上 下
12 / 84
2・広がる世界編

第12話 これはデートなのか?

しおりを挟む
 武器の山をこしらえて、兵の詰め所に運んでいくことにする。
 幸い、俺たちにはロバのライズがいた。

「馬を借りなくて済むのはありがたいな! じゃあ頼む」

「頼まれたっす」

 アキサクに任せられた仕事だ。
 ライズはブフーっと鼻息も荒く、やる気満々。

 宿の宿泊費を銀貨で払ったから、おばちゃんがライズにせっせと餌やりをしてくれたのだ。
 ありがたい。

 そしてライズの横で、なんだかむくれて不満げにブフーっと鼻息を吹くミスティ。

「なんで膨れてるの」

「デートかと思ったら、仕事じゃーん!」

「仕事だよ……?」

 これを見て、アキサクがアチャーと天を仰いだ。

「おいウーサー。お前なー、女にこういう顔をさせたらいかんぞ。よし、武器を収めてきたら、これでお嬢ちゃんと飯でも食ってこい。お洒落な店は東地区だ。そっちに行け。いいな?」

「お、おう! なんか凄く気を遣ってくれるじゃないっすか」

「こういうところで失敗すると、後々大変なんだよ! 経験談だからな!」

「うす」

 好意をありがたく受け取っておくことにする。
 荷馬車を連れて、商業国の入り口にある詰め所へ。

 そこには、見覚えのある顔がいた。
 兵士のルーンだ。

「おーう! お疲れお疲れ!」

 手を振ってくる。

「どもども、これ、武器っす」

「おう、あんがとね。おおー。武器って品薄だって聞いてたけど、ちゃんと揃えてくるじゃん……。優秀な武器屋だな。お前、そこで仕事してるの? ……もしかして、これってお前の能力だったりしない?」

 鋭い。
 ルーンは、俺が貨幣を両替した能力を見ている。
 そこから、どうやって俺が貨幣から武器を両替したのを察したのか。

「ねえねえお兄さん、それで、戦争とかどうなってる? エムス王国と戦争になりそうなんでしょ?」

 ミスティ、どこからか戦争の噂を聞きつけているらしい。
 食堂で働いているから、色々な話を聞く機会があるんだろうな。

「ああ、それはな。秘密だ。だって分かっちまったら大騒ぎになるだろ? 国としては、そうなると経済が乱れてよろしくない。だから情報が確定するまでは流さないことにしてる。……ま、武器をこうやって大慌ててかき集めてるところから想像してくれるとありがたいね」

 ルーン、それはもう言ってるのと一緒だ。
 戦争起こるのかー。
 しかもこれは多分、エムス王国がミスティを手に入れるための戦争だ。

「戦いはいやだなあ……」

 ミスティがちょっと青い顔になった。
 この間、矢を射掛けられてかなりショックだったらしいもんな。

「大丈夫だよ、ミスティは俺が守るし」

「えっ、なんか今、キュンって来たんだけど。今日のマイナスぶんは取り返した感じだし!」

「ウグワーッ!? やめろやめろー! 俺の前でイチャイチャするな!! くっそー、若いカップルはこれだから困るぜ!!」

 ルーンがいきなり怒ったぞ!
 ざわつく俺とミスティ。

「今日はこれで帰ってくれ。このままでは俺は若者たちに嫌なことを言うクソみたいな大人になってしまう……!」

「わ、分かった!」

 慌てて退散する、俺とミスティなのだった。
 荷馬車はここに預けて、後日兵士が店に返してくれるそうだ。

「ミスティ、あのさ」

 俺が彼女に話しかけたら、あとを付いてきているロバのライズが「ぶもー」と鳴いた。
 むむっ、二人きりじゃない。
 まあいいか。

「えっと、ちょっとお金持ってきてるから、二人でちょっとご飯食べていこう」

「えっ、マジで!? ヤバ、ちょっとテンション上がるんだけど」

 ミスティがさらにご機嫌になった。
 お洒落な店、お洒落な店……。

 俺は視線だけを巡らせて必死に探す。
 スラム街で育った俺に、お洒落な店を理解して探せと?
 無理では!?

「くっ……!!」

 あまりの無理さ加減に、頭が沸騰しそうになる。
 そんな俺を、ミスティが横目でチラチラしているのが分かった。

「あー、なんかあたし、喉乾いちゃったなー」

「喉乾いた……? えっと、じゃあ飲み物!」

 目についた、手近な店に飛び込む。
 果実を絞って、生のジュースを飲ませてくれる店だ。

 なんと魔法使いがいるらしくて、遠くで採れた果物を冷凍させて運んでいるそうだ。

「一杯銅貨三枚です」

「銅貨、三枚!?」

 俺は目が飛び出るかと思った。
 とんでもない値段だ。
 ジュース一杯が、テーブルいっぱいの食事と同じ値段なのか!

 あ、でも、魔法を使って、果物の鮮度を保ちながらここまで持ってきてるから、そのお金でもあるんだろう。
 店には、ちょっとお金がありそうな人たちがたくさんいた。

 ここでジュースを飲むことは、ステータスなのかもしれない。

 銅貨六枚が飛んだ。
 うわーっ。

 なんて硬貨な……いや高価なジュースだ。
 柑橘類の爽やかな味だったらしいが、俺が震える手で飲んだジュースは味が分からなかった。

 俺はまだ、高いものを飲み食いするのは無理だ……!!

「な、なんだかごめんね?」

「あ、謝らなくていいぞ! なんか謝られるとちょっとアレな気分だし!」

 そんな俺たちを、店の客たちが微笑ましげに見ているのだった。
 ええい、見るな見るな、見世物じゃないぞ!

 くそー、高い金を払っても落ち着いていられるくらい、貫禄が欲しい……!

 唸っていると、外が騒がしくなってきた。
 このあたりは東地区。
 落ち着いた雰囲気の、いわゆるちょっとお高くてお洒落な店が多い場所だ。

 そこが騒がしくなるというのは珍しいようで、店の中もざわついている。

 俺とミスティは、この騒がしさが何を意味しているのか、なんとなく察する。

「戦争だ! エムス王国が戦争を仕掛けてきた!! いきなり、戦争が始まったぞー!!」

 突然、城壁に大きな物がぶつかる轟音が響き渡った。
 オープンになった店の入口からは、壁の一部が崩れていくのが見えた。

 巨大な何かが、ずるりと動く。
 ……なんだあれ?

 それはまるで、物凄く大きな蛇の頭に見えた。
 そいつが城壁に体当りし、崩してきたのだ。

 国の外からは、ワーッと言う叫び声が聞こえる。
 いつの間にか、エムス王国の軍隊が押し寄せてきていたらしい。

 誰も気付かなかったのか?
 気付けなかったのか。

 状況は普通じゃない。

「ミスティ!」

「う、うん! 分かった!」

「ぶもー!」

 ミスティとライズを連れ、お勘定を済ませて店を飛び出す俺。
 どうする?

 まだそれは決めていないのだ!

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

初夜に「君を愛するつもりはない」と夫から言われた妻のその後

澤谷弥(さわたに わたる)
ファンタジー
結婚式の日の夜。夫のイアンは妻のケイトに向かって「お前を愛するつもりはない」と言い放つ。 ケイトは知っていた。イアンには他に好きな女性がいるのだ。この結婚は家のため。そうわかっていたはずなのに――。 ※短いお話です。 ※恋愛要素が薄いのでファンタジーです。おまけ程度です。

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

~クラス召喚~ 経験豊富な俺は1人で歩みます

無味無臭
ファンタジー
久しぶりに異世界転生を体験した。だけど周りはビギナーばかり。これでは俺が巻き込まれて死んでしまう。自称プロフェッショナルな俺はそれがイヤで他の奴と離れて生活を送る事にした。天使には魔王を討伐しろ言われたけど、それは面倒なので止めておきます。私はゆっくりのんびり異世界生活を送りたいのです。たまには自分の好きな人生をお願いします。

田舎貴族の流儀 ~魔法使いの田舎貴族が、平民クラスを立て直すようですよ!~

摂政
ファンタジー
「私は王族! 故に、私は誰よりも偉い!  それ故に、お前は私に無様に敗北するのだ! これは王子からの命令なるぞ!」 「いや、本当に意味不明なんだけど」  実力主義と噂の魔法学校、入学試験で堂々と不正を提案する王子を、完膚なきまでにやっつけた田舎貴族グリンズ・ベルクマン  王子に勝つほどの実力を持った彼だったが、魔法学校で最低クラスである平民クラスへ配属されてしまう  先生なし、教科書なし、設備はボロボロ。  自習すらやることがなかったため、彼は日々をぐーたらに過ごして、卒業するまでの3年間を過ごそうと思っていた  しかし、平民クラスの級長であるラスカが驚きの事実を告げる 「このままだと平民クラスの全員、卒業できません! 王子がそう命令したんです!」 「あの王子ぃ~!」  貴族としての笠でやりたい放題の王子を始めとした貴族連中に、田舎貴族のグリンズが平民クラスと共に立ち向かう!

《勘違い》で婚約破棄された令嬢は失意のうちに自殺しました。

友坂 悠
ファンタジー
「婚約を考え直そう」 貴族院の卒業パーティーの会場で、婚約者フリードよりそう告げられたエルザ。 「それは、婚約を破棄されるとそういうことなのでしょうか?」 耳を疑いそう聞き返すも、 「君も、その方が良いのだろう?」 苦虫を噛み潰すように、そう吐き出すフリードに。 全てに絶望し、失意のうちに自死を選ぶエルザ。 絶景と評判の観光地でありながら、自殺の名所としても知られる断崖絶壁から飛び降りた彼女。 だったのですが。

【完結】復讐は計画的に~不貞の子を身籠った彼女と殿下の子を身籠った私

紅位碧子 kurenaiaoko
恋愛
公爵令嬢であるミリアは、スイッチ国王太子であるウィリアムズ殿下と婚約していた。 10年に及ぶ王太子妃教育も終え、学園卒業と同時に結婚予定であったが、卒業パーティーで婚約破棄を言い渡されてしまう。 婚約者の彼の隣にいたのは、同じ公爵令嬢であるマーガレット様。 その場で、マーガレット様との婚約と、マーガレット様が懐妊したことが公表される。 それだけでも驚くミリアだったが、追い討ちをかけるように不貞の疑いまでかけられてしまいーーーー? 【作者よりみなさまへ】 *誤字脱字多数あるかと思います。 *初心者につき表現稚拙ですので温かく見守ってくださいませ *ゆるふわ設定です

「クズスキルの偽者は必要無い!」と公爵家を追放されたので、かけがえのない仲間と共に最高の国を作ります

古河夜空
ファンタジー
「お前をルートベルク公爵家から追放する――」それはあまりにも突然の出来事だった。 一五歳の誕生日を明日に控えたレオンは、公爵家を追放されてしまう。魔を制する者“神託の御子”と期待されていた、ルートベルク公爵の息子レオンだったが、『継承』という役立たずのスキルしか得ることができず、神託の御子としての片鱗を示すことが出来なかったため追放されてしまう。 一人、逃げる様に王都を出て行くレオンだが、公爵家の汚点たる彼を亡き者にしようとする、ルートベルク公爵の魔の手が迫っていた。「絶対に生き延びてやる……ッ!」レオンは己の力を全て使い、知恵を絞り、公爵の魔の手から逃れんがために走る。生き延びるため、公爵達を見返すため、自分を信じてくれる者のため。 どれだけ窮地に立たされようとも、秘めた想いを曲げない少年の周りには、人、エルフ、ドワーフ、そして魔族、種族の垣根を越えたかけがえの無い仲間達が集い―― これは、追放された少年が最高の国を作りあげる物語。 ※他サイト様でも掲載しております。

愚かな父にサヨナラと《完結》

アーエル
ファンタジー
「フラン。お前の方が年上なのだから、妹のために我慢しなさい」 父の言葉は最後の一線を越えてしまった。 その言葉が、続く悲劇を招く結果となったけど・・・ 悲劇の本当の始まりはもっと昔から。 言えることはただひとつ 私の幸せに貴方はいりません ✈他社にも同時公開

処理中です...