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Mと最後の冒険編

第七十四話:ドMと決着と愛とかが勝つ

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 ここからは基本、僕と新聞屋の独壇場だ。
 委員長とマドンナは魔力を使い切ってしまって、もう戦えない。
 富田くんも熊岡くんも、本来の武器を失ってしまい、馬井くんは倒れている。
 出羽亀さんは状況を解説する要員なので、戦闘用じゃない。
 エリザベッタ様と階さんが不気味な存在だなあ。味方なのに。

「なかなか、君を倒して、後ろの彼らに、仕掛けるのはっ、難しそうだなっ!」

「それはどうも!!」

 僕は棒立ちになって、ベルゼブブの攻撃を受け止める。
 基本的に、僕は体術とかは出来ない。運動神経とかは悪いのだ! あと、そういうのをやるセンスがない!
 だけど、どうやら僕には持って産まれた才能があった。
 それは……。

「ならば、これでどうだっ……!? な、なぜフェイントに自ら当たりに来るんだ!!」

「ふふふ、僕は回避しようとすると、間違って当たる方向に突っ込んでしまうんです!!」

 そういういらん才能だった!
 だけど、これは今僕の能力を考えると、最強の能力といえた。
 だって、積極的に攻撃を潰しにいけるのだ!

「くっ、手ごたえはあるのにさっぱり倒れる気配がない……!!」

「ふふふ!! 僕もあなたが速すぎてカウンターを合わせられない。おあいこだね!」

「せえいっ!! もろともに”光の電磁砲ライトニングレールガン”!!」

「ハリイごと! えーいっ、魔眼解除!!」

「”コスト:糸井岬武士いといみさきさむらい! 効果発動、不可視の腹パンインヴィジブルボディブロー”!!」

 あっ!
 糸井岬君のカードが消費された!!
 でも、この一撃でベルゼブブは苦しそうな顔をしてうずくまる。
 そこに、なんかもう物理的なビームになったエリザベッタ様の魔眼と新聞屋の光魔法が叩き込まれる!

「うがあああああ!?」

 あのベルゼブブが、本気で翼を羽ばたかせ、上空に逃げる。

「……君たちは一人ひとりなら問題ないというのに、組み合わさるとえげつないことこの上ないな……!」

「むむむっ、あっしの魔法を食らってもピンピンしてるっす……!」

「いや亜美、効いてる効いてる。っていうかあんたの魔法の火力どうなってんのよ……!? 尚紀のファイナルストライクよりダメージが大きいとか……」

「バグってるっすからねー」

「エリザベッタ様もおかしいですよ……! あと、階さん、なんでそんなに両手いっぱいにカードを握り締めてるの!?」

「は、離して下さい! 一挙に消費してベルゼブブを追い詰めるんです」

「やめてえ!? クラスメイトがあああ!!」

「隙あり!」

 アッー!
 内輪もめの隙を突いたベルゼブブの貫通攻撃だ!

「うっ」

「うっ」

 階さんと出羽亀さんが倒れた。
 っていうか出羽亀さんはステータス強化とかしてない人だから、白目を剥いてる! やばいやばい。死んじゃうかもしれない。

「そこの彼女たちも厄介だ……! 僕の信条ではないが、仕方ない。戦術的に動かせてもらうよ」

 ベルゼブブが上空で身構える。
 おお! 構えがあるなら……!

「ジャッ……!!」

 虫の羽音みたいな叫びと同時に、ベルゼブブが真っ黒な瘴気の玉を大量にこっちに撃ちこんで来る!

「僕もそろそろ殴り返すよ!」

 僕は叫びながら、放つ、クロスカウンター!

「ぐおおっ!!」

「あいたたたたた!!」

 瘴気の玉一発一発がファイナルストライクくらいの威力だ!
 でも、一発だって後ろには抜かせない。
 僕は必死にそいつを全体ガードを連発して防ぐ。
 ベルゼブブも、自分の攻撃の威力で顎を目掛けてカウンターされ、さらに上空に吹っ飛んでいる。

「追い討ち! 追い討ち!」

 もうビームみたいになってるエリザベッタ様の魔眼が発射されて、頭上にベルゼブブに追い討ちコンボを決める!

「このおっ!!」

 貫通攻撃だ!

「……!」

「今度は俺たちの番だな!」

 熊岡くんと富田くんが、新聞屋とエリザベッタ様をかばって……倒れた!
 最後に残ったのは、僕たち三人だ。

「なんだか、いつもの三人っすなあ……」

 ちょっと呆れたみたいに新聞屋が言った。
 笑いが混じってる。

「そうだね。じゃあ、最後も三人で決めよう!」

「うん、私頑張るよ!」

 僕たちが見つめる先は、降りてきたベルゼブブだ。
 ふと、僕は思ったことをベルゼブブに伝えた。

「あのさ、僕たちがいたから良かったけど、これってバグじゃない人ばかりだったら、クリアが無理ゲーじゃない?」

 それを聞いて、ベルゼブブはハッとした顔をした。

「確かに……! 第二ステージまではやり過ぎか……!」

 分かってもらえたようだ。
 話せば分かる。

「だが、今回は別だよ。君たちがいるからね。僕も本格的に熱くなって来たところだ!」

 分かってくれなかった。
 言葉は無力かもしれない。

「相変わらず張井くんの言葉は説得力がないっすなあ」

「新聞屋に言われたくはないよ!」

「ほら、二人とも来るよ!」

 来るよ、の辺りで、もうベルゼブブの攻撃は三発くらい僕に決まっていた。
 肉弾戦でガンガン殴ってきて、その合間にばんばんさっきの黒い玉を混ぜてくる。
 一発一発が物凄いダメージ……っぽい。
 ぽいというのは、もう僕は自分のステータスを確認できないからだ。
 数字がバグっていて、どれだけHPが減っているのか分からない。
 でも、桁が結構残ってるからまだいける!

「たあっ! ”魔法カウンター”!!」

 攻撃の合間に出てくる黒い玉を纏めて打ち消す!

「呆れたタフさだな……!! 僕の長い戦いの記憶でも、君ほど打たれづよい奴は見たことがない!」

「それでもあなたに殴られて、楽しくはないんだけどね!」

 僕は一歩も引かない。
 攻撃を担当するのは新聞屋とエリザベッタ様。
 新聞屋には一撃があるけど、あの光の神殺槍を放ったら、彼女の命が危ない。
 ということで、撃たない様にねって厳命している。
 撃ったらキスすると言ったら、真顔で何度も頷いていた。

 僕たちの戦いに耐えられず、ついにこの空間そのものが崩れ始める。
 周囲に亀裂が入って、割れた壁の向こうには赤紫色の世界が広がってる。
 さっきまでいた世界とは違うし、増してや僕たちがいた世界でもない。

「くっ、き、きりがないっす! 魔法が当たらないし、打ち消されるっす!!」

「ううっ、わ、私の魔眼が打ち止めかも……! こんなの初めて……!!」

 とりあえず、新聞屋の魔力は半無尽蔵としても、エリザベッタ様の限界が近いっぽい。
 ここはなんとか、あいつの動きを止めないと!
 僕は長らく使ってなかった、気魔法に目をつけた。
 腕力強化以外に何かあれば……!!
 あった!

「ええいっ、”敏捷強化! 体力準拠”!」

 体力を一時的に敏捷と入れ替える! この瞬間、僕の防御力は紙になるけど、バカスカダメージを食らいながら一気にベルゼブブに組み付く!

「そんな攻撃が!」

 ベルゼブブは驚きながらも嬉しそうだ。
 この戦闘狂め!

「行くよハリイ! 魔眼全部解放ーっ!!」

 エリザベッタ様は、あの髪飾りを使いこなしている。あれって、魔眼を制御するだけじゃなくて、その力に指向性を与えられるようになってたのだ。
 エリザベッタ様から放たれた魔眼の光が一気に降り注ぎ、ベルゼブブを僕ごと撃つ!

「人の子が、これほどの力を……!! やはり僕たちの考えは間違ってはいなかった……!!」

 なに言ってんだこいつ。
 でも効いてる!
 そして、エリザベッタ様の目から、紫色の輝きが消えた。
 残ったのは、エカテリーナ様と同じ、青い瞳の色。そのまま、彼女はぺたんとへたり込んでしまった。
 ガス欠だ。

「そこでっ! ”光の粒子砲ライトニングメガキャノン”!!」 

 新聞屋がここに来て新しい魔法を!
 彼女も、光の魔法に指向性を持たせて無差別殺戮しなくて済むようになったみたいだ!
 ただし、軌道上にあるものは全部消滅する!

「それを……待っていた!」

 だけど……!
 ベルゼブブが嫌な笑いを浮かべた。

「”光闇逆転、魔術返し”!!」

「っ!!」

 新聞屋が放った光の奔流が、その瞬間、真っ黒に染まった。
 そして、その全てが新聞屋に返っていく!
 これは、なんだ……?

「”光の電磁砲”ッ……!」

 辛うじて光の魔法を重複発動させて、新聞屋は闇の奔流を弱める。
 だけど、満を持して放った新魔法。これじゃ消えきらなかった。
 新聞屋は自分の魔法を利用され、攻撃を受けて倒れる。

「あ、や、やばい、かも……」

 動けなくなっている……!
 これはまずい!
 僕はベルゼブブを離して、新聞屋に向けて走った。

「ひ、”HPコンバート”ッ……!」

 彼女を抱き上げながら、唇から生命を注ぎ込む。
 だけど、これこそがベルゼブブの待っていた時だったのだ。
 新聞屋が、自分自身を倒しきれるほどの魔法を放つのを待って、それを利用して新聞屋を倒し、彼女を僕がHPを削って救うところで……!

「さあ、おしまいゲームオーバーだっ!!」

 なんて狡猾なやつだろう……!
 こいつはきっと、今までの僕たちをずっと見ていたのだ。
 そして、僕たちの戦い方を研究して、攻略法を考えていたのだ。
 だから今、腕に真っ黒な光を宿して、こいつはHPが残り少ない僕目掛けて、新聞屋諸共倒してしまうような一撃を放とうとしている……!

「”光の治癒キュアライト”……!」

 だけど、そこで、新聞屋は魔法を使った。
 僕のHPを回復させる魔法。多分、HPが凄い速度で全快に向かっていっている。
 だけどそれがベルゼブブの一撃をしのげるほど回復するまでには間に合わない!
 それくらい、あいつは速い!
 速過ぎる……!

「あ」

 新聞屋の声が聞こえたと思った。
 一瞬の間なんだけど、なんだか自分たちの感覚が加速したように感じる。

「最後の、技が読めるように」

 最後の技は、……そうだ、バグって読めなくなっていたんだ。
 でも、それが今は読める。


名前:張井辰馬
性別:男
種族:M
職業:勇者
HP:**.***.***
腕力:**
体力:**.***
器用さ:**
素早さ:**
知力:**
精神:**.***
魔力:*.***
愛 :**.***
魅力:***

取得技:ダメージグロウアップ(女性限定、容姿条件あり)
    クロスカウンター(男性限定、相手攻撃力準拠)
    全体カウンター(男性限定、固定ダメージ)
    河津掛け(相手体重準拠)
    反応射撃(射撃か投擲できるものが必要、相手攻撃力準拠)
    全体ガード
    気魔法行使レベル6
    毒耐性
    即死耐性
    魔法カウンター
    HPコンバート
    チェーンコンボ(パートナー限定、使用可能魔法、技制限あり)←NEW!


 僕の体が勝手に動く。
 気魔法、腕力強化が発動する。HP準拠。僕のHPが1まで減少する。
 どうせ当たれば終わるのだから、1だってそれ以上だって関係ない。そして同時に、新聞屋の魔法が発動する。これは、土魔法。最初の頃に彼女が使ってた、土の弾丸だ。
 そして、僕の視界にクロスカウンターの文字が躍る。

「これはっ……!?」

 土の弾丸なのに、威力は段違いだ。しかも、新聞屋の今の魔力で放たれる。それこそ、空間いっぱいを埋め尽くすような土の弾丸の嵐だ!
 ベルゼブブの動きがほんの僅かに遅くなる。
 だけど、あいつは黒い輝きを放った手ですぐに弾丸を消滅させた。
 その目の前。
 ありったけのHPが乗った僕の拳がある。
 ベルゼブブは勝利を確信してる。
 だから、僕のクロスカウンターより先に攻撃が当たる方に賭けたみたいだ。
 面白い!
 僕は初めて、戦うのが面白いと思った。
 新聞屋は、仕方ないなあ、という顔。
 呆れ半分、笑い半分。でも、彼女は僕に賭けてくれている。
 だから……思いっきり、拳を振り切った……!
 そいつは間違いなく、ベルゼブブの頬をぶち抜いたのだ!


『やれやれ』

 ふわふわとした空間だった。
 ついさっきまで、僕は戦っていたと思うんだけど……。

『この僕が、やられるとはねえ』

 浮遊感がゆっくりと収まってくる。
 それと同時に、周りの空間に色がついていく。

「あっ」

 そこは、見覚えがある場所だった。
 見覚えがあるなんてものじゃない。
 僕たちの冒険の始まりの場所であり、かつて僕にとってディストピアだったところ。
 教室だ。
 教壇にベルゼブブがいる。
 あの、少年の姿だ。

「これは……どういうことっすかね?」

 新聞屋が首をかしげた。
 僕のすぐ隣にいる。
 彼女の席は、もっと別の場所だったと思うけど。
 僕以外にも、クラスの座席はみんな埋まっていた。
 ただ、ほとんどの奴は色がついていない。
 僕と新聞屋のほかは、委員長と、マドンナ。
 出羽亀さんと、階さん。馬井くんに、熊岡くんに、富田くん。
 そして見覚えのない、紫の髪の女の子が、通路を挟んだ隣の席にいる。ああ。これって、エリザベッタ様か。

『ブラボー! 君たちの勝利だ。ゲームで負けたのなんて、久方ぶりだよ……! 他でもない、僕自身をBETしていたというのにね』

 彼はとてもリラックスしている。
 僕らを見回して問いかけた。

『約束は守ろうじゃないか。君たちを元の世界に返そう』

 そこで、手を上げた人がいる。

「あたしは残る」

「私は残ります」

 マドンナと階さんが同時に言った。
 そして、エリザベッタ様は、

「私はハリイとアミの世界に行く!」

 そう宣言した。
 ベルゼブブが一瞬目を丸くして、そしてすぐに笑った。

『そうかそうか……。万が一、人間が僕に勝てば、そういうケースも出てくるってことか。いいだろう』

 彼はマドンナと階さんに、指示を出した。
 教室から退出するよう。
 委員長は一瞬だけマドンナと視線を絡めた。次にマドンナはこっちを見て、口だけ動かした。バイバイ、って言ってた気がする。
 階さんは何も言わなかった。僕たちに一礼して去って行った。
 そして、熊岡くんも無言で立ち上がると、教室を出て行く。
 ベルゼブブは僕に振り返った。

『正直、あの勝負は際どかった。僕の攻撃は君を完全に砕いていたが……それでも、君の反撃は止まらなかった。おかげさまで、僕はこうやって実体を失い、百年かそこらを再生に費やすハメになった』

 おどけたような仕草だったけど、なんだかフランクだった。
 戦友に向けるみたいな言葉遣いだ。

『僕は世界のシステムを応用し、君たちがイレギュラーとして、悪魔に近い能力を身につけるように操作した。そこに生まれたバグが、まさかこれほどゲームを楽しくさせてくれるとは……思いも寄らなかったよ。いい思い出になった』

「……どういたしまして?」

『ああ、ありがとう。これでまた、退屈な500年を我慢できるというものさ』

 彼は溜め息をつくと、脱力し、僕らに背を向けた。

『ただ、君と、君』

 後手に、僕と新聞屋を指差す。

『まずい時にはヘルプを頼むかもしれない。覚悟しておいてくれよ?』

「グエー」

 新聞屋が、潰されたカエルみたいな声を出した。
 僕はなんというか、まあいいかな、という気持ちになったので頷いておいた。

 そうして、ベルゼブブも教室を出て行った。
 一瞬、教室は激しく揺れて……。


 気が付くと、窓の外に、よく知っている世界が戻ってきていた。
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