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7・魔王が来たりて編
第78話 備えよ、魔王に
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旅の話を、思い出す端からウーナギに語って聞かせる。
彼はうんうんと頷きながら、一つ一つの話に口を挟んで確認したり、地図を広げて位置を調べたりしていた。
「なるほど! おおよそ沿岸部の全てだ。内陸を巡るのは効率も悪いからね。そこは十頭蛇の力を使って情報を伝えよう」
「何をする気なんだ?」
「魔王が降りてくると言うのに、みんな蚊帳の外ではいけないだろ。世界はみんなのものだ。みんなで守らなくてはね」
何か企んでるな、ウーナギ……。
いつものことではあるけれど。
「マナビ王からは、僕が今回の魔王討伐の全権限を任されている。ま、バルガイヤーに限ったことだけど、別にこいつを全世界に広げてしまっても問題ないだろ」
「そうかなあ。でも、ま、いいか」
「ウーサーも随分心が広くなったねえ……」
感心されてしまった。
その後、ウーナギは全世界に向けて連絡を開始した。
風の精霊を使って、十頭蛇の構成員に言葉を伝える。
あるいは、世界中にいる十頭蛇とつながりを持っていた人々や、俺と接触した人たちに声を届ける。
空を見ろ。
赤い星が迫ってくる。
あれが魔王星だ。
皆の力であれを撃退しなければならない。
内容は大体こんなものだ。
何しろ、世界の誰もが見える所に赤い星が浮かんでいる。
みんなそいつを不気味に思っていたから、それが魔王そのものだと伝えられると、すぐに納得してしまったのだ。
「人は皆、自分が信じたい物語を望んでいるものだからね。それを与えてやればこんなものさ」
世界中からの声が、風の精霊を伝って直接届く。
どれもが、俺に協力すると言っている声だった。
「だけど、僕が声を届けただけだと無意味だっただろう。だって、身も知らない奴の声に耳を傾ける酔狂な人はほとんどいないからね。だからウーサー、君が世界を巡った意味がある」
「あ、そういう……!!」
ウーナギは声とともに、俺の姿を送ったらしい。
俺と出会った人たちはこれを見て、納得した。
そして、協力することを申し出たのだ。
十頭蛇と繋がっている人たちは、もともと魔王の危険性を聞かされていたらしい。
だから、来るべき時が来たのだ、とすぐに納得した。
全て根回し済みだった……!
とんでもない男だなあ、ウーナギ。
「初代マナビ王から頼まれた事だからね。魔王ってのは、やってるとあれはあれで楽しいもんだよ。だけどあれは正気ではない類の楽しさでね。物凄い全能感と、常に何かを支配せねばという焦燥感に駆られるんだ。追い立てられ続けている。魔王でいる限り、正気ではいられないよ」
今は常に、凪のような気持ちで穏やかに暮らしているのだとウーナギは言う。
寿命があと千年ばかりあるらしいので、世界の移り変わりを眺めながらゆっくり過ごし、たまに世界を守る手助けをするのだそうだ。
「頼むよウーサー。僕にあと千年、のんびりと余生を過ごさせてくれ」
「凄いお願いをされたなあ!」
俺、まだ成人してないくらいの年齢のガキなんだけど。
そしてそんな俺に、全世界の命運みたいなのが掛かってきてしまっている。
前だったら、とんでもない重圧と想像もできない話のスケール感にクラクラしてたと思うけど……。
今は。
「うし、がんばろ、ウーサー!」
「ああ、頑張ろう!!」
ミスティと拳を突き合わせる。
全部終わったら、ミスティを能力から解放してあげられる!
そのためなら幾らでもやってやろうじゃないか。
『考えなしの無茶は若さの特権じゃな! 大概は失敗するものじゃが、無茶をしなければどうにもならん状況というものがある。それが今ということじゃ』
「あの野郎、生意気になりやがって」
『ヒュージは無茶のし過ぎじゃ。もっと頭を使え』
「ぐぬぬぬぬ」
エグゾシーがヒュージの頭の上にいる。
そしてニトリアは……。
スススッと俺たちに寄ってきていた。
『なるほどなるほど。では事が終わったら、ウーサーくんとミスティで仲良く? ではそこにわたくしも加えていただいてですね……』
「うわーっ! は、入ってくんなー!!」
『おほほほほ、ミスティ嫌わないでくださいよ。あなたが油断した瞬間にウーサーくんは頂いてしまいますからね』
二人ともすっかり仲良くなったなあ……。
こうして俺たちは、エルトー商業国の北部にある大平原に陣取ることにした。
そこへ、どんどんと資材が集まってくる。
種類はデタラメだ。
木材だったり、鋼材だったり、武器に防具に藁束に、荷馬車があったかと思うとぎっしり宝石が詰め込まれた宝箱まである。
前世界中から、俺のもとにモノが送り届けられてくるのだ。
凄い量だ。
小さな国なら、二つくらい買えてしまうんじゃないかという額のモノが集まった。
「すっげえ……。これ、全部使っていいのかあ」
「もちろん」
ウーナギがにんまりと笑った。
「君の能力はとにかくコストが掛かる。だが、逆を言えばコストしか掛からない。そのコスト分になるモノを集めておけば、無尽蔵に能力を使い続けられるということだよ。それに旅の中で、君がモノの価値を測る目も鍛えられているだろう。魔王との決戦までに私財を一通り見ておくべきだと思うがね」
「これだけの数をかあ……! でも、やるかあ!」
魔王との最終決戦前の一仕事。
俺はモノの山の価値を見極めるべく、腕まくりをするのだった。
彼はうんうんと頷きながら、一つ一つの話に口を挟んで確認したり、地図を広げて位置を調べたりしていた。
「なるほど! おおよそ沿岸部の全てだ。内陸を巡るのは効率も悪いからね。そこは十頭蛇の力を使って情報を伝えよう」
「何をする気なんだ?」
「魔王が降りてくると言うのに、みんな蚊帳の外ではいけないだろ。世界はみんなのものだ。みんなで守らなくてはね」
何か企んでるな、ウーナギ……。
いつものことではあるけれど。
「マナビ王からは、僕が今回の魔王討伐の全権限を任されている。ま、バルガイヤーに限ったことだけど、別にこいつを全世界に広げてしまっても問題ないだろ」
「そうかなあ。でも、ま、いいか」
「ウーサーも随分心が広くなったねえ……」
感心されてしまった。
その後、ウーナギは全世界に向けて連絡を開始した。
風の精霊を使って、十頭蛇の構成員に言葉を伝える。
あるいは、世界中にいる十頭蛇とつながりを持っていた人々や、俺と接触した人たちに声を届ける。
空を見ろ。
赤い星が迫ってくる。
あれが魔王星だ。
皆の力であれを撃退しなければならない。
内容は大体こんなものだ。
何しろ、世界の誰もが見える所に赤い星が浮かんでいる。
みんなそいつを不気味に思っていたから、それが魔王そのものだと伝えられると、すぐに納得してしまったのだ。
「人は皆、自分が信じたい物語を望んでいるものだからね。それを与えてやればこんなものさ」
世界中からの声が、風の精霊を伝って直接届く。
どれもが、俺に協力すると言っている声だった。
「だけど、僕が声を届けただけだと無意味だっただろう。だって、身も知らない奴の声に耳を傾ける酔狂な人はほとんどいないからね。だからウーサー、君が世界を巡った意味がある」
「あ、そういう……!!」
ウーナギは声とともに、俺の姿を送ったらしい。
俺と出会った人たちはこれを見て、納得した。
そして、協力することを申し出たのだ。
十頭蛇と繋がっている人たちは、もともと魔王の危険性を聞かされていたらしい。
だから、来るべき時が来たのだ、とすぐに納得した。
全て根回し済みだった……!
とんでもない男だなあ、ウーナギ。
「初代マナビ王から頼まれた事だからね。魔王ってのは、やってるとあれはあれで楽しいもんだよ。だけどあれは正気ではない類の楽しさでね。物凄い全能感と、常に何かを支配せねばという焦燥感に駆られるんだ。追い立てられ続けている。魔王でいる限り、正気ではいられないよ」
今は常に、凪のような気持ちで穏やかに暮らしているのだとウーナギは言う。
寿命があと千年ばかりあるらしいので、世界の移り変わりを眺めながらゆっくり過ごし、たまに世界を守る手助けをするのだそうだ。
「頼むよウーサー。僕にあと千年、のんびりと余生を過ごさせてくれ」
「凄いお願いをされたなあ!」
俺、まだ成人してないくらいの年齢のガキなんだけど。
そしてそんな俺に、全世界の命運みたいなのが掛かってきてしまっている。
前だったら、とんでもない重圧と想像もできない話のスケール感にクラクラしてたと思うけど……。
今は。
「うし、がんばろ、ウーサー!」
「ああ、頑張ろう!!」
ミスティと拳を突き合わせる。
全部終わったら、ミスティを能力から解放してあげられる!
そのためなら幾らでもやってやろうじゃないか。
『考えなしの無茶は若さの特権じゃな! 大概は失敗するものじゃが、無茶をしなければどうにもならん状況というものがある。それが今ということじゃ』
「あの野郎、生意気になりやがって」
『ヒュージは無茶のし過ぎじゃ。もっと頭を使え』
「ぐぬぬぬぬ」
エグゾシーがヒュージの頭の上にいる。
そしてニトリアは……。
スススッと俺たちに寄ってきていた。
『なるほどなるほど。では事が終わったら、ウーサーくんとミスティで仲良く? ではそこにわたくしも加えていただいてですね……』
「うわーっ! は、入ってくんなー!!」
『おほほほほ、ミスティ嫌わないでくださいよ。あなたが油断した瞬間にウーサーくんは頂いてしまいますからね』
二人ともすっかり仲良くなったなあ……。
こうして俺たちは、エルトー商業国の北部にある大平原に陣取ることにした。
そこへ、どんどんと資材が集まってくる。
種類はデタラメだ。
木材だったり、鋼材だったり、武器に防具に藁束に、荷馬車があったかと思うとぎっしり宝石が詰め込まれた宝箱まである。
前世界中から、俺のもとにモノが送り届けられてくるのだ。
凄い量だ。
小さな国なら、二つくらい買えてしまうんじゃないかという額のモノが集まった。
「すっげえ……。これ、全部使っていいのかあ」
「もちろん」
ウーナギがにんまりと笑った。
「君の能力はとにかくコストが掛かる。だが、逆を言えばコストしか掛からない。そのコスト分になるモノを集めておけば、無尽蔵に能力を使い続けられるということだよ。それに旅の中で、君がモノの価値を測る目も鍛えられているだろう。魔王との決戦までに私財を一通り見ておくべきだと思うがね」
「これだけの数をかあ……! でも、やるかあ!」
魔王との最終決戦前の一仕事。
俺はモノの山の価値を見極めるべく、腕まくりをするのだった。
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