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7・魔王が来たりて編
第82話 そいつはたった一枚のコイン
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「ウーナギ、頼みがあるんだ!」
「ああ、待っていたよ。多分君はそこにたどり着くだろうと思っていたが、案の定だ。僕が魔王であった時代に君がいなかったことを幸運に思うよ」
ウーナギがふわりとやって来た。
魔王との戦いを傍観していたわけではない。
倒された軍隊が一人も欠けることのないよう、精霊の力を使って守っていたのだ。
守っていてなお、軍隊はみんなふっ飛ばされてしまったんだが。
どうしてウーナギが攻めず、守りを固めていたのか、今はよく分かる。
「一人でも多くの人の力が必要なんだ」
「だろうね。魔王ポンデリグは最強の個の力を振るうタイプの魔王だ。あれを相手に、分散された力で挑むのは愚の骨頂だろう。そしてあの魔王を上回る個の力なんか、この星にありはしない」
「だけど、みんなのチカラがあればそれは分からなくなるだろ」
「その通り。風の精霊をフル動員するよ。おい、軍隊諸君! 少しの間だけ自力で身を守れ! 僕がちょいと世界に呼び掛ける間、死なないように持ちこたえていてくれよ!!」
ウーナギが戦場に呼びかけた。
風をまとった声が、隅々まで届く。
軍隊は慌てたように動き出し、守りの体勢を固めた。
よし、とウーナギはこっちに向き直る。
「さあ、話すんだ。君の声を世界に届ける。なんなら魔王ポンデリグの姿も届けよう」
「頼む!」
風が渦巻き始める。
俺の言葉を、全世界に届けるために。
『何をやっているか! 小癪な! うりゃあ!!』
俺たちが影でコソコソやっているのが気に入らなかったらしい。
ポンデリグが叫びながら、地面を殴った。
すると、奴の全身に纏ったリングが回転をする。
回転が妙な力を産んだようで、魔王が殴った地面が揺れ始めた。
揺れが広がっていく。
地震だ!
強烈な地震が起こる!
空は真っ赤な魔王星と同じ色に染まり、尋常な様子ではない。
「しめた! 魔王が本気を出し始めたぞ! このまま星を砕き、作り変えてしまうつもりだ!」
「どうしてしめたなんだ、ウーナギ」
「世界中の人が、これを感じ取れるからだよ。つまり、これほど恐ろしく、危険な魔王が今この世界に降り立っている! 君たちはこいつに世界を破壊されていいのか!?」
ウーナギが朗々と声を張り上げた。
これは……。
もう、この戦場の音と映像が世界に届いているんじゃないか。
「君の出番だ」
ウーナギに声を掛けられて、俺は頷いた。
自分の顔をパンパン叩く。
深呼吸する。
後ろから、ミスティがギュッと抱きしめてくれた。
「いける! ウーサーはやれる! 大丈夫! あたしがついてるし!」
無根拠なんだけど、なんか安心できる言葉だ。
スッと落ち着いた。
「ありがとミスティ! やるよ!」
俺はウーナギへ向き直った。
「みんな、力を貸してくれ!」
俺は大きな声を出す。
ポンデリグがこっちに向かって、金色の輪っかを飛ばしてきている。
そこに、ヒュージと王女様が集まってきて防いでくれた。
魔剣たちも戦場を飛び回り、魔王の攻撃を撃ち落とす。
みんな時間を稼いでくれている!
「世界は今、とんでもないピンチだ! 魔王が降りてきた! 俺たち一人ひとりの力じゃ全然足りない! 勝てない! だけど!」
俺はぎゅっと拳を握りしめる。
「みんなの力があれば勝てる! みんなの力を合わせれば勝てる! みんな、力を貸してくれ! 俺はみんなの力をまとめて、一つにできるんだ! こう言うふうに……!」
周囲に散らばっている資材や財宝が、形を変えた。
みるみる、見張り塔になる。
すぐにそれは、ポンデリグの攻撃で破壊されてしまった。
「小さな力ならこうなるけれど、みんなの力が合わされば……もっと大きくなる! あいつに勝てる! あいつに!」
俺が指さした魔王が、どうやら世界に映し出されたらしい。
一瞬、世界が揺れた気がした。
世界が魔王を認識した。
そして、それが世界を壊してしまう恐ろしいものだと理解した。
「よし、ウーサー。君に賛同する人々の姿を世界に流す。行くぞ!」
ウーナギが精霊をコントロールする。
今彼は、全ての力を使い、声と映像を世界に届けている。
エルトー商業国の人々が映った。
「手を貸すぞ!」「幾らでも力を使ってくれ!」「なんだ、武器屋のちびじゃないか!」「そんな大したやつだったとはな!」「おい、あいつは俺のところに挨拶に来たんだ! いいやつだ。信用できるぞ!」
国の人々や、最後は鍛冶屋の面々だ。
俺もちょっと笑顔になってしまう。
魔剣鍛冶の里が映った。
「ふむ、これは一大事だな……。趣味の魔剣づくりができなくなる」『力を貸すしかありませんよ。さあ皆さん、ウーサーくんに意識を集めましょう。これはそういうものです』「里を救ってくれてありがとう!」「また遊びに来いよ!」「前よりもずっと楽しいところにしてるからさ!」
カトーとスミスと、里の人たち。
みんな並んで手を振っている。
森王国が映った。
「うおおおおおお!! ウーサー! 俺たちの力を使え!」「我々エルフも協力しよう。種族がどうこう言っている場合ではない」
バーバリアンとエルフたちだ。
その中に、マナビ王とガウがいた。
マナビ王が腕組みして、ニヤリと笑った。
イースマスが映った。
『あ、俺様たちがもろに映るとみんな狂気に陥るからね。声だけ届けるぞ』『がんばってくださいね、ウーサーさん』
オクタゴンとルサルカの声。
それから、イースマスの人たちがわーっと応援する声。
セブンセンス法国に、バイキングたち。
遊牧民に、今まで旅してきた国々。
俺が触れ合ってきた人たちがみんな、手を振っている。
俺の名前を呼んでいる。
胸が熱くなった。
こんなに沢山の人達と、俺は出会ったんだ。
「多くの人々から信頼される少年。英雄と呼ばれるにふさわしい少年! 条件は揃った。君を知らない者はいなくなる! 世界が君を英雄と認め……力を貸してくれる!」
ウーナギが宣言した。
それが、真実になる。
突然、空が明るくなった。
真っ赤に染まっていた空が、端から虹色に変化する。
それは、世界中から集まってくる力だ。
色々な人がいて、色々な種族がいて、それが全部違う色でその力を貸してくれる。
『馬鹿な! 我の領域が染められていく!? なに、一つ一つは弱い力だ! こんなもの踏み潰してしまえば!』
ポンデリグが吠える。
「弱い力でも束ねれば、強くなる! 俺は、そういう力を持ってる!!」
『なにぃ……!!』
「安い鉄貨でも、束ねれば銅貨に。それが銀貨になって、金貨になって、白金貨になって……! 小さい一つ一つの力も集まっていけば、お前を倒せる強い力に変わるんだ!!」
空はもう、様々な色で染まり一刻も同じ姿をしていない。
魔王星の色なんかどこにもなかった。
俺は手を掲げる。
そこに、万色になった空が降り注いだ。
チカラが集まる。
一つの形になる。
俺の手の中に生まれたそれは……。
ありとあらゆる全ての色を宿した、一枚のコインだった。
『それは……それはなんだ……!? 我が知らぬチカラ……!! 我を超える、チカラだと……!? 馬鹿な! 信じぬ! 信じられぬ!!』
ポンデリグが立ち上がる。
浮かべる表情は驚き。
そして恐怖。
魔王はすぐに恐怖を怒りに変えた。
『許さぬ! 許さぬぞ! 我を超えるほどのチカラなどあってはならぬ! 故に、この場でそれを粉砕し、我こそが宇宙で最も強きチカラであると証明する!! ぬわあーっ!!』
魔王が来る。
拳を振り上げ、全身から生み出した黄金のボールをリングに変え、その回転力すらチカラにして、星を砕く一撃を俺に放ってくる。
「行こう、みんな!」
俺は告げる。
万色のコインに、最後に俺の力を乗せる。
すると、コインが射出された。
それほど速くない。
まるで、指先でコインを弾いたみたいな、それくらいの速度。
だけど、ポンデリグはこれを避けられなかった。
まるでコインに吸い込まれるように……。
魔王は万色のコインと衝突したのだった。
『なっ、こんなっ、ものっ……! 我が! 最強の我が、こんな、こんなものに負ける、はずが……!! はずがああああああああああああああ!! ウグワアアアアアアアアアアアアッ!?』
魔王が押し負ける。
拳が弾かれた。
進むコインが、魔王の胸板に炸裂する。
そこから魔王の全身に、万色の輝きが走った。
魔王ポンデリグは、断末魔の声を上げながら……輝きに呑まれていった。
「ああ、待っていたよ。多分君はそこにたどり着くだろうと思っていたが、案の定だ。僕が魔王であった時代に君がいなかったことを幸運に思うよ」
ウーナギがふわりとやって来た。
魔王との戦いを傍観していたわけではない。
倒された軍隊が一人も欠けることのないよう、精霊の力を使って守っていたのだ。
守っていてなお、軍隊はみんなふっ飛ばされてしまったんだが。
どうしてウーナギが攻めず、守りを固めていたのか、今はよく分かる。
「一人でも多くの人の力が必要なんだ」
「だろうね。魔王ポンデリグは最強の個の力を振るうタイプの魔王だ。あれを相手に、分散された力で挑むのは愚の骨頂だろう。そしてあの魔王を上回る個の力なんか、この星にありはしない」
「だけど、みんなのチカラがあればそれは分からなくなるだろ」
「その通り。風の精霊をフル動員するよ。おい、軍隊諸君! 少しの間だけ自力で身を守れ! 僕がちょいと世界に呼び掛ける間、死なないように持ちこたえていてくれよ!!」
ウーナギが戦場に呼びかけた。
風をまとった声が、隅々まで届く。
軍隊は慌てたように動き出し、守りの体勢を固めた。
よし、とウーナギはこっちに向き直る。
「さあ、話すんだ。君の声を世界に届ける。なんなら魔王ポンデリグの姿も届けよう」
「頼む!」
風が渦巻き始める。
俺の言葉を、全世界に届けるために。
『何をやっているか! 小癪な! うりゃあ!!』
俺たちが影でコソコソやっているのが気に入らなかったらしい。
ポンデリグが叫びながら、地面を殴った。
すると、奴の全身に纏ったリングが回転をする。
回転が妙な力を産んだようで、魔王が殴った地面が揺れ始めた。
揺れが広がっていく。
地震だ!
強烈な地震が起こる!
空は真っ赤な魔王星と同じ色に染まり、尋常な様子ではない。
「しめた! 魔王が本気を出し始めたぞ! このまま星を砕き、作り変えてしまうつもりだ!」
「どうしてしめたなんだ、ウーナギ」
「世界中の人が、これを感じ取れるからだよ。つまり、これほど恐ろしく、危険な魔王が今この世界に降り立っている! 君たちはこいつに世界を破壊されていいのか!?」
ウーナギが朗々と声を張り上げた。
これは……。
もう、この戦場の音と映像が世界に届いているんじゃないか。
「君の出番だ」
ウーナギに声を掛けられて、俺は頷いた。
自分の顔をパンパン叩く。
深呼吸する。
後ろから、ミスティがギュッと抱きしめてくれた。
「いける! ウーサーはやれる! 大丈夫! あたしがついてるし!」
無根拠なんだけど、なんか安心できる言葉だ。
スッと落ち着いた。
「ありがとミスティ! やるよ!」
俺はウーナギへ向き直った。
「みんな、力を貸してくれ!」
俺は大きな声を出す。
ポンデリグがこっちに向かって、金色の輪っかを飛ばしてきている。
そこに、ヒュージと王女様が集まってきて防いでくれた。
魔剣たちも戦場を飛び回り、魔王の攻撃を撃ち落とす。
みんな時間を稼いでくれている!
「世界は今、とんでもないピンチだ! 魔王が降りてきた! 俺たち一人ひとりの力じゃ全然足りない! 勝てない! だけど!」
俺はぎゅっと拳を握りしめる。
「みんなの力があれば勝てる! みんなの力を合わせれば勝てる! みんな、力を貸してくれ! 俺はみんなの力をまとめて、一つにできるんだ! こう言うふうに……!」
周囲に散らばっている資材や財宝が、形を変えた。
みるみる、見張り塔になる。
すぐにそれは、ポンデリグの攻撃で破壊されてしまった。
「小さな力ならこうなるけれど、みんなの力が合わされば……もっと大きくなる! あいつに勝てる! あいつに!」
俺が指さした魔王が、どうやら世界に映し出されたらしい。
一瞬、世界が揺れた気がした。
世界が魔王を認識した。
そして、それが世界を壊してしまう恐ろしいものだと理解した。
「よし、ウーサー。君に賛同する人々の姿を世界に流す。行くぞ!」
ウーナギが精霊をコントロールする。
今彼は、全ての力を使い、声と映像を世界に届けている。
エルトー商業国の人々が映った。
「手を貸すぞ!」「幾らでも力を使ってくれ!」「なんだ、武器屋のちびじゃないか!」「そんな大したやつだったとはな!」「おい、あいつは俺のところに挨拶に来たんだ! いいやつだ。信用できるぞ!」
国の人々や、最後は鍛冶屋の面々だ。
俺もちょっと笑顔になってしまう。
魔剣鍛冶の里が映った。
「ふむ、これは一大事だな……。趣味の魔剣づくりができなくなる」『力を貸すしかありませんよ。さあ皆さん、ウーサーくんに意識を集めましょう。これはそういうものです』「里を救ってくれてありがとう!」「また遊びに来いよ!」「前よりもずっと楽しいところにしてるからさ!」
カトーとスミスと、里の人たち。
みんな並んで手を振っている。
森王国が映った。
「うおおおおおお!! ウーサー! 俺たちの力を使え!」「我々エルフも協力しよう。種族がどうこう言っている場合ではない」
バーバリアンとエルフたちだ。
その中に、マナビ王とガウがいた。
マナビ王が腕組みして、ニヤリと笑った。
イースマスが映った。
『あ、俺様たちがもろに映るとみんな狂気に陥るからね。声だけ届けるぞ』『がんばってくださいね、ウーサーさん』
オクタゴンとルサルカの声。
それから、イースマスの人たちがわーっと応援する声。
セブンセンス法国に、バイキングたち。
遊牧民に、今まで旅してきた国々。
俺が触れ合ってきた人たちがみんな、手を振っている。
俺の名前を呼んでいる。
胸が熱くなった。
こんなに沢山の人達と、俺は出会ったんだ。
「多くの人々から信頼される少年。英雄と呼ばれるにふさわしい少年! 条件は揃った。君を知らない者はいなくなる! 世界が君を英雄と認め……力を貸してくれる!」
ウーナギが宣言した。
それが、真実になる。
突然、空が明るくなった。
真っ赤に染まっていた空が、端から虹色に変化する。
それは、世界中から集まってくる力だ。
色々な人がいて、色々な種族がいて、それが全部違う色でその力を貸してくれる。
『馬鹿な! 我の領域が染められていく!? なに、一つ一つは弱い力だ! こんなもの踏み潰してしまえば!』
ポンデリグが吠える。
「弱い力でも束ねれば、強くなる! 俺は、そういう力を持ってる!!」
『なにぃ……!!』
「安い鉄貨でも、束ねれば銅貨に。それが銀貨になって、金貨になって、白金貨になって……! 小さい一つ一つの力も集まっていけば、お前を倒せる強い力に変わるんだ!!」
空はもう、様々な色で染まり一刻も同じ姿をしていない。
魔王星の色なんかどこにもなかった。
俺は手を掲げる。
そこに、万色になった空が降り注いだ。
チカラが集まる。
一つの形になる。
俺の手の中に生まれたそれは……。
ありとあらゆる全ての色を宿した、一枚のコインだった。
『それは……それはなんだ……!? 我が知らぬチカラ……!! 我を超える、チカラだと……!? 馬鹿な! 信じぬ! 信じられぬ!!』
ポンデリグが立ち上がる。
浮かべる表情は驚き。
そして恐怖。
魔王はすぐに恐怖を怒りに変えた。
『許さぬ! 許さぬぞ! 我を超えるほどのチカラなどあってはならぬ! 故に、この場でそれを粉砕し、我こそが宇宙で最も強きチカラであると証明する!! ぬわあーっ!!』
魔王が来る。
拳を振り上げ、全身から生み出した黄金のボールをリングに変え、その回転力すらチカラにして、星を砕く一撃を俺に放ってくる。
「行こう、みんな!」
俺は告げる。
万色のコインに、最後に俺の力を乗せる。
すると、コインが射出された。
それほど速くない。
まるで、指先でコインを弾いたみたいな、それくらいの速度。
だけど、ポンデリグはこれを避けられなかった。
まるでコインに吸い込まれるように……。
魔王は万色のコインと衝突したのだった。
『なっ、こんなっ、ものっ……! 我が! 最強の我が、こんな、こんなものに負ける、はずが……!! はずがああああああああああああああ!! ウグワアアアアアアアアアアアアッ!?』
魔王が押し負ける。
拳が弾かれた。
進むコインが、魔王の胸板に炸裂する。
そこから魔王の全身に、万色の輝きが走った。
魔王ポンデリグは、断末魔の声を上げながら……輝きに呑まれていった。
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