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第1章 気が付かない3人の関係
分かっていない①
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わたしは、これまで目を通していなかった本を別邸で読んでいた。
我が家の事業を開拓するために、有益な情報は何でも知っておくべきで、それが突然、役に立つときもあるから。
てっきり、夕飯を食べて、まだそんなに時間は経っていないと思っていたけど、そうではないのか。
いつものように、マックスがわたしを迎えにきた。
「姉上、今日は一緒に寝ませんか?」
マックスが敢えて口に出して、このお願いをするのは、いつも決まって父と母がいないときだ。
弟は、卒なく我が家の事業をこなしている。
だけど、当主である父がいないと不安になるのは、18歳になっても変わっていない。
次期当主にだって、悩みくらいあるのだろうと、わたしはいつも布団に招き入れている。
だけど最近は、ちょっとだけ心配していることがある。
「いいけど、赤ちゃんできたらどうするの?」
「あっ姉上、もっ、もしかして姉上も僕と――。大丈夫です、そこだけは絶対に守りますから」
「言い切れないわよ。わたしたちが一緒に寝ていたら、神様が、わたし達を夫婦だって勘違いしちゃうかもしれないもの。そうしたら、赤ちゃんが出来るかもしれないから、ちょっと心配だわ」
「姉上…………、2人で布団に入っているだけで、子どもが出来るわけありませんから」
そうは言っても、やっぱりちょっと不安になる。
神様だって、絶対とは限らない。
神様! わたし達は夫婦じゃないので、勘違いしないでくださいね。と、心の中で祈っておいた。
ふふっ、これで大丈夫でしょう。
肩を落として暗い顔のマックス。
弟が落ち込んでいる理由には、心当たりがある。
メルギン公国との取り引きに、トラブルが生じていた。
あの国の言葉は、このメレディス王国の言語とは対極に位置するから、少々難しい。
マックスは、その処理に悩んでいるのだろう。
本当は誰かに任せるべきかと思ったけど、少しでも早い方がいいと判断して、わたしが片付けていた。
わたしは、それをマックスへ伝えていなかったのだ。
部屋に着くまで、何もしゃべらなかったマックスは、相当に悩んでいるようで、早く伝えなかったことに罪悪感を抱いてしまう。
「マックスは暗い顔していないで、こっちに来て布団に入ろう。メルギン公国とのトラブルは、わたしが既に解決済みだから。そんなことを気にしていないで寝るわよ。ほら、寒いからくっつこう」
「いや、別にそのことは気にしてなかったけど、姉上は、いつの間にアレを片付けてたんですか? 今日は仕事してた姿を見てなかったけど」
そう言いながらも、嬉しそうにしているマックスは、布団に入り込んできた。
幼いマックスは、不安になると、ギュッとわたしにしがみ付いていた。
そうすると、安心するように眠っていた可愛い弟。
そろそろどこかの令嬢と婚約すべきなのに、いつまでも子どものままの弟は、踏み出せないでいる。
「姉上が温かくて、姉上の言葉で言うと、むふぅ~って、なります」
昔からこんなときは、可愛い弟の頭を撫でているけど、体だけでいうなら、すっかりマックスの方が大きくなっている。
「ふふっ良かったわね。わたしも、今日はフレデリック殿下に会えなかったから寂しかったの。せっかく殿下の肖像画を描いたから、渡そうと思ったのに」
この部屋に入ってきたときに、マックスは机にあるキャンバスを、怪訝そうな表情で見ていたのを、わたしは見逃していなかった。
「あの気味の悪い絵は、殿下だったんですか? 姉上……、ワーグナー家の名誉のために、あの絵は絶対に渡さないでください。王室は、安全対策で絵を飾っていない……、そう聞いていますから」
「えー、せっかく描いたのに、そうだったの……。知らなかったわ。じゃあ次は何がいいかな」
「殿下のことなんか考えてないで、もう寝ましょう」
「うん。マックスが温かいから、もう眠い……」
我が家の事業を開拓するために、有益な情報は何でも知っておくべきで、それが突然、役に立つときもあるから。
てっきり、夕飯を食べて、まだそんなに時間は経っていないと思っていたけど、そうではないのか。
いつものように、マックスがわたしを迎えにきた。
「姉上、今日は一緒に寝ませんか?」
マックスが敢えて口に出して、このお願いをするのは、いつも決まって父と母がいないときだ。
弟は、卒なく我が家の事業をこなしている。
だけど、当主である父がいないと不安になるのは、18歳になっても変わっていない。
次期当主にだって、悩みくらいあるのだろうと、わたしはいつも布団に招き入れている。
だけど最近は、ちょっとだけ心配していることがある。
「いいけど、赤ちゃんできたらどうするの?」
「あっ姉上、もっ、もしかして姉上も僕と――。大丈夫です、そこだけは絶対に守りますから」
「言い切れないわよ。わたしたちが一緒に寝ていたら、神様が、わたし達を夫婦だって勘違いしちゃうかもしれないもの。そうしたら、赤ちゃんが出来るかもしれないから、ちょっと心配だわ」
「姉上…………、2人で布団に入っているだけで、子どもが出来るわけありませんから」
そうは言っても、やっぱりちょっと不安になる。
神様だって、絶対とは限らない。
神様! わたし達は夫婦じゃないので、勘違いしないでくださいね。と、心の中で祈っておいた。
ふふっ、これで大丈夫でしょう。
肩を落として暗い顔のマックス。
弟が落ち込んでいる理由には、心当たりがある。
メルギン公国との取り引きに、トラブルが生じていた。
あの国の言葉は、このメレディス王国の言語とは対極に位置するから、少々難しい。
マックスは、その処理に悩んでいるのだろう。
本当は誰かに任せるべきかと思ったけど、少しでも早い方がいいと判断して、わたしが片付けていた。
わたしは、それをマックスへ伝えていなかったのだ。
部屋に着くまで、何もしゃべらなかったマックスは、相当に悩んでいるようで、早く伝えなかったことに罪悪感を抱いてしまう。
「マックスは暗い顔していないで、こっちに来て布団に入ろう。メルギン公国とのトラブルは、わたしが既に解決済みだから。そんなことを気にしていないで寝るわよ。ほら、寒いからくっつこう」
「いや、別にそのことは気にしてなかったけど、姉上は、いつの間にアレを片付けてたんですか? 今日は仕事してた姿を見てなかったけど」
そう言いながらも、嬉しそうにしているマックスは、布団に入り込んできた。
幼いマックスは、不安になると、ギュッとわたしにしがみ付いていた。
そうすると、安心するように眠っていた可愛い弟。
そろそろどこかの令嬢と婚約すべきなのに、いつまでも子どものままの弟は、踏み出せないでいる。
「姉上が温かくて、姉上の言葉で言うと、むふぅ~って、なります」
昔からこんなときは、可愛い弟の頭を撫でているけど、体だけでいうなら、すっかりマックスの方が大きくなっている。
「ふふっ良かったわね。わたしも、今日はフレデリック殿下に会えなかったから寂しかったの。せっかく殿下の肖像画を描いたから、渡そうと思ったのに」
この部屋に入ってきたときに、マックスは机にあるキャンバスを、怪訝そうな表情で見ていたのを、わたしは見逃していなかった。
「あの気味の悪い絵は、殿下だったんですか? 姉上……、ワーグナー家の名誉のために、あの絵は絶対に渡さないでください。王室は、安全対策で絵を飾っていない……、そう聞いていますから」
「えー、せっかく描いたのに、そうだったの……。知らなかったわ。じゃあ次は何がいいかな」
「殿下のことなんか考えてないで、もう寝ましょう」
「うん。マックスが温かいから、もう眠い……」
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