上 下
27 / 83
第二章

第27話 吟遊詩人語りき、異変の影と、細けえことはいいんだよ

しおりを挟む
「いざ語ろう、新たなる勇者たちの物語を~」

 モーザルが歌っている。
 俺とエリカの冒険を織り込んだ、眠れるエルフの里の歌だ。
 評価はなかなかのヒット。

 ただ、エルフと人間の寿命差を儚んで永遠の眠りをもたらす精霊に身を捧げる乙女、というモチーフは、商業都市の女性たちに大人気らしい。
 そして後半の、デタラメやらかして眠りの精霊をぶっ飛ばす俺たちの辺りは、「蛇足なのでは?」という評価らしい。

 おかしい。
 真実なのに。

「いやあ、皆さんのお陰で稼がせてもらいました! ワタクシめ大儲けですよ! また面白そうな冒険に出る時は声を掛けて下さい。はい、これはお二人の分前」

「いいのか!? うわあっ、大金だ!」

 エリカが動揺して、お金をテーブルからチャリンチャリンこぼした。

「あー、もったいないもったいない」

 お金の音に、冒険者たちがわいわい集まってくる。

「寄るな寄るな、これは俺たちのお金だ」

「なんだと、くさい息に騎士様があぶく銭なんかもったいねえ。俺たちが使ってやるよ!」

「あっ、金を手に取ったな! おら! 今含んだ水でバルーンシードショットだ!」

「ウグワーッ!?」

「こいつ、口からすげえ量の水を吐き出しやがった!」

「まるで水が爆発した見てえだ! ゴンザがぶっ飛ばされたぞ!」

「この野郎生意気な!」

「くさい息をぶっ殺せ!」

 俺目掛けて、冒険者たちがわーっと集まってきた。

「おら! ゴブリンパンチ!!」

「ウグワーッ!!」「ウグワーッ!!」「ウグワーッ!!」「ウグワーッ!!」

「こ、こいつパンチが分裂した! 今までのくさい息じゃねえ!!」

「そう言えば、青魔法をこいつらに本邦初公開しちゃったか」

「ていっ」

「ウグワーッ!」

 後ろでは、エリカに掴みかかっていた女冒険者が、鉄拳を喰らってぶっ飛んでいくところだった。

「私だって強くなってるんだぞ!」

「人間が真横に飛んだ!」

「女のパワーじゃねえ!」

 バーサーカー疑惑があるエリカだからな。
 とりあえず宿の中の喧嘩は、俺とエリカで完全に制圧した。

 マスターがじっとこっちを見ているので、テーブルと椅子の修理のお金を出した。
 マスターが笑顔になる。
 よし、お咎めなし!

 ちなみに他の冒険者達も修理代を出すのが鉄則だ。
 そうしないと出禁になる。

「やあやあ、お二人共さすがですなあ」

 店の隅にあったテーブルの下から、這い出してくるモーザル。

「ところでワタクシめが調べたところによりますと、公国の反乱に、明らかになったエルフの里の眠り事件、勢力を増し続けるゴブリン王国……。様々異変が明らかに成ってきていますな。こういう、異変が次々と起こる時は時代の変わり目だと言われています」

 ポロロン、とリュートをかき鳴らすモーザルなのだ。

「はーん」

「ほーん」

 俺たちはまあ、そんな事を言われてもどう反応していいかわからないので、適当な相槌を打つ。
 そして二人でエールを飲むのだ。

 安いエールは雑味も強いし水で薄めてあるから、まあまあ水だ、
 これと、焼いた肉とパンと漬物を食べる。

 たっぷり金がある状態で食う、ちょっぴりだけ豪華なランチは旨いなあ!

「とりあえずモーザル、あれだ。細けえことはいいんだよ」

「おおっ、英雄的な物言い!」

「フフフ、褒め称えていいんだぜ」

「私たちも風格が出てきたのかもしれないな! そうだ、そろそろ田舎に凱旋してもいいかもしれない!」

「エリカの田舎に? いいな! 行こう行こう」

 エリカの祖父だというフォンテインが、本物のフォンテインなのか気になるし。
 お金に余裕もあることだし、たまにはそういう骨休めをやってもいいかもしれない。

「牛乳配達をしばらく休むって伝えないとな」

「まだ牛乳配達やってたのかあ」

「いつお金がなくなるか心配だからな……」

「気持ちは分かる。でも小銭増えて大変だろ」

 お金をたくさん得た冒険者は、それらを宝石に変えて持ち歩くのだ。
 俺たちもそろそろ、そういう風にしたほうがいいのかもしれない。

「おや、お二人は一緒にエリカさんの故郷に? 結婚報告ですね?」

「違うぞ」

「違うぞ」

 とりあえず二人で真顔で否定しておく。
 
「里帰りですか。これは大きな活躍の気配を感じませんから、ワタクシめはこのポータルでお二人を待っているとしますよ! ワタクシめ、都会でしか生きられぬ男ですから」

「この男、完全に俺たちの三人目の仲間みたいな顔をしてやがる……」

 この顔の皮の厚さは凄いかもしれない。

「吟遊詩人は伝説の職業じゃないから、仲間にしないからな!」

 とりあえず、エリカがモーザルを指さして宣言したのだった。

「はははは、ワタクシめ、もしかすると伝説の吟遊詩人になるかも知れませんぞー」

「えっ、そうなのか!? うーん」

「いかん、口先ではエリカは勝てないぞ」

 ということで、この話はここで打ち切ったのだった。
 さて、これから旅の装備を整えて、エリカの地元までの道のりをチェックしなければ……。

「ああ、ちなみにエリカさんの故郷は、騎士フォンテインの生まれた場所であるランチャー地方ですな? あちらでは小規模な紛争が起こっているそうですから、お気をつけて」

「おう、気をつけて行ってくる」

「紛争かあ。ちょっと心配だな……! 騎士として凱旋した私が、止めないとな!」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

ズボラ通販生活

ice
ファンタジー
西野桃(にしのもも)35歳の独身、オタクが神様のミスで異世界へ!貪欲に通販スキル、時間停止アイテムボックス容量無限、結界魔法…さらには、お金まで貰う。商人無双や!とか言いつつ、楽に、ゆるーく、商売をしていく。淋しい独身者、旦那という名の奴隷まで?!ズボラなオバサンが異世界に転移して好き勝手生活する!

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

神様との賭けに勝ったので、スキルを沢山貰えた件。

猫丸
ファンタジー
ある日の放課後。突然足元に魔法陣が現れると、気付けば目の前には神を名乗る存在が居た。 そこで神は異世界に送るからスキルを1つ選べと言ってくる。 あれ?これもしかして頑張ったらもっと貰えるパターンでは? そこで彼は思った――もっと欲しい! 欲をかいた少年は神様に賭けをしないかと提案した。 神様とゲームをすることになった悠斗はその結果―― ※過去に投稿していたものを大きく加筆修正したものになります。

愛していました。待っていました。でもさようなら。

彩柚月
ファンタジー
魔の森を挟んだ先の大きい街に出稼ぎに行った夫。待てども待てども帰らない夫を探しに妻は魔の森に脚を踏み入れた。 やっと辿り着いた先で見たあなたは、幸せそうでした。

屋台飯! いらない子認定されたので、旅に出たいと思います。

彩世幻夜
ファンタジー
母が死にました。 父が連れてきた継母と異母弟に家を追い出されました。 わー、凄いテンプレ展開ですね! ふふふ、私はこの時を待っていた! いざ行かん、正義の旅へ! え? 魔王? 知りませんよ、私は勇者でも聖女でも賢者でもありませんから。 でも……美味しいは正義、ですよね? 2021/02/19 第一部完結 2021/02/21 第二部連載開始 2021/05/05 第二部完結

転生受験生の教科書チート生活 ~その知識、学校で習いましたよ?~

hisa
ファンタジー
 受験生の少年が、大学受験前にいきなり異世界に転生してしまった。  自称天使に与えられたチートは、社会に出たら役に立たないことで定評のある、学校の教科書。  戦争で下級貴族に成り上がった脳筋親父の英才教育をくぐり抜けて、少年は知識チートで生きていけるのか?  教科書の力で、目指せ異世界成り上がり!! ※なろうとカクヨムにそれぞれ別のスピンオフがあるのでそちらもよろしく! ※第5章に突入しました。 ※小説家になろう96万PV突破! ※カクヨム68万PV突破! ※令和4年10月2日タイトルを『転生した受験生の異世界成り上がり 〜生まれは脳筋な下級貴族家ですが、教科書の知識だけで成り上がってやります〜』から変更しました

SEIREI ── せい れい ── 自然に好かれるオレはハッピーライフをおくる

まひる
ファンタジー
 如月刀利は、生まれも育ちも山奥の農村。そして高校二年生の彼の学校はバスで一時間以上。  ある日の学校帰り、バス停に向かっていた刀利は村で唯一──とまではいかないけど、数個しかない貴重な交差点に侵入する白いイタチを見かける。そこへ迫る大型トラック。トラックの運転手はナビ画面でも見ているのか、小さなイタチには気付かない。刀利は家でフェレットを飼っている為、その手の生物が目の前で死ぬ姿を見たくなかった。そして、無謀にも車道へ飛び出す。響き渡るブレーキ音。宙を舞う鞄。  気付くと真っ白な空間に浮いていた刀利。  創造神と出会い、刀利が助けたイタチは神の使い魔である事を知る。助けてくれた御礼を刀利にしたいと言い出すが、彼は既に死亡した事になっていた。ちなみに神の前で目覚めるまでに一ヶ月以上経過。刀利が途方にくれるも、異世界でならその姿で再構築可能だという。見ず知らずの世界にただ独り存在を許されてもと、刀利は更に絶望感にうちひしがれた。そこで前世の創造神の使い魔であった白いイタチは、助けれくれた感謝にと刀利と共に異世界へ来てくれると言う。そして一人と一匹の異世界転生となった。  その世界は精霊が崇め奉られる世界。精霊に好かれた者だけが人権を得る。魔法も精霊の契約者とならなければ使えず、途中でも精霊に嫌われれば全てを失う。  そんな世界で、創造神の加護で『自然に好かれる』というスキルを与えられたトーリは、ウハウハなハッピーライフを送る。

処理中です...