「スキル:くさい息で敵ごと全滅するところだった!」と追放された俺は理解ある女騎士と出会って真の力に覚醒する~ラーニング能力で楽々冒険ライフ~

あけちともあき

文字の大きさ
上 下
6 / 83
第一章

第6話 初めての装備変更

しおりを挟む
 初めての依頼を終えた俺とエリカ。
 仕事から帰ってきた足で、武器屋にやって来たのだった。

 武器屋にもランクがあり、魔法の武器防具を取り扱う最高級店、オーダーメイドを受け付けている高級店、一般的な武器防具を揃えている専門店、そして日用雑貨や金物全般を取り扱う金物屋と分かれる。

 俺たちがやって来たのは、当然のように金物屋だ!
 専門的な武器防具はほとんど置かれていないが、日用品も使い込めば武器となる。
 それに、小さな村を助けた報酬では、専門店だと武器一つくらいしか買えないだろう。

「買い物は、なんというかこう……ワクワクするな!」

「エリカ、使いすぎ注意だぞ。この後、祝勝会をやるんだからな」

「そうだった! じゃあ予算は私と君でこれくらいで……」

「俺が防具、エリカが武器だな」

 そういうことになった。
 俺は武器がなくても、ラーニングという能力で敵の技を覚えて使える。

 武器による直接攻撃はエリカに任せればいいわけだ。
 むしろ、俺は敵の技をあえて受ける必要があるので、守りを固めねばならない。

 エリカと分かれて店内を回遊する。
 金物を買いに来たご夫婦とか、俺たちみたいな初級冒険者がチラホラだ。

 軍手とか虫よけの覆いもいいな。
 だが、まずは防具防具……。

 その時、俺の目に飛び込んできたものはまさに運命の出会いだった。
 それは、『防具にもなる!』と商品説明が貼り付けられた鍋だった。

 また鍋である。

「あの」

「はいはい、なんだい」

 金物屋のご主人が寄ってきた。

「これ、防具にもなるって。でもサイズが小さいし」

「ああ、これね。一緒に鍋つかみがついてくるんだけど、鍋つかみを広げて鍋の中に敷けば……ほら」

 鍋つかみを展開させ、鍋にセット。
 そして主人は俺に鍋を被らせた。

「あっ! 兜じゃん!! これ、兜じゃん!!」

 俺は衝撃に打ち震える……!!

「熱にも強いし、通ってきた熱は鍋つかみで和らげるし。しかもお値段はこれだよ、これ」

「予算ギリギリ! いいじゃないかいいじゃないか」

 体の守りは、大きい鍋をくくりつければいい。
 頭の守りは、小さい鍋をかぶればいいのだ。

「鉄壁の守りになってしまったな……。この予算でもいけるもんだ」

「お買い上げありがとうなー。早速装備して行くかい?」

「町中で鍋を被ってたら変な人だろ」

「そりゃあそうだ。わっはっは!」

「わっはっは! ところで連れの女騎士(自称)がいたと思うが」

「ああ。あそこでナタを吟味してるね」

「ナタかあ!」

 今までは短剣しか武器が無かった。
 そのため、使い勝手はよくても、いどまじんのような大物相手の殺傷力に欠けた。
 エリカもこのことを反省しているのだろう。

 鎌とナタの並んだコーナーで考え込んでいる。

「どこで迷ってるんだ、エリカ」

「ドルマ。ナタにしようと思ったんだけど、鎌もかっこいいなーって」

「そうだな。鎌はかっこいい。だけど、鎌は内側に刃がついてるだろ? 当てるの難しいんじゃないか。あとは騎士っぽくないだろ」

「あっ、そうだ」

 騎士っぽくない、がエリカの決断するポイントになったらしい。
 彼女は手にしていた鎌を元の位置に戻し、いかついナタを取り上げた。

「じゃあ、やっぱりナタだな! 剣っぽいし」

「ああ、どっちも刃物だ! いいぞいいぞ、騎士っぽい」

 俺たちが盛り上がっている後ろで、店の主人が首を傾げていた。

「騎士……? ナタと鍋で……?」

「ご主人、これください!」

「はい、お買い上げありがとう!」

 訝しげな顔が、一瞬で営業スマイルになった。
 プロだ。

「裏に素振りできるところがあるけど、振ってくかい?」

「なんで金物屋に素振り場が併設されてんの?」

 俺の疑問はスルーされた。
 そこでは、俺たち同様の初級冒険者たちが、手にした日用品を振り回しているではないか。

 なるほど、ここで体に馴染ませるのか。
 やはり、この店は冒険者たちのための店でもあるのだ。

 そこに一人、見知った顔があった。
 俺を追放した戦士イチモジだ。

「げえっ、ドルマ!」

「ぬおっ、イチモジ!」

 イチモジはその手に手斧を持っており、これを振り回していたのだった。
 なるほど、剛力のイチモジなら、斧はベストマッチだろう。

「ドルマ、お前……まだ里に帰ってなかったのか……!」

「里に帰ってもくさい息があだ名の俺に居場所はない!」

「それはそう」

「だろ?」

 微妙な空気になってしまった。
 イチモジは俺の後ろで、ナタを振り回したくてウズウズしているエリカに気付いたようだ。

「お前、仲間ができたのか! お前のくさい息を知って仲間になるとは、ずいぶん豪気なやつだな……って、カウンターの主か。納得……」

「納得するなよ」

「ドルマドルマ! 旧友と出会った感じか? じゃあそこでしばしご歓談しててくれ! 私はナタを振り回してくる!」

 いそいそと走っていくエリカ。
 金物屋の奥さんから、「試し切りならこれ割っておいてくれるかい?」と薪を大量に受け取り、これを喜び勇んでガンガン叩き割っている。
 便利に使われているぞ、エリカ!

「そっちはどうなんだイチモジ」

「ああ。俺たちは四人でもバランスが取れているからな。どうにか身の丈に合った依頼を選んで受けてる。そもそもお前がいた頃も、お前だけ冒険者としての職業が無いから、戦ってる横から敵を棒で叩くだけだったじゃないか」

「確かにな……。だけど、俺はこの間の冒険で、自分の能力を把握したんだ。くさい息はその一つでしかなかった」

「なん……だと……!?」

 イチモジ、たもとを分かってしまった男だが、いちいち反応してくれる辺りは付き合いがいいんだよな。

「見てろよ。あ、何か水をくれ」

「水袋でいい?」

「それでいい。ありがとー」

 イチモジから水袋を借り、手に平に水を出す。

「渦潮カッター!」

 俺が技の名を呼ぶと、手の平の水が高速で回転を始めた。
 回転が最高潮に達した瞬間、それはバビュンっと飛び出していく。

 そして、近くにあった試し切り用の木人に炸裂すると、その胴体を叩き切ったのである。

「うおおっ!! 魔法か!?」

「よく分からん」

 本当によく分からないのだ。
 二人で何なんだろうなあ、と考えた後、イチモジの方がハッとした。

「くそっ、お前を追放したんだった! ここで仲良く喋ってるのがバレたら、パーティの人間関係が悪くなる!」

「そうか、お前も大変だなあ……」

「主な仕事は人間関係の調整だからな……! 俺は帰るぞ。お前もせいぜい、体に気をつけて冒険することだな!」

「お互い怪我に気をつけような」

 こうして、俺はイチモジと別れた。
 ナタを振り回して、満足したエリカが戻ってきた。

「いやあ、3日分の薪を割ってしまったぞ! ところでさっきのは誰だったんだ?」

「俺をパーティから追放した幼なじみだ」

「そうなのか。ずいぶん仲が良かったように見えたが」

「そこまで仲良しじゃないんだけど、俺はエリカがいてくれるお陰で精神的に安定したからな。本当に感謝してるよ。俺にとっては幸運の女神的な存在だ」

「おっ、そ、そ、そうか! じゃあ、ほら、祝勝会行くぞ! 行くぞ!」

 エリカが先に歩きだしてしまった。

「おい、歩くの早いぞエリカ! なんでどんどん進むんだ! なんか耳が赤いぞ! ナタでハッスルし過ぎたんじゃないのか!?」

 結局彼女は振り返らなかったのである。
 
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる

農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」 そんな言葉から始まった異世界召喚。 呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!? そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう! このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。 勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定 私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。 ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。 他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。 なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。

うっかり女神さまからもらった『レベル9999』は使い切れないので、『譲渡』スキルで仲間を強化して最強パーティーを作ることにしました

akairo
ファンタジー
「ごめんなさい!貴方が死んだのは私のクシャミのせいなんです!」 帰宅途中に工事現場の足台が直撃して死んだ、早良 悠月(さわら ゆずき)が目覚めた目の前には女神さまが土下座待機をして待っていた。 謝る女神さまの手によって『ユズキ』として転生することになったが、その直後またもや女神さまの手違いによって、『レベル9999』と職業『譲渡士』という謎の職業を付与されてしまう。 しかし、女神さまの世界の最大レベルは99。 勇者や魔王よりも強いレベルのまま転生することになったユズキの、使い切ることもできないレベルの使い道は仲間に譲渡することだった──!? 転生先で出会ったエルフと魔族の少女。スローライフを掲げるユズキだったが、二人と共に世界を回ることで国を巻き込む争いへと巻き込まれていく。 ※9月16日  タイトル変更致しました。 前タイトルは『レベル9999は転生した世界で使い切れないので、仲間にあげることにしました』になります。 仲間を強くして無双していく話です。 『小説家になろう』様でも公開しています。

能力値カンストで異世界転生したので…のんびり生きちゃダメですか?

火産霊神
ファンタジー
私の異世界転生、思ってたのとちょっと違う…? 24歳OLの立花由芽は、ある日異世界転生し「ユメ」という名前の16歳の魔女として生きることに。その世界は魔王の脅威に怯え…ているわけでもなく、レベルアップは…能力値がカンストしているのでする必要もなく、能力を持て余した彼女はスローライフをおくることに。そう決めた矢先から何やらイベントが発生し…!?

レベルを上げて通販で殴る~囮にされて落とし穴に落とされたが大幅レベルアップしてざまぁする。危険な封印ダンジョンも俺にかかればちょろいもんさ~

喰寝丸太
ファンタジー
異世界に転移した山田(やまだ) 無二(むに)はポーターの仕事をして早6年。 おっさんになってからも、冒険者になれずくすぶっていた。 ある日、モンスター無限増殖装置を誤って作動させたパーティは無二を囮にして逃げ出す。 落とし穴にも落とされ絶体絶命の無二。 機転を利かせ助かるも、そこはダンジョンボスの扉の前。 覚悟を決めてボスに挑む無二。 通販能力でからくも勝利する。 そして、ダンジョンコアの魔力を吸出し大幅レベルアップ。 アンデッドには聖水代わりに殺菌剤、光魔法代わりに紫外線ライト。 霧のモンスターには掃除機が大活躍。 異世界モンスターを現代製品の通販で殴る快進撃が始まった。 カクヨム、小説家になろう、アルファポリスに掲載しております。

おっさんなのに異世界召喚されたらしいので適当に生きてみることにした

高鉢 健太
ファンタジー
 ふと気づけば見知らぬ石造りの建物の中に居た。どうやら召喚によって異世界転移させられたらしかった。  ラノベでよくある展開に、俺は呆れたね。  もし、あと20年早ければ喜んだかもしれん。だが、アラフォーだぞ?こんなおっさんを召喚させて何をやらせる気だ。  とは思ったが、召喚した連中は俺に生贄の美少女を差し出してくれるらしいじゃないか、その役得を存分に味わいながら異世界の冒険を楽しんでやろう!

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

転生幼女の攻略法〜最強チートの異世界日記〜

みおな
ファンタジー
 私の名前は、瀬尾あかり。 37歳、日本人。性別、女。職業は一般事務員。容姿は10人並み。趣味は、物語を書くこと。  そう!私は、今流行りのラノベをスマホで書くことを趣味にしている、ごくごく普通のOLである。  今日も、いつも通りに仕事を終え、いつも通りに帰りにスーパーで惣菜を買って、いつも通りに1人で食事をする予定だった。  それなのに、どうして私は道路に倒れているんだろう?後ろからぶつかってきた男に刺されたと気付いたのは、もう意識がなくなる寸前だった。  そして、目覚めた時ー

処理中です...