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第4章 夢の実現へ
掌の中④
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【SIDE マックス】
「わぁ~、思ってた以上に立派な屋敷で、良かったわ」
嬉しそうに、屋敷の中を走り回ている姉を、僕は走って追いかけている。
いつも、来た道さえも分からなくなるくせに、僕から離れるなっ! 本当に手間のかかる姉だ。
貴族が王都に構えた屋敷を、古くなったからと手放したのか。
使用目的は、夜会を開催する為だったのだろう、随分と広い造りになっている。
それにしても、流石に姉の数か月分の給金で買える気はしない。この姉は、一体何をした。
「この屋敷、どうやって買ったんですか」
「妃の手当てを、投資で増やしたのよ。さっき確認したら、不足分は、しっかりと回収してたみたいだし、契約は成立したわ」
「そんな事をしてたんですか⁉」
「ふふっ、わたしを誰だと思ってるの、当然でしょう! ほら、最近王都で女性達にマニキュアが流行ってるでしょう」
そう言って、ポケットに入れていたマニュキアを取り出して、僕に見せてきた。
ここ最近、突然王都で売られるようになり、飛ぶように売れていると聞いている。
何十色もあるから、貴族達は全色を根こそぎ買い集めているとか。
姉は、世間の常識を知らないくせに、アレを仕掛けたのかと、目が点になった。まさか、あの化粧のセンスが壊滅的な姉が、美容に興味があるとは。
「マニュキュアがこの国に入って来たのは、姉上だったんですか!」
この姉の才能には、心底驚かされる。
「そうよ、わたしも爪に絵を描いてみようかなって。お金も入って、おしゃれが出来るなんて一石二鳥でしょう」
いや、駄目だ。この姉の芸術センスは狂気? 凶器なんだ。
姉が自分の体に、カーテンに施した不吉な模様を描かれては、たまったもんじゃない。なんだって、どこまでも手のかかる姉だ。
「姉上、いいですか、自分の手には上手く描けないでしょう。ですから、爪に絵を描くなら、王太子に描いて貰うといいですよ。そうすると、仲の良い恋人みたいでしょう」
「えっっ、そうだわ。そうね! あー、どうして思いつかなかったんだろう。マックスの言う通りだわぁ。恋人って、キャッ素敵~」
姉に何かあるより、僕の目の前で王太子とイチャイチャされてる方がましだ。
「それにしても、どうしてこの屋敷を買ったんですか」
「実はね、学校を作ろうと思ってるの」
また、突拍子も無い事を言い出した。
姉の居場所を作れば、益々危ないだろう。王太子の奴、これを知って僕を利用してるのか。
僕には無理だ。姉を危険に晒すのは……。いや、それを言うなら、あちらも同じ考えか……。
やってる事はまるで子どもだが、色香の増した姉が、美しい髪に光が反射させながら、嬉しそうに走り回っている。毎日城で会っていたが、気が付かなかったな。
それだけ王子様と幸せなんだろう……。
――これだから天才は馬鹿で困る。
王太子の奴、僕がやっとのことで、姉が居なくなった我が家の事業をこなしている事にも気づかずに、僕の仕事を増やしやがって。
「姉上に講師は無理ですからね、立場を弁えてくださいよ。そもそも、貴女のレベルについて行ける人は居ませんし」
普通じゃない姉に、ついて行けるのは、王太子くらいなものだろう。
姉が、異常過ぎたせいで、妃試験でも、不正をしたと思われたくらいだ。
「大丈夫、もうすぐ爵位を譲って、暇になるトミー事務官に、みっちり仕込んだし。そうそう、マックスから、仕事を押し付けられて可哀そうだから、夕方まで、交渉術を教えた日もあったけど、あれから頑張ってたかしら」
それって、トミー事務官が1日だけ残業してた日のことか?
「姉上が、自分の手法を教えるなんて珍しいですね。寧ろ僕が聞きたかった。僕の嘘は、どこで見破ってるんですか」
「馬鹿ね、マックスなんかに教えたら、わたしが騙されるでしょう。トミー事務官は、少しのんびりなだけだから、虐めちゃ駄目よ、ふふっ」
「言っておきますが、僕がトミー事務官を虐めた事は、1度もないですよ。それより、この後は、もう一度我が家に行ってもいいですか? 姉上に頼み事がありました」
虐めると言うのなら、使う機会の無い交渉術を、1日中聞かされて、残業させてる姉だろう。
トミー事務官は、このズレた姉に、よく付き合ってくれてたものだ。
「わぁ~、思ってた以上に立派な屋敷で、良かったわ」
嬉しそうに、屋敷の中を走り回ている姉を、僕は走って追いかけている。
いつも、来た道さえも分からなくなるくせに、僕から離れるなっ! 本当に手間のかかる姉だ。
貴族が王都に構えた屋敷を、古くなったからと手放したのか。
使用目的は、夜会を開催する為だったのだろう、随分と広い造りになっている。
それにしても、流石に姉の数か月分の給金で買える気はしない。この姉は、一体何をした。
「この屋敷、どうやって買ったんですか」
「妃の手当てを、投資で増やしたのよ。さっき確認したら、不足分は、しっかりと回収してたみたいだし、契約は成立したわ」
「そんな事をしてたんですか⁉」
「ふふっ、わたしを誰だと思ってるの、当然でしょう! ほら、最近王都で女性達にマニキュアが流行ってるでしょう」
そう言って、ポケットに入れていたマニュキアを取り出して、僕に見せてきた。
ここ最近、突然王都で売られるようになり、飛ぶように売れていると聞いている。
何十色もあるから、貴族達は全色を根こそぎ買い集めているとか。
姉は、世間の常識を知らないくせに、アレを仕掛けたのかと、目が点になった。まさか、あの化粧のセンスが壊滅的な姉が、美容に興味があるとは。
「マニュキュアがこの国に入って来たのは、姉上だったんですか!」
この姉の才能には、心底驚かされる。
「そうよ、わたしも爪に絵を描いてみようかなって。お金も入って、おしゃれが出来るなんて一石二鳥でしょう」
いや、駄目だ。この姉の芸術センスは狂気? 凶器なんだ。
姉が自分の体に、カーテンに施した不吉な模様を描かれては、たまったもんじゃない。なんだって、どこまでも手のかかる姉だ。
「姉上、いいですか、自分の手には上手く描けないでしょう。ですから、爪に絵を描くなら、王太子に描いて貰うといいですよ。そうすると、仲の良い恋人みたいでしょう」
「えっっ、そうだわ。そうね! あー、どうして思いつかなかったんだろう。マックスの言う通りだわぁ。恋人って、キャッ素敵~」
姉に何かあるより、僕の目の前で王太子とイチャイチャされてる方がましだ。
「それにしても、どうしてこの屋敷を買ったんですか」
「実はね、学校を作ろうと思ってるの」
また、突拍子も無い事を言い出した。
姉の居場所を作れば、益々危ないだろう。王太子の奴、これを知って僕を利用してるのか。
僕には無理だ。姉を危険に晒すのは……。いや、それを言うなら、あちらも同じ考えか……。
やってる事はまるで子どもだが、色香の増した姉が、美しい髪に光が反射させながら、嬉しそうに走り回っている。毎日城で会っていたが、気が付かなかったな。
それだけ王子様と幸せなんだろう……。
――これだから天才は馬鹿で困る。
王太子の奴、僕がやっとのことで、姉が居なくなった我が家の事業をこなしている事にも気づかずに、僕の仕事を増やしやがって。
「姉上に講師は無理ですからね、立場を弁えてくださいよ。そもそも、貴女のレベルについて行ける人は居ませんし」
普通じゃない姉に、ついて行けるのは、王太子くらいなものだろう。
姉が、異常過ぎたせいで、妃試験でも、不正をしたと思われたくらいだ。
「大丈夫、もうすぐ爵位を譲って、暇になるトミー事務官に、みっちり仕込んだし。そうそう、マックスから、仕事を押し付けられて可哀そうだから、夕方まで、交渉術を教えた日もあったけど、あれから頑張ってたかしら」
それって、トミー事務官が1日だけ残業してた日のことか?
「姉上が、自分の手法を教えるなんて珍しいですね。寧ろ僕が聞きたかった。僕の嘘は、どこで見破ってるんですか」
「馬鹿ね、マックスなんかに教えたら、わたしが騙されるでしょう。トミー事務官は、少しのんびりなだけだから、虐めちゃ駄目よ、ふふっ」
「言っておきますが、僕がトミー事務官を虐めた事は、1度もないですよ。それより、この後は、もう一度我が家に行ってもいいですか? 姉上に頼み事がありました」
虐めると言うのなら、使う機会の無い交渉術を、1日中聞かされて、残業させてる姉だろう。
トミー事務官は、このズレた姉に、よく付き合ってくれてたものだ。
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