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第1章 気が付かない3人の関係
再会①
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公爵家長女のための大きな書庫には、わたしの大好きな恋愛小説がびっしりと収められている。
夕食を食べ終えたわたしは、そこに置かれた2人掛けソファーで、1人読書に夢中になっていた。
今読んでいるのは、幼馴染と弟が1人のヒロインを取り合うストーリーである。
幼馴染が圧倒的に有利な展開だけど、これはまだ序盤だ。
この後はどんな話になるのか、と先が気になる。
わたしはドキドキしながら本を読んでいたはずなのに、ふっと気が付いたときには、双子の弟の肩に寄りかかっていた。
あっ……、いつの間にか、眠りに落ちていたのか……と、ぼんやりした頭で状況を理解する。
気持ちがほっこりと温かくなったのは、弟から伝わる温もりもあるけど、わたしが自然体でいられる弟が近くにいると、心地よくて落ち着くからだ。
わたしは、知らぬ間に弟のマックスが近くにいて、嬉しくなっていた。
こうして2人で並んでいると、誰が見ても姉弟だと分かるだろう。
わたし達の茶色の髪は、長さが違うだけで髪質さえも似ているし、青い瞳だけなら全く一緒に見える。
わたしは見慣れているから弟にキュンとすることはないけど、マックスの容姿はなかなか整っているほうだ。
だけど、性格は信じられないくらいに似ていない。
しっかり者な弟と比べられれば、わたしは、風変わりで可笑しい姉だと思われている。
そのせいで、たまに傷つくことも言われるけど、いちいち気にしていない。
今は、まだ寝るには早い時間だ。
弟のマックスも、仕事の本を読んでいるようだし、丁度いいからこのまま弟の肩を借りて続きを読もう。
……そう思ったけれど、今日はやたらと目が重くて開けていられない。
そのせいで、何度も同じところを読んでいるようだ。ヒロインが同じことを繰り返して、同じ台詞を言っている。
気合を入れて、もう一度小さな文字に目をやるけど、瞬きをすれば、どこを読んでいるか見失う。
これはもう駄目だ。
続きが気になって悔しいけど、今日の読書は諦めるしかない。
そう思い、パタンッと本を閉じた。
「う~ん、まだ寝たくないのになぁ。きっと、昼に木の剪定を手伝ったせいね、もう起きていられないもの」
弟に、あえて寝ると宣言すれば、きっと弟も一緒に立ち上がるはずだ。
この書庫は一応わたし専用で、わたしは1度だって、マックスがここに1人でいるのを見たことはない。
だけど今日は、言葉選びを間違えてしまったようで、マックスから説教をくらう羽目になった。
でも、何がズレているのか、わたしには分からないから、仕方のないことだと諦めている。
「はい? 僕は、何度も木の剪定はするなと言いましたよね。暇だと言うから、姉上には別の仕事を頼んだのに、何やっているんですか!」
例え怒っていても、マックスはわたしに怖い顔はしないし、どこか優しい。
今だって呆れた顔をしているだけだから、実際のところ大した問題ではないのだろう。
「フレンツ王国の商人に値段交渉の手紙なんて、すぐに終わるでしょう。ついでに周辺国全てに手紙を送っておいたわ」
「姉上……、あれだけの文章を翻訳するのは、普通はすぐに終わりませんから。本当に貴女は、何をさせても僕の予想通りにはいきませんね。いいですか姉上、木に登るのは危険過ぎるから、今後は絶対にやらないでください、絶対ですよ」
マックスが念を押すように言ったことだけは、駄目なことだと理解している。
感性が人とは違うわたしが、危険のないように教えてくれているのだと、最近になって分るようになってきた。
でも、そんなことを言われても、簡単に引くわたしではない。
「そんなことを言われても、わたしが別邸から戻る時にも、まだ、あのおじさんが庭の木と格闘していたのよ。わたしは暇だったんだから、あれを見過ごすなんて、できないでしょう、普通」
「だからっ、それを余計なお世話と言うんです。庭師のためには見過ごすべきなんです。彼は姉上が木から落ちないか見守るだけで仕事が進まない挙句、寿命も縮まったでしょうね、可哀想に。まったくっ、姉上のことを放っとくと、ろくなことをしないんですから。もう、心配するこっちの身にもなってください、姉上がいないと、僕は困るんですから。その後は大人しくしていたんですか」
「そうよ、ちゃんと庭でまったりしていたもの。でも聞いて、野良にゃんこが庭にいたの! 捕まえたくて追っかけたんだけど逃げられちゃった。あれはもしかしてっ、王子様だったかもしれないわよっ! だって、猫が王子様って話を読んだことがあるもの」
「そんなこと、現実にあるわけないでしょう。その辺の猫に触ったら、引っ掻かれますよ。危ないから近づかないでください」
「大丈夫よ、こう見えてしっかりしているから」
「はいはい。1人にしておくと、その辺で寝ている人がよく言いますね。ほら、こんな所でうたた寝していないで、姉上のベッドに行きますよ」
ごく自然に差し出される弟の手。
それを、何の躊躇いもなくつなぎ、わたしの寝室へ向かい始めていた。
わたしが眠りに付くまで、いつも一緒にいるマックス。
幼い頃の弟は、わたしがいないと寝られない子どもだった。
だけど、未だに弟は、幼い頃の感覚が、抜けていない。
マックスは、今だって、わたしを探していたようだ。
18歳にもなって、わたしの姿が見えないと姉を求めて屋敷中を探している。
弟は、従者達の前では、次期公爵家当主として、いつも気取っている。
だけど実は、甘えん坊であることは、弟の面子のために秘密にしている。
成人するまでわたし達は、姉弟で一緒の布団で眠っていた。
それは、6歳の頃のマックスが寂しいと言い出したのがきっかけで、それからずっと、くっついていたわたし達。
マックスは、辛いことがあった日には、姉に縋るように抱き付いて眠っていた。
わたしも、弟から頼られている感じが何だか嬉しかった。
姉弟離れが必要だと母から止められ、今では朝まで一緒に寝ることはなくなった。
だけどマックスは、わたしが寝付くまで、時々布団に潜り込んで来ることがある。
誰にだって、そんな寂しい夜はあるから、あまり気にしていない。
わたしもあるから。
そう思いながら自分の部屋へ向かっていると、執事長から呼び止められた。
「アリーチェお嬢様のことを、ご主人様がお呼びです」
「わたしだけ?」
コクッと頷く執事長を見て、露骨にがっかりしてしまった。それに横には不機嫌な顔のマックス。
マックスは、よほど嫌なことがあって人恋しく、わたしに頭でも撫でて欲しかったのかもしれない。
マックスから縋るような顔を向けられているけど、わたしだって、温かい布団で横になりたかったし、気分は、もうすっかり夢の中だったんだから。
執事長に連行されて、父の書斎へ向かう。
わたしの気が沈んでいるのは、眠いせいではない。
父とは、我が家の事業の話を昼間のうちにしたばかり。
それなのに、わざわざこんな時間に呼び出す話であれば、縁談話だろう。
ワーグナー公爵家の当主が、国外の王侯貴族と、娘の縁談をまとめたに違いないと確信している。
父は、わたしの婚姻相手に相応しい人間が、このメレディス王国に、いないと思っている。
父の目論見は、わたしの結婚によって、できれば我が家と有益な国と関係を作るつもりだ。
ワーグナー公爵家は、このメレディス王国と他国との取引を独占している。
そのため、わたしの政略結婚の相手として、この国の王侯貴族達に価値がないと思っているのだから。
わたしは、その父の影響で社交の場にも行ったことがない。
悲しいことに、友人と呼べる人もいないから、同じ年頃で対等に話せる存在は双子の弟マックスだけ。
弟のマックスとじゃれ合って育ったわたしも、気が付けば婚約者を決める年になったのを寂しく思う。
その理由は……。
実はわたしには、運命を感じた王子様がいる。
自称、商人の子リックが、白馬に乗って迎えに来てくれると、いつも心の片隅で期待していたからだ。
夕食を食べ終えたわたしは、そこに置かれた2人掛けソファーで、1人読書に夢中になっていた。
今読んでいるのは、幼馴染と弟が1人のヒロインを取り合うストーリーである。
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気持ちがほっこりと温かくなったのは、弟から伝わる温もりもあるけど、わたしが自然体でいられる弟が近くにいると、心地よくて落ち着くからだ。
わたしは、知らぬ間に弟のマックスが近くにいて、嬉しくなっていた。
こうして2人で並んでいると、誰が見ても姉弟だと分かるだろう。
わたし達の茶色の髪は、長さが違うだけで髪質さえも似ているし、青い瞳だけなら全く一緒に見える。
わたしは見慣れているから弟にキュンとすることはないけど、マックスの容姿はなかなか整っているほうだ。
だけど、性格は信じられないくらいに似ていない。
しっかり者な弟と比べられれば、わたしは、風変わりで可笑しい姉だと思われている。
そのせいで、たまに傷つくことも言われるけど、いちいち気にしていない。
今は、まだ寝るには早い時間だ。
弟のマックスも、仕事の本を読んでいるようだし、丁度いいからこのまま弟の肩を借りて続きを読もう。
……そう思ったけれど、今日はやたらと目が重くて開けていられない。
そのせいで、何度も同じところを読んでいるようだ。ヒロインが同じことを繰り返して、同じ台詞を言っている。
気合を入れて、もう一度小さな文字に目をやるけど、瞬きをすれば、どこを読んでいるか見失う。
これはもう駄目だ。
続きが気になって悔しいけど、今日の読書は諦めるしかない。
そう思い、パタンッと本を閉じた。
「う~ん、まだ寝たくないのになぁ。きっと、昼に木の剪定を手伝ったせいね、もう起きていられないもの」
弟に、あえて寝ると宣言すれば、きっと弟も一緒に立ち上がるはずだ。
この書庫は一応わたし専用で、わたしは1度だって、マックスがここに1人でいるのを見たことはない。
だけど今日は、言葉選びを間違えてしまったようで、マックスから説教をくらう羽目になった。
でも、何がズレているのか、わたしには分からないから、仕方のないことだと諦めている。
「はい? 僕は、何度も木の剪定はするなと言いましたよね。暇だと言うから、姉上には別の仕事を頼んだのに、何やっているんですか!」
例え怒っていても、マックスはわたしに怖い顔はしないし、どこか優しい。
今だって呆れた顔をしているだけだから、実際のところ大した問題ではないのだろう。
「フレンツ王国の商人に値段交渉の手紙なんて、すぐに終わるでしょう。ついでに周辺国全てに手紙を送っておいたわ」
「姉上……、あれだけの文章を翻訳するのは、普通はすぐに終わりませんから。本当に貴女は、何をさせても僕の予想通りにはいきませんね。いいですか姉上、木に登るのは危険過ぎるから、今後は絶対にやらないでください、絶対ですよ」
マックスが念を押すように言ったことだけは、駄目なことだと理解している。
感性が人とは違うわたしが、危険のないように教えてくれているのだと、最近になって分るようになってきた。
でも、そんなことを言われても、簡単に引くわたしではない。
「そんなことを言われても、わたしが別邸から戻る時にも、まだ、あのおじさんが庭の木と格闘していたのよ。わたしは暇だったんだから、あれを見過ごすなんて、できないでしょう、普通」
「だからっ、それを余計なお世話と言うんです。庭師のためには見過ごすべきなんです。彼は姉上が木から落ちないか見守るだけで仕事が進まない挙句、寿命も縮まったでしょうね、可哀想に。まったくっ、姉上のことを放っとくと、ろくなことをしないんですから。もう、心配するこっちの身にもなってください、姉上がいないと、僕は困るんですから。その後は大人しくしていたんですか」
「そうよ、ちゃんと庭でまったりしていたもの。でも聞いて、野良にゃんこが庭にいたの! 捕まえたくて追っかけたんだけど逃げられちゃった。あれはもしかしてっ、王子様だったかもしれないわよっ! だって、猫が王子様って話を読んだことがあるもの」
「そんなこと、現実にあるわけないでしょう。その辺の猫に触ったら、引っ掻かれますよ。危ないから近づかないでください」
「大丈夫よ、こう見えてしっかりしているから」
「はいはい。1人にしておくと、その辺で寝ている人がよく言いますね。ほら、こんな所でうたた寝していないで、姉上のベッドに行きますよ」
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それを、何の躊躇いもなくつなぎ、わたしの寝室へ向かい始めていた。
わたしが眠りに付くまで、いつも一緒にいるマックス。
幼い頃の弟は、わたしがいないと寝られない子どもだった。
だけど、未だに弟は、幼い頃の感覚が、抜けていない。
マックスは、今だって、わたしを探していたようだ。
18歳にもなって、わたしの姿が見えないと姉を求めて屋敷中を探している。
弟は、従者達の前では、次期公爵家当主として、いつも気取っている。
だけど実は、甘えん坊であることは、弟の面子のために秘密にしている。
成人するまでわたし達は、姉弟で一緒の布団で眠っていた。
それは、6歳の頃のマックスが寂しいと言い出したのがきっかけで、それからずっと、くっついていたわたし達。
マックスは、辛いことがあった日には、姉に縋るように抱き付いて眠っていた。
わたしも、弟から頼られている感じが何だか嬉しかった。
姉弟離れが必要だと母から止められ、今では朝まで一緒に寝ることはなくなった。
だけどマックスは、わたしが寝付くまで、時々布団に潜り込んで来ることがある。
誰にだって、そんな寂しい夜はあるから、あまり気にしていない。
わたしもあるから。
そう思いながら自分の部屋へ向かっていると、執事長から呼び止められた。
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「わたしだけ?」
コクッと頷く執事長を見て、露骨にがっかりしてしまった。それに横には不機嫌な顔のマックス。
マックスは、よほど嫌なことがあって人恋しく、わたしに頭でも撫でて欲しかったのかもしれない。
マックスから縋るような顔を向けられているけど、わたしだって、温かい布団で横になりたかったし、気分は、もうすっかり夢の中だったんだから。
執事長に連行されて、父の書斎へ向かう。
わたしの気が沈んでいるのは、眠いせいではない。
父とは、我が家の事業の話を昼間のうちにしたばかり。
それなのに、わざわざこんな時間に呼び出す話であれば、縁談話だろう。
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ワーグナー公爵家は、このメレディス王国と他国との取引を独占している。
そのため、わたしの政略結婚の相手として、この国の王侯貴族達に価値がないと思っているのだから。
わたしは、その父の影響で社交の場にも行ったことがない。
悲しいことに、友人と呼べる人もいないから、同じ年頃で対等に話せる存在は双子の弟マックスだけ。
弟のマックスとじゃれ合って育ったわたしも、気が付けば婚約者を決める年になったのを寂しく思う。
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