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第2章 届かない想い
妃のクッキー②
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【SIDE フレデリック第1王子】
「フレデリック様~。わたしお手製のクッキーですよ。きっと美味しいから食べてくださいね」
アリーチェは、料理長が言ったとおり、本当に菓子を持ってきた。
信じられない、どうしてここへアリーチェが……。
私は自分の執務室をアリーチェに伝えていない。それに、周囲の者には口止めを指示した。だとすれば伝えたのはマックスか……。
私の執務室にある、ファウラーの机から毒が発見された。
私がいるときに、入室を許可する人物さえ限られている。
それに、この部屋の鍵の番号を知っている人間は、ごくわずか。
今、アリーチェの横にいるマックス…………。
アリーチェのクッキー。取り敢えず受け取るが食べる気はないし、何か入っていたとしても、それを明らかにすべきではないだろう。ここで動けばワインの二の舞いを演じることになる。
掌に乗る小さな緑色の箱。わざわざピンクのリボンが巻かれているが、あらかじめコレも用意していたわけか……。
「アリーチェはクッキーが作れるのか? そうは見えなかったけど、意外な特技もあるんだな」
「そうでしょう、何回も練習に練習を重ねましたから。それと、今日はフレデリック様の肖像画も持ってきたんです。以前描いたときに、王室には飾れないって聞いて、大事にとっておいたんです。だけど飾れることが分かったから持ってきました」
「姉上っ! その絵っ! まだ捨てていなかったんですか!」
「マックスは失礼ね。フレデリック様の似顔絵を捨てる訳ないでしょう」
これが、私の似顔絵だと言うのか……、こっ怖い。
この絵を見れば、何かに呪われるような恐怖を感じるな……、相変わらず信じられない感性だ。
「アリーチェには、私はこんな風に見えているのか?」
「ふふっ、眩し過ぎる金髪と綺麗な緑の瞳が上手に描けてるでしょう。わたしは、これを見ていると、むふぅ~って、なるんです。神々しいでしょ、キャッ! 良かったら飾ってくださいね。あと、昨日読んだ本のお話をフレデリック様にお聞かせしましょうか?」
「いや、今日は視察で遠くへ行くから、朝は時間がないんだ。また今度」
その場しのぎで、また今度と軽率なことを言ってしまった。
本音では、また今度はないのに。
「そうですか、気を付けて行ってきてください。じゃあ、また明日」
アリーチェは、元気に手を振って出ていった。
明日、また来るのか…………。
「なあマックス、むふぅ~って、何だ? 凡そ、アリーチェの会話の意味が分からない」
「可愛いでしょう、アリーチェ妃殿下って」
不敵な笑みを浮かべるマックスの言葉も、理解できない。
「かわいいって、マックスお前、第1王子の妃がアレでは問題しかないだろう。わざわざ私の元へ送り込んできても、使い者にならないだろう」
「あー姉上は、屋敷の者としか雑談や日常会話をしたことがないので、語彙が破綻しているんです。業務上の会話は問題ないのですが、……姉上を溺愛する家族が甘やかした結果、ああなってしまって。アリーチェ妃に付いている事務官に、それは見てもらっているので、そのうち良くなるでしょう。ちなみに、むふぅ~は幸せを意味しています」
アリーチェの事務官……。
マックスが事務官の人事権を持っていることも問題だ。
早急に、やつの企みを暴かなければ、この国が侵略されてしまう。
私にとっても、やつが私の目の届く所にいる方が、むしろ都合が良い。
何か動き出せば、早急に対策が取れるだろうし、しばらく様子を見るか。
「この絵はどうしたらいい? 捨てたら呪われそうだ。この部屋に飾るか?」
わたしを描いたと言ったが、全くそのようには見えないぞ。以前貰ったハンカチも猫の虐殺ではないのか?
「いや、飾っても呪われそうです。殺風景なファウラーの幽閉部屋に持っていきましょう。ある意味刺激的で丁度いいかもしれません」
つくづくあいつは、アリーチェの呪いに縁がある。
「フレデリック様~。わたしお手製のクッキーですよ。きっと美味しいから食べてくださいね」
アリーチェは、料理長が言ったとおり、本当に菓子を持ってきた。
信じられない、どうしてここへアリーチェが……。
私は自分の執務室をアリーチェに伝えていない。それに、周囲の者には口止めを指示した。だとすれば伝えたのはマックスか……。
私の執務室にある、ファウラーの机から毒が発見された。
私がいるときに、入室を許可する人物さえ限られている。
それに、この部屋の鍵の番号を知っている人間は、ごくわずか。
今、アリーチェの横にいるマックス…………。
アリーチェのクッキー。取り敢えず受け取るが食べる気はないし、何か入っていたとしても、それを明らかにすべきではないだろう。ここで動けばワインの二の舞いを演じることになる。
掌に乗る小さな緑色の箱。わざわざピンクのリボンが巻かれているが、あらかじめコレも用意していたわけか……。
「アリーチェはクッキーが作れるのか? そうは見えなかったけど、意外な特技もあるんだな」
「そうでしょう、何回も練習に練習を重ねましたから。それと、今日はフレデリック様の肖像画も持ってきたんです。以前描いたときに、王室には飾れないって聞いて、大事にとっておいたんです。だけど飾れることが分かったから持ってきました」
「姉上っ! その絵っ! まだ捨てていなかったんですか!」
「マックスは失礼ね。フレデリック様の似顔絵を捨てる訳ないでしょう」
これが、私の似顔絵だと言うのか……、こっ怖い。
この絵を見れば、何かに呪われるような恐怖を感じるな……、相変わらず信じられない感性だ。
「アリーチェには、私はこんな風に見えているのか?」
「ふふっ、眩し過ぎる金髪と綺麗な緑の瞳が上手に描けてるでしょう。わたしは、これを見ていると、むふぅ~って、なるんです。神々しいでしょ、キャッ! 良かったら飾ってくださいね。あと、昨日読んだ本のお話をフレデリック様にお聞かせしましょうか?」
「いや、今日は視察で遠くへ行くから、朝は時間がないんだ。また今度」
その場しのぎで、また今度と軽率なことを言ってしまった。
本音では、また今度はないのに。
「そうですか、気を付けて行ってきてください。じゃあ、また明日」
アリーチェは、元気に手を振って出ていった。
明日、また来るのか…………。
「なあマックス、むふぅ~って、何だ? 凡そ、アリーチェの会話の意味が分からない」
「可愛いでしょう、アリーチェ妃殿下って」
不敵な笑みを浮かべるマックスの言葉も、理解できない。
「かわいいって、マックスお前、第1王子の妃がアレでは問題しかないだろう。わざわざ私の元へ送り込んできても、使い者にならないだろう」
「あー姉上は、屋敷の者としか雑談や日常会話をしたことがないので、語彙が破綻しているんです。業務上の会話は問題ないのですが、……姉上を溺愛する家族が甘やかした結果、ああなってしまって。アリーチェ妃に付いている事務官に、それは見てもらっているので、そのうち良くなるでしょう。ちなみに、むふぅ~は幸せを意味しています」
アリーチェの事務官……。
マックスが事務官の人事権を持っていることも問題だ。
早急に、やつの企みを暴かなければ、この国が侵略されてしまう。
私にとっても、やつが私の目の届く所にいる方が、むしろ都合が良い。
何か動き出せば、早急に対策が取れるだろうし、しばらく様子を見るか。
「この絵はどうしたらいい? 捨てたら呪われそうだ。この部屋に飾るか?」
わたしを描いたと言ったが、全くそのようには見えないぞ。以前貰ったハンカチも猫の虐殺ではないのか?
「いや、飾っても呪われそうです。殺風景なファウラーの幽閉部屋に持っていきましょう。ある意味刺激的で丁度いいかもしれません」
つくづくあいつは、アリーチェの呪いに縁がある。
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