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第3章 貴女をずっと欲していた

運命の赤い糸⑨

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【SIDE フレデリック第1王子】

 妃の部屋で、アリーチェをどうやって攫うかを考えているときだった。
 突然部屋に入ってきた見たことのない、美しい姫が、私目掛けて駆け寄ってきた。

 ミカエルのせいで、この居住区で何度も同じ光景を経験しているが、今までの女性とは違う。

 アリーチェだ!
 彼女の姿が変われば、彼女に気付かないと悩んでいたが、なんの心配もいらなかった。
 声も名前も聞かずとも、私には直ぐに彼女だと分かった。

 例え、ここが妃の部屋でなくても、彼女が近くにいれば、気付ける。
 彼女と結ばれるために、神が湖の畔で出会う奇跡を私に与えてくれたのだろう。

「ベッドはこっちです」と、凄い勢いで私をベッドに押し倒すアリーチェ。
 私が彼女の行動に、呆気にとられているうちに、あっと言う間に上着を引き剥がされた。
 妻との感動の再会の前に、何がどうなっている?

 アリーチェが私のベルトに手を伸ばしたとき、流石に慌てて彼女を止めた。
 まさか、情けなく私が踏み出せずにいたら、妃を初めて抱くのに、妻から服を剥ぎ取られたと、恥ずかしくて誰にも言えない。
 
 それにしても、私が怪我をしたって……。
 マックスが、アリーチェに私の話を大袈裟に聞かせるとは、どんな心境の変化だ。

「フレデリック様が好きだから」
 何年も、アリーチェのことを放っておいた私のことを、まさか……。
 アリーチェが私を好きだと言ってくれた。
 それが嬉しくて、体に衝撃が走った。
 もう、絶対に離さない。
 彼女をしっかりと抱きしめた。
 初めて抱き寄せたアリーチェは、華奢過ぎて私の力で壊れてしまうのではないかと怖かった。

 私を夢中になって心配してくれてたのだろう。
 アリーチェは、私の服を無理やり脱がしたことに気が付いて、真っ赤になっている。……可愛い。
 彼女のわがままであれば、どんなことでも叶えてあげたい。

 アリーチェとの口づけ。
 彼女しか知らない彼女の口腔内を、私のものにしたくて、深く求めていくのを止められなかった。

 私が彼女に溺れる気がしていたのは、間違いではなかった。
 彼女と舌を絡ませ、まるで媚薬のような彼女の唾液を啜れば理性は掻き消された。

 感じている彼女の声が、耳に心地よかった。なのに。
「フレデリック様、なんか変な声が出て、恥ずかしいから触れないでください」
 と、真顔で言うアリーチェに思わず笑ってしまった。

「それを言うなら、踏み出せずにいたら妻に襲われた、私の方がよっぽど恥ずかしい。絶対に秘密にして欲しい」
 アリーチェには、自分が感じた気持ちを隠したくない。
 見栄など捨てて格好悪い自分も、全部さらけ出したかった。

「それは、わたしが……。2人だけの秘密です」
「アリーチェの可愛い声は、私以外は聞いてない。素直に感じて、もっと聞かせて」
 本当にそう思っている。

 肌と肌が触れ、伝わるアリーチェの体温。
 彼女の全身を愛でれば、お互いの体温が次第に馴染み合っていく。
 初めて妻と1つになる。
 もう、2度と会えないと思っていたアリーチェが腕の中にいてる。そして、子どもの頃から、この日を待っていた私は感激で既に泣きそうだった。
 だけど。

 ポロポロと涙をこぼすアリーチェに、私は動揺した。
「アリーチェ……」
「あの講師から、痛いなんて聞いてないです。怖いから、ちゃんと質問したのに、すっかり騙されました。もう無理です、これ以上は止めましょう」
 その言葉に、堪えていた涙が止まらなかった。
 アリーチェは、本当に何も知らないから、あの閨教育を真剣に聞いていた、それは私との為に。
 その気持ちがたまらなく嬉しかった。

「大丈夫、無理はしないから力を抜いて。アリーチェ、愛してる」
 今まで関りを拒否してきた私のことさえ、安心しきって、ただ素直に私の言葉に従うアリーチェ。
 腕の中のアリーチェが、まるで子どものように純粋で、可愛くて仕方ない。

 私のことを怒っていないと言う、優し過ぎる彼女に甘えそうになったが、それでは、私の気が済まない。
 なのに、謝罪の時間も十分に与えて貰えなかった。
 彼女を知れば堪らなく可愛くて、少しの間も離れたくない。
 アリーチェへの独占欲が大きく膨らみ、こんな情けない人間だったのかと驚いた。

 格好のつかない噂が流れようと、もうどうでもいい。
 誰に何を思われようと、私の目の届く所にアリーチェがいなければ、私は生きていけない。
 一度知った彼女の可愛い声を、もっと聴きたいし、喜ばせてあげたい。
 こんな気持ちになる自分がいて嬉しくなった。
 本当に馬鹿だな、私は……。
 何年も前から、この可愛いアリーチェを手にしていたのに、今になって初めて知るとは。
 それどころか、危なくアリーチェを失うところだった。
 

 私を守ると言い出すアリーチェが、危なっかしくて仕方ない。どうして大人しくしていてくれないのか……。

 マックス……。とっくに姉を自分のものに出来たのに、それをしなかったのか。
 毎晩自分の腕の中にアリーチェがいて何もしない……、無理だ、私には想像もつかない。
 全く擦れることなく、アリーチェが大人になったのは、あいつが何かしていたのか。

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