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4・森王国での修行編

第32話 修行の始まり始まり

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「ひゃーっ! 連れて行かれるー! ウーサー助けてー!」

「人聞きの悪い事言うな! お前のための訓練を行うのだ! つべこべ言わずにキリキリ歩け!」

「あひーっ」

 ムキムキした女性たちが現れて、ミスティが連れて行かれてしまった。
 悪意は全くないようだったので、俺は呆然とこれを見送ったのだが。

「あれ、なんなんですか」

「王国の女官たちだ。誰もが魔法や武技を身につけ、そこら辺りの男どもには負けぬ強さを身につけている。ミスティが己の身を守る力を手にするなら、すぐに手助けするような男は遠ざけておくべきであろう?」

 俺の問いに、マナビ三世が答える。
 うーん、ぐうの音も出ない。
 俺がいたら、すぐに助けに行っちゃうもんな。

 それはミスティのためにならない。
 いつまでも彼女は、自分で自分のことを守れないままだ。

 心を鬼にしよう。
 うっ、た、助けに行きたい……。

「女の事ばかり考えている余裕はないぞウーサー。お前にも訓練を与える」

「えっ、やっぱり!? でもどうして、そんなに色々世話をしてくれるんすか」

「誰にでも、ではない。世界を動かしうる、強大な力を持った者にだけ力を貸すのだ。それが建国王が定めた国是故な。その中でも、最も善良であろうお前たちを選んだ」

「は、はあ」

「世界には、異世界召喚者の血を受け継いだ者たちがゴロゴロいる。お前に匹敵する強大な力を持つ者、そうなるまで力を磨いた者たちもだ。その多くは、人智を超えた力に溺れ、怪物となる」

 怪物……!
 十頭蛇の二人を思い浮かべる。

 エグゾシーは人間ではなかったが、それ故に凄まじい力を持っていた。
 ああなれるなら、おかしくなる人間はたくさんいるかもしれない。

 十頭蛇のヒュージはどうだっただろう。
 あいつは力に呑まれている感じはしなかったけど……。

 そう言えば、俺のことを後輩って言ってたな。
 あの孤児院出身なんだろうなきっと。
 悪いやつだが、ちょっと話を聞いてみたい。

「どうやら思うところがあるようだな。だが、お前には、己の能力を利用して世界に復讐しようだとか、これを使って大儲けしようとか、そういう欲がない。異常に清廉潔白だ。故に、余はお前に目をつけた」

「そ、そうっすか。どもっす」

 どう答えたらいいか分からない。
 これ、誉めてるんだよな……?

「お前の教育役は、引き続きゴウに任せる。あれも薄いとは言え、強力な異世界召喚者の血を受け継ぐ男だ。弱い力であろうと、使い方によっては強力なものになる。それを教わるがいい」

「うっす!」

 ゴウだったら顔見知りだし、安心だ。

「よし、行くぞウーサー。訓練所に案内してやる」

 ずっと控えていたゴウがやって来て、俺を連れて王の前から去っていくのだった。
 マナビ三世は、ずっと面白そうに俺のことを眺めていた。

「そう言えば王様、ゴウの事を弱いって言ってたけど。俺はゴウは強いと思うんだよなあ」

 訓練所とやらに向かいながら、俺がつぶやくと、ゴウが「わっはっは」と笑った。

「個人としては強い。だが、スキル能力者としては弱い。俺の能力は、攻撃を当てた後、相手に回避させずにもう一発攻撃を当てられるだけの力だ。妹のマオの方がまだ強いな。あいつは相手を浮かせたら、そこから連続攻撃ができる能力だ」

「よく分からない……!」

「だろうな。俺も原理が分からない。だが、俺とマオには兄がいてな。そいつが先祖のスキル能力を多く受け継いでいるそうだ。それどころか、高祖母の力も持っている。バルガイヤー森王国最強戦力と言われているぞ」

「なんだそれ」

 ゴウの高祖母と言われる人は年をとらず、今もずっと生きているのだそうだ。
 氷を操るその力を、ゴウの兄は持っているらしい。

 その他、森王国でこの人が強い! というのを教えてもらった。

 ゴウの兄のガウ。
 マナビ王の娘、シェリィ姫。
 最近目覚めたハイエルフ、ウーナギ。

「最後の奴はなに?」

「古代のハイエルフらしい。魔導王に封印されていて、そいつが倒された後、二百年掛けて封印を破って戻ってきた。強いぞ」

 とにかく、この三人が強いと。
 なお、ゴウの高祖母も恐ろしく強いのだが、高祖父が亡くなってからは隠居状態らしい。
『また強い奴が現れないものか』とか言って畑を耕して暮らしているそうだ。

 凄い人たちがいる国だな……。

 そんな話をしているうちに、訓練所に到着した。
 そこは、とにかくだだっ広い空間だ。

 どうやら地下洞窟を利用して作られた場所らしく、天井に穴が空いていて、そこから陽の光が差し込んできていた。

「ここなら、外に被害も出ない。お前の力をなんでも試すといいぞ。まずはオレと手合わせして、力を確かめさせてくれ」

「うっす!」

 ゴウに言われて、俺は魔法の針を何本か掴みだした。

「両替!」

 まずは、針を銅貨の山に変える。
 山というか、もう川だ。
 ざらざらと崩れながら、ゴウに向かって押し寄せる。

 ゴウはこれに向かって、無造作に蹴りを繰り出した。
 すると……。
 ゴウの体に残像みたいなのが宿って、彼が足を引っ込めても残像が攻撃を続けているじゃないか。

 そこに、ゴウは再び蹴りを放った。
 銅貨の川が、そこだけ爆ぜる。

 硬貨が撒き散らされて、川に一直線の亀裂が生まれた。

「うおーっ!? なんだそれ、すげえー!」

「オレ程度の力でも、磨いていけばこれくらいのことはできる。つまり、スキル能力とは磨くことでより強くなるということだ。お前はまだまだ伸びる余地があるぞ」

「うす!」

 なんか、やれることが分かってきた。
 この両替の力を、とにかく鍛えまくれってことだろう。

「じゃあ、銅貨、全部藁束になれ!」

「うおっ、そ、それは……!」

 ゴウの周囲にあった銅貨が、次々藁の山に変化していく。
 訓練所を埋め尽くすほどの藁の山だ!

「なるほど、俺の打撃を殺しに来たか! いいぞいいぞ!」

 ここでなら、色々な事を試せそうだ。
 俺の胸は高鳴った。

 そんな感じで、訓練に全意識を割いていた俺だったから、背後で見つめてくる視線には気付かなかった。

 後でゴウから聞いたのだが……。

「姫様がじーっとお前を見ててな、『ふぅん、ざぁーこ。まだまだ弱っちいじゃない』って言ってたぞ」

「ゴウの声で真似してほしく無かったなあ……」
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