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4・森王国での修行編

第39話 足止め魔弾の射手

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 夜光板をつけて、前線へ急ぐ。
 すぐにガウが叫んだ。

「注意せよ! 魔族どももスキル能力者が出てきている! 今夜は戦場をかき回すつもりだぞ!」

 俺は緊張する。
 敵対するスキル能力者というのが、あまり経験ないというのもある。
 何せ、敵が何をやってくるか分からないからな。

 自分がそうなだけに、敵の出方が怖い。
 魔法の針をばらばらと足元に落とした。

「ライズも何かあったら教えてよ!」

「ぶもー」

 いつもマイペースなライズが、のんびり答えてくれる。
 少しして、ガウが無造作に腕を払った。

 一見何もないところを、拳が突く……と思ったら、ガウの拳が幾つにも分身したように見えた。
 信じられない速度と数の連続パンチが、見えないそれを撃退する。

 カラン、と音を立てて何かが荷馬車の上に落ちた。

「これ……黒く塗られた矢だ! 太くて短いけど……」

「ひええ、殺意高すぎる」

 ミスティが震え上がる。

「夜光板を付けてなければ、音で認識するしか無い。しかもこいつは、お前たちを狙って放たれたな。枝の間を縫うように飛んできたぞ」

「枝の間を……!?」

「魔弾の射手という種類の能力者だ。認識した相手をどこまでも追いかける必中の矢。魔族どもには多いタイプだぞ」

 ガウはこいつの勢いを、よく分からないパンチで撃ち落としたのか。

「それと、これはクロスボウの矢だ。使い手の筋力によらずに安定した威力を叩き出してくるから、気をつけろ」

「両替! ミスティ、これ持ってて」

「へ? なになに? うわーっ、重いぃ!」

 魔法の盾を両替したのだ。
 これをミスティに持たせてひたすら防御してもらう。

 ライズは馬車が重くなったので、歩みの速度がのんびりになった。

「ぶもー」

 なんて堂々としたロバだろう。

「大物だなあ」

 大きな盾を構えたバーバリアンたちが感心している。
 普通、ここまで豪胆なロバはいないらしい。

 その後、さらにビュンビュンと矢が飛んできた。
 本当にヤバい。
 戦場に近づけない。

「向こうも我らに気付いている。我らを戦場に近づけぬことが仕事だな。だが、じきに矢は尽きよう」

 ガウが冷静だ。
 それでも、攻撃を食らってる俺等はたまったものじゃない。
 行きている心地がしなかった。

 ずっとライズとミスティの心配をして、胃をキリキリさせていた。
 無限に続くかと思った時間だったが、気がつくと終わっていた。


「矢が尽きたな」

 攻撃が止まったらしい。

「だが罠かも知れん。慎重に行くぞ。業腹だが、今回は敵の狙い通りになりそうだ」

 ガウが歯噛みしている。
 矢は尽きたかも知れないが、尽きていないかも知れない。
 こちらは注意しながら進まなければいけないわけで、ガウほどの使い手でもそういう警戒をするわけだ。

 これは多分、俺たちを連れているからでもあるんだろうけど。

 魔族側のスキル使い、めちゃくちゃ頭がいいぞ。
 
「ねえねえウーサー。さっき、サラッと魔法の盾を出してたけど」

「うん」

 盾に身を隠しながら、ミスティが続ける。

「腕上がってね? これって確か、金貨百枚くらいするやつじゃなかったっけ」

「えっ、そうだっけ!?」

 慌てて自分のステータスを確認した。


《スキル》
 両替(八段階目)
 ・視界内に存在する金貨二百枚以下の物品の再現が可能。物品相当の貨幣か物品が必要。
 ・再現した物品を手元へ引き寄せることが可能。物品の質量が大きい場合、使用者が引き寄せられる。
 ・手にした貨幣を視界内の任意の箇所に移動させることができる。障害物があった場合移動できない。
 ・反射両替 防御に適した物品を無意識で作成し、盾とすることができる。

※レベルアップ条件
 ・金貨二百枚の物品を五個、貨幣へ両替。もしくは金貨二百枚から五個の同価格の物品を再現する。


「強くなってた……! 金貨二百枚ってどういうこと……!?」

 俺は混乱する。
 ちなみに、能力が強化されたきっかけはどこだったかよく分かる。
 王女様との試合、そしてウーナギとの訓練だ。

 確かに強くはなってる。
 だけど、スキルが強化されても、まだまだ上には上がいると分からされる毎日だ。

 今回会った魔族のスキル能力者なんて、射撃を絶対命中させるという能力一つで、ガウと俺たちを足止めできている。
 能力は強い弱いじゃなく、使う人間次第なんだな……!

 なるほど、ゴウが俺の素の身体能力を上げようとしてたのはどうしてなのか、よく分かった。

 その後、到着した戦場では、もう痛み分けになっていた。
 ほどほどダメージを受けたバーバリアンと魔族が、ばらばらとお互いの陣地に戻っていく。

「くそっ、間に合わなかったか。あの魔弾の射手はいつも我を足止めしてくるのだ」

「ガウ狙いだったのか……。いつもあんな感じなのか?」

「いや、いつもはあんな生ぬるい射撃はしてこない。我が守るべき者を連れていると理解した上で、最小限の力で足止めしてきた」

「ヤベえ」

「うむ。最前線の戦いとはこのようなものだ。空気だけでも吸って帰るがいい」

 戦場の苛烈さを見せられなかったことを、ガウは大変悔やんでいるようだった。
 いやいや、そんな恐ろしいものミスティに見せなくていいから……!
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