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第4章 夢の実現へ
呑気な妃①
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【SIDE マックス】
王太子妃の執務室では、最近同じ光景が、僕の目に飛び込んでくる。
「フレデリック様ってば酷い。化粧が嫌いだって言っているくせに、化粧をした方が良いって、意味が分からないから!」
喧嘩? いや、じゃれているだけか。
「アリーチェの素顔は、他の男に見せたくないんだ。アリーチェに惹きつけられて、変な男が寄ってくるだろう。現に、一番厄介な男がいつもアリーチェの傍にいるんだ」
なぜ、僕を見た?
むしろ僕は、素顔の姉をよく知っているし、気がつけば、姉が絶世の美女になっていた、だけだ。
あの奇妙な化粧の姉を見て、可愛いいと思うのは僕だけだろう。
……そう言えば、この王太子も、姉が城へ戻ったあの日まで、素顔は見ていなかったのか。
「変な男が寄ってきたら、ちゃんと追っ払いますし、マックスは姉がいないと寂しくなる、甘えん坊なだけなんです。フレデリック様だって、寂しくなるときだってあるでしょう?」
「寂しいから、今、こうしてアリーチェに会いにきてる」
「きゃー、嬉しいっ! わたしも会いたいから、いつも来てくださいね。だけど、いくらフレデリック様がお願いしても、侍女から止められたし、フレンツ王国に行くときは、化粧はしません」
皇太子の膝の上に座っている妃が、呑気に王太子を見つめている。
ここで止めなければ間違いなく、皇太子が、妃と守れない約束の回避に、キスを始めるだろう。
結局、王太子がキスしたいだけだ、そうはさせるか。
「僕は、バカップルのイチャイチャを、いつまで見ていればいいんですか? って言うか、ここは姉上の執務室なんですよ。王太子の部屋は隣でしょう。さっさと戻ってご自分の仕事をしてください」
「私の仕事は終わったから、ここにいるんだ。今日は、視察がないから、この後もずっとアリーチェといられる。何だったらマックスは、もう仕事を終えたらどうだ? お前には、私とアリーチェを2人きりにする気遣いはないのか?」
「何を寝ぼけた事言っているんですか! そもそも姉上は、公務を始めてもいないんですよ。フレデリック王太子の我が儘で、姉上の執務室を移しておいて、ふざけるのもいい加減にしてください! 姉上は、資料庫から一番近い部屋を使っていたのに、こんな遠くにされて、本当に迷惑しているんです。この重たい資料を、僕が何往復して運んでるか分かってますか!」
「マックスが大変なら、わたしがマックスと資料庫に行って、そこで見ればいいんじゃない。1度目をとおせば、覚えられるし」
「おっ、それは名案ですね。姉上と2人きりで資料庫に籠れるなら、僕の他の仕事は違う人間に任せて何時間でもいられるようにします。行きましょう」
「おいっ! アリーチェとマックスを2人きりにする訳ないだろう。文句を言うなら、アリーチェに元々付いてた事務官に戻せばいいだろう。それと、アリーチェはマックスに優し過ぎだ。弟が調子に乗るから止めておけ」
「王太子は馬鹿ですか! トミー事務官が重い資料を持って、こんな遠くまで来られるはずがないでしょう。彼に任せていたら、それだけで1日はかかりますっ! 姉上は、いい加減夢から覚めたでしょう。今まで知らなかっただけで、フレデリック王太子はこんなに我儘なんですよ」
「あ~もう! ファウラーはどこに行ったのっ! 3人でいると、どうして2人は喧嘩ばっかりしているの? 訳が分からない」
「マックスは、甘えん坊など可愛いものではないからだ! それに、ファウラーは、暇をやると言ったら、アリーチェの部屋に花を飾ると言って、ラッセル侯爵家の庭まで採りに行った。全く、私の側近が、ワーグナー公爵家の姉弟のしもべのようになっているのは、何なんだ」
「ファウラーにとって、僕たちは恩人なので」
ファウラーは、姉を女神と呼んで慕っている。
害がないならむしろ、王太子がいないときに姉を気にしてくれて、丁度いいからな。
ミカエル殿下は、王太子を心底嫌っている。
前王妃が王位継承権を出生順ではなく素質と言い出し、王族条例を改正した。
幼い頃から、秀でていた第1王子が既にいるにもかかわらず強引な変更に、当時は相当な混乱状態だった。
前王妃の我儘で、相当冷ややかな目で見られたのは、当の第2王子だからな。
ミカエル殿下は、何でも卒なくこなす兄と幼い頃から比べられ、貶されて育ってきた。
兄が当たり前に何でもこなす。
その兄がいるせいで、凡人に出来る訳がないことを周囲から求められ、第2王子は第1王子を相当に恨んでいる。
第2王子がなまじ、人の心を掴むのが上手いおかげで、のらりくらりと過ごしているが、何だかんだと、上手いことやっている。
貴族議会中、鋭い視線を姉に向けていたミカエル殿下。
くだらない兄弟喧嘩に、僕の姉を巻き込んだら、絶対に許さない。
王太子妃の執務室では、最近同じ光景が、僕の目に飛び込んでくる。
「フレデリック様ってば酷い。化粧が嫌いだって言っているくせに、化粧をした方が良いって、意味が分からないから!」
喧嘩? いや、じゃれているだけか。
「アリーチェの素顔は、他の男に見せたくないんだ。アリーチェに惹きつけられて、変な男が寄ってくるだろう。現に、一番厄介な男がいつもアリーチェの傍にいるんだ」
なぜ、僕を見た?
むしろ僕は、素顔の姉をよく知っているし、気がつけば、姉が絶世の美女になっていた、だけだ。
あの奇妙な化粧の姉を見て、可愛いいと思うのは僕だけだろう。
……そう言えば、この王太子も、姉が城へ戻ったあの日まで、素顔は見ていなかったのか。
「変な男が寄ってきたら、ちゃんと追っ払いますし、マックスは姉がいないと寂しくなる、甘えん坊なだけなんです。フレデリック様だって、寂しくなるときだってあるでしょう?」
「寂しいから、今、こうしてアリーチェに会いにきてる」
「きゃー、嬉しいっ! わたしも会いたいから、いつも来てくださいね。だけど、いくらフレデリック様がお願いしても、侍女から止められたし、フレンツ王国に行くときは、化粧はしません」
皇太子の膝の上に座っている妃が、呑気に王太子を見つめている。
ここで止めなければ間違いなく、皇太子が、妃と守れない約束の回避に、キスを始めるだろう。
結局、王太子がキスしたいだけだ、そうはさせるか。
「僕は、バカップルのイチャイチャを、いつまで見ていればいいんですか? って言うか、ここは姉上の執務室なんですよ。王太子の部屋は隣でしょう。さっさと戻ってご自分の仕事をしてください」
「私の仕事は終わったから、ここにいるんだ。今日は、視察がないから、この後もずっとアリーチェといられる。何だったらマックスは、もう仕事を終えたらどうだ? お前には、私とアリーチェを2人きりにする気遣いはないのか?」
「何を寝ぼけた事言っているんですか! そもそも姉上は、公務を始めてもいないんですよ。フレデリック王太子の我が儘で、姉上の執務室を移しておいて、ふざけるのもいい加減にしてください! 姉上は、資料庫から一番近い部屋を使っていたのに、こんな遠くにされて、本当に迷惑しているんです。この重たい資料を、僕が何往復して運んでるか分かってますか!」
「マックスが大変なら、わたしがマックスと資料庫に行って、そこで見ればいいんじゃない。1度目をとおせば、覚えられるし」
「おっ、それは名案ですね。姉上と2人きりで資料庫に籠れるなら、僕の他の仕事は違う人間に任せて何時間でもいられるようにします。行きましょう」
「おいっ! アリーチェとマックスを2人きりにする訳ないだろう。文句を言うなら、アリーチェに元々付いてた事務官に戻せばいいだろう。それと、アリーチェはマックスに優し過ぎだ。弟が調子に乗るから止めておけ」
「王太子は馬鹿ですか! トミー事務官が重い資料を持って、こんな遠くまで来られるはずがないでしょう。彼に任せていたら、それだけで1日はかかりますっ! 姉上は、いい加減夢から覚めたでしょう。今まで知らなかっただけで、フレデリック王太子はこんなに我儘なんですよ」
「あ~もう! ファウラーはどこに行ったのっ! 3人でいると、どうして2人は喧嘩ばっかりしているの? 訳が分からない」
「マックスは、甘えん坊など可愛いものではないからだ! それに、ファウラーは、暇をやると言ったら、アリーチェの部屋に花を飾ると言って、ラッセル侯爵家の庭まで採りに行った。全く、私の側近が、ワーグナー公爵家の姉弟のしもべのようになっているのは、何なんだ」
「ファウラーにとって、僕たちは恩人なので」
ファウラーは、姉を女神と呼んで慕っている。
害がないならむしろ、王太子がいないときに姉を気にしてくれて、丁度いいからな。
ミカエル殿下は、王太子を心底嫌っている。
前王妃が王位継承権を出生順ではなく素質と言い出し、王族条例を改正した。
幼い頃から、秀でていた第1王子が既にいるにもかかわらず強引な変更に、当時は相当な混乱状態だった。
前王妃の我儘で、相当冷ややかな目で見られたのは、当の第2王子だからな。
ミカエル殿下は、何でも卒なくこなす兄と幼い頃から比べられ、貶されて育ってきた。
兄が当たり前に何でもこなす。
その兄がいるせいで、凡人に出来る訳がないことを周囲から求められ、第2王子は第1王子を相当に恨んでいる。
第2王子がなまじ、人の心を掴むのが上手いおかげで、のらりくらりと過ごしているが、何だかんだと、上手いことやっている。
貴族議会中、鋭い視線を姉に向けていたミカエル殿下。
くだらない兄弟喧嘩に、僕の姉を巻き込んだら、絶対に許さない。
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