【完結】ヒロインになれなかった妃の 赤い糸~突然、愛してるなんて言われて、溺愛されるのは、聞いてない!~

瑞貴◆後悔してる/手違いの妻2巻発売!

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第4章 夢の実現へ

掌の中⑤

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【SIDE フレデリック】

 公務を終えたアリーチェは、私室へ戻る頃だろう。私は、一刻も早く帰城する為に急いでいるが、まだ、しばらくかかりそうだ。
 
「ファウラー、頼むからカーテンを返してくれ」
 辺境伯領からの帰り道、向かう時と同じ会話をファウラーと交わしているが、こいつは、全く応じる気配は無い。

「無理です。僕が女神と崇めるアリーチェ様の素晴らしいカーテンは、誰にも渡しません。ちなみに、神様の絵も返しませんよ。あれは、女神像と一緒に飾ってますから」
「あれは神では無く、私の肖像画だ」
 
 アリーチェは、これまでの私の態度の事を、何も言って来ないが、相当に傷ついている。
 素直な彼女は、何事も無い顔をして、自分の心境を吐露している。

 その話の端々に、これまでの彼女の気持ちが見えて、それが、余計に胸に刺さる。
 それなのに、私がどんなに謝罪しても、命を狙われていると思ったなら当然だと、アリーチェは笑っている。

 詫びても詫びても、詫び足りない。
 日頃、露骨に怒らないアリーチェが、カーテンの事で怒ったのは、寧ろ、誤る機会が出来て良かった。
 なのに、理由を聞かれて趣味に合わなかったと素直に言えば、あっと言う間に許してくれた。
 彼女の気持ちを考えると、自分の気持ちが収まらないでいる。

「呪いのカーテンだからって、拒否したのはフレデリック様ですよ」
「一度既に、お前が死の間際まで行って来たんだ。呪いは発動したから大丈夫だろう」
「そこから救ってくれたのが、僕の女神のアリーチェ様ですから、女神が作ってくれた貴重なものは返しません。僕の投獄中にフレデリック様が、女神様を城から追い出すんじゃないかと、冷や冷やしてたんですよ。でもまさか、こんなに仲良くしてるとは思いませんでした」

「お前が居ない時に色々あったんだ! 唯でさえ私が傷つけたのに……、カーテンを返せ」
 マックスの思惑を知らないファウラーは、マックスが、見返りも求めず幽閉中の自分を擁護をしてくれたと信じて、2人を命の恩人だと慕っている。幽閉生活でさえも、快適でいい思いをしたと呆れた事を言っている。
 この単純なファウラーが居てくれたお陰で、今までわたしの心のバランスが取れていたのだろう。

「僕が、アリーチェ様の事を間違って、報告してしまって、申し訳ありませんでした」
「私も何度か会ったのに、気付かなかったから悪いんだ、気にするな」
「そう言えば、フレデリック様が陛下の所へ行っている時の話ですけど、アリーチェ様が、どうして男は、誰とでも淫らなことが出来るのかと聞いて来たので、色々教えておきました」
 
 アリーチェは、どんな意図でファウラーにそれを聞いたんだ。もしや、マックスから、既に何か言われていたのか。

「アリーチェは、それを聞いて怯えていなかったか?」
「いえ、興味深いから、また教えて欲しいと」
「ファウラー、頼むから、アリーチェが勘違いするような事を伝えるなよ」
 無頓着な性格のアリーチェが、あのマックスに手懐けられていたせいで、色々と危なっかしい。

 アリーチェの美貌に惹かれ、彼女を欲しいと言い出したミカエル。
 アリーチェを自分の妃に出来ないとしても、疎ましい私への嫌がらせに、彼女を狙うはずだ。
 王子の部屋の景色をアリーチェに聞かせて、何を考えていたのか、手に取るように分かる。何かあってからではゾッとする。
 これまでにも、あいつが傷つけて来た令嬢と、私はどれだけ遭遇してきたことか。
 
 アリーチェとマックスを見ていると、自分が情けなくなる。私の弟は、どうして、あんな風になってしまったのか。

「いよいよですね。でも、国の正式な訪問なのに、会談者を2人に制限してるのは、珍しいですよね。僕じゃなくて、フレンツ王国へはマックス様をお供させた方がよろしいんじゃないですか? ワーグナー公爵家の人物がいた方が、いいと思いますけど」

「いや、公務を正しく判断出来る人間に、城に残って貰わないと困るからな」

 本当は、フレンツ王国にアリーチェを連れて行きたくはない。
 アリーチェの構想は恐らく、同盟関係を断ち切ると言い出した、フレンツ王国の関心を得るだろう。
 だが、交渉材料として、ワーグナー公爵家の力を借りると言えば、あの国王が言い出すことはおそらく。
 どちらにしても、アリーチェをイエール城に残して行く訳にも、マックスを連れていく訳にも行かない。

 マックスが、私と共に動いていると思えば、ミカエルが警戒するだろう。
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