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第三章

第54話 ラーニング! 町中から戦場へ

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 空に向かって吠えるベヒーモス。
 牛の角が生えた紫色の肉食獣という感じの外見だ。

 たてがみが映えており、鼻は突き出している。
 長くてのたうつ尻尾には、先端にフサフサの毛が生えていた。

 そしてとにかく……でかい!
 ゴブリン王国の家は人間の家よりちょっと小さいのだが、それでもその家を横に八つ並べたくらいの全長だ。
 立ち上がると、完全に町の上に体が出る。

『モギャアアアアアアッ!!』

 ベヒーモスが吠えた。
 すると、空がキラキラっと光る。
 なんだなんだ。

『メテオ』

 なんか妙な表示が見えた。
 ベヒーモスの咆哮に応じて、空から何かが降り注いでくるのだ。

 あれは……大きい石?
 空から石が降ってくるのか?

「みんなー! 落ちてきそうなところから回避、回避ー!」

「よし! ギリギリで避けよう!」

「落ちてくる場所は予測できるでござるか? あー、斜めに落ちてきてるから、ちょうど拙者らの真上に……ウワーッ」

 ホムラが猛烈な勢いで逃げていった。
 アベルも無言でぴょーんと逃げる。

「よし、俺たちも……」

 と逃げ出したところで、突然空から落ちてくる石が加速して、俺たちの背後に炸裂した。
 爆発と衝撃波。

「ウグワーッ」

 俺とエリカでふっとばされて、ゴロゴロ転がる。
 なんだなんだ!?
 掠っただけでとんでもない威力だ。

 これがベヒーモスかあ。
 世界に災厄をもたらす魔獣だと言われてるだけあるなあ。

 俺が感心していたら、聞き慣れたメッセージが耳に届いた。

『ラーニング!』

「おっ、久々……。っていうか、まさかあれをラーニングしたのか?」

名前:ドルマ・アオーマーホウ
職業:青魔道士
所有能力:
・バッドステータスブレス
・渦潮カッター act2
・ゴブリンパンチ
・ジャンプ
・バックスタブ
・ミサイル
・バルーンシードショット
・ワールウインド
・ランドシャーク
・タイムリープ
・イリュージョンアタック
・カウンターメテオ NEW!

 増えてる増えてる。
 カウンター?
 なんだそれは。

「よし、カウンターメテオ!」

 叫んでみた。 
 だが起動しない。
 どういうことであろうか。

 なにか条件がある技なのか?

「よし、相手の攻撃は止まったみたいだな! 突撃だ!」

 あっ、エリカが行った!
 謎の能力を振るったベヒーモスを、恐れること無く突撃できるのは凄いな。

 ベヒーモスも、メテオとやらをぶっ放した直後に殴られると思っていなかったようだ。
 グレイブソードで顔面をめちゃくちゃ殴打されて、悲鳴をあげている。

 そしてアベルも戻ってきた。
 背中にホムラも乗っている。

「いやあー壮観壮観!! ゴブリン王国が半分瓦礫の山になったでござるなあ! これ以上ここで戦ったらヤバヤバでござるよー!!」

「なに、そんなんなのか! おーいエリカ! 作戦変更! こっちこっち!」

 俺は駆け寄ると、後ろからエリカを抱きかかえた。

「はっ、ド、ドルマ、そこはちょっと戦場では……!」

 何を恥ずかしがっているのだ。

「ではジャンプ! からのー。ベヒーモスへイリュージョンアタックしながら、ミサイル! ワールウインド! 渦潮カッター!」

『ウグワーッ!?』

 空から降り注ぐ俺の技に、ベヒーモスが悲鳴をあげた。
 そして、怒りに燃えた目を向けてくる。

「こっちだこっちだ! アベル、あいつを戦場まで誘導するぞ!」

「ふむ、その方が戦いやすかろうな」

 アベル、基本的に合理的な提案には同意する男だ。
 損得勘定しか無いからなこいつ。

 俺たちが戦場めがけてジャンプを連続すると、ベヒーモスは猛烈な勢いで追ってきた。
 王国を抜けて、野山を駆け抜け、その向こうにある戦場へ到着。

 突如現れたベヒーモスに、戦場で戦っていた兵士やゴブリンたちが「ウワーッ」と驚いた。

『モギャアアアアアアアアッ!!』

 ベヒーモス、戦場中に響き渡る咆哮を上げる。
 これは戦争どころではない。
 戦っていた連中は慌てて、ワーッと蜘蛛の子を散らすように逃げ出した。

『メテオ!!』

 ベヒーモスが空に向かって叫んだ。
 またアレが来るのか!
 一撃で都市を半壊させる、とんでもない技。

 だが、その瞬間だ。

「カウンターメテオ!」

 俺の口が勝手に叫んでいた。
 ベヒーモスの頭上から巨大な石が出現し、降り注ぐ。
 それを、俺の頭上に出現した巨大な石が迎撃し始める。

『!?』

 ベヒーモスが驚愕した。
 あいつの最強の技だったのかもしれない。
 それを俺が迎撃し、無効化したのだ。確かに驚くだろうな。

「なるほど、あの厄介な攻撃をすぐさま無効化したのは流石だな。では仕掛けるとしよう。おい、忍者、降りろ」

「えーっ、後生にござるよー! ドルマ殿よりも背中が広くて乗り心地がいいでござるー」

「降りろ」

 ペイっと捨てられる忍者。
 コロンと地面に転げたな。

「うわーっ、れでーに向かってなんたる仕打ちーっ!!」

 アベルはそんな言葉は聞かず、もうジャンプしている。
 行動が速い。
 拙速なくらい速い。なのであの竜騎士、ちょいちょい選択ミスもする。

 今回はメテオ無効化の直後、ジャンプからの連続突撃を仕掛けているので、これは大正解と言えるのではないか。
 あ、エリカももう突撃している。

「こいつ、角の付け根が硬いぞ! だけどつまり硬いということは弱点がそこにあるっていうことだ!! ここばかり攻撃するぞ!!」

「野生の勘かな? じゃあ俺も支援するわ。バックスタブ……からのーゴブリンパンチ!」

 俺は影を移動し、ベヒーモスの角の影から出てきて、付け根を斧で殴った。
 ゴブリンパンチによって多段攻撃になった手斧が、ガンガンと付け根を叩く。

『モギャオオオオオオオッ!!』

 ベヒモスが絶叫しながら、立ち上がって頭を振る。
 そこにアベルが着地しつつ、槍を叩き込んだ。
 エリカは既に、たてがみに掴まってどんどん登ってきている。

 一度攻撃態勢に入ったフォンテインナイツは止まらんぞ……!!
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