上 下
84 / 116
第4章 夢の実現へ

呑気な妃③

しおりを挟む
【SIDE アリーチェ】

 今朝、わたしが、フレデリック様へ「もう1回って」我が儘な、お願いをしているのを、クロエに聞かれてしまった。
 慌てて、もう1回化粧をする話だと誤魔化したら、何故か面倒な事になってしまった。

 わたしが浮かれると、余り良い事が起き無いのは、分かっていたのに。
 もう、しっかりしなきゃ。

 王族居住区の衛兵に声をかけて、階段を駆け上った。

 階段の踊り場まで登ったところで、前方から衝撃を受け、誰かと激しくぶつかったことを認識した。
 ぁっ――! これはまずい。

 間違い無く、このまま落ちると思った体勢になった。なのに、落下する直前に、グッと手を引っ張られ、男の人の胸の中に抱きかかえられている。

 危なかった。
 あんなに反動がついていれば、階段の下まで一気に落ちる所だった。
 まじまじと、階段の下を見下ろせば、その恐怖で冷や汗がでた。
 わたしを抱え込んでる、ミカエル殿下のお陰だ。

「ミカエル殿下のお陰で助かりました。危なく階段から落ちるところでした」
「いや、寧ろ、僕が避けられなかったせいで、申し訳なかった。痛い所は無いかい? 手を掴んだけど、大丈夫だろうか」
 そう言って、心配そうにわたしの右手を撫でている。
 心配性なのは、兄のフレデリック様と似ていて、微笑ましく感じてしまう。

 フレデリック様は、わたしがちょっと怖がったくらいで、ご自分の大切な任命式中でさえ、わたしの事ばかり気にしてくれる程だもの。
 でも、こんなんじゃ駄目だから。
 マックスに甘えてばかりだったわたしは、もっと、大人になって、しっかりしないといけないから。

「痛い所はありませんから、大丈夫です。部屋に忘れ物を取りに行くのに、慌ててたから、よく前を見てなくて、申し訳ありませんでした」

「次は気をつけて、僕じゃ無かったら、本当に階段の下まで転がってたよ」
「そうですね。下まで落ちてたかと思うと、ゾッとします。あっ、わたし急いでるので、失礼します」
 ミカエル殿下の腕を解き、離れようとした時。
 離そうとした手を、ぎゅっと握られる。

「ねえ、アリーチェ妃は知ってた? この城からの景色って、部屋によって全然違うんだよ。僕や兄の部屋からは、一般開放されてない噴水が見えるけど、妃の部屋からは、王都の街並みが見えるんだ。悪いんだけど、アリーチェ妃の部屋の景色を見せてくれないだろうか? 他の部屋は、鍵がかかって入ることが出来ないんだ。どうしても、見たい所があって」
 ミカエル殿下に、助けて頂いたのに断っていいのか、それも、窓の景色を見るだけの事を拒むのは、心が狭いんだろうかと迷ってしまう。

 だけど、少しでも気になって、迷う位なら、断るのが正解でしょう。大概、わたしが気がかりな要素のある取引は、問題が起きるんだもん。

「部屋に……、人を入れるのは、ちょっと」
「そう。そんなに気にした顔をしなくても大丈夫だよ。やはり、アリーチェ妃は僕が思っていたような人だ。昔、ワーグナー公爵家の庭にいる、貴女を見たことがあって」
「そうですか。それは、いつですか」
「アリーチェ妃が10歳位の頃だよ。一目ぼれって言うのか、恥ずかしい話だけど、その後も、何度か、見に行ってしまったんだ」

 ミカエル殿下は、嘘を吐いてる。理由は? もしかして、此処で衝突したのもわざとか?

 急いでいたとはいえ、わたしは、前を見ていなかった訳では無いし、急に出てきたのは、ミカエル殿下の方だった。
 わたしがいつもやってる、信用するかしないかを決める、罠に引っかかったから、この人を無暗に部屋に入れたくなかった。
 考えたく無いけど、フレデリック様に何か企んでいるのかもしれない。

 わたしは、弟が可愛いから、何をされても許せてしまう。きっと、フレデリック様だって。

 ミカエル殿下は、前王妃のように、フレデリック様を暗殺しようと企んでいるのかしら? もしそうなら、直ぐにフレデリック様に伝えるべきだろうか……。

 いや、マックスが、わたしの暗殺を企ててるなんて聞いても、わたしは絶対に信じない。
 フレデリック様は、疑り深いから、わたしの事でさえ、間者だと思っていたんだもの。
 これは、わたしが何とかするしかない。

「景色を見るだけなら、いいですよ。部屋に案内します」
「ありがとう、助かるよ」

 やはり今、右側だけ口角が上がったわね。
 わたしの部屋に何かを仕掛けると言うなら、証拠が残って、丁度いいわ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

そんなに令嬢がお好きですか 前編

tartan321
恋愛
「分かりました。付き合いますよ……。ただね……まあ、いいや」 恋多き元令嬢の元にやって来た田舎の王侯貴族。 利権だけ奪って後はさよなら。 いつもみたいにするはずだったが…………。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

妹と人生を入れ替えました〜皇太子さまは溺愛する相手をお間違えのようです〜

鈴宮(すずみや)
恋愛
「俺の妃になって欲しいんだ」  従兄弟として育ってきた憂炎(ゆうえん)からそんなことを打診された名家の令嬢である凛風(りんふぁ)。  実は憂炎は、嫉妬深い皇后の手から逃れるため、後宮から密かに連れ出された現皇帝の実子だった。  自由を愛する凛風にとって、堅苦しい後宮暮らしは到底受け入れられるものではない。けれど憂炎は「妃は凛風に」と頑なで、考えを曲げる様子はなかった。  そんな中、凛風は双子の妹である華凛と入れ替わることを思い付く。華凛はこの提案を快諾し、『凛風』として入内をすることに。  しかし、それから数日後、今度は『華凛(凛風)』に対して、憂炎の補佐として出仕するようお達しが。断りきれず、渋々出仕した華凛(凛風)。すると、憂炎は華凛(凛風)のことを溺愛し、籠妃のように扱い始める。  釈然としない想いを抱えつつ、自分の代わりに入内した華凛の元を訪れる凛風。そこで凛風は、憂炎が入内以降一度も、凛風(華凛)の元に一度も通っていないことを知る。 『だったら最初から『凛風』じゃなくて『華凛』を妃にすれば良かったのに』  憤る凛風に対し、華凛が「三日間だけ元の自分戻りたい」と訴える。妃の任を押し付けた負い目もあって、躊躇いつつも華凛の願いを聞き入れる凛風。しかし、そんな凛風のもとに憂炎が現れて――――。

王妃の仕事なんて知りません、今から逃げます!

gacchi
恋愛
側妃を迎えるって、え?聞いてないよ? 王妃の仕事が大変でも頑張ってたのは、レオルドが好きだから。 国への責任感?そんなの無いよ。もういい。私、逃げるから! 12/16加筆修正したものをカクヨムに投稿しました。

ごめんなさい、お姉様の旦那様と結婚します

秘密 (秘翠ミツキ)
恋愛
しがない伯爵令嬢のエーファには、三つ歳の離れた姉がいる。姉のブリュンヒルデは、女神と比喩される程美しく完璧な女性だった。端麗な顔立ちに陶器の様に白い肌。ミルクティー色のふわふわな長い髪。立ち居振る舞い、勉学、ダンスから演奏と全てが完璧で、非の打ち所がない。正に淑女の鑑と呼ぶに相応しく誰もが憧れ一目置くそんな人だ。  一方で妹のエーファは、一言で言えば普通。容姿も頭も、芸術的センスもなく秀でたものはない。無論両親は、エーファが物心ついた時から姉を溺愛しエーファには全く関心はなかった。周囲も姉とエーファを比較しては笑いの種にしていた。  そんな姉は公爵令息であるマンフレットと結婚をした。彼もまた姉と同様眉目秀麗、文武両道と完璧な人物だった。また周囲からは冷笑の貴公子などとも呼ばれているが、令嬢等からはかなり人気がある。かく言うエーファも彼が初恋の人だった。ただ姉と婚約し結婚した事で彼への想いは断念をした。だが、姉が結婚して二年後。姉が事故に遭い急死をした。社交界ではおしどり夫婦、愛妻家として有名だった夫のマンフレットは憔悴しているらしくーーその僅か半年後、何故か妹のエーファが後妻としてマンフレットに嫁ぐ事が決まってしまう。そして迎えた初夜、彼からは「私は君を愛さない」と冷たく突き放され、彼が家督を継ぐ一年後に離縁すると告げられた。

拝啓 お顔もお名前も存じ上げない婚約者様

オケラ
恋愛
15歳のユアは上流貴族のお嬢様。自然とたわむれるのが大好きな女の子で、毎日山で植物を愛でている。しかし、こうして自由に過ごせるのもあと半年だけ。16歳になると正式に結婚することが決まっている。彼女には生まれた時から婚約者がいるが、まだ一度も会ったことがない。名前も知らないのは幼き日の彼女のわがままが原因で……。半年後に結婚を控える中、彼女は山の中でとある殿方と出会い……。

【完結】婚約者が好きなのです

maruko
恋愛
リリーベルの婚約者は誰にでも優しいオーラン・ドートル侯爵令息様。 でもそんな優しい婚約者がたった一人に対してだけ何故か冷たい。 冷たくされてるのはアリー・メーキリー侯爵令嬢。 彼の幼馴染だ。 そんなある日。偶然アリー様がこらえきれない涙を流すのを見てしまった。見つめる先には婚約者の姿。 私はどうすればいいのだろうか。 全34話(番外編含む) ※他サイトにも投稿しております ※1話〜4話までは文字数多めです 注)感想欄は全話読んでから閲覧ください(汗)

森に捨てられた令嬢、本当の幸せを見つけました。

玖保ひかる
恋愛
[完結] 北の大国ナバランドの貴族、ヴァンダーウォール伯爵家の令嬢アリステルは、継母に冷遇され一人別棟で生活していた。 ある日、継母から仲直りをしたいとお茶会に誘われ、勧められたお茶を口にしたところ意識を失ってしまう。 アリステルが目を覚ましたのは、魔の森と人々が恐れる深い森の中。 森に捨てられてしまったのだ。 南の隣国を目指して歩き出したアリステル。腕利きの冒険者レオンと出会い、新天地での新しい人生を始めるのだが…。 苦難を乗り越えて、愛する人と本当の幸せを見つける物語。 ※小説家になろうで公開した作品を改編した物です。 ※完結しました。

処理中です...