92 / 116
第4章 夢の実現へ
掌の中⑤
しおりを挟む
【SIDE フレデリック】
公務を終えたアリーチェは、私室へ戻る頃だろう。私は、一刻も早く帰城する為に急いでいるが、まだ、しばらくかかりそうだ。
「ファウラー、頼むからカーテンを返してくれ」
辺境伯領からの帰り道、向かう時と同じ会話をファウラーと交わしているが、こいつは、全く応じる気配は無い。
「無理です。僕が女神と崇めるアリーチェ様の素晴らしいカーテンは、誰にも渡しません。ちなみに、神様の絵も返しませんよ。あれは、女神像と一緒に飾ってますから」
「あれは神では無く、私の肖像画だ」
アリーチェは、これまでの私の態度の事を、何も言って来ないが、相当に傷ついている。
素直な彼女は、何事も無い顔をして、自分の心境を吐露している。
その話の端々に、これまでの彼女の気持ちが見えて、それが、余計に胸に刺さる。
それなのに、私がどんなに謝罪しても、命を狙われていると思ったなら当然だと、アリーチェは笑っている。
詫びても詫びても、詫び足りない。
日頃、露骨に怒らないアリーチェが、カーテンの事で怒ったのは、寧ろ、誤る機会が出来て良かった。
なのに、理由を聞かれて趣味に合わなかったと素直に言えば、あっと言う間に許してくれた。
彼女の気持ちを考えると、自分の気持ちが収まらないでいる。
「呪いのカーテンだからって、拒否したのはフレデリック様ですよ」
「一度既に、お前が死の間際まで行って来たんだ。呪いは発動したから大丈夫だろう」
「そこから救ってくれたのが、僕の女神のアリーチェ様ですから、女神が作ってくれた貴重なものは返しません。僕の投獄中にフレデリック様が、女神様を城から追い出すんじゃないかと、冷や冷やしてたんですよ。でもまさか、こんなに仲良くしてるとは思いませんでした」
「お前が居ない時に色々あったんだ! 唯でさえ私が傷つけたのに……、カーテンを返せ」
マックスの思惑を知らないファウラーは、マックスが、見返りも求めず幽閉中の自分を擁護をしてくれたと信じて、2人を命の恩人だと慕っている。幽閉生活でさえも、快適でいい思いをしたと呆れた事を言っている。
この単純なファウラーが居てくれたお陰で、今までわたしの心のバランスが取れていたのだろう。
「僕が、アリーチェ様の事を間違って、報告してしまって、申し訳ありませんでした」
「私も何度か会ったのに、気付かなかったから悪いんだ、気にするな」
「そう言えば、フレデリック様が陛下の所へ行っている時の話ですけど、アリーチェ様が、どうして男は、誰とでも淫らなことが出来るのかと聞いて来たので、色々教えておきました」
アリーチェは、どんな意図でファウラーにそれを聞いたんだ。もしや、マックスから、既に何か言われていたのか。
「アリーチェは、それを聞いて怯えていなかったか?」
「いえ、興味深いから、また教えて欲しいと」
「ファウラー、頼むから、アリーチェが勘違いするような事を伝えるなよ」
無頓着な性格のアリーチェが、あのマックスに手懐けられていたせいで、色々と危なっかしい。
アリーチェの美貌に惹かれ、彼女を欲しいと言い出したミカエル。
アリーチェを自分の妃に出来ないとしても、疎ましい私への嫌がらせに、彼女を狙うはずだ。
王子の部屋の景色をアリーチェに聞かせて、何を考えていたのか、手に取るように分かる。何かあってからではゾッとする。
これまでにも、あいつが傷つけて来た令嬢と、私はどれだけ遭遇してきたことか。
アリーチェとマックスを見ていると、自分が情けなくなる。私の弟は、どうして、あんな風になってしまったのか。
「いよいよですね。でも、国の正式な訪問なのに、会談者を2人に制限してるのは、珍しいですよね。僕じゃなくて、フレンツ王国へはマックス様をお供させた方がよろしいんじゃないですか? ワーグナー公爵家の人物がいた方が、いいと思いますけど」
「いや、公務を正しく判断出来る人間に、城に残って貰わないと困るからな」
本当は、フレンツ王国にアリーチェを連れて行きたくはない。
アリーチェの構想は恐らく、同盟関係を断ち切ると言い出した、フレンツ王国の関心を得るだろう。
だが、交渉材料として、ワーグナー公爵家の力を借りると言えば、あの国王が言い出すことはおそらく。
どちらにしても、アリーチェをイエール城に残して行く訳にも、マックスを連れていく訳にも行かない。
マックスが、私と共に動いていると思えば、ミカエルが警戒するだろう。
公務を終えたアリーチェは、私室へ戻る頃だろう。私は、一刻も早く帰城する為に急いでいるが、まだ、しばらくかかりそうだ。
「ファウラー、頼むからカーテンを返してくれ」
辺境伯領からの帰り道、向かう時と同じ会話をファウラーと交わしているが、こいつは、全く応じる気配は無い。
「無理です。僕が女神と崇めるアリーチェ様の素晴らしいカーテンは、誰にも渡しません。ちなみに、神様の絵も返しませんよ。あれは、女神像と一緒に飾ってますから」
「あれは神では無く、私の肖像画だ」
アリーチェは、これまでの私の態度の事を、何も言って来ないが、相当に傷ついている。
素直な彼女は、何事も無い顔をして、自分の心境を吐露している。
その話の端々に、これまでの彼女の気持ちが見えて、それが、余計に胸に刺さる。
それなのに、私がどんなに謝罪しても、命を狙われていると思ったなら当然だと、アリーチェは笑っている。
詫びても詫びても、詫び足りない。
日頃、露骨に怒らないアリーチェが、カーテンの事で怒ったのは、寧ろ、誤る機会が出来て良かった。
なのに、理由を聞かれて趣味に合わなかったと素直に言えば、あっと言う間に許してくれた。
彼女の気持ちを考えると、自分の気持ちが収まらないでいる。
「呪いのカーテンだからって、拒否したのはフレデリック様ですよ」
「一度既に、お前が死の間際まで行って来たんだ。呪いは発動したから大丈夫だろう」
「そこから救ってくれたのが、僕の女神のアリーチェ様ですから、女神が作ってくれた貴重なものは返しません。僕の投獄中にフレデリック様が、女神様を城から追い出すんじゃないかと、冷や冷やしてたんですよ。でもまさか、こんなに仲良くしてるとは思いませんでした」
「お前が居ない時に色々あったんだ! 唯でさえ私が傷つけたのに……、カーテンを返せ」
マックスの思惑を知らないファウラーは、マックスが、見返りも求めず幽閉中の自分を擁護をしてくれたと信じて、2人を命の恩人だと慕っている。幽閉生活でさえも、快適でいい思いをしたと呆れた事を言っている。
この単純なファウラーが居てくれたお陰で、今までわたしの心のバランスが取れていたのだろう。
「僕が、アリーチェ様の事を間違って、報告してしまって、申し訳ありませんでした」
「私も何度か会ったのに、気付かなかったから悪いんだ、気にするな」
「そう言えば、フレデリック様が陛下の所へ行っている時の話ですけど、アリーチェ様が、どうして男は、誰とでも淫らなことが出来るのかと聞いて来たので、色々教えておきました」
アリーチェは、どんな意図でファウラーにそれを聞いたんだ。もしや、マックスから、既に何か言われていたのか。
「アリーチェは、それを聞いて怯えていなかったか?」
「いえ、興味深いから、また教えて欲しいと」
「ファウラー、頼むから、アリーチェが勘違いするような事を伝えるなよ」
無頓着な性格のアリーチェが、あのマックスに手懐けられていたせいで、色々と危なっかしい。
アリーチェの美貌に惹かれ、彼女を欲しいと言い出したミカエル。
アリーチェを自分の妃に出来ないとしても、疎ましい私への嫌がらせに、彼女を狙うはずだ。
王子の部屋の景色をアリーチェに聞かせて、何を考えていたのか、手に取るように分かる。何かあってからではゾッとする。
これまでにも、あいつが傷つけて来た令嬢と、私はどれだけ遭遇してきたことか。
アリーチェとマックスを見ていると、自分が情けなくなる。私の弟は、どうして、あんな風になってしまったのか。
「いよいよですね。でも、国の正式な訪問なのに、会談者を2人に制限してるのは、珍しいですよね。僕じゃなくて、フレンツ王国へはマックス様をお供させた方がよろしいんじゃないですか? ワーグナー公爵家の人物がいた方が、いいと思いますけど」
「いや、公務を正しく判断出来る人間に、城に残って貰わないと困るからな」
本当は、フレンツ王国にアリーチェを連れて行きたくはない。
アリーチェの構想は恐らく、同盟関係を断ち切ると言い出した、フレンツ王国の関心を得るだろう。
だが、交渉材料として、ワーグナー公爵家の力を借りると言えば、あの国王が言い出すことはおそらく。
どちらにしても、アリーチェをイエール城に残して行く訳にも、マックスを連れていく訳にも行かない。
マックスが、私と共に動いていると思えば、ミカエルが警戒するだろう。
0
お気に入りに追加
159
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
【完結】彼を幸せにする十の方法
玉響なつめ
恋愛
貴族令嬢のフィリアには婚約者がいる。
フィリアが望んで結ばれた婚約、その相手であるキリアンはいつだって冷静だ。
婚約者としての義務は果たしてくれるし常に彼女を尊重してくれる。
しかし、フィリアが望まなければキリアンは動かない。
婚約したのだからいつかは心を開いてくれて、距離も縮まる――そう信じていたフィリアの心は、とある夜会での事件でぽっきり折れてしまった。
婚約を解消することは難しいが、少なくともこれ以上迷惑をかけずに夫婦としてどうあるべきか……フィリアは悩みながらも、キリアンが一番幸せになれる方法を探すために行動を起こすのだった。
※小説家になろう・カクヨムにも掲載しています。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
ごめんなさい、お姉様の旦那様と結婚します
秘密 (秘翠ミツキ)
恋愛
しがない伯爵令嬢のエーファには、三つ歳の離れた姉がいる。姉のブリュンヒルデは、女神と比喩される程美しく完璧な女性だった。端麗な顔立ちに陶器の様に白い肌。ミルクティー色のふわふわな長い髪。立ち居振る舞い、勉学、ダンスから演奏と全てが完璧で、非の打ち所がない。正に淑女の鑑と呼ぶに相応しく誰もが憧れ一目置くそんな人だ。
一方で妹のエーファは、一言で言えば普通。容姿も頭も、芸術的センスもなく秀でたものはない。無論両親は、エーファが物心ついた時から姉を溺愛しエーファには全く関心はなかった。周囲も姉とエーファを比較しては笑いの種にしていた。
そんな姉は公爵令息であるマンフレットと結婚をした。彼もまた姉と同様眉目秀麗、文武両道と完璧な人物だった。また周囲からは冷笑の貴公子などとも呼ばれているが、令嬢等からはかなり人気がある。かく言うエーファも彼が初恋の人だった。ただ姉と婚約し結婚した事で彼への想いは断念をした。だが、姉が結婚して二年後。姉が事故に遭い急死をした。社交界ではおしどり夫婦、愛妻家として有名だった夫のマンフレットは憔悴しているらしくーーその僅か半年後、何故か妹のエーファが後妻としてマンフレットに嫁ぐ事が決まってしまう。そして迎えた初夜、彼からは「私は君を愛さない」と冷たく突き放され、彼が家督を継ぐ一年後に離縁すると告げられた。
【完結】お飾りの妻からの挑戦状
おのまとぺ
恋愛
公爵家から王家へと嫁いできたデイジー・シャトワーズ。待ちに待った旦那様との顔合わせ、王太子セオドア・ハミルトンが放った言葉に立ち会った使用人たちの顔は強張った。
「君はお飾りの妻だ。装飾品として慎ましく生きろ」
しかし、当のデイジーは不躾な挨拶を笑顔で受け止める。二人のドタバタ生活は心配する周囲を巻き込んで、やがて誰も予想しなかった展開へ……
◇表紙はノーコピーライトガール様より拝借しています
◇全18話で完結予定
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
【完結】愛してるなんて言うから
空原海
恋愛
「メアリー、俺はこの婚約を破棄したい」
婚約が決まって、三年が経とうかという頃に切り出された婚約破棄。
婚約の理由は、アラン様のお父様とわたしのお母様が、昔恋人同士だったから。
――なんだそれ。ふざけてんのか。
わたし達は婚約解消を前提とした婚約を、互いに了承し合った。
第1部が恋物語。
第2部は裏事情の暴露大会。親世代の愛憎確執バトル、スタートッ!
※ 一話のみ挿絵があります。サブタイトルに(※挿絵あり)と表記しております。
苦手な方、ごめんなさい。挿絵の箇所は、するーっと流してくださると幸いです。
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
あなたには、この程度のこと、だったのかもしれませんが。
ふまさ
恋愛
楽しみにしていた、パーティー。けれどその場は、信じられないほどに凍り付いていた。
でも。
愉快そうに声を上げて笑う者が、一人、いた。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
【完結】二度目の恋はもう諦めたくない。
たろ
恋愛
セレンは15歳の時に16歳のスティーブ・ロセスと結婚した。いわゆる政略的な結婚で、幼馴染でいつも喧嘩ばかりの二人は歩み寄りもなく一年で離縁した。
その一年間をなかったものにするため、お互い全く別のところへ移り住んだ。
スティーブはアルク国に留学してしまった。
セレンは国の文官の試験を受けて働くことになった。配属は何故か騎士団の事務員。
本人は全く気がついていないが騎士団員の間では
『可愛い子兎』と呼ばれ、何かと理由をつけては事務室にみんな足を運ぶこととなる。
そんな騎士団に入隊してきたのが、スティーブ。
お互い結婚していたことはなかったことにしようと、話すこともなく目も合わせないで過ごした。
本当はお互い好き合っているのに素直になれない二人。
そして、少しずつお互いの誤解が解けてもう一度……
始めの数話は幼い頃の出会い。
そして結婚1年間の話。
再会と続きます。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
拝啓 お顔もお名前も存じ上げない婚約者様
オケラ
恋愛
15歳のユアは上流貴族のお嬢様。自然とたわむれるのが大好きな女の子で、毎日山で植物を愛でている。しかし、こうして自由に過ごせるのもあと半年だけ。16歳になると正式に結婚することが決まっている。彼女には生まれた時から婚約者がいるが、まだ一度も会ったことがない。名前も知らないのは幼き日の彼女のわがままが原因で……。半年後に結婚を控える中、彼女は山の中でとある殿方と出会い……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる