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第2章 届かない想い
独りぼっちの初夜
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妃教育が終わり半年後、予定通りに開かれた結婚式。
わたしのわがままで、10段のウェディングケーキもちゃんと用意してもらった。まさに、本に書かれていたとおりの、憧れの1日になった。
純白のウェディングドレスを身に纏い、神殿でフレデリック様と永遠の愛を誓った。
この国には、まだまだ改善すべき問題があり、わたし達なら、できないことはないから、彼と一緒に変えていけると信じている。
初めて会ったのが6歳のとき。
今日の結婚式を迎えるまで16年もの月日が経った。
感動と喜びが溢れ出して、式の最中は、ずっとフレデリック様を見つめてしまった。
夫婦になる日を、長く待った気もするけど、これからの人生を考えると全く問題はない。
各国の要人たちとの会話も、フレデリック様が卒なくわたしを紹介してくれた。わたしは、その横で彼らの会話を聞いているだけで良かった。
弟のマックスであれば、面倒な取引は直ぐに、わたしへ押し付けていたんだもの、頼れる姿が大違いだった。
披露宴も終わり、侍女たちに夜の着替えをしてもらった。
そうなれば、自然に気持ちはフレデリック様との初夜のことだけだ。
緊張もするけど、早く来てくれないかと待ち遠しい複雑な気持ち。
他の令嬢達は、夫をどんな顔で迎え入れるのか、実は式の最中から悩みっぱなしだった。
とびきりの笑顔で、ってのは、ちょっと違う気もするし、無表情も論外。
この辺りも講師の先生に質問しておけば良かったと、少し自信がなくなった。
ううん、でも、大丈夫な気がする。
閨よりもフレデリック様に会いたい気持ちの方が大きい。だから、きっと、普通に会えたら嬉しい顔になる。
ただ会いたい、普通にそんな気持ちでいっぱいだから。
真っ暗だった空が、少しずつ明るくなり始めた。それと同時に、陽に照らされるワーグナー公爵家の屋敷が見えてきた。
ここから1番近くに見える大きな屋敷。それが、わたしの生家だ。
窓から美しい朝日が差し込み、辺りを眩しく照らしている。
この部屋から見渡す景色は、なんて綺麗なんだろう。
ワーグナー家のみんなは、どうしているかな……。
そんな呑気なことを考えて、自分の気持ちを誤魔化した。
屋敷の家族や従者達より、多分、今一番考えなくてはいけないのは、わたし自身のことだと分かっている。
初夜だと浮かれて待っていたら、1人で朝日を眺めているんだから。
フレデリック様は疲れて眠ってしまった。
取り敢えず今は、そういうことにすべきだ。
気落ちしたわたしが、余計なことを考えて、さらに落ち込む前に、そう言い聞かせた。
例えそれが間違っていても。
事実を捻じ曲げてでも、それを信じろと心が警告している。
わたしよりも、フレデリック様は、近隣国の王族との挨拶やらで大変そうだった、それで間違いない。
こんなことなら、わたしも寝てしまえば良かったのに……。
化粧はしなくてもいいか、と思ったけど酷い隈だ。
こんな顔では嗜み程度の化粧で誤魔化せる気がしない。
****
結婚してから10日が経っても、この部屋へ来るのは侍女とメイドだけだ。
わたしだって、この意味は理解している。
各国の権力者とも交渉してきた自分は、そこまで能天気な性格ではないのだから。
わたしの私室どころか、城に来てから一度もフレデリック様と顔を合わせていない。
同じ屋根の下で暮らし始めたはずなのに、ワーグナー公爵家の屋敷で暮らしていたときよりも、フレデリック様が遠くにいる気がする。
わたしが少しだけ誇れる特技は状況を見通す勘の良さ。
そんな自分が、はっきりと感じている。
この結婚は、既に終わりに向かっていて長くは持たない。
仕事の取引であれば、すべきことはすぐに弾き出せる。
でもこれは、自分の人生で運命だから。
みっともないことをするより、逃げ出す方が賢明かもしれない。そっちの方が楽に決まっている。
だけど、簡単に諦められるわけがない。それぐらい、ずっと、彼のことが好きだから。
まだ、やれることは残っているから、もう少しだけ、足掻きたい。
わたしのわがままで、10段のウェディングケーキもちゃんと用意してもらった。まさに、本に書かれていたとおりの、憧れの1日になった。
純白のウェディングドレスを身に纏い、神殿でフレデリック様と永遠の愛を誓った。
この国には、まだまだ改善すべき問題があり、わたし達なら、できないことはないから、彼と一緒に変えていけると信じている。
初めて会ったのが6歳のとき。
今日の結婚式を迎えるまで16年もの月日が経った。
感動と喜びが溢れ出して、式の最中は、ずっとフレデリック様を見つめてしまった。
夫婦になる日を、長く待った気もするけど、これからの人生を考えると全く問題はない。
各国の要人たちとの会話も、フレデリック様が卒なくわたしを紹介してくれた。わたしは、その横で彼らの会話を聞いているだけで良かった。
弟のマックスであれば、面倒な取引は直ぐに、わたしへ押し付けていたんだもの、頼れる姿が大違いだった。
披露宴も終わり、侍女たちに夜の着替えをしてもらった。
そうなれば、自然に気持ちはフレデリック様との初夜のことだけだ。
緊張もするけど、早く来てくれないかと待ち遠しい複雑な気持ち。
他の令嬢達は、夫をどんな顔で迎え入れるのか、実は式の最中から悩みっぱなしだった。
とびきりの笑顔で、ってのは、ちょっと違う気もするし、無表情も論外。
この辺りも講師の先生に質問しておけば良かったと、少し自信がなくなった。
ううん、でも、大丈夫な気がする。
閨よりもフレデリック様に会いたい気持ちの方が大きい。だから、きっと、普通に会えたら嬉しい顔になる。
ただ会いたい、普通にそんな気持ちでいっぱいだから。
真っ暗だった空が、少しずつ明るくなり始めた。それと同時に、陽に照らされるワーグナー公爵家の屋敷が見えてきた。
ここから1番近くに見える大きな屋敷。それが、わたしの生家だ。
窓から美しい朝日が差し込み、辺りを眩しく照らしている。
この部屋から見渡す景色は、なんて綺麗なんだろう。
ワーグナー家のみんなは、どうしているかな……。
そんな呑気なことを考えて、自分の気持ちを誤魔化した。
屋敷の家族や従者達より、多分、今一番考えなくてはいけないのは、わたし自身のことだと分かっている。
初夜だと浮かれて待っていたら、1人で朝日を眺めているんだから。
フレデリック様は疲れて眠ってしまった。
取り敢えず今は、そういうことにすべきだ。
気落ちしたわたしが、余計なことを考えて、さらに落ち込む前に、そう言い聞かせた。
例えそれが間違っていても。
事実を捻じ曲げてでも、それを信じろと心が警告している。
わたしよりも、フレデリック様は、近隣国の王族との挨拶やらで大変そうだった、それで間違いない。
こんなことなら、わたしも寝てしまえば良かったのに……。
化粧はしなくてもいいか、と思ったけど酷い隈だ。
こんな顔では嗜み程度の化粧で誤魔化せる気がしない。
****
結婚してから10日が経っても、この部屋へ来るのは侍女とメイドだけだ。
わたしだって、この意味は理解している。
各国の権力者とも交渉してきた自分は、そこまで能天気な性格ではないのだから。
わたしの私室どころか、城に来てから一度もフレデリック様と顔を合わせていない。
同じ屋根の下で暮らし始めたはずなのに、ワーグナー公爵家の屋敷で暮らしていたときよりも、フレデリック様が遠くにいる気がする。
わたしが少しだけ誇れる特技は状況を見通す勘の良さ。
そんな自分が、はっきりと感じている。
この結婚は、既に終わりに向かっていて長くは持たない。
仕事の取引であれば、すべきことはすぐに弾き出せる。
でもこれは、自分の人生で運命だから。
みっともないことをするより、逃げ出す方が賢明かもしれない。そっちの方が楽に決まっている。
だけど、簡単に諦められるわけがない。それぐらい、ずっと、彼のことが好きだから。
まだ、やれることは残っているから、もう少しだけ、足掻きたい。
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