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第1章 気が付かない3人の関係
分かっていない②
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【SIDE フレデリック第1王子】
メレディス王国の第1王子である私は、長い間、ある令嬢を探し求めている。
私は、16歳の成人を迎えるのを心待ちにしていた。やっと自由に動けるようになり、「リー」を探せるからだ。
どれほどその日を待ちわびていたことか。
当時7歳だった私と、同じ年頃の少女。
彼女は、自身の身分を明かさなかった。
だけど、伯爵令嬢を相手に1歩も引かず、この国の建国史を暗唱できると言い、威圧だけでわがままな令嬢を追い返していた。
堂々としたその姿や、全く関係ない私のことを心配する優しさ、ちょっとお節介なところも、私の心を掴んで離さなかった。
あの日、リーと交わした全ての会話は、彼女の高い教養が溢れていた。
それに、伯爵令嬢にも怯むことのないリーは、間違いなく伯爵以上の爵位を持つ家柄だろう。
急がなければ、他の貴族と婚約を決めてしまう。
彼女はしきりに、親が結婚相手を決めるから、私との結婚は無理だと言っていた。
私は、あの日身分を明かせず平民だと偽った。
だからリーは、私がこの国の王子だということを知らない。商人の子「リック」だと、今も思っているだろう。
早く見つけ出さなければ、本当に、リーの父親が用意した縁談で、他の男に捕られてしまう。
リーを探し始めるのが遅いことに、唯でさえ焦っていた。
それなのに、一向に見つかる気配のないリー。
ストロベリーブロンドのふわふわの髪に、緑色の瞳。
当時のリーの特徴を、夜会で探し続けたが見つからなかった。
第1王子が19歳になっても、婚約者を決めていないことに、陛下が動き出してしまった。
リーを見つけるまでは、婚約者を据えるわけにはいかない。
私の妃は、7歳の時に既に「リー」と決めたのだから。
こんなことは前例にないが、妃試験を思いついた。
リーを見つけるまでの時間を稼げるのもそうだが、伯爵以上の令嬢を集めることで、それにリーが来るかもしれないと期待した。
容姿で該当する人物はいなかった。
悔しいが、この妃試験には、リーは来なかったのか。
いずれにしても、結果的には1人の婚約者候補を決めなければ、これに集まった令嬢達への体裁が立たない。
いや、誰も通過できない試験にすれば、1人も残らないはずだ。
「私の妃試験の様子はどうだ? 今日はフレンツ語だろう」
「お1人を除いては、大変熱心に講義を受けていらっしゃいますよ」
試験を監督している側近のファウラーが、そう言いながら、困った顔をしている。
初日にして講義に付いていけない令嬢がいるのかと、こ令嬢の質の悪さに、がっかりした。
まだ講義の内容は、基礎もいいところなのだから、初日くらい、やる気を出してもらいたいのが本音だ。
「講義に付いていけないのは、どこの令嬢だ?」
「ワーグナー家のアリーチェ公爵令嬢です」
「意外だな。あの逸材揃いの公爵家の令嬢が」
「話も聞かずにウロウロしてたかと思えば、退屈だからと、フレデリック様に山のような手紙を書いていました。僕や教師が注意しても、全く聞く耳なしでしたね」
「もしかして、今、ここにある手紙は講義も受けずに書いていたのか? まるで本のような厚さがあるぞ…………」
目の前にある手紙の量を凝視すれば、ぞわっと、全身に悪寒が走った。
……普通じゃない。
会わなくても分かる。
ワーグナー公爵家の令嬢は常軌を逸している。
ましてや、妃試験に参加して講師の話も聞かないのは、容認できない。
様子を見にいくか。
メレディス王国の第1王子である私は、長い間、ある令嬢を探し求めている。
私は、16歳の成人を迎えるのを心待ちにしていた。やっと自由に動けるようになり、「リー」を探せるからだ。
どれほどその日を待ちわびていたことか。
当時7歳だった私と、同じ年頃の少女。
彼女は、自身の身分を明かさなかった。
だけど、伯爵令嬢を相手に1歩も引かず、この国の建国史を暗唱できると言い、威圧だけでわがままな令嬢を追い返していた。
堂々としたその姿や、全く関係ない私のことを心配する優しさ、ちょっとお節介なところも、私の心を掴んで離さなかった。
あの日、リーと交わした全ての会話は、彼女の高い教養が溢れていた。
それに、伯爵令嬢にも怯むことのないリーは、間違いなく伯爵以上の爵位を持つ家柄だろう。
急がなければ、他の貴族と婚約を決めてしまう。
彼女はしきりに、親が結婚相手を決めるから、私との結婚は無理だと言っていた。
私は、あの日身分を明かせず平民だと偽った。
だからリーは、私がこの国の王子だということを知らない。商人の子「リック」だと、今も思っているだろう。
早く見つけ出さなければ、本当に、リーの父親が用意した縁談で、他の男に捕られてしまう。
リーを探し始めるのが遅いことに、唯でさえ焦っていた。
それなのに、一向に見つかる気配のないリー。
ストロベリーブロンドのふわふわの髪に、緑色の瞳。
当時のリーの特徴を、夜会で探し続けたが見つからなかった。
第1王子が19歳になっても、婚約者を決めていないことに、陛下が動き出してしまった。
リーを見つけるまでは、婚約者を据えるわけにはいかない。
私の妃は、7歳の時に既に「リー」と決めたのだから。
こんなことは前例にないが、妃試験を思いついた。
リーを見つけるまでの時間を稼げるのもそうだが、伯爵以上の令嬢を集めることで、それにリーが来るかもしれないと期待した。
容姿で該当する人物はいなかった。
悔しいが、この妃試験には、リーは来なかったのか。
いずれにしても、結果的には1人の婚約者候補を決めなければ、これに集まった令嬢達への体裁が立たない。
いや、誰も通過できない試験にすれば、1人も残らないはずだ。
「私の妃試験の様子はどうだ? 今日はフレンツ語だろう」
「お1人を除いては、大変熱心に講義を受けていらっしゃいますよ」
試験を監督している側近のファウラーが、そう言いながら、困った顔をしている。
初日にして講義に付いていけない令嬢がいるのかと、こ令嬢の質の悪さに、がっかりした。
まだ講義の内容は、基礎もいいところなのだから、初日くらい、やる気を出してもらいたいのが本音だ。
「講義に付いていけないのは、どこの令嬢だ?」
「ワーグナー家のアリーチェ公爵令嬢です」
「意外だな。あの逸材揃いの公爵家の令嬢が」
「話も聞かずにウロウロしてたかと思えば、退屈だからと、フレデリック様に山のような手紙を書いていました。僕や教師が注意しても、全く聞く耳なしでしたね」
「もしかして、今、ここにある手紙は講義も受けずに書いていたのか? まるで本のような厚さがあるぞ…………」
目の前にある手紙の量を凝視すれば、ぞわっと、全身に悪寒が走った。
……普通じゃない。
会わなくても分かる。
ワーグナー公爵家の令嬢は常軌を逸している。
ましてや、妃試験に参加して講師の話も聞かないのは、容認できない。
様子を見にいくか。
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