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第4章 夢の実現へ
掌の中⑦
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【SIDE アリーチェ】
ドアを開けると、この時間にいない筈のクロエが、わたしの部屋にいて驚いた。
「どうしたのクロエ。何かあった?」
「髪留めが無いのに気が付いて、もしかしたら、アリーチェ様の部屋で落としていたらと心配になって。今日は、王太子が遅くなると聞いていたので、暗闇で踏んで、お怪我でもされたら大変ですから」
それは大変だ。フレデリック様が、わたしの部屋で怪我をするのは困る。
「そうなの、わたしも一緒に探すわ。ミカエル殿下は、どうぞ景色を堪能しててください」
わたしがミカエル殿下を窓辺へ案内すると、ミカエル殿下は、水差しには目もくれず、真っ直ぐ窓に向かって行った。
水差しは、朝、わたしが置いたままの場所にある。だけど、流石に、キョロキョロと辺りを見ているクロエがいるなら、諦めたみたいだ。
窓の外には、夕日に照らされたワーグナーの屋敷が真っ先に目に入る。
「ワーグナー公爵家の屋敷って、本当に大豪邸という言葉がぴったりだ」
「そうでしょうか? 保管する資料が多いから、大きいだけですよ」
わたしはクロエの髪飾りを探しながら、適当に合いの手を入れた。実際、ワーグナーの屋敷の中で、わたしが出入りしていた部屋なんて、たかが知れてる。
部屋のほとんどが、今は見返すことも無い書類しか置いていないから、何年も屋敷の奥には行っていないのだから。
「アリーチェ様に、一緒に探して貰って申し訳ありません」
「気にしなくていいわよ。髪飾りが壊れても嫌だけど、フレデリック様が怪我をされたら困るもの」
「あっ、ありました、良かった」
そう言って、クロエが見せてくる、花の髪飾り。
それを見て、ふと沸き起こる疑問。
今朝、クロエはこんな髪飾りを着けてただろうか? 全然印象にない。嫌な物でも記憶に残って、中々消えないわたしが、覚えていない、何てことがあるかしら。
そうだった……。
今朝の事を思い返せば、ポッと耳が熱くなって、じーっと、クロエを見てしまった。
いつ、どこから見られていたのか分からないけど、クロエが寝室にいたんだった。
朝からフレデリック様と愛し合った直後、恥ずかしくてクロエを直視していなかったとのだと、スッと納得した。
「ミカエル殿下、もうよろしいですか? わたし執務室へ戻りますね」
「クロエも、厨房へ行くので、執務室までお供しますね」
「あっ、そうだね。もう、満足したよ、わざわざ時間をとってくれてありがとう」
結局、ミカエル殿下が仕掛ける証拠を掴めずに終わってしまったけど、次回こそ。
ドアを開けると、この時間にいない筈のクロエが、わたしの部屋にいて驚いた。
「どうしたのクロエ。何かあった?」
「髪留めが無いのに気が付いて、もしかしたら、アリーチェ様の部屋で落としていたらと心配になって。今日は、王太子が遅くなると聞いていたので、暗闇で踏んで、お怪我でもされたら大変ですから」
それは大変だ。フレデリック様が、わたしの部屋で怪我をするのは困る。
「そうなの、わたしも一緒に探すわ。ミカエル殿下は、どうぞ景色を堪能しててください」
わたしがミカエル殿下を窓辺へ案内すると、ミカエル殿下は、水差しには目もくれず、真っ直ぐ窓に向かって行った。
水差しは、朝、わたしが置いたままの場所にある。だけど、流石に、キョロキョロと辺りを見ているクロエがいるなら、諦めたみたいだ。
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「ワーグナー公爵家の屋敷って、本当に大豪邸という言葉がぴったりだ」
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わたしはクロエの髪飾りを探しながら、適当に合いの手を入れた。実際、ワーグナーの屋敷の中で、わたしが出入りしていた部屋なんて、たかが知れてる。
部屋のほとんどが、今は見返すことも無い書類しか置いていないから、何年も屋敷の奥には行っていないのだから。
「アリーチェ様に、一緒に探して貰って申し訳ありません」
「気にしなくていいわよ。髪飾りが壊れても嫌だけど、フレデリック様が怪我をされたら困るもの」
「あっ、ありました、良かった」
そう言って、クロエが見せてくる、花の髪飾り。
それを見て、ふと沸き起こる疑問。
今朝、クロエはこんな髪飾りを着けてただろうか? 全然印象にない。嫌な物でも記憶に残って、中々消えないわたしが、覚えていない、何てことがあるかしら。
そうだった……。
今朝の事を思い返せば、ポッと耳が熱くなって、じーっと、クロエを見てしまった。
いつ、どこから見られていたのか分からないけど、クロエが寝室にいたんだった。
朝からフレデリック様と愛し合った直後、恥ずかしくてクロエを直視していなかったとのだと、スッと納得した。
「ミカエル殿下、もうよろしいですか? わたし執務室へ戻りますね」
「クロエも、厨房へ行くので、執務室までお供しますね」
「あっ、そうだね。もう、満足したよ、わざわざ時間をとってくれてありがとう」
結局、ミカエル殿下が仕掛ける証拠を掴めずに終わってしまったけど、次回こそ。
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