上 下
49 / 75
Mとお姫さま結婚騒動編

第四十九話:ドMと姫と隣の方の国の王子

しおりを挟む
 半月くらいかけて僕たちは帰還したぞ。
 思えば遠くにきたもんである。
 エリザベッタ様を人目にさらしたらダメという縛り付きで、あれくらいの犠牲で澄んだのは、むしろ僕たちいい仕事をした!

「やっぱり、人目を気にしないでいいって最高ね!」

 真っ昼間の屋台街で、エリザベッタ様は骨付き肉を手にしながらご満悦だ。
 彼女は活動的な格好をしてて、長い髪は背中の中ほどでバッサリ切って、紐で結わえてる。

「ひゃっはー! 肉だ肉だー! うめえー。うめえー」

 がつがつお肉を食べるのは新聞屋。

「あ、パンおかわりください!」

 僕はパンを貰って、それにお肉を挟んで食べている。
 あの後、ニックスさんとまたうまく連絡がとれて、聖王国から送ってもらった。
 今はイリアーノからちょっと入った宿場町で、海が近い場所にいる。
 このお肉はなんと、イルカみたいな動物の肉なのだ。
 徹底的に血抜きをしてからじゅうじゅう焼くらしいんだけど、癖はあってもこれはこれで美味しい。
 保存食に比べたら天国だ!

 エリザベッタ様は、完全に魔眼を隠す必要がなくなったということで、こうしてお昼からオープンな感じで出歩くことができるようになっている。
 むしろ今までの鬱憤を晴らすように、人が多いところを歩きまわっているみたいだ。
 ちなみに髪飾りが魔眼を溜めておける期間は大体3日くらいらしい。
 4日目になった暴発して、見渡すかぎりの農村が死の平原に変わったので間違いないね!
 あれはエリザベッタ様がショックをうける前に、僕と新聞屋で彼女の顎を打って脳を揺らして気絶させたから大丈夫!

「張井くん、あっしは気づいたっすよ」

「ほう、なんだい新聞屋。何に気づいたんだい」

「うむ。エリザベッタ様の魔眼が暴発しそうな時は、髪飾りが紫色の渦っぽく光るっすよ。ほれ、今みたいに」

「あっ、ほんとだ」

 ご機嫌でお肉を食べるエリザベッタ様の頭の上で、髪飾りがぐるぐる光を放っている。
 通り過ぎる人が珍しそうに見ているけれど、うん、あまり直視すると多分これ死ぬよ!

「じゃあ新聞屋、任せたよ!」

「えっ、あっしがやるっすか!? やだなー。いまちょうど新しい肉が来たところなのに」

「お肉と町一つどっちが大事なんだい」

「お肉」

「ていっ」

「いたぁっ!? 張井くんがあっしにDVを!? おのれえっ!!」

「うきゃー! 新聞屋! 僕をもみくちゃにする暇があったら早くエリザベッタ様をー!!」

「おっ! そうだったっす!」

 自分のことが話題になっているから、エリザベッタ様はきょとんとして僕たちを見ている。
 新聞屋は名残惜しそうに肉を置いて立ち上がると、

「エリザベッタ様、そろそろ溜まってるのを出す時間っす」

「なんか下品な感じの物言いだなあ」

「うるちゃい!! さあさあ」

「あら、そうなの。もうそんな時間なのね」

 特に疑問も感じず、エリザベッタ様は立ち上がった。
 そして二人で、家の影に行く。
 ……あっ、女の子二人の後を追って、ガラの悪い男たちがついていったぞ! なんて運のないやつらだろう。

 僕はこの場で、周囲の人達全員を対象に全体ガードをかける。
 そろそろガラの悪い男たちが、二人に声かけたりしてる頃かなって辺りで、建物の裏がピカーッと紫色に光った。

「な、なんだあの光は!」

「うおー!! 家が、家が崩れていく!」

「草木が枯れていくー!!」

 しばらく溜め込まれた魔眼のパワーはなかなかすごい。
 もう、生物無生物関係なく、周辺の何もかもを滅ぼし尽くす感じだ。
 人が近くにいると、一瞬で骨になって骨も粉々になって消える。
 ただまあ、こうやって定期的に発散してるとそれなりの範囲で済むので、イリアーノに帰ったらエリザベッタ様専用の魔眼発散所を作ってもらえば大丈夫かなーなんて考えている。

 村の人達が無事なのは、僕の全体ガードで守られてるからだ。
 まだどよめきが収まらない屋台村に、エリザベッタ様が新聞屋を連れて帰ってきた。

「ねえハリイ。なんだか男の人たちを灰にしてしまった気がするのだけど……」

「気のせいだよ!」

「気のせいっす!」

「そうかしらね?」

 そういうことにした。




「なんか死の大地って感じになったけど、あれってちゃんと元通りになるのかなあ」

「さあねー。あっしには分からないっすなー」

「戻ればいいわねえ」

 僕たちは他人事みたいに言いながら入りアーノに向かって帰っていくところ。
 徒歩なのでのんびりの旅だ。
 たっぷり一週間かけて王都に到着した。
 この旅のおかげで、随分エリザベッタ様も頑丈になったみたいだ。悠々と一週間の道のりを歩いている。
 それで、特に問題もなく……っていうか、問題があっても問題にもならないんだけど、僕たちはイリアーノの王都に帰ってきた。
 もうこの世界が自分の庭みたいな感覚だ。

「はーっはっはっは! あっしたちが帰ったっすぞー!!」

「げえ!」

 門番をしていた兵士たちは僕たちの顔を知っていたみたい。
 ここにとどまっていてください、となんだ凄く下手に出たお願いをされて、一人が奥の方に人を呼びに行った。
 門番の人にお茶をいれてもらいながら、詰め所で待つこと多分二時間位。

「おお! 帰ったか!」

 エカテリーナ様がじきじきにお迎えにやってきた!

「エカテリーナ! 私、ついに魔眼をなんとかできるようになったわ!」

 興奮して飛び出してきたエリザベッタ様。
 エカテリーナ様は目を丸くしながらも、飛び込んできた妹を受け止めた。

「おお……! 本当か! これもハリイとアミのおかげということか……!」

「ええ。ハリイもアミも凄く良くしてくれたわ。本当に、感謝してもしきれないくらい」

「いやー、褒めてもらうとむずがゆいです」

「ふっふっふ! あっしに金一封を送ってくれても構わないっすよ!」

「ちなみに王宮では、エリザベッタを連れだしたお前たちを極刑に処すべきだという意見も多くてな」

「ひいっ!? あ、あっしは何もしていないっすぞ!! 悪いのは全部張井くんっす!!」

「あっ、裏切ったな新聞屋!」

 僕たちのやり取りを見て、エカテリーナ様もエリザベッタ様も笑った。

「お前たちを害せる者など、このイリアーノには一人もおるまいよ。だが、また事情は変わってきていてな。ちょうどいい時に帰ってきてくれたのかも知れん」

「ちょうどいい時ですか」

 エカテリーナ様が微妙な表情をしたのが気になった。



 そのちょうどいい時というのは、なるほどなかなかめんどくさい状況になっている謁見の間を見てわかった。
 見知らぬ男の人と、その人の部下らしい騎士たちがいる。
 見覚えがない鎧だ。イリアーノじゃないし、聖王国の方でもない。
 ということは……。

「西方のフレート王国の使者だ」

 エカテリーナ様の説明でよくわかった。
 なんか涼し気な目元のイケメンだ。いけすかないぞ!

「おお、エカテリーナ殿下。お隣におられるのが、噂に聞く魔眼の姫、エリザベッタ王女殿下ですか」

 イケメンは貴族っぽい作法で会釈した。

「フレート王国第二王子、ピエールと申します。この度は、イリアーノ王国へ人魔大戦の共闘を申し出に参った次第」

 玉座では、王様や王子、王女たちが苦々しい顔をしている。
 実際、イリアーノ最強戦力はこのエカテリーナ、エリザベッタ姉妹だからなあ。
 あ、なんかピエール王子がこっち見た。
 じーっと見てる。

「ひえっ!? あっしを凝視してるっすよ!?」

「物珍しいんだよ。ワータヌキとかなかなかいないじゃん」

「失礼ながら、この可愛らしい女性は?」

「彼女はアミ。私の友人よ」

「ああ、心強い私たちの味方だ」

「ほう……」

 ピエール王子が目を細めた。
 なんかあれだ。
 この人、多分女好きなんじゃないかなー?
 って、なんか僕を見ている。

「ふむ、あれなら男でもなかなか」

 うひー!
 背中がぞわぞわしたぞ!!

「って、やめてよ新聞屋!? 僕を前に押し出さないでよ!?」

「いやいや! あっしの代わりに張井くんが貞操を差し出せばいいと思うっすよ! ほら! 張井くんかわいい系男子っすから!」

「やめてー!?」

 ぎゃあぎゃあ言って揉み合ってたら、王様が玉座で咳払いした。
 おっと、ここは謁見の間だったよ!

「フレートからの申し出はよく分かった。伝説に聞く人魔大戦がじきに起ころうというのは、にわかには信じ難いが……嘘や冗談で第二王子を遣わすほど、フレートも酔狂ではなかろう」

「はい。我がフレートはガーデンの西端を守る国。それゆえに、西方を支配する黒貴族ペイモンの言葉を直に受けることがあります。この度の大戦は、ペイモンからの使者が伝えてきたこと。悪魔側の先達は、黒貴族アマイモンが務めるとのことです」

 随分詳しいところまで話が進んでるなあ。
 っていうか、事前連絡しあうわけだから、戦争って言うよりはなんか競技とかみたいだ。

「だからと言って、フレートの要求を飲むのは難しい……」

「両国にとって得となる婚姻ですよ」

 ピエール王子が言った。
 なんか今、婚姻って?

「フレート王室は、エカテリーナ王女殿下を迎えたいと、そう言っているのです」

「ええええええええっ!?」

 僕と新聞屋とエリザベッタ様が、異口同音に叫んだ。
 エカテリーナ様が!?
 結婚!?
 結婚するって本当ですかっ!?
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

忘却の艦隊

KeyBow
SF
新設された超弩級砲艦を旗艦とし新造艦と老朽艦の入れ替え任務に就いていたが、駐留基地に入るには数が多く、月の1つにて物資と人員の入れ替えを行っていた。 大型輸送艦は工作艦を兼ねた。 総勢250艦の航宙艦は退役艦が110艦、入れ替え用が同数。 残り30艦は増強に伴い新規配備される艦だった。 輸送任務の最先任士官は大佐。 新造砲艦の設計にも関わり、旗艦の引き渡しのついでに他の艦の指揮も執り行っていた。 本来艦隊の指揮は少将以上だが、輸送任務の為、設計に関わった大佐が任命された。    他に星系防衛の指揮官として少将と、退役間近の大将とその副官や副長が視察の為便乗していた。 公安に近い監査だった。 しかし、この2名とその側近はこの艦隊及び駐留艦隊の指揮系統から外れている。 そんな人員の載せ替えが半分ほど行われた時に中緊急警報が鳴り、ライナン星系第3惑星より緊急の救援要請が入る。 機転を利かせ砲艦で敵の大半を仕留めるも、苦し紛れに敵は主系列星を人口ブラックホールにしてしまった。 完全にブラックホールに成長し、その重力から逃れられないようになるまで数分しか猶予が無かった。 意図しない戦闘の影響から士気はだだ下がり。そのブラックホールから逃れる為、禁止されている重力ジャンプを敢行する。 恒星から近い距離では禁止されているし、システム的にも不可だった。 なんとか制限内に解除し、重力ジャンプを敢行した。 しかし、禁止されているその理由通りの状況に陥った。 艦隊ごとセットした座標からズレ、恒星から数光年離れた所にジャンプし【ワープのような架空の移動方法】、再び重力ジャンプ可能な所まで移動するのに33年程掛かる。 そんな中忘れ去られた艦隊が33年の月日の後、本星へと帰還を目指す。 果たして彼らは帰還できるのか? 帰還出来たとして彼らに待ち受ける運命は?

勝負に勝ったので委員長におっぱいを見せてもらった

矢木羽研
青春
優等生の委員長と「勝ったほうが言うことを聞く」という賭けをしたので、「おっぱい見せて」と頼んでみたら……青春寸止めストーリー。

GAME CHANGER 日本帝国1945からの逆襲

俊也
歴史・時代
時は1945年3月、敗色濃厚の日本軍。 今まさに沖縄に侵攻せんとする圧倒的戦力のアメリカ陸海軍を前に、日本の指導者達は若者達による航空機の自爆攻撃…特攻 で事態を打開しようとしていた。 「バカかお前ら、本当に戦争に勝つ気があるのか!?」 その男はただの学徒兵にも関わらず、平然とそう言い放ち特攻出撃を拒否した。 当初は困惑し怒り狂う日本海軍上層部であったが…!? 姉妹作「新訳 零戦戦記」共々宜しくお願い致します。 共に 第8回歴史時代小説参加しました!

小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話

矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」 「あら、いいのかしら」 夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……? 微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。 ※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。 ※小説家になろうでも同内容で投稿しています。 ※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。

【R18短編】聖処女騎士はオークの体液に溺れイキ果てる。

濡羽ぬるる
ファンタジー
聖騎士アルゼリーテはオークの大群に犯される中、メスの快楽に目覚めてゆく。過激、汁多め、オカズ向けです。 ※自作中編「聖処女騎士アルゼリーテの受難」から、即楽しめるよう実用性重視のシーンを抜粋し、読みやすくヌキやすくまとめた短編です。

美少女だらけの姫騎士学園に、俺だけ男。~神騎士LV99から始める強くてニューゲーム~

マナシロカナタ✨ラノベ作家✨子犬を助けた
ファンタジー
異世界💞推し活💞ファンタジー、開幕! 人気ソーシャルゲーム『ゴッド・オブ・ブレイビア』。 古参プレイヤー・加賀谷裕太(かがや・ゆうた)は、学校の階段を踏み外したと思ったら、なぜか大浴場にドボンし、ゲームに出てくるツンデレ美少女アリエッタ(俺の推し)の胸を鷲掴みしていた。 ふにょんっ♪ 「ひあんっ!」 ふにょん♪ ふにょふにょん♪ 「あんっ、んっ、ひゃん! って、いつまで胸を揉んでるのよこの変態!」 「ご、ごめん!」 「このっ、男子禁制の大浴場に忍び込むだけでなく、この私のむ、む、胸を! 胸を揉むだなんて!」 「ちょっと待って、俺も何が何だか分からなくて――」 「問答無用! もはやその行い、許し難し! かくなる上は、あなたに決闘を申し込むわ!」 ビシィッ! どうやら俺はゲームの中に入り込んでしまったようで、ラッキースケベのせいでアリエッタと決闘することになってしまったのだが。 なんと俺は最高位職のLv99神騎士だったのだ! この世界で俺は最強だ。 現実世界には未練もないし、俺はこの世界で推しの子アリエッタにリアル推し活をする!

クラス転生あるあるで1人追放になって他の勇者は旅立ったけど私達はのんびりしますがのんびり出来なそうです

みさにゃんにゃん
ファンタジー
よくラノベの定番異世界転移のクラス転移で王様がある男子…黒川君を国外追放した。 理由はあるある展開で「雑魚スキルだから出てけ」ということで黒川君はドナドナされて残ったメンバーは勇者として直ぐに魔物討伐の旅に出されたが私達はのんびりしようと思います。 他のキャラのサイド話が間に入りますので悪しからず

天日ノ艦隊 〜こちら大和型戦艦、異世界にて出陣ス!〜 

八風ゆず
ファンタジー
時は1950年。 第一次世界大戦にあった「もう一つの可能性」が実現した世界線。1950年4月7日、合同演習をする為航行中、大和型戦艦三隻が同時に左舷に転覆した。 大和型三隻は沈没した……、と思われた。 だが、目覚めた先には我々が居た世界とは違った。 大海原が広がり、見たことのない数多の国が支配者する世界だった。 祖国へ帰るため、大海原が広がる異世界を旅する大和型三隻と別世界の艦船達との異世界戦記。 ※異世界転移が何番煎じか分からないですが、書きたいのでかいています! 面白いと思ったらブックマーク、感想、評価お願いします!!※ ※戦艦など知らない人も楽しめるため、解説などを出し努力しております。是非是非「知識がなく、楽しんで読めるかな……」っと思ってる方も読んでみてください!※

処理中です...