上 下
26 / 83
第二章

第26話 よく分からんままの撃破

しおりを挟む
『オオオオオ……』

 洞窟の奥から、嘆くような声が聞こえてきた。

「あれは、かつて人間であった女性の嘆きの声でしょうか! ああ、新曲の構想が湧き出してきます……!! メモ、メモ……ああ、壁に書きましょう!」

「モーザルは置いていくわね……」

「ああっ、待って、待って下さい!」

 後ろで二人がもちゃもちゃしている間に、俺とエリカが猛烈な速度で進んでいるぞ。

「お、恐れというものを知らないの!?」

 ビヨーネの声が聞こえる。
 この声を聞いて、眠りの精霊は動き出したらしい。

 ここまでで、眠りの精霊が反応する音について気付いたこと。
 音楽や金属の音には過敏に反応して現れる。
 人の話し声はそれほどではない。

 木々のざわめきとか、動物の鳴き声と区別がついていないのかもしれない。
 だが、洞窟の中にいると、話し声を人の声であると理解する、と。

「あー疲れたあ」

「ドルマどうしたんだ!」

「凄く頭を使った。こいつ、人の声だって分かると寄ってくるぞ」

「そうなのか! よし、来い! 私はここだぞ! ここだぞーっ!!」

『オオオオオオオオッ』

 叫びながら、眠りの精霊が姿を現した……のだと思う。
 俺もエリカも、前は見てないぞ。

「あっ、眠くなってきた」

「エリカ、気を確かにー!」

 彼女を後ろに引きずると、ハッと目覚めた。

「いけないいけない、なんかすっごく眠くなった!」

「あっちを見たら駄目で、しかも近寄っても駄目だな。だとするとどうするか。こうするな」

 俺はエルフの実を口に含んだ。

「バルーンシードショット!」

 目をつぶったままぶっ放すぞ。
 果実が壁に反射した音がする。
 だが、心配はいらない。

 バルーンシードショットは、標的の目の前で膨れ上がり、拡散するのだ!

 弾ける音がした。

『オオオオーッ!!』

 眠りの精霊の叫びが聞こえる。
 動揺してる動揺してる。

 バルーンシードショット、口から吹き出した物の量をめちゃくちゃに増加させてばらまく力があるようだ。
 今回は、眠りの力に対抗するためにエルフが生み出した果実みたいなものを、眠りの精霊に叩きつけたのだ。

 そりゃあ痛かろう。

「あっ、近づいても眠くない! 今だよ、今!」

 エリカがそそくさと大きなナタ……グレイブソードとでも言うべき武器に果実をこすりつけた。

「よーし、行ってきます!!」

 眠りの精霊へと駆け出すエリカ。
 撒き散らされたエルフの果実を浴びながら、眠りの精霊にナタを叩きつけた。

 おーっ、女の首がポーンと飛んだ。

「実体があったんだな」

「思い切りが良すぎるわ……! 永遠の眠りにつくのが怖くないの? どうして、近づけば眠りにつく相手を、今なら攻撃できるなんて思ったの!?」

 ビヨーネが唖然としている。
 不思議と、エリカは攻撃できるタイミングが分かるようなのだ。
 後は、恐れを持たないで突撃できる。

 ……もしかして、騎士じゃなくて、伝説の職業バーサーカーとかだったりしない?
 いや、俺だけは騎士だと信じねばな。

 今は眠りの精霊を視認しても全く問題ないようだ。
 エルフの果実がこの空間に満ちているせいか。

 じゃあ、補充せねば。
 俺はバルーンシードショットを連発する。

「ビヨーネ、魔法で攻撃してくれ」

「あ、ああ! 闇の精霊よ! 精神を削れ!」

 ビヨーネの影から、黒い球体が飛び出してきて精霊にぶつかる。
 すると、首が飛んだ女の形をした精霊が揺らいだ。
 効いてる効いてる。

「だめ。抵抗されたわ。眠りの精霊は上位の精霊だから、私程度の魔法ではあの抵抗を貫けない……!」

 ビヨーネは闇の球を次々放ちながら、悔しそうな顔をする。
 後で聞いたのだが、精霊に実体はないため、直接殴るための工夫をしない限り物理攻撃は無効。
 闇の精霊は精神を直接攻撃できるが、精霊は魔法へも高い抵抗力を持っているとか。

 だが。
 俺の能力は魔法ではないらしいし、物理かと言われるとそうでもないようなので問題なし。

「エルフの果実の水気なら、行けるな……。エリカ、しゃがむんだ!」

「ああ! 来い!」

 ナタで攻撃を仕掛けていたエリカは、素早く身をかがめる。
 俺の手のひらで、果実から絞り出した果汁が渦を巻き始めた。

「渦潮果汁カッター!」

 眠りの精霊がバラバラになる。
 そして形を保っていられなくなったようで、青いオーラみたいなものが物凄い勢いで消えていった。

 跡には、骨のようなものがバラバラと落ちるだけだ。

「眠りの精霊、倒される! ドラマチーック!! これは恐らくですね! エルフに娶られた人間の女性なんですよ! ですが彼我の過ごす時間の流れは違う! 寿命の違う相手と永遠に添い遂げようとした意思を眠りの精霊が……」

「骨だ骨だ! ねえビヨーネ、これで解決?」

 あまり興味がない話題だったのか、エリカは一切聞かない。

「あ、ああ。あっという間だった……。私たちでは近づくことすらできなかった相手なのに」

「多分な、俺はくさい息の効果か、バッドステータスに強い。で、エリカはなんか分からんが我慢できる」

「騎士だからな!」

 俺の中でバーサーカー疑惑が持ち上がっているけどな……!
 洞窟の外に出ると、やっぱりエルフ達は繭の中だった。

「一度眠りについた以上、何年も掛けて眠りを中和せねば目覚めないと思うわ。だが、私には見える。彼らの中の眠りの精霊が、弱く小さくなっているのを……」

 つまり、勝利ということになる。

「よし! なんか不思議な相手だったけど、仕事が早く終わって良かったな!」

「ああ。報酬貰ってさっさと帰って飲み食いを……って、装備装備!」

「そうだった! あれ高いから忘れたら大変だ!!」

 慌てて装備を置いた場所に戻っていく、俺とエリカなのだった。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

いきなり異世界って理不尽だ!

みーか
ファンタジー
 三田 陽菜25歳。会社に行こうと家を出たら、足元が消えて、気付けば異世界へ。   自称神様の作った機械のシステムエラーで地球には帰れない。地球の物は何でも魔力と交換できるようにしてもらい、異世界で居心地良く暮らしていきます!

〈完結〉この女を家に入れたことが父にとっての致命傷でした。

江戸川ばた散歩
ファンタジー
「私」アリサは父の後妻の言葉により、家を追い出されることとなる。 だがそれは待ち望んでいた日がやってきたでもあった。横領の罪で連座蟄居されられていた祖父の復活する日だった。 十年前、八歳の時からアリサは父と後妻により使用人として扱われてきた。 ところが自分の代わりに可愛がられてきたはずの異母妹ミュゼットまでもが、義母によって使用人に落とされてしまった。義母は自分の周囲に年頃の女が居ること自体が気に食わなかったのだ。 元々それぞれ自体は仲が悪い訳ではなかった二人は、お互い使用人の立場で二年間共に過ごすが、ミュゼットへの義母の仕打ちの酷さに、アリサは彼女を乳母のもとへ逃がす。 そして更に二年、とうとうその日が来た…… 

【第2部完結】勇者参上!!~究極奥義を取得した俺は来た技全部跳ね返す!究極術式?十字剣?最強魔王?全部まとめてかかってこいや!!~

Bonzaebon
ファンタジー
『ヤツは泥だらけになっても、傷だらけになろうとも立ち上がる。』  元居た流派の宗家に命を狙われ、激戦の末、究極奥義を完成させ、大武会を制した勇者ロア。彼は強敵達との戦いを経て名実ともに強くなった。  「今度は……みんなに恩返しをしていく番だ!」  仲間がいてくれたから成長できた。だからこそ、仲間のみんなの力になりたい。そう思った彼は旅を続ける。俺だけじゃない、みんなもそれぞれ問題を抱えている。勇者ならそれを手助けしなきゃいけない。 『それはいつか、あなたの勇気に火を灯す……。』

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

お花畑な母親が正当な跡取りである兄を差し置いて俺を跡取りにしようとしている。誰か助けて……

karon
ファンタジー
我が家にはおまけがいる。それは俺の兄、しかし兄はすべてに置いて俺に勝っており、俺は凡人以下。兄を差し置いて俺が跡取りになったら俺は詰む。何とかこの状況から逃げ出したい。

【完結】私だけが知らない

綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

【書籍化】パーティー追放から始まる収納無双!~姪っ子パーティといく最強ハーレム成り上がり~

くーねるでぶる(戒め)
ファンタジー
【24年11月5日発売】 その攻撃、収納する――――ッ!  【収納】のギフトを賜り、冒険者として活躍していたアベルは、ある日、一方的にパーティから追放されてしまう。  理由は、マジックバッグを手に入れたから。  マジックバッグの性能は、全てにおいてアベルの【収納】のギフトを上回っていたのだ。  これは、3度にも及ぶパーティ追放で、すっかり自信を見失った男の再生譚である。

『希望の実』拾い食いから始まる逆転ダンジョン生活!

IXA
ファンタジー
30年ほど前、地球に突如として現れたダンジョン。  無限に湧く資源、そしてレベルアップの圧倒的な恩恵に目をつけた人類は、日々ダンジョンの研究へ傾倒していた。  一方特にそれは関係なく、生きる金に困った私、結城フォリアはバイトをするため、最低限の体力を手に入れようとダンジョンへ乗り込んだ。  甘い考えで潜ったダンジョン、しかし笑顔で寄ってきた者達による裏切り、体のいい使い捨てが私を待っていた。  しかし深い絶望の果てに、私は最強のユニークスキルである《スキル累乗》を獲得する--  これは金も境遇も、何もかもが最底辺だった少女が泥臭く苦しみながらダンジョンを探索し、知恵とスキルを駆使し、地べたを這いずり回って頂点へと登り、世界の真実を紐解く話  複数箇所での保存のため、カクヨム様とハーメルン様でも投稿しています

処理中です...