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3・魔剣鍛冶の里編

第17話 これは良いヒャッハー

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 アキサクが教えてくれた仕事、結構実入りがいいのと、魔剣を勉強できる機会に恵まれるということで……。

「受けます!」

「ミスティが返事するのか!」

「だってチャンスじゃん! 行こう行こう」

 そういうことになってしまった。
 アキサクが笑いながら、

「本当にお前、ミスティの押しに弱いな。惚れた弱みだな」

 なんて言っている。
 うるさいぞ!

 こうして俺たちは、エルトー商業国を出て、魔剣鍛冶のところまで行くことになった。
 同じルートをたどる武装荷馬車に連れて行ってもらうのだ。

 この国は今、エムス王国の軍隊に包囲されている。
 ただ、包囲とは言うが圧倒的に兵士の数が足りなくて、あちこちにちらほら姿が見える程度。
 それも長い戦争状態にウンザリしてやる気がない。

 武装荷馬車が通ると、一応反応して「止まれ止まれー」とかは言ってくる。
 だが、武装荷馬車は止まらない。

 逆に、邪魔をしてきた兵士が武装荷馬車から伸びた棒でコツンと叩かれ、「ウグワー!?」とぶっ倒れる始末だ。
 その後ろを、ロバのライズが牽引する俺たちの小さい荷馬車が走っていく。
 なんと、可愛い幌がついたぞ。

 荷馬車もパワーアップしているので、ライズが引っ張る力も少なくていい。

 倒れているエムス王国兵士たちを横目に、ライズの荷馬車はのんびり走っていくのだった。

「武装荷馬車ってすごくない……?」

「恐れ知らずの商人たちらしいからなあ。基本、自由な立場の商人だけど、エルトー王国最強戦力なんだってさ」

「なにそれ!」

 ミスティが大受けして、けらけら笑った。
 武装荷馬車、あちこちに装甲が取り付けてあるし、車輪や側面から棘が生えているし、幌には攻撃用の棒を突き出す窓がついているし、正面と後ろには矢を受け止める木の板が貼られている。
 最強戦力というのも偽りじゃないんだろうな。

 どんな戦場でも正面突破して、品物を届けると評判らしい。

 今回は、彼らが魔剣鍛冶の里に商品を届けるために移動するところだった。
 そこに、俺たちを加えてもらったというわけだ。

 武装荷馬車が道を切り開く。
 その後を、俺たちが平和に走る。

「なんだか凄く楽をしてしまっている……」

「あたしの運命の力だね! いい感じじゃん」

「そうだなあ。だけどミスティの運命が働くと、次は宿命が来たりしない?」

「……来るかも」

 いやーな予感もするのだった。

 二日ほど、コトコトと旅をした。
 あちこちに草が生えているので、ライズのご飯は問題ない。

 うちのロバは荷馬車の馬たちに混じって、むしゃむしゃと草を食った。

 俺たちも、武装荷馬車の商人たちと飯を食う。
 相手はみんな、むきむきの男たちだった。
 棘の付いた革ジャケットを着て、モヒカンだったりスキンヘッドだったり髭面だったりして、腰にクロスボウやトマホークをぶら下げている。

「ヒャッハー! もっと食え食え! でかくなれねえぞ!」

「女の子も肉を食え食え! 肉付きが大事だぞ!」

「セクハラー!!」

 ミスティが猛抗議した。
 なんだそれ。

 でも確かに、ミスティは酒場で見る他の女の人と比べると細いよな。
 抱きつかれると柔らかいことは、俺はよく知ってるんだけど。

 燻製肉をたっぷり挟んだサンドイッチを食べながら、ミスティが「うーん」と唸った。

「この世界だと、もっとお肉付いてたほうがいいのかな……。最近は仕事ばっかりしてるから筋肉が付いてきちゃったんだけど」

「あ、そういえば出会った頃より、ミスティがっちりしたよな」

「や、やめてー!」

 聴きたくなーい、と耳を塞ごうとして、その手にサンドイッチがあるのでできないミスティ。
 商人たちも俺も大いに笑った。

 夕方になると、荷馬車を展開してテントみたいにして休むことになる。
 その辺りで捕まえてきた野ウサギやらをシチューにして、パンを付けて食べる。

 手すきの商人が、俺とミスティに護身術の手ほどきをしてくれた。

「いいかガキども。身を守るなら手加減を考えたら死ぬぞ!! 殺すつもりでいけえ! この棒で、こうだ! ヒャッハー!!」

 モヒカンで顔にペイントをした商人が、凄い勢いで棒を振った。
 先端に金属が付いているから、当たったら死ぬなあ、と思うような一撃だ。

「でもあたし、腕力があんまないんだけど」

「女子供でも棒を使えばいい! 近寄ったらリーチ差で負ける! 何か投げつけるのでもいいぞ! こうだ! ヒャッハー!!」

 拾った石を投擲するモヒカン商人。

「正面からだと対処されやすいからな。弓や弩は速いが、音がする。外したら強いやつには気付かれるもんだ。投擲が一番リスクが少ないな! 金も掛からない! どんな強いやつでも、後ろから無音で物を投げられたら避けるのが難しくなるぞ」

「なるほど……!」

「でもそれって、自分の正面に相手がいるのに、後ろから物を投げろってことでしょ? 意味ないじゃん!」

「お前ら二人いるだろう! 片方が背後を取れ! やるんだよぉ!」

「ひ、ひどい理屈~!!」

 ミスティは呆れるのだが、俺はふむふむと頷くばかりだ。
 これ、結構やれるかもしれない。

 相手の後ろや横に硬貨を置いておいて、それを武器に変えて手元に引き寄せれば……。
 里についたら練習しよう。

 ミスティも、棒で相手を叩く技を身につけたようだ。
 最後には、武装荷馬車から伸縮できる金属製の棒を買っていた。
 護身用か。

「ヒャッハー! お買い上げ感謝! これはバラせるように作ってあるから、一部が壊れたら部品だけ買って修理できるぞ」

 見た目は凶暴なのに、なんて親切な商人たちだろうか。
 
「なんかね、ウーサーといると、色々な人たちが色々教えてくれる気がするんだよね。あたしだけだと、なんか下心で近づいてくるのが多いんだけど」

「そうなのか? なんでだろう……?」

「そこがウーサーの人徳なんじゃない?」

 そうなんだろうか。

 こうして武装荷馬車との旅は無事に終わり、魔剣鍛冶の里に到着した。
 そこは、木々に囲まれた森の中。
 招かれた者しか訪れることができない、魔法的な結界に覆われた場所……なのだとか。

 森を出る前の一瞬、視界の端に、ローブ姿の人物が見えたような気がした。

「人がいる」

「ヒャッハー! それはありえないぞ! 招かれでもしない限り、この森に入り込んで突破はできないからな! あるいは精霊をねじ伏せるほどの力を持っていれば別だが!」

 精霊とかいう単語が出てきた。
 なんだそれは……。

 商人に、精霊についてのレクチャーを受けているうちに、ローブ姿は見えなくなってしまった。
 あれ、なんだったんだろうな。
 ミスティが呼び寄せた宿命の可能性があるから、何か備えておかないと……。

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