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第一章
第9話 一網打尽、ゴブリン巣穴
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すーっと大きく息を吸った。
手で合図して、エリカには息を止めてもらう。
巣穴の奥からは、ギイギイという叫び声とともにゴブリンたちが駆け出してくるのが分かる。
遅いのだ……!
ゴブリンが石を投げるモーションよりも、俺が息を吐くほうが速い!
「バッドステータスブレス!」
叫びとともに、俺の口から緑や紫の、毒々しい色彩が混じり合った息が吐き出された。
これ、ものすごい量の息が出るんだよな!
あっという間に巣穴の見える範囲を覆い尽くす、くさい息。
「ウグワーッ!?」「ウグワーッ!!」「ウグワーッ!!」「ウグワーッ!!」
「ウグワーッ!!」「ウグワーッ!!」「ウグワーッ!!」「ウグワーッ!!」
「ウグワーッ!!」「ウグワーッ!!」「ウグワーッ!!」「ウグワーッ!!」
「ウグワーッ!!」「ウグワーッ!!」「ウグワーッ!!」「ウグワーッ!!」
「ウグワーッ!!」「ウグワーッ!!」「ウグワーッ!!」「ウグワーッ!!」
「ウグワーッ!!」「ウグワーッ!!」「ウグワーッ!!」「ウグワーッ!!」
しばらく叫びが連続した。
そして静かになる。
俺は口を閉じた。
いやあ……存分に吐き出したなあ。
ふと、振り返ってみる。
エリカが真っ青な顔をしながら鼻を摘んでいた。
「だ、だ、大丈夫だ!」
「すげえ……。本当に我慢してみせた……! エリカ、お前はすごいやつだ!!」
俺は心の底からこの相棒を尊敬した。
未来の大騎士であるという己の矜持だけで、ゴブリンを一掃したくさい息を耐えきって見せたのだ!
「でもちょっと待って……。深呼吸する……!」
エリカはバタバタと遠くに走っていき、スーハースーハーと深呼吸をした。
顔色が元通りになった彼女が戻ってきた。
タフだ。
「牛乳配達で鍛えているからな! これも全部、未来のための鍛錬だ!」
「なんて頼もしいやつだ」
二人でイエーイ、とハイタッチした。
そしてしばらく、巣穴に充満したくさい息が晴れるまで待つ。
この息、時間が経つと消滅するのだ。
エリカを制しながら、巣穴の臭いをかぐ。
「くさい息のひどい香りが消えた。ゴブリンのひどい臭いしかしない」
「よし、安心だな! だがドルマ、もしかして臭いをかぎ分けられるのか?」
「ああ。くさい息を身につけた時に、ついでで獲得した能力みたいだ」
もしかすると、他の技もついでで能力がついてきてるかもしれない。
だが、今はそれよりも巣穴の探索だ。
「いやあ、松明がもらえて本当に良かったなあ」
「ああ! ゴブリンの巣穴ってこんなに暗いんだな! 普通の家くらい明るいかと思っていた!」
「エリカが備えてなかったのは、単純に知らなかったのか。もしや冒険系の知識は薄め……?」
「フォンテインの物語にあるくらいのことは知ってるぞ!」
「そうか。じゃあ、こっち方面は俺が気にしておかなくちゃな」
役割分担はしっかりと行わなきゃいけないな。
俺が現実を担当して、エリカは俺の精神的な支柱を担当してもらうのだ。
完璧じゃないか。
松明を使って、ゴブリンの巣穴を照らす。
ゴブリンは死屍累々。
くさい息では死なないが、毒を受けたら治療しないと死ぬからな。
「思ったよりも数がいたな。私たち二人では厳しかったかもしれないな!」
「ああ。普通、二人でゴブリンの巣穴に挑むなんて、よっぽどのバカか英雄だけだ」
「ということは……私たちは英雄だな!」
「そうなるな……!」
またエリカとハイタッチした。
気分が良くなったエリカは、鼻歌など奏でつつ巣穴を突き進む。
「ドルマ! これはゴブリンが略奪した道具じゃないか?」
「おお、どれどれ!?」
そこは薄っすらと明るかった。
どうやら壁に穴が穿たれており、そこから僅かに外の光が入ってくるようになっているのだ。
ゴブリンが加工したんだろう。
部屋の中には、様々な道具が散乱していた。
棍棒とか、手斧とか、あるいは粗末な手作りの槍とか。
「足跡がある! ゴブリンはまだ生きているぞ!」
「仲間たちが倒れていくから、慌ててくさい息から逃げたんだな? じゃあ、もしかして巣穴は他の巣穴や、もしかすると砦に繋がっている?」
薄明るい部屋の奥へ奥へと足跡は続いていた。
だが、それは壁に遮られて途絶えた。
「何かの仕掛けがあるんだろうか? だが、俺たちには盗賊の技術はない」
「ないな……! どうする?」
「巣穴一つを制圧する仕事は果たしただろ? ここで一旦戻った方がいいだろう」
「そうするか! よし、じゃあ使えそうな武器を拾っていこう」
「行こう行こう」
ここで、エリカは錆びたナイフを何本か。
俺は手斧を手に入れた。
他は汚れていたり刃が欠けていたりで、使い物にならなかったのだ。
だが、一応は装備が充実したぞ。
俺は棒きれから手斧への圧倒的ランクアップだ。
「よし、手斧を持ったままでゴブリンパンチをしてみよう」
手近な木に向かって、技を使ってみる。
「ゴブリンパンチ!」
すると、素手だった時はパンチに過ぎなかった連続攻撃が、手斧による連続攻撃に変化したのだ。
俺は斧を突き出したポーズのままなのに、斧を握った腕が残像みたいになり、無数の攻撃を繰り出している。
木の幹にでたらめな斬撃が叩き込まれ、大きくえぐれた。
「やっぱりだ。この技、俺が持つ武器によって威力が変わるぞ……! もしかすると、他の技もそうか。渦潮カッターを熱湯でやってみるとか、唐辛子を混ぜてみるとか……」
「いいなあ……。私もそういう技が欲しくなってくる……!」
エリカに羨ましがられつつ、帰途についたのだった。
手で合図して、エリカには息を止めてもらう。
巣穴の奥からは、ギイギイという叫び声とともにゴブリンたちが駆け出してくるのが分かる。
遅いのだ……!
ゴブリンが石を投げるモーションよりも、俺が息を吐くほうが速い!
「バッドステータスブレス!」
叫びとともに、俺の口から緑や紫の、毒々しい色彩が混じり合った息が吐き出された。
これ、ものすごい量の息が出るんだよな!
あっという間に巣穴の見える範囲を覆い尽くす、くさい息。
「ウグワーッ!?」「ウグワーッ!!」「ウグワーッ!!」「ウグワーッ!!」
「ウグワーッ!!」「ウグワーッ!!」「ウグワーッ!!」「ウグワーッ!!」
「ウグワーッ!!」「ウグワーッ!!」「ウグワーッ!!」「ウグワーッ!!」
「ウグワーッ!!」「ウグワーッ!!」「ウグワーッ!!」「ウグワーッ!!」
「ウグワーッ!!」「ウグワーッ!!」「ウグワーッ!!」「ウグワーッ!!」
「ウグワーッ!!」「ウグワーッ!!」「ウグワーッ!!」「ウグワーッ!!」
しばらく叫びが連続した。
そして静かになる。
俺は口を閉じた。
いやあ……存分に吐き出したなあ。
ふと、振り返ってみる。
エリカが真っ青な顔をしながら鼻を摘んでいた。
「だ、だ、大丈夫だ!」
「すげえ……。本当に我慢してみせた……! エリカ、お前はすごいやつだ!!」
俺は心の底からこの相棒を尊敬した。
未来の大騎士であるという己の矜持だけで、ゴブリンを一掃したくさい息を耐えきって見せたのだ!
「でもちょっと待って……。深呼吸する……!」
エリカはバタバタと遠くに走っていき、スーハースーハーと深呼吸をした。
顔色が元通りになった彼女が戻ってきた。
タフだ。
「牛乳配達で鍛えているからな! これも全部、未来のための鍛錬だ!」
「なんて頼もしいやつだ」
二人でイエーイ、とハイタッチした。
そしてしばらく、巣穴に充満したくさい息が晴れるまで待つ。
この息、時間が経つと消滅するのだ。
エリカを制しながら、巣穴の臭いをかぐ。
「くさい息のひどい香りが消えた。ゴブリンのひどい臭いしかしない」
「よし、安心だな! だがドルマ、もしかして臭いをかぎ分けられるのか?」
「ああ。くさい息を身につけた時に、ついでで獲得した能力みたいだ」
もしかすると、他の技もついでで能力がついてきてるかもしれない。
だが、今はそれよりも巣穴の探索だ。
「いやあ、松明がもらえて本当に良かったなあ」
「ああ! ゴブリンの巣穴ってこんなに暗いんだな! 普通の家くらい明るいかと思っていた!」
「エリカが備えてなかったのは、単純に知らなかったのか。もしや冒険系の知識は薄め……?」
「フォンテインの物語にあるくらいのことは知ってるぞ!」
「そうか。じゃあ、こっち方面は俺が気にしておかなくちゃな」
役割分担はしっかりと行わなきゃいけないな。
俺が現実を担当して、エリカは俺の精神的な支柱を担当してもらうのだ。
完璧じゃないか。
松明を使って、ゴブリンの巣穴を照らす。
ゴブリンは死屍累々。
くさい息では死なないが、毒を受けたら治療しないと死ぬからな。
「思ったよりも数がいたな。私たち二人では厳しかったかもしれないな!」
「ああ。普通、二人でゴブリンの巣穴に挑むなんて、よっぽどのバカか英雄だけだ」
「ということは……私たちは英雄だな!」
「そうなるな……!」
またエリカとハイタッチした。
気分が良くなったエリカは、鼻歌など奏でつつ巣穴を突き進む。
「ドルマ! これはゴブリンが略奪した道具じゃないか?」
「おお、どれどれ!?」
そこは薄っすらと明るかった。
どうやら壁に穴が穿たれており、そこから僅かに外の光が入ってくるようになっているのだ。
ゴブリンが加工したんだろう。
部屋の中には、様々な道具が散乱していた。
棍棒とか、手斧とか、あるいは粗末な手作りの槍とか。
「足跡がある! ゴブリンはまだ生きているぞ!」
「仲間たちが倒れていくから、慌ててくさい息から逃げたんだな? じゃあ、もしかして巣穴は他の巣穴や、もしかすると砦に繋がっている?」
薄明るい部屋の奥へ奥へと足跡は続いていた。
だが、それは壁に遮られて途絶えた。
「何かの仕掛けがあるんだろうか? だが、俺たちには盗賊の技術はない」
「ないな……! どうする?」
「巣穴一つを制圧する仕事は果たしただろ? ここで一旦戻った方がいいだろう」
「そうするか! よし、じゃあ使えそうな武器を拾っていこう」
「行こう行こう」
ここで、エリカは錆びたナイフを何本か。
俺は手斧を手に入れた。
他は汚れていたり刃が欠けていたりで、使い物にならなかったのだ。
だが、一応は装備が充実したぞ。
俺は棒きれから手斧への圧倒的ランクアップだ。
「よし、手斧を持ったままでゴブリンパンチをしてみよう」
手近な木に向かって、技を使ってみる。
「ゴブリンパンチ!」
すると、素手だった時はパンチに過ぎなかった連続攻撃が、手斧による連続攻撃に変化したのだ。
俺は斧を突き出したポーズのままなのに、斧を握った腕が残像みたいになり、無数の攻撃を繰り出している。
木の幹にでたらめな斬撃が叩き込まれ、大きくえぐれた。
「やっぱりだ。この技、俺が持つ武器によって威力が変わるぞ……! もしかすると、他の技もそうか。渦潮カッターを熱湯でやってみるとか、唐辛子を混ぜてみるとか……」
「いいなあ……。私もそういう技が欲しくなってくる……!」
エリカに羨ましがられつつ、帰途についたのだった。
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