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Mと三人の魔女編

第二十四話:ドMと革命と救出作戦

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 冷静になって考えてみると、委員長はすごくめんどくさい女の子だ。
 プライドは高いし、僕を見下すし、人付き合いは下手だし、ルール、ルールで融通はきかない。
 勉強は出来るけど、人間として大事な部分をどこかに置き忘れてきたような子だし、何かあると他人のせいにして逆恨みするところがある。
 家庭が厳しいのは知ってるので、多分その影響だ。
 基本、まじめなのだ。
 で、正義とかを頭から信じ込んでるから、理不尽に対して怒る。
 怒るだけじゃなくて憎む。
 だから今みたいなめんどくさいことになる。

「とおしてください! とおしてください!」

 僕は叫びながら、わあわあと委員長の屋敷に押しかけた人たちの間をくぐっていこうとする。
 この人たちは、元々魔女イイー派だった。
 だけど、委員長は彼らを心のそこから従える事はできなかったみたいだ。
 だって、彼らは怒っている。
 魔女イイーが魔法を使えなくなったという噂が流れて、彼らは一挙に屋敷に押しかけたのだ。

 魔女イイーはみんなから恐れられていた。
 人を殺すだけの魔法を使う、恐ろしい存在だからだ。
 怖いからみんな従っていた。
 だけど、怖くなくなったらどうなるだろう?
 このやろう、俺を今まで怖がらせやがって! そんな風な感情になるんじゃないだろうか。

 その答えが目の前にある。

「魔女イイーを殺せ!!」

「恐怖を煽る魔女を殺せ!!」

「町を俺たちで取り戻すんだ!!」

「殺す必要は無いと思いまぁす!」

 僕が大声で反論しても聞いてくれない。

「いやー、大変だね新聞屋、みんないきり立ってるよ」

「張井くんもう諦めた方がいいっすよ! もう委員長は死んだっすね! それともあっしがあの中に魔法を投げ込んで……」

「えっ、新聞屋まだ魔法が使えるの!? この辺一帯の魔法が消えてしまったのに!? あと、君が魔法を使うと多分委員長ごとここの人たちが消滅する気がするなあ」

 一番危険なのは委員長じゃなくて、このタヌキ耳の女の子なんだけど、誰も気づかない。

「仕方ない、強行突破だ!」

「えー、張井くんが一人で行けばいいっすよー」

「うん、一人で行くつもりだよ。だから手を貸してよ新聞屋。グレモリーちゃん」

「どうするつもりです?」

 グレモリーちゃんがちょこんと首をかしげた。

「僕を魔法で空にふっ飛ばしてもらって、そこを委員長の屋敷に向かってまた吹っ飛ばしてもらえばいいんだよ」

「ええっ、と、とんでもないさくせんです!」

「張井くん以外は死ぬっすねえ、それ。なんというHPに物を言わせた作戦」

「ということで、新聞屋、一発目頼むよ!」

 僕は言いながら、無駄に立派な新聞屋のおっぱいを両手で正面からむぎゅっと握った。
 すごい!!
 手のひらで包みきれないどころか、無力感を覚える圧倒的ボリューム!!
 しかも女子中学生ならではの素晴らしい弾力が指を押し返してくるよ!
 これは国宝級かもしれないね!
 でも新聞屋が持ってると宝の持ち腐れだね!

「ここここここっ!! このっ、スケベ張井くんがあああああ!! くたばるっすううううう!!」

 新聞屋、まさに怒髪天を衝くっていうやつだ。

「しねえっ!!”聖槍射出ホーリースピアシュート”ッ!!」

 僕の足元から、いきなり発生した物凄く大きな光の槍。
 それが、僕を空に向かって突き上げた!
 多分これ、本当なら当たった相手を粉々にしたり、大きな魔物を串刺しにする魔法だね。
 光で出来た大きな槍は周囲にいた人々ごと僕をかち上げると、そのまま光の粒になって消えてしまった。
 あと、かち上げられたほかの人も光の粒になって消えてしまった。
 見なかったことにしよう、うん。

「グレモリーちゃん!! お願い!」

「ハリイはタフなのです!! いっくですー!」

 既に空に待機していたグレモリーちゃんは、その手に巨大な鎌を召喚する。
 それを大きく振りかぶって、僕目掛けて叩き込む。
 さる理由から、僕はダメージを受けても傷が出来ない。
 どんな武器で攻撃されても、衝撃を受けるだけで見た目は何も変化しないのだ。
 今回、大事なのはこの衝撃。

 グレモリーちゃんは小さいけどさすがは悪魔。
 すごいパワーで振り回された鎌が、僕を吹っ飛ばす。
 方向は間違いなく、委員長の屋敷!

「いいんちょおおおおおお!」

 僕は叫びながら風を切って飛んでいく。
 一瞬、空飛ぶ僕に気づいたのか、下にいた人たちの幾らかが空を見上げて目を丸くした。
 そのまま僕は、委員長の屋敷に直撃。
 あまりのショックで、二階部分が丸ごと吹き飛んだ。
 大きなお屋敷が、斜めに傾く。
 屋敷に入り込んでいた人たちが、ショックではじき出されるようにして、外に転がり出てきた。

「な、なんだなんだ!」

「何かが空から落ちてきたぞ!?」

「ま、まさか魔女イイーの魔術!?」

「イイーはもっと、直接人を殺すような魔術だったぞ! これはなんていうか、もっと大雑把な……」

 外野の声なんて聞いてる暇なんてない。
 委員長はまだ生きてるんだろうか。

「委員長!」

 僕は叫びながら、突っ込んでしまった屋敷の床板を蹴り破った。
 二階の床板を蹴り破ると、そのまま一回の天井の上に到着。
 天井も結構痛んでいるから、それも勢い任せに踏み破る。

「とう!!」

 下に誰かいると気づいたのは、掛け声を上げて飛び降りた後だった。
 まあいいや!

「げぶう」

「むっ、下にも委員長がいない?」

「て、天井から子供が降ってきた!?」

 周りにいた人たちは、僕をおっかなびっくり取り囲む。
 ここは委員長の支配していたところだから、僕の顔を知らない人がたくさんいるんだろう。
 僕はブンヤーの支配するところでSMクラブの総支配人をしていたから、なかなか表に出てくる機会がなかったのだ。

「委員長はどこですか!」

 僕はとりあえず聴くことにした。

「委員長……? いいって、魔女イイーのことか?」

「そう、それ」

 すると、周りの人たちの雰囲気が一気に険悪になった。

「まさか、お前、魔女イイーの仲間なのか!?」

「イイーの手下か!!」

「あいつはな、俺の親友を目の前で灰にしやがったんだ! 許せねえ!!」

「恐怖で私たちを縛ってきたのよ! 今度は私たちが捕まえて処刑してやるわ!」

 口々に、憎しみの言葉を吐く。
 だけど、それはそれ。これはこれ。僕としては彼らの事情はどうでもいい。

「あのー、そういうのいいんで、委員長の居場所だけ教えてもらえれば」

「この野郎、させるかよ!!」

 僕の言葉に、怒ったらしい。
 棍棒を持った人が、僕を思い切り殴りつけてきた。
 だけど、まあ、素人の人の通常攻撃だと、僕の体力は抜けないと思うなあ。僕の体力は防御力に直結してて、そろそろこれが、剣で切られても突かれても痛くもかゆくもなくなってきているのだ。
 僕はそれを受けながら、

「教える気はないみたいですね……!!」

 確認した。

「こ、こいつ、殴ってもなんともないぞ!」

「化け物め!」

 槍が、ナイフが、僕に襲い掛かる。
 うむ。
 なんともない。

「じゃあ、自分で探しまーす。”全体カウンター”」

 僕は手近な一人の攻撃にあわせて拳を繰り出した。
 それと同時に、僕に敵対的だった周りの人全員の顎の下に、僕の拳のコピーが出現する。
 それは僕のパンチと一緒に、その人の顎を打ち抜いて脳を揺らす。

「うっ」

「うっ」

「うっ」

 片っ端からみんな昏倒していく。
 命を奪わない慈悲の拳。
 うん、僕は人間が出来てるなあ。そもそも、丸腰でしか使えない技ばっかり持ってるんだけど。

「おーい、委員長ー!」

 僕はのしのしと、倒れた人たちを踏み越えて屋敷の中を探す。

「いやあっ!! 近づかないで!! 殺す! 殺すわよ!!」

「うるせえ! やれるものならやってみろよ! お前がもう、あの恐ろしい魔術を使えないことは分かってるんだぞ!」

「ガキのくせに俺たちを牛馬みたいにこき使いやがって! ただでは殺さねえぞ! 広場で寸切りにしてゆっくり処刑してやる!」

「やめてっ! 痛い! 髪引っ張らないで! うぐっ!! がはっ……! ゆ、許さない、お前たち、ゆるさなっ……ぎゃっ」

 声がした!
 僕は走り出す。
 場所は……立派な鎧が飾ってある壁が、半分開いている。
 隠し扉だ。
 その奥から声は聞こえてくる。
 僕はすぐに飛び込んだ。

 目の前に男の人が立ってて、

「へへっ、ガキが粋がるからだ。もっと殴ってしつけてやろうぜ!」

 とか言ってるので、僕は彼と肩を組んで、

「ちょいなっ」

”河津掛け”

「おぎゃああーっ!!」

 男の人は床に後頭部を強打してのた打ち回る。
 体重がそんなに重くなくて、痛いだけで済んだみたいだ。

「な、なんだ!?」

「魔女の新手か!?」

「まさか! イイーに手下なんかいなかったぞ!!」

 混乱する声がする。
 僕はそこに走って飛び込んでいった。

「女の子を殴るのはいけないと思うよ!!」

「うわ、なんだお前!?」

 突然登場した僕に、みんな混乱したみたいだ。

「は、張井くん……!?」

 倒れていた女の子、委員長が僕を見て呆然と呟く。
 唇の端が切れて、鼻血も流れてる。目の周りが青あざになっていて、服もボロボロだ。
 これはひどい。
 僕は自分が(女の子に)いじめられるのは大好物だが、女の子が暴力にあうのは大嫌いなのだ。
 なぜなら、女の子は僕をいじめる為に存在するからだ。
 人を殴ったり傷つけるのは面白くもなんともないけど、委員長を助ける為にはやらなきゃならないね!

「助けに来たよ、委員長!」

「このっ、イイーの仲間め!! 死ね!!」

 飛び掛ってくるのは、その辺の折れた棒切れを握った大男。
 僕はその棒切れを普通に頭に受けると、

「君で視界が隠れると委員長が見えないんだが!!」

 感情のままに叫びながら、”クロスカウンター”を放った。
 多分使い方が間違ってる。
 食らいながら使ってる。でもまあ、攻撃を避けるとか出来ないからいいのだ。
 自分が放った一撃の勢いをそのまま顎に食らって、大男は仰向けにぶっ倒れた。

「馬鹿な、あんな子供が……!!」

「あいつも魔術を使うぞ!」

 使えたらいいよね……。
 僕の魔力ってさ、無駄じゃない?

「よし、この我が家の家宝の魔剣で切り殺してやる!!」

 この中では、一番腕が立ちそうな人が現れた。
 あ、この人、委員長の手下だった人じゃないか?
 僕と新聞屋が町に来た時に見たことがある。
 彼は青い光を放つ剣を手にして、こっちに向かってくる。
 さすがに魔剣は怖いな。よし。

「ア”ア”ァ”イ”ッ」”反応射撃”

 僕は叫びながら、床に落ちてた金属の止め具を投げつけた。
 多分この仕掛け扉の一部。

「ぎょばっ」

 その人は、魔剣を振る前に頭を止め具に打たれて転倒した。
 止め具の威力は魔剣の強さに対応するらしいから、かなりすごい威力になってるかもしれない。

 残ったのは、普通っぽいおじさんとおばさんたち。
 みんな、目を丸くして僕を見ている。
 その目が、徐々に恐怖の色に染まっていく。

「あ、あ、悪魔だ」

「違います」

 僕は即座に否定して近づいた。
 彼らは、もう戦意をなくしてるみたいだ。
 一番強そうな二人が何も出来ずにやられたんだから気持ちは分かる。
 本当、戦いとはむなしい。何が楽しいって言うんだろう。

「せ、せめて魔女はこの手で!」

 おばさんが懐からナイフを取り出して振りかぶる。
 委員長を刺し殺すつもりだ。
 委員長も、それを見上げて恐怖に絶叫をあげる。
 だけど、

「大丈夫だよ委員長」

 僕は、恐らくこのHPを活かせる最高の技を使う。
”全体ガード”

 僕の目が届く限りの攻撃のダメージを、全部引き受ける技だ。
 振り下ろされたナイフは、委員長に刺さらない。
 肌の上でぴたっと止まっている。
 ナイフが、僕の防御を抜くくらいの威力がないと、何の効果も発揮しなくなるのだ。

「ひっ、ひいい」

 おばさんが腰を抜かした。

「ちょっと通りますよ」

 僕は彼らの間を抜けて、倒れた委員長を助け起こした。
 彼女は、僕の記憶にあるよりも、ずっと痩せていた。
 これはストレス性によるものだね。
 ちょっとだけあったおっぱいが完全に無い。
 悲しい。

「張井くん、私……ッ」

「委員長、もっとご飯を食べたほうがいい」

「うん……」

 委員長は、僕にギュッとしがみついてきた。
 ……違うんだよなー。
 もっとこう、なじって、罵ったり、僕の言葉のトンチンカンさを指摘して上から目線で説教してきてくれないと……。
 だが、それは彼女が元気になったら幾らだってやってくれるだろう。
 僕は委員長を連れてひょっこり屋敷の外に出た。

 その途端、

「魔女だ!!」

「イイーだ!!」

「殺せ!!」

「魔女を殺せ!!」

 すごい怒号が辺りを支配した。
 何百人もの人が辺りを取り囲んでいる。
 彼らはみんな委員長を見ている。
 みんな、憎しみに満ちた目で委員長を見ている。
 まあ、気持ちは分かる。
 教室で委員長が使ったあの灰になる光線、怖かったもんねー。

「ひいっ……」

 委員長は、今までの気丈さなんて無くなって、僕に隠れるようにする。
 なんてことだ。
 これではいじめてもらえなくなるかもしれない。
 それは困る。
 人類の損失だ。
 よし、とりあえずこの場を全部片付けるか。

 僕は、ちょうど殴りかかってきた男の人に拳をセットしながら宣言した。

「”全体カウンター”!」



「おー、良くぞ戻ってこれたっすねー。っていうか、張井くん心臓に毛が生えてるっすよね? あっしなら確実に土下座してたっすよ! しかし、ふっふっふー、いいざまっすなあ委員長! 因果応報というやつっすよ!! これからはあっしの下僕になると誓えば連れて行ってやらない事もぎゃばらばっ」

 新聞屋が、グレモリーちゃんに蹴られて三十メートルくらい吹っ飛んでいった。
 あの調子だと、回復魔法は使ってくれそうにないなあ。
 グレモリーちゃんも、回復魔法は不得意なんだそうだ。

「さて、ハリイ、わかってるですか? おまえはいま、まちのにんげんたちに、せんせんふこくしたです」

「あ、そうなんですか」

「そうなのです。つるぺたはたすけましたが、ぽちゃはもっといばらのみちです。ちをながさなければ、たすけられないかもなのです!」

「ほうほう」

 ようじょなのに、グレモリーちゃんの言葉は重みがある。
 確かに、憎まれる魔女を救い出してしまった僕は、町の人たちにとっては許せない奴になるのかもしれない。この上、もう一人の恐れられている魔女、マドンナを助けようなんてとんでもないことなんだろう。
 だけど、僕は宣言した。

「ま、でもマドンナは助けます」

 多分この世界で、マドンナを助けに行く奴は僕しかいないと思うからだ。
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