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Mと人魔大戦編
第五十七話:ドMと悪魔と開戦のラッパ
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約束の日にちがやってきた。
なんの約束かって、それはもう、悪魔たちが告げた人魔大戦の約束だ。
昼日中、突然高らかにラッパの音色が鳴り響いたんだ。
僕はピエール王子にお願いされて、フレートの兵士たちと訓練していた。
訓練っていうか、なんだろう。
兵士の人たちが僕に打ち込んできて、僕がそれを全体カウンターで返すという。
で、兵士の人は返されたカウンターをなんとかして防ぐ。
そういう訓練。
僕的には結構単純作業なので退屈でもある。
だけど、軍隊の地力を上げるためにはどうしても必要なのだ、と王子にお願いされてしまったのだ。
「おお、やっているようだな」
エカテリーナ様もやってきた。
この人、人妻になったというのに振る舞いは全然変わらない。
ドレスを着てるのになんか武人っぽい空気を纏っている。
「こういう光景を見ていると、私も血が騒いでくるな」
「エカテリーナ様、ご鍛錬は夕方からですから、こらえてください……!」
お付きの出羽亀さんはちょっと焦りながら、今にもドレスを脱ぎ捨てそうなエカテリーナ様を止める。
ピエール王子はそんなエカテリーナ様の姿が微笑ましいらしくて、ほっこりした顔をして見つめている。
うん、この二人は結構相性がいいんじゃないかな。
「あれ、そういえばエリザベッタ様はどちらにいかれたんですか?」
今日は朝から見かけない、お騒がせなお姫様の話を聞く。
「あの子ならアミと一緒に城下町に行ったぞ。フレートの流行を探りに行くとか言っていたな」
つまりフレートの仕立て屋さんを巡って、流行の洋服をウィンドウショッピングかしら。
いいなあ。
僕も街を練り歩きたいなあ。
「張井」
そこにやってきたのが馬井くんだった。
「俺の訓練にも付き合ってもらえないか?」
こいつ相変わらずストイックだなあ。
僕としてはどっちでもいいんだけど、この何事にも真剣な感じが女子に受けるんだよね。異世界に来てからモテるようになったのが、馬井くん最大の変化じゃないだろうか。
「別にいいけど」
僕が彼の言葉に応じようとした時、そのラッパは鳴り響いた。
人魔大戦が開かれるのは、百年近くぶりらしい。
以前にこの戦争を経験して生きている人間なんていなくて、経験者は悪魔ばかり。
つまり、誰もが一瞬、このラッパがなんなのか理解できなかった。
そして、この場にいる誰よりも早くこのラッパの意味を理解したのは、意外な人物だった。
「これが人魔大戦の始まりを告げる音色です」
いつの間にか来ていたらしい。
羊皮紙を纏めた本みたいなものを手にして、階さんが立っていた。
腰には蓋のされたインク瓶と、羽根ペン。
「なんと……知っているのか、ルミナ」
「イリアーノとフレートに伝わる口伝を収集していて、戦争の始まりには同じ口述があることに気づいたのです。他の地方を確認していませんが、これは百年前の大戦の始まりと同じ合図です」
階さんが開いた本の最初の部分には、この世界の言葉で、
『人魔大戦の始まり。悪魔が来たりてラッパを吹く』
と書かれていた。
僕もこの世界に来て半年以上になるので、それなりに文字は読めるようになっている。
だけど階さんがこの世界の文字に習熟してる度合いは、僕と比べ物にならない。
書き文字だらけのこの世界でも、見たことが無いほど完璧な形の字で描かれてる。
「開戦です。私はこの戦いを後年に伝えるために、本を書きます」
階さんの目の色は、今まで見たことが無いほどの本気の色だった。
彼女は自分がやるべきことを見つけたのだ。
急遽きゅうきょ、フレート王国で会議が開かれた。
使いの人がイリアーノにも向かってるらしい。
こんなこともあろうかと、北にある小さな国々とも連絡が取れる状態になっているそう。
伝書鳩がたくさん放たれた。
今現在、人魔大戦に一番対応できる国は、聖王国とこのフレート王国。
聖王国には聖騎士団がいるし、フレート王国はエカテリーナ様とピエール王子、そして僕たちがいるからだそう。
その他、遊牧民たちにも準勇者級とかいう強い人たちがいるようだけど、国交がないからよく分かってないみたいだ。
僕たちは会議に呼ばれなかった。
まあ、退屈な会議なんてまっぴらごめんなので、新聞屋とエリザベッタ様と一緒に中庭でまったりしている。
人魔大戦が開戦しようと、人間お腹はすくのだ。
ということで、お茶とお菓子を用意して、王国の女官の人たちと楽しむことに。
「いやー、フレートの焼き菓子はボリュームが凄いっすなー。イリアーノはお菓子関連はちょっとアレだったっすからねー」
新聞屋は満足そうに、パンケーキをパクパク食べてる。
小麦がたっぷり取れるフレートでは、小麦を使ったお菓子がメインだ。
甘みはある種類の木の根から取れる汁を使ってるそうで、元の世界のパンケーキよりも甘さは控えめ。
そのぶん、蜂蜜をたっぷりかける。
エリザベッタ様は、ヨーグルトを乗せて口いっぱいにパンケーキを頬張る。
「あらエリザベッタ様、そんなに口元にヨーグルトをつけて」
豪快な二人の食べっぷりに、最初は唖然としていた女官の人たちだったけど、すぐに慣れたようだ。
フレートの人たちは気位が高くて、何かというと他の国の人を見下す感じがする。
だけど、そんなプライドの塊みたいな女官さんたちも、エリザベッタ様と新聞屋に会うとペースを崩されてしまうみたいだ。
すぐに真似して、大きな塊を食べて見せたりして、その度にどっと笑い声があがる。
で、僕はしれっとその中にまじってケーキをいただいているわけだけど。
「ハリイ様はこうしてみていると、とてもピエール殿下と互角の戦士には見えませんわねえ」
女官の中でおばさまって感じの人が、僕のほっぺについた蜂蜜を拭う。
「可愛いですわぁ」
うわー、なんかぞわぞわっとしたぞ!
「だめよ。ハリイはアミのものって決まっているんだから」
「ぶほっ」
エリザベッタ様の言葉に、新聞屋が口に含んでいたお茶を吹き出した。
鼻に入ったらしくて、もんどりうって苦しんでいる。
「あらあら」
「アミ様が」
「若いわねえ」
おー、この人たち僕たちをいじって楽しんでるな!?
新聞屋はすぐにも否定の声を上げたいらしいけど、熱いお茶が鼻の粘膜を直撃したダメージはなかなかだったらしい。
僕はノーコメント。
このおば様方には勝てる気がしないぞ!!
で、一見和やかにお茶会なんかしてたら、会議をしている議場の方で怒号が聞こえた。
何かあったっぽい。
「行くよ、新聞屋!」
「うう、あっしはもう駄目っす……! 鼻に致命傷を受けてしまった! もてあそばれたハートも痛いっす……!」
「はいはい」
僕はテーブルにぐったり伏した新聞屋を抱え起こすと、定位置……つまり僕の背中にセットした。
これでよし。
「なんか張井くんも随分手馴れてきたっすねー」
「何回目だと思ってるのさ」
さながら盾である僕と、砲台である新聞屋で戦車のような組み合わせである。
「ちょっと行って来ます!」
「あ、私も行くー」
「エリザベッタ様危ないですわよ!」
「そうよそうよ、こちらにいらして!」
あ、エリザベッタ様が捕まった。
僕たちはじたばたしているエリザベッタ様を背後に、議場に急いだ。
そしたら扉の中に、兵士たちがなだれ込むところだった。
だけど、何か魔法の壁みたいなのが出来てて入れないみたいだ。
「しゃあないっすなー。張井くん、もっと寄って寄って」
「はいはい」
新聞屋の指示を受けて、僕は魔法の壁に近づいた。
「おお、ハリイ殿、アミ殿! ……? なぜアミ殿はハリイ殿に負ぶさっているのだ?」
「深い事情がありまして」
「はっはー。へなちょこ結界っすな。ほりゃあ! ”光の破砕槌”!!」
いきなり新聞屋が魔法をぶっ放した!
その一撃で、結界はぶっ飛ばされて、しかも議場の入り口周りが半径3mくらい粉々に粉砕!
「うわー」
「あれえー」
兵士たちが吹っ飛んでいく。
で、この魔法のダメージみたいなのが撒き散らされるんだけど。
「ぜ、”全体ガード”! 新聞屋いきなりすぎだよ!?」
『HPがアップ!』
『魔力がアップ!』
『精神がアップ!』
『愛がアップ!』
「ふっふっふ、久々に開幕ぶっ放しだったっすなー。あースッキリしたー」
もうもうと立ち込める煙が晴れると、議場の中でポカーンとしている偉い人たちと、その前に立ちふさがって、これもポカーンとしてる蛇の尻尾が生えた大柄な男の人がいる。
あれ、あの男の人、こんな屋内で大きな青い馬に乗ってるし悪魔じゃないかな?
「な、な、なんなのだ、今のは」
男の人が言った。
「あっしの魔法っす」
「馬鹿な!! この悪魔バティンの時空隔絶結界を力押しで破っただろう貴様!? 人間業ではないぞ!」
おーおー、焦ってる。
ちなみに、今まさにバティンと戦うところだったらしいピエール王子、気が抜けたみたいでちょっとしたら笑い出した。
「いやはや! 参ったな! 悪魔と言えど、ハリイ殿とアミ殿にかかると形無しだな!」
「ううぬ! この俺のプライドが、プライドが……!」
何があったのかわからないけど、なんか悪魔が馬の上でじたばたした。
「と、とにかく、アマイモン殿の攻める刻限は伝えたからな! 俺は帰る! 帰るったら帰るぞ!」
彼はむくれたまま、何の前触れもなく消えた。
グレモリーちゃんが使ってたゲートの魔術とは違う。これはなんか、瞬間移動って感じだ。
そういえば、グレモリーちゃんを見かけなくなって久しいなあ。
彼女も悪魔だし、人魔大戦では敵に回るんだろうか。
ちょっと戦うのは気が進まない。
「では、先ほど決定したとおり、聖王国への使者を出そう。この戦い、長き人魔大戦を生き抜いてきたかの国の助けなしでは立ち行くまい」
エカテリーナ様が言った。
議場にいるみんなの視線が彼女に集まる。
なんか、悪魔がやってきても動じてないみたいだ。
「エカテリーナ様には使者となるものの心当たりがあるようですな」
「ああ」
頷くエカテリーナ様。
あ、こっちを見た。まさか僕たち? うへえ、めんどくさいなあ。聖王国はなんか厄介な思い出が多いからなあ。
「行ってくれるか、ルミナ」
「ほえ?」
「お?」
僕と新聞屋がちょっと間抜けな顔になって振り返ると、そこには階さんが立っていたのだ。
彼女は力強く頷いた。
なんの約束かって、それはもう、悪魔たちが告げた人魔大戦の約束だ。
昼日中、突然高らかにラッパの音色が鳴り響いたんだ。
僕はピエール王子にお願いされて、フレートの兵士たちと訓練していた。
訓練っていうか、なんだろう。
兵士の人たちが僕に打ち込んできて、僕がそれを全体カウンターで返すという。
で、兵士の人は返されたカウンターをなんとかして防ぐ。
そういう訓練。
僕的には結構単純作業なので退屈でもある。
だけど、軍隊の地力を上げるためにはどうしても必要なのだ、と王子にお願いされてしまったのだ。
「おお、やっているようだな」
エカテリーナ様もやってきた。
この人、人妻になったというのに振る舞いは全然変わらない。
ドレスを着てるのになんか武人っぽい空気を纏っている。
「こういう光景を見ていると、私も血が騒いでくるな」
「エカテリーナ様、ご鍛錬は夕方からですから、こらえてください……!」
お付きの出羽亀さんはちょっと焦りながら、今にもドレスを脱ぎ捨てそうなエカテリーナ様を止める。
ピエール王子はそんなエカテリーナ様の姿が微笑ましいらしくて、ほっこりした顔をして見つめている。
うん、この二人は結構相性がいいんじゃないかな。
「あれ、そういえばエリザベッタ様はどちらにいかれたんですか?」
今日は朝から見かけない、お騒がせなお姫様の話を聞く。
「あの子ならアミと一緒に城下町に行ったぞ。フレートの流行を探りに行くとか言っていたな」
つまりフレートの仕立て屋さんを巡って、流行の洋服をウィンドウショッピングかしら。
いいなあ。
僕も街を練り歩きたいなあ。
「張井」
そこにやってきたのが馬井くんだった。
「俺の訓練にも付き合ってもらえないか?」
こいつ相変わらずストイックだなあ。
僕としてはどっちでもいいんだけど、この何事にも真剣な感じが女子に受けるんだよね。異世界に来てからモテるようになったのが、馬井くん最大の変化じゃないだろうか。
「別にいいけど」
僕が彼の言葉に応じようとした時、そのラッパは鳴り響いた。
人魔大戦が開かれるのは、百年近くぶりらしい。
以前にこの戦争を経験して生きている人間なんていなくて、経験者は悪魔ばかり。
つまり、誰もが一瞬、このラッパがなんなのか理解できなかった。
そして、この場にいる誰よりも早くこのラッパの意味を理解したのは、意外な人物だった。
「これが人魔大戦の始まりを告げる音色です」
いつの間にか来ていたらしい。
羊皮紙を纏めた本みたいなものを手にして、階さんが立っていた。
腰には蓋のされたインク瓶と、羽根ペン。
「なんと……知っているのか、ルミナ」
「イリアーノとフレートに伝わる口伝を収集していて、戦争の始まりには同じ口述があることに気づいたのです。他の地方を確認していませんが、これは百年前の大戦の始まりと同じ合図です」
階さんが開いた本の最初の部分には、この世界の言葉で、
『人魔大戦の始まり。悪魔が来たりてラッパを吹く』
と書かれていた。
僕もこの世界に来て半年以上になるので、それなりに文字は読めるようになっている。
だけど階さんがこの世界の文字に習熟してる度合いは、僕と比べ物にならない。
書き文字だらけのこの世界でも、見たことが無いほど完璧な形の字で描かれてる。
「開戦です。私はこの戦いを後年に伝えるために、本を書きます」
階さんの目の色は、今まで見たことが無いほどの本気の色だった。
彼女は自分がやるべきことを見つけたのだ。
急遽きゅうきょ、フレート王国で会議が開かれた。
使いの人がイリアーノにも向かってるらしい。
こんなこともあろうかと、北にある小さな国々とも連絡が取れる状態になっているそう。
伝書鳩がたくさん放たれた。
今現在、人魔大戦に一番対応できる国は、聖王国とこのフレート王国。
聖王国には聖騎士団がいるし、フレート王国はエカテリーナ様とピエール王子、そして僕たちがいるからだそう。
その他、遊牧民たちにも準勇者級とかいう強い人たちがいるようだけど、国交がないからよく分かってないみたいだ。
僕たちは会議に呼ばれなかった。
まあ、退屈な会議なんてまっぴらごめんなので、新聞屋とエリザベッタ様と一緒に中庭でまったりしている。
人魔大戦が開戦しようと、人間お腹はすくのだ。
ということで、お茶とお菓子を用意して、王国の女官の人たちと楽しむことに。
「いやー、フレートの焼き菓子はボリュームが凄いっすなー。イリアーノはお菓子関連はちょっとアレだったっすからねー」
新聞屋は満足そうに、パンケーキをパクパク食べてる。
小麦がたっぷり取れるフレートでは、小麦を使ったお菓子がメインだ。
甘みはある種類の木の根から取れる汁を使ってるそうで、元の世界のパンケーキよりも甘さは控えめ。
そのぶん、蜂蜜をたっぷりかける。
エリザベッタ様は、ヨーグルトを乗せて口いっぱいにパンケーキを頬張る。
「あらエリザベッタ様、そんなに口元にヨーグルトをつけて」
豪快な二人の食べっぷりに、最初は唖然としていた女官の人たちだったけど、すぐに慣れたようだ。
フレートの人たちは気位が高くて、何かというと他の国の人を見下す感じがする。
だけど、そんなプライドの塊みたいな女官さんたちも、エリザベッタ様と新聞屋に会うとペースを崩されてしまうみたいだ。
すぐに真似して、大きな塊を食べて見せたりして、その度にどっと笑い声があがる。
で、僕はしれっとその中にまじってケーキをいただいているわけだけど。
「ハリイ様はこうしてみていると、とてもピエール殿下と互角の戦士には見えませんわねえ」
女官の中でおばさまって感じの人が、僕のほっぺについた蜂蜜を拭う。
「可愛いですわぁ」
うわー、なんかぞわぞわっとしたぞ!
「だめよ。ハリイはアミのものって決まっているんだから」
「ぶほっ」
エリザベッタ様の言葉に、新聞屋が口に含んでいたお茶を吹き出した。
鼻に入ったらしくて、もんどりうって苦しんでいる。
「あらあら」
「アミ様が」
「若いわねえ」
おー、この人たち僕たちをいじって楽しんでるな!?
新聞屋はすぐにも否定の声を上げたいらしいけど、熱いお茶が鼻の粘膜を直撃したダメージはなかなかだったらしい。
僕はノーコメント。
このおば様方には勝てる気がしないぞ!!
で、一見和やかにお茶会なんかしてたら、会議をしている議場の方で怒号が聞こえた。
何かあったっぽい。
「行くよ、新聞屋!」
「うう、あっしはもう駄目っす……! 鼻に致命傷を受けてしまった! もてあそばれたハートも痛いっす……!」
「はいはい」
僕はテーブルにぐったり伏した新聞屋を抱え起こすと、定位置……つまり僕の背中にセットした。
これでよし。
「なんか張井くんも随分手馴れてきたっすねー」
「何回目だと思ってるのさ」
さながら盾である僕と、砲台である新聞屋で戦車のような組み合わせである。
「ちょっと行って来ます!」
「あ、私も行くー」
「エリザベッタ様危ないですわよ!」
「そうよそうよ、こちらにいらして!」
あ、エリザベッタ様が捕まった。
僕たちはじたばたしているエリザベッタ様を背後に、議場に急いだ。
そしたら扉の中に、兵士たちがなだれ込むところだった。
だけど、何か魔法の壁みたいなのが出来てて入れないみたいだ。
「しゃあないっすなー。張井くん、もっと寄って寄って」
「はいはい」
新聞屋の指示を受けて、僕は魔法の壁に近づいた。
「おお、ハリイ殿、アミ殿! ……? なぜアミ殿はハリイ殿に負ぶさっているのだ?」
「深い事情がありまして」
「はっはー。へなちょこ結界っすな。ほりゃあ! ”光の破砕槌”!!」
いきなり新聞屋が魔法をぶっ放した!
その一撃で、結界はぶっ飛ばされて、しかも議場の入り口周りが半径3mくらい粉々に粉砕!
「うわー」
「あれえー」
兵士たちが吹っ飛んでいく。
で、この魔法のダメージみたいなのが撒き散らされるんだけど。
「ぜ、”全体ガード”! 新聞屋いきなりすぎだよ!?」
『HPがアップ!』
『魔力がアップ!』
『精神がアップ!』
『愛がアップ!』
「ふっふっふ、久々に開幕ぶっ放しだったっすなー。あースッキリしたー」
もうもうと立ち込める煙が晴れると、議場の中でポカーンとしている偉い人たちと、その前に立ちふさがって、これもポカーンとしてる蛇の尻尾が生えた大柄な男の人がいる。
あれ、あの男の人、こんな屋内で大きな青い馬に乗ってるし悪魔じゃないかな?
「な、な、なんなのだ、今のは」
男の人が言った。
「あっしの魔法っす」
「馬鹿な!! この悪魔バティンの時空隔絶結界を力押しで破っただろう貴様!? 人間業ではないぞ!」
おーおー、焦ってる。
ちなみに、今まさにバティンと戦うところだったらしいピエール王子、気が抜けたみたいでちょっとしたら笑い出した。
「いやはや! 参ったな! 悪魔と言えど、ハリイ殿とアミ殿にかかると形無しだな!」
「ううぬ! この俺のプライドが、プライドが……!」
何があったのかわからないけど、なんか悪魔が馬の上でじたばたした。
「と、とにかく、アマイモン殿の攻める刻限は伝えたからな! 俺は帰る! 帰るったら帰るぞ!」
彼はむくれたまま、何の前触れもなく消えた。
グレモリーちゃんが使ってたゲートの魔術とは違う。これはなんか、瞬間移動って感じだ。
そういえば、グレモリーちゃんを見かけなくなって久しいなあ。
彼女も悪魔だし、人魔大戦では敵に回るんだろうか。
ちょっと戦うのは気が進まない。
「では、先ほど決定したとおり、聖王国への使者を出そう。この戦い、長き人魔大戦を生き抜いてきたかの国の助けなしでは立ち行くまい」
エカテリーナ様が言った。
議場にいるみんなの視線が彼女に集まる。
なんか、悪魔がやってきても動じてないみたいだ。
「エカテリーナ様には使者となるものの心当たりがあるようですな」
「ああ」
頷くエカテリーナ様。
あ、こっちを見た。まさか僕たち? うへえ、めんどくさいなあ。聖王国はなんか厄介な思い出が多いからなあ。
「行ってくれるか、ルミナ」
「ほえ?」
「お?」
僕と新聞屋がちょっと間抜けな顔になって振り返ると、そこには階さんが立っていたのだ。
彼女は力強く頷いた。
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