俺は異世界の潤滑油!~油使いに転生した俺は、冒険者ギルドの人間関係だってヌルッヌルに改善しちゃいます~

あけちともあき

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107・また過去の夢を見るなど

第328話 大人への道がまだまだ遠かった頃

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 気を取り直して、また夢を傍観してみる。
 おお、幼い頃の僕がダッシュで路地を駆け抜ける。
 瓦礫を飛び越え、倒れかけた壁の下をくぐり……。

 すっかり能力を使うのを忘れているな。
 まだまだ、油使いの力が手足のように馴染んでいなかった頃だ。

 精神性も子どもの状態のほうが強い時期だな。
 前世の自分が時折顔を出すが、そうならなければ常に仕事はピンチだった記憶がある。

「くっそっ、全然……引き離せない!」

「待て! ガキーっ!!」「おい、回り込め! ガキ一人だ!」「おう!」

「まずいまずいまずい……!!」

 焦る幼い僕。
 当然である。
 十歳の子どもが大人に身体能力で勝てるわけがない。
 アニメやラノベではないのだ。

 このままで命が危ない。
 だが、いいところで出てくる、前世の僕。

「よし、ではここからは僕が担当しよう」

 そうそう、この頃の僕はちょいちょい二重人格みたいになっていた。
 これも、第二次性徴と同時に落ち着いていったんだよな。

「た、頼むっ」

「オーケーオーケー!」

 これが同じ子どもの口から漏れているのだ。
 傍から見たら正気ではない。

 だが本気なのだ。
 顔つきが変わった幼い僕が、「油よ!」と地面を指差す。
 そこに油溜まりが生まれた。

 崩れた壁を乗り越えてきた半グレは、そこから「いたぞガキィ!!」と飛び降りて……。
 着地したところが油なのでツルンっと滑った。

「ウグワーッ!!」

 すっ転んで頭を打って失神してしまう。

 幼い僕はこれを見て、また移動を開始した。
 他の半グレが回り込んできているはずだ。

 おっと、前から回り込んできた酔っ払いが!

「うおおおーっ! 逃さねえぞガキーッ! ここでぶっ殺して……」

「油ーッ!!」

 ギリギリのところで足元に油をばら撒いた。

「ウグワーッ!!」

 すっ転んで頭を打って失神!
 酔っ払い、身体能力が落ちてるから手を突いて支えられないのな。
 危ない危ない。

 だが、調子が良かったのはここまでだった。
 倒れている男をむぎゅっと踏んづけて、もうひとりの半グレが飛び出してきた。

 油を戻すのが間に合わない!

「ウワーッ」

 あわや、少年ナザルの冒険はここで一巻の終わり~というところで。

 何も無い虚空から石ころが飛んできた。
 それが半グレの頭に当たり、「ウグワーッ!!」と無情に額を割って、こいつを転倒させる。
 半グレ失神!

 石はパッと消えて、無から登場するリップル。

「やあ、どうだったかね少年? 二人転がしたみたいじゃないか。その年で大人を二人負かしたんだ。大したものだよ」

「バトンタッチ」

 おっと、前世の僕がいなくなり、幼い僕になったな。

「ぜ、全然だめだった! 僕のままだとあいつらをどうにかなんか出来なかったし、もうひとりの僕が助けてくれて初めてどうにかなって……悔しい……!!」

 おお、純粋……!!
 今の、前世と融合してすっかりスレた僕では出てこない感情!!

 リップルに頭を撫でられて慰められているなあ。
 この後、彼女に奢ってもらって二人で美味い飯を食ったんだ。

 少年とお姉さんである。
 美しきかな。

 いやあ、それがまさか、今はこんなことになるなんてなあ……。
 結局この仕事はリップルが流れで半グレを壊滅させ、終了となった。

 彼女が最初から最後まで仕事をすればすぐに終わっていたのだろうが、リップルは僕に経験を積ませようとしたわけだ。
 ありがたい心遣いだったと思っている。
 それが今に繋がっている。

 そしてここからまさか、美食に繋がり、貴族の地位に繋がり、ついにはなんかリップルと結婚して子どもまで設けることになるとはなあ。

 人生は分からん……!!

 というところでリップルの足が僕の顔ガツーンとぶつかって目覚めた。

「ウグワーッ! 何たる目覚め!」

 うちの奥さんは上下逆さまになって、僕の膝を枕にして爆睡しているではないか。
 凄まじい寝相だ。
 ベッドがそこそこ大きいから、落っこちることなく縦横無尽に動き回れるのだな。

 二人ともいつもより遅い時間まで寝ていたようで、コゲタが起こしにやって来た。

「ごしゅじーん! リップルー! カルがおなかへったってー」

 今からは、ほわほわというカルの泣き声が聞こえている。
 これは……。
 おお、リップルが自動で動き出した!
 授乳魔法発動だ!

 だが、準備は必要であろう。
 僕は素早く動くと、全自動リップルに服をササッと着せた。

 おっぱいをあげ始めるリップル。
 そしてようやく目覚めたようだ。

「あっ、朝じゃないか。そして……あっ、適当に羽織った感じの上着! これはまさか昨夜……」

「うむ」

 僕が重々しく頷くと、リップルが「あー」と呻いた。

「君と私は異常に相性がいいらしくて、一発で着弾したりするんだよなあ……。ハーフエルフは本来、ものすごく妊娠しづらいんだぞ……?」

「らしいな……。だが今回はいつにも増して、うなぎで精をつけてしまった」

「まずい。恐ろしいことになってしまった」

 二人目か?
 二人目なのか?

 真剣な顔で二人でそんな話をしていたら、お手伝いさんが朝食を作ってくれたところだった。
 焼き立てのパンとソーセージがマスタードっぽいソースで和えられている。

 難しい話は後である。

「いただきます!!」

 僕は食欲を最優先することにしたのだった。
 できた時に考えればよし!!

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