上 下
16 / 83
第一章

第16話 後ろ取り合戦、勝つのは俺だ!

しおりを挟む
「何のつもりだ……!? だが、何をやろうと影人である俺に通用はしないぞ……!」

 刺客はそう告げると、また姿を消した。
 誰かの背後に現れる気なんだろう。
 よーし、俺も追いかけちゃうぞ。

「バックスタブ!」

 技を宣言すると、俺の体は水に潜るように、影の中に沈んだ。
 そこは案外明るい世界だった。
 刺客がすいすい泳ぎながら、エリカの背後へと回っていく。

 影の中での移動速度はかなり速いな。
 一瞬で移動が終わり、刺客はエリカの背後に実体化した。
 俺は刺客の背後に実体化した。

「────!!」

 無言でナイフを振り上げた刺客の……後頭部を俺は全力でチョップした。

「ウグワーッ!?」

 不意の打撃に驚愕したのと、チョップがかなり痛かったようで、刺客は真横に吹っ飛んで転げ回った。
 そしてガクガクと驚きに震えながら、俺を指差す。

「なっ、なっ、なっ、なんでお前がそこに! さっきまであそこにいたはず……。まさか、お前も影人だというのか!」

「俺は青魔道。敵の技を覚えて使いこなす、伝説の職業だ」

 俺はかっこよく身構えた。
 とっさだったからチョップで済ませちゃったな。
 今度は手斧握ってゴブリンパンチして確実に仕留めよう。

「ドルマ! あいつの技も覚えたんだな! さらに強くなったな!」

 エリカが嬉しそうだ。
 ロッテは何も理解できてない。

「えっ? えっ?」とか言っている。

 全部終わったら説明するからね。

「それにドルマ、私は聞いたことがある! 影人というのは、かつて魔法の実験で生み出された武器人間だ! 影に潜る力を持つ代わりに、強い光の下では存在が曖昧になってしまうという……。大騎士フォンテインはこれを利用して、隠れる影のない砂漠におびき出し、そこで影人を倒したんだ!」

「なるほどなるほど……」

「ふん、それが分かったところでどうなる! この場には隠れるところが無数にある。強い光で照らして俺を倒すことなどできまい! 行くぞ!」

 また影人の刺客が影に潜った。
 俺も影に潜る。
 で、影人が俺がいたはずのところに実体化したら、その後ろに実体化する。

「うおお、手斧ゴブリンパンチ!!」

「ウグワーッ!?」

 分裂した手斧が、影人を背後から切り裂く!
 こいつ、半分実体が無いみたいで、どうもダメージがあまり通ってない気がするな。

 それでも影人からするととんでもないショックだったようで、そいつは影にも潜らず、全力で走って逃げる。

「ほ、ほ、本当に俺と同じ技を使いやがった! 影人のアイデンティティをいきなりマスターして使いこなすだと!? 青魔道!? 冗談じゃない! そんなバケモノが公女のそばについているなんて、聞いていないぞ!!」

 逃げる逃げる。
 追いかけてやっつけねばなるまい。

 だけど、実体の攻撃がイマイチ効きづらいということは……くさい息でやるしかないかなあ。
 だがそれじゃあキャラバンが全滅してしまうしなあ。

 一瞬迷う俺だったが。
 だが、次の瞬間。

 空がキラリと光ったと思ったら、見覚えのある男が降りてきた。
 そして、着地と同時に手にした槍で、影人を串刺しにする。

「ウグワーッ!?」

「愚か者め。やつを強くしてしまったのか」

 竜騎士だ!
 魔法の槍らしく、影人にも全然効いている。

「お、俺を粛清に来たのか! くそっ、人間ごときにやられる影人じゃ……!」

 刺客はダメージを受けながらも、影の中に潜った。
 それと同時に、竜騎士はジャンプしている。

 影人はその辺りの山の陰に隠れてしまった。
 これは探すことはできまい……と思ったら。

 竜騎士が影の一部に、落下と同時に槍を突き刺した。

「ウグワーッ!?」

 断末魔が上がった。
 それっきり、影人は出てこなくなる。

 竜騎士は俺を睨むと、槍を突きつけた。

「本当に公女を守ってやって来るとはな、愚か者め。だが、これは同時に我が雇い主最大の脅威が出現したことに他ならない。ここではやらぬぞ。いたずらに貴様に力を与えるつもりはないからな」

 そして、再び竜騎士はジャンプした。
 飛翔と言っていい勢いで上昇し、姿が見えなくなる。

「ひええ……恐ろしい奴じゃあ」

 ロッテがガクガク震えた。

「ドルマ、そなた、よくあれを一度追い払ったのう……」

「初見殺しみたいな技を連発したんだ。だが、あいつはまだまだ力を隠し持っているだろう。俺も必殺技は使ってない」

 くさい息を叩きつけたら、あの辺り一帯が地獄になるからね……!
 なんと使い勝手の悪い切り札であろうか。

「いいぞドルマ! なんだか凄く……強そうだ! 燃えてくるな! ああー、私も必殺技が欲しいー!」

「一番そういうのに憧れるエリカが、誰よりも泥臭いファイトスタイルだからね」

「ナタの使い勝手が良くて。だけど、さっき私のナタは影に通用しなかった。でも竜騎士の槍は通用したんだ。あれはどういうことかな」

 これにはロッテが詳しかった。

「魔法の力なのじゃ。魔法を帯びた武器は、非実体の相手にも通用するようになるのじゃ」

「やっぱり、日用品のナタだと限界があるのか……」

 難しい顔をするエリカなのだった。
 そんな俺たちに、背後からキャラバンの人が声を掛けてくる。

「やあ三人とも! よく分からない戦い方だったけれど、キャラバンを守ってくれてありがとう……!」

「どういたしまして!」

 エリカは微笑みながら、キャラバンの人と握手した。
 刺客がロッテを狙ってきたなどと、おくびにも出さない。

 実は策略家なのか、何も考えていないのか……。
 勘で動く彼女のことだ。何も考えてないだろう。

「だが、わらわたちはここでキャラバンとは別れねばならない」

 エリカよりも物を考えているロッテがそう告げた。

「えっ!?」

 普通に驚くエリカ。
 やっぱり考えてなかったんだな。

「わらわたちの目的はここから別の方向にあるのじゃ。世話になったのじゃ! 賊は倒したから、ここから先は安全だと思うのじゃー!」

「そうか……。ではこれは、ここまでの給金だよ。少ないけど取っておいて欲しい」

 ちょっとお金をもらえてしまう。
 これはありがたい。

 キャラバンの護衛にも、損害は全く無かったようだ。
 他の冒険者たちからすると、影に潜る俺や、空から降りて来た竜騎士などは仰天ものだったらしいが、キャラバンの人たちには関係ない。

 彼らとは快く別れることになった。
 利用して済まんな……!
 被害がなくて本当に良かった!
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

いきなり異世界って理不尽だ!

みーか
ファンタジー
 三田 陽菜25歳。会社に行こうと家を出たら、足元が消えて、気付けば異世界へ。   自称神様の作った機械のシステムエラーで地球には帰れない。地球の物は何でも魔力と交換できるようにしてもらい、異世界で居心地良く暮らしていきます!

〈完結〉この女を家に入れたことが父にとっての致命傷でした。

江戸川ばた散歩
ファンタジー
「私」アリサは父の後妻の言葉により、家を追い出されることとなる。 だがそれは待ち望んでいた日がやってきたでもあった。横領の罪で連座蟄居されられていた祖父の復活する日だった。 十年前、八歳の時からアリサは父と後妻により使用人として扱われてきた。 ところが自分の代わりに可愛がられてきたはずの異母妹ミュゼットまでもが、義母によって使用人に落とされてしまった。義母は自分の周囲に年頃の女が居ること自体が気に食わなかったのだ。 元々それぞれ自体は仲が悪い訳ではなかった二人は、お互い使用人の立場で二年間共に過ごすが、ミュゼットへの義母の仕打ちの酷さに、アリサは彼女を乳母のもとへ逃がす。 そして更に二年、とうとうその日が来た…… 

【第2部完結】勇者参上!!~究極奥義を取得した俺は来た技全部跳ね返す!究極術式?十字剣?最強魔王?全部まとめてかかってこいや!!~

Bonzaebon
ファンタジー
『ヤツは泥だらけになっても、傷だらけになろうとも立ち上がる。』  元居た流派の宗家に命を狙われ、激戦の末、究極奥義を完成させ、大武会を制した勇者ロア。彼は強敵達との戦いを経て名実ともに強くなった。  「今度は……みんなに恩返しをしていく番だ!」  仲間がいてくれたから成長できた。だからこそ、仲間のみんなの力になりたい。そう思った彼は旅を続ける。俺だけじゃない、みんなもそれぞれ問題を抱えている。勇者ならそれを手助けしなきゃいけない。 『それはいつか、あなたの勇気に火を灯す……。』

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

お花畑な母親が正当な跡取りである兄を差し置いて俺を跡取りにしようとしている。誰か助けて……

karon
ファンタジー
我が家にはおまけがいる。それは俺の兄、しかし兄はすべてに置いて俺に勝っており、俺は凡人以下。兄を差し置いて俺が跡取りになったら俺は詰む。何とかこの状況から逃げ出したい。

ハズレスキル【収納】のせいで実家を追放されたが、全てを収納できるチートスキルでした。今更土下座してももう遅い

平山和人
ファンタジー
侯爵家の三男であるカイトが成人の儀で授けられたスキルは【収納】であった。アイテムボックスの下位互換だと、家族からも見放され、カイトは家を追放されることになった。 ダンジョンをさまよい、魔物に襲われ死ぬと思われた時、カイトは【収納】の真の力に気づく。【収納】は魔物や魔法を吸収し、さらには異世界の飲食物を取り寄せることができるチートスキルであったのだ。 かくして自由になったカイトは世界中を自由気ままに旅することになった。一方、カイトの家族は彼の活躍を耳にしてカイトに戻ってくるように土下座してくるがもう遅い。

(完)聖女様は頑張らない

青空一夏
ファンタジー
私は大聖女様だった。歴史上最強の聖女だった私はそのあまりに強すぎる力から、悪魔? 魔女?と疑われ追放された。 それも命を救ってやったカール王太子の命令により追放されたのだ。あの恩知らずめ! 侯爵令嬢の色香に負けやがって。本物の聖女より偽物美女の侯爵令嬢を選びやがった。 私は逃亡中に足をすべらせ死んだ? と思ったら聖女認定の最初の日に巻き戻っていた!! もう全力でこの国の為になんか働くもんか! 異世界ゆるふわ設定ご都合主義ファンタジー。よくあるパターンの聖女もの。ラブコメ要素ありです。楽しく笑えるお話です。(多分😅)

【書籍化】パーティー追放から始まる収納無双!~姪っ子パーティといく最強ハーレム成り上がり~

くーねるでぶる(戒め)
ファンタジー
【24年11月5日発売】 その攻撃、収納する――――ッ!  【収納】のギフトを賜り、冒険者として活躍していたアベルは、ある日、一方的にパーティから追放されてしまう。  理由は、マジックバッグを手に入れたから。  マジックバッグの性能は、全てにおいてアベルの【収納】のギフトを上回っていたのだ。  これは、3度にも及ぶパーティ追放で、すっかり自信を見失った男の再生譚である。

処理中です...