「スキル:くさい息で敵ごと全滅するところだった!」と追放された俺は理解ある女騎士と出会って真の力に覚醒する~ラーニング能力で楽々冒険ライフ~

あけちともあき

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第二章

第27話 吟遊詩人語りき、異変の影と、細けえことはいいんだよ

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「いざ語ろう、新たなる勇者たちの物語を~」

 モーザルが歌っている。
 俺とエリカの冒険を織り込んだ、眠れるエルフの里の歌だ。
 評価はなかなかのヒット。

 ただ、エルフと人間の寿命差を儚んで永遠の眠りをもたらす精霊に身を捧げる乙女、というモチーフは、商業都市の女性たちに大人気らしい。
 そして後半の、デタラメやらかして眠りの精霊をぶっ飛ばす俺たちの辺りは、「蛇足なのでは?」という評価らしい。

 おかしい。
 真実なのに。

「いやあ、皆さんのお陰で稼がせてもらいました! ワタクシめ大儲けですよ! また面白そうな冒険に出る時は声を掛けて下さい。はい、これはお二人の分前」

「いいのか!? うわあっ、大金だ!」

 エリカが動揺して、お金をテーブルからチャリンチャリンこぼした。

「あー、もったいないもったいない」

 お金の音に、冒険者たちがわいわい集まってくる。

「寄るな寄るな、これは俺たちのお金だ」

「なんだと、くさい息に騎士様があぶく銭なんかもったいねえ。俺たちが使ってやるよ!」

「あっ、金を手に取ったな! おら! 今含んだ水でバルーンシードショットだ!」

「ウグワーッ!?」

「こいつ、口からすげえ量の水を吐き出しやがった!」

「まるで水が爆発した見てえだ! ゴンザがぶっ飛ばされたぞ!」

「この野郎生意気な!」

「くさい息をぶっ殺せ!」

 俺目掛けて、冒険者たちがわーっと集まってきた。

「おら! ゴブリンパンチ!!」

「ウグワーッ!!」「ウグワーッ!!」「ウグワーッ!!」「ウグワーッ!!」

「こ、こいつパンチが分裂した! 今までのくさい息じゃねえ!!」

「そう言えば、青魔法をこいつらに本邦初公開しちゃったか」

「ていっ」

「ウグワーッ!」

 後ろでは、エリカに掴みかかっていた女冒険者が、鉄拳を喰らってぶっ飛んでいくところだった。

「私だって強くなってるんだぞ!」

「人間が真横に飛んだ!」

「女のパワーじゃねえ!」

 バーサーカー疑惑があるエリカだからな。
 とりあえず宿の中の喧嘩は、俺とエリカで完全に制圧した。

 マスターがじっとこっちを見ているので、テーブルと椅子の修理のお金を出した。
 マスターが笑顔になる。
 よし、お咎めなし!

 ちなみに他の冒険者達も修理代を出すのが鉄則だ。
 そうしないと出禁になる。

「やあやあ、お二人共さすがですなあ」

 店の隅にあったテーブルの下から、這い出してくるモーザル。

「ところでワタクシめが調べたところによりますと、公国の反乱に、明らかになったエルフの里の眠り事件、勢力を増し続けるゴブリン王国……。様々異変が明らかに成ってきていますな。こういう、異変が次々と起こる時は時代の変わり目だと言われています」

 ポロロン、とリュートをかき鳴らすモーザルなのだ。

「はーん」

「ほーん」

 俺たちはまあ、そんな事を言われてもどう反応していいかわからないので、適当な相槌を打つ。
 そして二人でエールを飲むのだ。

 安いエールは雑味も強いし水で薄めてあるから、まあまあ水だ、
 これと、焼いた肉とパンと漬物を食べる。

 たっぷり金がある状態で食う、ちょっぴりだけ豪華なランチは旨いなあ!

「とりあえずモーザル、あれだ。細けえことはいいんだよ」

「おおっ、英雄的な物言い!」

「フフフ、褒め称えていいんだぜ」

「私たちも風格が出てきたのかもしれないな! そうだ、そろそろ田舎に凱旋してもいいかもしれない!」

「エリカの田舎に? いいな! 行こう行こう」

 エリカの祖父だというフォンテインが、本物のフォンテインなのか気になるし。
 お金に余裕もあることだし、たまにはそういう骨休めをやってもいいかもしれない。

「牛乳配達をしばらく休むって伝えないとな」

「まだ牛乳配達やってたのかあ」

「いつお金がなくなるか心配だからな……」

「気持ちは分かる。でも小銭増えて大変だろ」

 お金をたくさん得た冒険者は、それらを宝石に変えて持ち歩くのだ。
 俺たちもそろそろ、そういう風にしたほうがいいのかもしれない。

「おや、お二人は一緒にエリカさんの故郷に? 結婚報告ですね?」

「違うぞ」

「違うぞ」

 とりあえず二人で真顔で否定しておく。
 
「里帰りですか。これは大きな活躍の気配を感じませんから、ワタクシめはこのポータルでお二人を待っているとしますよ! ワタクシめ、都会でしか生きられぬ男ですから」

「この男、完全に俺たちの三人目の仲間みたいな顔をしてやがる……」

 この顔の皮の厚さは凄いかもしれない。

「吟遊詩人は伝説の職業じゃないから、仲間にしないからな!」

 とりあえず、エリカがモーザルを指さして宣言したのだった。

「はははは、ワタクシめ、もしかすると伝説の吟遊詩人になるかも知れませんぞー」

「えっ、そうなのか!? うーん」

「いかん、口先ではエリカは勝てないぞ」

 ということで、この話はここで打ち切ったのだった。
 さて、これから旅の装備を整えて、エリカの地元までの道のりをチェックしなければ……。

「ああ、ちなみにエリカさんの故郷は、騎士フォンテインの生まれた場所であるランチャー地方ですな? あちらでは小規模な紛争が起こっているそうですから、お気をつけて」

「おう、気をつけて行ってくる」

「紛争かあ。ちょっと心配だな……! 騎士として凱旋した私が、止めないとな!」
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