フレデリック様の役に立ちたいから。
昨夜、フレデリック様は、わたしが交渉に使おうとしていた数字を、わたしから何度も聞きだそうとしていた。
だけど、それを言ったら絶対に置いて行かれるもの、わたしは口を割らなかった。
船に乗った今、わたしの勝ちだ。
「せっかく始めて国の外へ行くのに、日帰りなんて寂しいわね」
「今回は、臨時の会談だからな」
「ねぇ、初めて出会った時のこと、覚えてる? あのベンチまだあるかしら? 帰りは寄って行きましょう」
「ああ、帰りに寄ろう」
「リックってば、1人で本を読む危なっかしい子だったのよね」
「アリーチェだけには言われたくない。あの日、私にはきちんと護衛がいたんだ。1人で危なくウロウロしてたのは、アリーチェだけだ。使用人が走って迎えに来なければ、送り届けていただろう」
「えー、そうだったの。全然気が付かなかった」
「アリーチェ……、顔色が悪いぞ」
「……リック」
わたしが浮かれていられたのも、船が出港した直後までだった。胸に込み上げるのは、あの日の2人の想い出ではなくて、うっ……気持ち悪い。
船の上で早々に蹲るわたしに駆け寄って来たクロエは、わたしが着ていた正装用のドレスをあっという間に脱がせ、胸を締め付けるコルセットを外していた。
そして、一番動きやすい、クロエのお仕着せを着せられた。
全くもって、手際のいい侍女に、頭が上がらない。
**
フレンツ王国の王宮の前に着いた後も、一向にわたしの体調は良くならない。
全ての準備を整えた筈なのに、船に酔うのは想定外だった。
王宮の前に馬車が停まて、もうしばらく経っている。
わたしは、馬車から立ち上がる事も出来ずに、そのまま座り込んでいる。
不安そうな顔で、私を覗き込んで来るフレデリック様。
いつもなら、彼の優しい手で頭を撫でられると、ご機嫌になるけど、今は、全く違う。
王都の町の中で、部屋を借りて休むように言われたけど、もしかして、回復するかもしれないからと説得して、この王宮までついて来た。でも……。
「大丈夫か? アリーチェはこのままここに居て。私1人で国王と話をしてくるから」
「だから……聞いて……」
「そんな、青い顔をして無理だろう。会談が終われば、直ぐに戻って来る。だから、クロエと一緒にここで休んでいてくれ。何度も言っているが、その状態では無理だ。それに、もう約束の時間だ」
わたしが余計な手間をとらせた事で、会談開始時刻が迫っている。
ごめんなさい……。
謝る事も出来ずに、フレデリック様は、ファウラーと共に、足早に会談へ向かってしまった。
――分かってる。
このままついて行けば、もっと迷惑をかけると言う事は。
だから、伝えたかったのに、言えなかった。
わたしは、この日の為に入念に計画をしていた。
自分でやろうと意気込んでいたから、フレデリック様には、概要だけで重要な数字は1つも伝えしていない。
なのに、どうしてこんな大事な時に役に立てないのか、自分が情けなくなる。
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