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107・また過去の夢を見るなど
第327話 少年は雑用係である
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ハッと我に返ると、僕の肉体が若い頃のそれになっている。
どれくらい若いかと言われると、ようやくローティーンになったくらいの頃合いであろう。
これは夢か!
明晰夢というやつだな。
昨夜、リップルを連れて帰ってきて、ぐうぐうと寝たのは覚えている。
ちなみに母乳を与える頃合いで母親が飲酒するのはいかんそうだが、リップルは魔法で母乳からアルコールを抜く技を編み出しているので問題ない。
なんだ、そのニッチな魔法は。
近所のお母さんたちも、お酒を飲みながら授乳ができるということで、リップルはかなりの人気らしい。
話が逸れた。
さて、ローティーンの僕がどこにいるのかと言うと、それはまだ発展しきってないアーランの、下町だ。
物陰に隠れて、夕闇の中で光を放つ、あばら家を見張っている。
これはあれだな。
リップルとともに、下町に根城を構えたという、盗賊ギルドに与さぬ連中……いわゆる半グレの調査任務を引き受けた時のことだ。
『聞こえるかい? 聞こえるかい、少年』
「聞こえるよ」
僕がまだ声変わりの終わってない声で応えた。
言葉を発そうともしてないのだが、勝手に動いたな。
これは……僕が傍観するタイプの夢だな?
まだ冒険者ギルドに入れる年齢ではなく、しかし遺跡の崩落事故で全てを失ってしまった身寄りのない僕は、どうにかして食べていかねばならなかった。
そこを、ギルドにいた物好きなお姉さん、安楽椅子冒険者のリップルに拾われたのだ。
関係としては、探偵と助手になるのだろう。
これは確か、その関係になってから一年が過ぎたころだ。
僕が冒険者になる十五歳までは続いたから、ここからさらに五年は一緒に仕事をしていたのだな。
いやー!
この頃は今みたいな関係になるとは夢にも思っていなかったな!
『君は油使いのギフトがある。だが、無理をしてはいけないよ。君はまだ子どもなんだ。無理だと思ったら全力で逃げること。いいね』
「分かってるよ。でも、僕だって子どものままじゃないんだ」
かーっ。
青い。
共感性羞恥を感じる青さ!
いや、自分なんだから共感もクソもない。
「行きます!」
『ああ、気をつけてね』
リップルからの言葉は、遠隔からの伝達魔法だ。
この頃は、無数の魔法を知る彼女を凄いと思っていた。
だがなんのことはない。
リップルは状況に応じて魔法を作り出していたのだ。
いや、もっと凄いんだが?
未熟なガキンチョである僕は、ちょろちょろ動いて半グレの潜むあばら家を覗き込む。
そうそう。
この頃は隠密行動というのをよく分かってなくて、自分なりにやっていたんだよな。
今の僕ならプロの盗賊顔負けの隠密ができるぞ。
なんなら油で寝転がったままどこまでも移動できる。
まあ、若い僕にそんな無茶を言う事などできまい。
がんばれがんばれ。
結末は分かっているがな。
半グレたちは、何やら良からぬ計画を立てているようだった。
ここは下町の外れ。
盗賊ギルドはこの時代、ツーテイカーからの侵略と戦うので忙しく、こういう半グレ連中まで手が回っていなかった。
だから、リップルへと依頼がやって来ていたのだ。
盗賊ギルドの使いで依頼に来ていた少年、今思えばあれ、アーガイルさんだったな……。
リップルと喋れて、頬を赤くしながら緊張していた。
あの頃から彼はリップルを尊敬していたのだ。
ということで。
もっと半グレどもの会話を聞こうと身を乗り出した僕は、パキリと音を立ててしまった。
お約束というやつだ。
あばら家なんかあちこちぶっ壊れているんだから、下手に体重なんか掛けたら壊れるに決まっている。
しかも、こういうヘマをする時に限って、連中の会話が一段落して一瞬静まり返ってたりするのだ。
今回はまさにそれだった。
ぱきっと音を立てたのは、窓枠。
腐っていたそこが、幼い僕の体重を掛けられて割れたのだ。
屋内にいた半グレが、一斉にこちらを向いた。
そのうちの一人と目が合ってしまう。
「しまっ……!」
しらばっくれればいいのに、わざわざそういうことを言ってしまう!
若さ~!!
「ガキ! 俺たちの事を調べてやがったな!」「追いかけろ! 盗賊ギルドのやつかも知れねえ!」「クソガキー!!」
「うわあああああー!!」
今思えば、油で全員一瞬で粉砕できるのだが……。
この頃の僕は十歳だからなあ。
そりゃあ怖い。
必死で逃げる僕なのだ。
だが子供の足だ。
大人が本気で追いかけてくると、すぐに間を詰められてしまう……のだが。
半グレたちが酒を飲みながら相談してたので、酔いが足に回っていて遅い。
結果的に、いい感じのチェイスになった。
お互い真剣なんだが、傍から見てると笑える。
さあ、幼い僕、頭を使え。
どういうことをしたらこのピンチを乗り越えられる?
下町は崩れた建物や、大人なら入り込めないような路地だってある。
小さな僕は、その目を横合いの狭い狭い通りに向けた。
悪くない。
そこなら、大人は並んでこれない。
一人ずつを相手にすることになるぞ。
「僕は……子どもじゃない! やってやる!!」
気を吐きながら、幼い頃の僕が路地に駆け込んでいった。
確かこの頃は、やたら背伸びしたかったんだよなあ。
子供時代はこの頃しか無いんだから、もっと堪能してりゃいいのに。
いやいや、一人で寄る辺もないと思ってたから、早く大人にならなくちゃいけなかったのだ。
しゃあないか。
……とここまで考えて、ふと傍観している僕は思い至る。
以前もこんな過去の夢を見ていた時があったな。
あれは……。
その場の勢いの夜だ!
ま、まさか……!
どれくらい若いかと言われると、ようやくローティーンになったくらいの頃合いであろう。
これは夢か!
明晰夢というやつだな。
昨夜、リップルを連れて帰ってきて、ぐうぐうと寝たのは覚えている。
ちなみに母乳を与える頃合いで母親が飲酒するのはいかんそうだが、リップルは魔法で母乳からアルコールを抜く技を編み出しているので問題ない。
なんだ、そのニッチな魔法は。
近所のお母さんたちも、お酒を飲みながら授乳ができるということで、リップルはかなりの人気らしい。
話が逸れた。
さて、ローティーンの僕がどこにいるのかと言うと、それはまだ発展しきってないアーランの、下町だ。
物陰に隠れて、夕闇の中で光を放つ、あばら家を見張っている。
これはあれだな。
リップルとともに、下町に根城を構えたという、盗賊ギルドに与さぬ連中……いわゆる半グレの調査任務を引き受けた時のことだ。
『聞こえるかい? 聞こえるかい、少年』
「聞こえるよ」
僕がまだ声変わりの終わってない声で応えた。
言葉を発そうともしてないのだが、勝手に動いたな。
これは……僕が傍観するタイプの夢だな?
まだ冒険者ギルドに入れる年齢ではなく、しかし遺跡の崩落事故で全てを失ってしまった身寄りのない僕は、どうにかして食べていかねばならなかった。
そこを、ギルドにいた物好きなお姉さん、安楽椅子冒険者のリップルに拾われたのだ。
関係としては、探偵と助手になるのだろう。
これは確か、その関係になってから一年が過ぎたころだ。
僕が冒険者になる十五歳までは続いたから、ここからさらに五年は一緒に仕事をしていたのだな。
いやー!
この頃は今みたいな関係になるとは夢にも思っていなかったな!
『君は油使いのギフトがある。だが、無理をしてはいけないよ。君はまだ子どもなんだ。無理だと思ったら全力で逃げること。いいね』
「分かってるよ。でも、僕だって子どものままじゃないんだ」
かーっ。
青い。
共感性羞恥を感じる青さ!
いや、自分なんだから共感もクソもない。
「行きます!」
『ああ、気をつけてね』
リップルからの言葉は、遠隔からの伝達魔法だ。
この頃は、無数の魔法を知る彼女を凄いと思っていた。
だがなんのことはない。
リップルは状況に応じて魔法を作り出していたのだ。
いや、もっと凄いんだが?
未熟なガキンチョである僕は、ちょろちょろ動いて半グレの潜むあばら家を覗き込む。
そうそう。
この頃は隠密行動というのをよく分かってなくて、自分なりにやっていたんだよな。
今の僕ならプロの盗賊顔負けの隠密ができるぞ。
なんなら油で寝転がったままどこまでも移動できる。
まあ、若い僕にそんな無茶を言う事などできまい。
がんばれがんばれ。
結末は分かっているがな。
半グレたちは、何やら良からぬ計画を立てているようだった。
ここは下町の外れ。
盗賊ギルドはこの時代、ツーテイカーからの侵略と戦うので忙しく、こういう半グレ連中まで手が回っていなかった。
だから、リップルへと依頼がやって来ていたのだ。
盗賊ギルドの使いで依頼に来ていた少年、今思えばあれ、アーガイルさんだったな……。
リップルと喋れて、頬を赤くしながら緊張していた。
あの頃から彼はリップルを尊敬していたのだ。
ということで。
もっと半グレどもの会話を聞こうと身を乗り出した僕は、パキリと音を立ててしまった。
お約束というやつだ。
あばら家なんかあちこちぶっ壊れているんだから、下手に体重なんか掛けたら壊れるに決まっている。
しかも、こういうヘマをする時に限って、連中の会話が一段落して一瞬静まり返ってたりするのだ。
今回はまさにそれだった。
ぱきっと音を立てたのは、窓枠。
腐っていたそこが、幼い僕の体重を掛けられて割れたのだ。
屋内にいた半グレが、一斉にこちらを向いた。
そのうちの一人と目が合ってしまう。
「しまっ……!」
しらばっくれればいいのに、わざわざそういうことを言ってしまう!
若さ~!!
「ガキ! 俺たちの事を調べてやがったな!」「追いかけろ! 盗賊ギルドのやつかも知れねえ!」「クソガキー!!」
「うわあああああー!!」
今思えば、油で全員一瞬で粉砕できるのだが……。
この頃の僕は十歳だからなあ。
そりゃあ怖い。
必死で逃げる僕なのだ。
だが子供の足だ。
大人が本気で追いかけてくると、すぐに間を詰められてしまう……のだが。
半グレたちが酒を飲みながら相談してたので、酔いが足に回っていて遅い。
結果的に、いい感じのチェイスになった。
お互い真剣なんだが、傍から見てると笑える。
さあ、幼い僕、頭を使え。
どういうことをしたらこのピンチを乗り越えられる?
下町は崩れた建物や、大人なら入り込めないような路地だってある。
小さな僕は、その目を横合いの狭い狭い通りに向けた。
悪くない。
そこなら、大人は並んでこれない。
一人ずつを相手にすることになるぞ。
「僕は……子どもじゃない! やってやる!!」
気を吐きながら、幼い頃の僕が路地に駆け込んでいった。
確かこの頃は、やたら背伸びしたかったんだよなあ。
子供時代はこの頃しか無いんだから、もっと堪能してりゃいいのに。
いやいや、一人で寄る辺もないと思ってたから、早く大人にならなくちゃいけなかったのだ。
しゃあないか。
……とここまで考えて、ふと傍観している僕は思い至る。
以前もこんな過去の夢を見ていた時があったな。
あれは……。
その場の勢いの夜だ!
ま、まさか……!
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