「スキル:くさい息で敵ごと全滅するところだった!」と追放された俺は理解ある女騎士と出会って真の力に覚醒する~ラーニング能力で楽々冒険ライフ~

あけちともあき

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第一章

第6話 初めての装備変更

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 初めての依頼を終えた俺とエリカ。
 仕事から帰ってきた足で、武器屋にやって来たのだった。

 武器屋にもランクがあり、魔法の武器防具を取り扱う最高級店、オーダーメイドを受け付けている高級店、一般的な武器防具を揃えている専門店、そして日用雑貨や金物全般を取り扱う金物屋と分かれる。

 俺たちがやって来たのは、当然のように金物屋だ!
 専門的な武器防具はほとんど置かれていないが、日用品も使い込めば武器となる。
 それに、小さな村を助けた報酬では、専門店だと武器一つくらいしか買えないだろう。

「買い物は、なんというかこう……ワクワクするな!」

「エリカ、使いすぎ注意だぞ。この後、祝勝会をやるんだからな」

「そうだった! じゃあ予算は私と君でこれくらいで……」

「俺が防具、エリカが武器だな」

 そういうことになった。
 俺は武器がなくても、ラーニングという能力で敵の技を覚えて使える。

 武器による直接攻撃はエリカに任せればいいわけだ。
 むしろ、俺は敵の技をあえて受ける必要があるので、守りを固めねばならない。

 エリカと分かれて店内を回遊する。
 金物を買いに来たご夫婦とか、俺たちみたいな初級冒険者がチラホラだ。

 軍手とか虫よけの覆いもいいな。
 だが、まずは防具防具……。

 その時、俺の目に飛び込んできたものはまさに運命の出会いだった。
 それは、『防具にもなる!』と商品説明が貼り付けられた鍋だった。

 また鍋である。

「あの」

「はいはい、なんだい」

 金物屋のご主人が寄ってきた。

「これ、防具にもなるって。でもサイズが小さいし」

「ああ、これね。一緒に鍋つかみがついてくるんだけど、鍋つかみを広げて鍋の中に敷けば……ほら」

 鍋つかみを展開させ、鍋にセット。
 そして主人は俺に鍋を被らせた。

「あっ! 兜じゃん!! これ、兜じゃん!!」

 俺は衝撃に打ち震える……!!

「熱にも強いし、通ってきた熱は鍋つかみで和らげるし。しかもお値段はこれだよ、これ」

「予算ギリギリ! いいじゃないかいいじゃないか」

 体の守りは、大きい鍋をくくりつければいい。
 頭の守りは、小さい鍋をかぶればいいのだ。

「鉄壁の守りになってしまったな……。この予算でもいけるもんだ」

「お買い上げありがとうなー。早速装備して行くかい?」

「町中で鍋を被ってたら変な人だろ」

「そりゃあそうだ。わっはっは!」

「わっはっは! ところで連れの女騎士(自称)がいたと思うが」

「ああ。あそこでナタを吟味してるね」

「ナタかあ!」

 今までは短剣しか武器が無かった。
 そのため、使い勝手はよくても、いどまじんのような大物相手の殺傷力に欠けた。
 エリカもこのことを反省しているのだろう。

 鎌とナタの並んだコーナーで考え込んでいる。

「どこで迷ってるんだ、エリカ」

「ドルマ。ナタにしようと思ったんだけど、鎌もかっこいいなーって」

「そうだな。鎌はかっこいい。だけど、鎌は内側に刃がついてるだろ? 当てるの難しいんじゃないか。あとは騎士っぽくないだろ」

「あっ、そうだ」

 騎士っぽくない、がエリカの決断するポイントになったらしい。
 彼女は手にしていた鎌を元の位置に戻し、いかついナタを取り上げた。

「じゃあ、やっぱりナタだな! 剣っぽいし」

「ああ、どっちも刃物だ! いいぞいいぞ、騎士っぽい」

 俺たちが盛り上がっている後ろで、店の主人が首を傾げていた。

「騎士……? ナタと鍋で……?」

「ご主人、これください!」

「はい、お買い上げありがとう!」

 訝しげな顔が、一瞬で営業スマイルになった。
 プロだ。

「裏に素振りできるところがあるけど、振ってくかい?」

「なんで金物屋に素振り場が併設されてんの?」

 俺の疑問はスルーされた。
 そこでは、俺たち同様の初級冒険者たちが、手にした日用品を振り回しているではないか。

 なるほど、ここで体に馴染ませるのか。
 やはり、この店は冒険者たちのための店でもあるのだ。

 そこに一人、見知った顔があった。
 俺を追放した戦士イチモジだ。

「げえっ、ドルマ!」

「ぬおっ、イチモジ!」

 イチモジはその手に手斧を持っており、これを振り回していたのだった。
 なるほど、剛力のイチモジなら、斧はベストマッチだろう。

「ドルマ、お前……まだ里に帰ってなかったのか……!」

「里に帰ってもくさい息があだ名の俺に居場所はない!」

「それはそう」

「だろ?」

 微妙な空気になってしまった。
 イチモジは俺の後ろで、ナタを振り回したくてウズウズしているエリカに気付いたようだ。

「お前、仲間ができたのか! お前のくさい息を知って仲間になるとは、ずいぶん豪気なやつだな……って、カウンターの主か。納得……」

「納得するなよ」

「ドルマドルマ! 旧友と出会った感じか? じゃあそこでしばしご歓談しててくれ! 私はナタを振り回してくる!」

 いそいそと走っていくエリカ。
 金物屋の奥さんから、「試し切りならこれ割っておいてくれるかい?」と薪を大量に受け取り、これを喜び勇んでガンガン叩き割っている。
 便利に使われているぞ、エリカ!

「そっちはどうなんだイチモジ」

「ああ。俺たちは四人でもバランスが取れているからな。どうにか身の丈に合った依頼を選んで受けてる。そもそもお前がいた頃も、お前だけ冒険者としての職業が無いから、戦ってる横から敵を棒で叩くだけだったじゃないか」

「確かにな……。だけど、俺はこの間の冒険で、自分の能力を把握したんだ。くさい息はその一つでしかなかった」

「なん……だと……!?」

 イチモジ、たもとを分かってしまった男だが、いちいち反応してくれる辺りは付き合いがいいんだよな。

「見てろよ。あ、何か水をくれ」

「水袋でいい?」

「それでいい。ありがとー」

 イチモジから水袋を借り、手に平に水を出す。

「渦潮カッター!」

 俺が技の名を呼ぶと、手の平の水が高速で回転を始めた。
 回転が最高潮に達した瞬間、それはバビュンっと飛び出していく。

 そして、近くにあった試し切り用の木人に炸裂すると、その胴体を叩き切ったのである。

「うおおっ!! 魔法か!?」

「よく分からん」

 本当によく分からないのだ。
 二人で何なんだろうなあ、と考えた後、イチモジの方がハッとした。

「くそっ、お前を追放したんだった! ここで仲良く喋ってるのがバレたら、パーティの人間関係が悪くなる!」

「そうか、お前も大変だなあ……」

「主な仕事は人間関係の調整だからな……! 俺は帰るぞ。お前もせいぜい、体に気をつけて冒険することだな!」

「お互い怪我に気をつけような」

 こうして、俺はイチモジと別れた。
 ナタを振り回して、満足したエリカが戻ってきた。

「いやあ、3日分の薪を割ってしまったぞ! ところでさっきのは誰だったんだ?」

「俺をパーティから追放した幼なじみだ」

「そうなのか。ずいぶん仲が良かったように見えたが」

「そこまで仲良しじゃないんだけど、俺はエリカがいてくれるお陰で精神的に安定したからな。本当に感謝してるよ。俺にとっては幸運の女神的な存在だ」

「おっ、そ、そ、そうか! じゃあ、ほら、祝勝会行くぞ! 行くぞ!」

 エリカが先に歩きだしてしまった。

「おい、歩くの早いぞエリカ! なんでどんどん進むんだ! なんか耳が赤いぞ! ナタでハッスルし過ぎたんじゃないのか!?」

 結局彼女は振り返らなかったのである。
 
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