【完結】ヒロインになれなかった妃の 赤い糸~突然、愛してるなんて言われて、溺愛されるのは、聞いてない!~

瑞貴◆後悔してる/手違いの妻2巻発売!

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第3章 貴女をずっと欲していた

運命の赤い糸①

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【SIDE 弟マックス】

 僕が姉に気持ちを伝えてから1週間。
 姉上の態度はこれまでと変わらず、まるで何もなかったように過ごしている。
 姉が変わったことと言えば、朝に眠り姫だと言わなくなり、暇でもフィナンシエを焼かなくなったことくらいだ。

 僕が姉のベッドで関係を求めたら、おそらく姉は体を許してくれるだろう。
 絆され易い姉は、何度も優しく僕に抱かれれば、僕が弟だということも次第に薄れていく確信がある。
 父が戻り、2人の関係を話したところで反対などされない。
 僕たちがいなければ、この家は後継者を失うし、その辺の奴らに、この家の仕事が出来る訳もないのが現実だ。
 父は結果的に僕と姉の関係を認めるしかない。

 僕が躊躇うものは、もう、何もないはずだった。
 なのに、フレデリック殿下からは毎日、信じられない数の手紙が届いている。
 姉と自分の公務をこなしながら、この量の手紙を書く時間がどこにあるのかと、驚くのもそうだが、何よりその執念が恐ろしい。

 いい加減に諦めてくれたら、僕はとっくに姉を抱いていた。
 なのに、僕の心を乱すような殿下の姿。
 殿下に姉の公務を手伝わないと言った手前、僕からは手出しも出来ないが、助けも求めて来ない。
 その上、殿下は厨房で何かを始めた。
 一体何なんだ。

 奇怪な行動は姉だけだと思っていたが、殿下も大概ネジが外れている。

 そういえば、婚約が決まった頃の姉は、フレデリック殿下へ、まるで本のような恋文を送っていた記憶がある。
 フレデリック殿下はあの手紙、いや本を読んでいたのだろうか。

 姉が何かを思いついて、楽しそうに始めるのは嫌いじゃない。僕が目を光らせておけば、危険は避けられるから。
 その姉が、妃のために支給されていた公金を使い、今は何かを始めている。
 妄想の塊の姉に、金を持たせると碌なことを考えないだろうし、大抵が普通ではない。
 僕は、僕の思考の範囲を超える姉に、金を持たせのは避けてきた。

 姉の売買契約書を見ると、大きな屋敷を買ったようだ。
 僕から逃げるつもりなら、もう少し上手くやれる姉だ。
 姉の目的は違うだろう。
 だが、そのことを何も言ってこない。
 姉が何を企んでいるのか、分からない……。

「今日は何して過ごそうかしら。昨日はね、野良にゃんこが我が家の庭に遊びに来てくれたのよ。可愛かったから、いっぱいモフモフさせてもらったの。今日も来ないかな~。出来ればお友達も連れてきて欲しいわね、そうしたら、たくさん遊べるのに。仕事は直ぐに終わって暇なのよね~」

 あの猫が飼い猫だと知ったら、姉は間違いなく、猫と寝始めるだろう。
 僕の居場所が、猫に奪われるのは嫌だから、この先も姉には知らせるつもりはない。

「だから、猫は触ったら駄目だと言っているでしょう。引っかかれますよ」
「大丈夫。王子様かもしれないもの」
 いや、もしそうだとしたら、もっと危険だろう。
 阿保な妄想をシレッと話している姉は、至って楽しそうで、すっかり昔に戻ったようだ。
 

「姉上の行きたがってた舞台、まだやってますよね。城の仕事を片付けたら、直ぐに帰ってきます。午後からの観劇でよければ行きませんか?」
「本当! 行く、行くわ。だってそれ、侍女から聞いて面白そうだったの。2人の恋に胸がキュンッてなるらしいわよ。どうしよう、何着て行こうかな~。ねえ、帰りに本屋も寄りましょう」
「いいですよ」

 喜んでる姉は、姉の大好きなバジルの入ったポテトサラダを、嬉しそうに僕に食べさせてくる。
 姉が、朝食の最後に食べるために避けていたくせに、本当に馬鹿だな。
 僕が嬉しそうな顔を姉にすれば、美しい姉はニコニコと満足そうにしている。
 大丈夫だ、姉は僕を受け入れている。

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