俺は異世界の潤滑油!~油使いに転生した俺は、冒険者ギルドの人間関係だってヌルッヌルに改善しちゃいます~

あけちともあき

文字の大きさ
上 下
287 / 337
95・少年とお姉さん

第287話 瓦礫の中

しおりを挟む
 一瞬だった。
 それほど大きな村じゃなかったけど、俺にとっては故郷だったそこは、一瞬で遺跡の崩落に飲み込まれてしまったのだ。

 なんだよこれは!
 瓦礫の中を滑り落ちながら、俺は毒づいた。
 俺は少しだけ、油を生み出して使える。

 だからこれで瓦礫の間をぬるっと抜けて生き残ることができた。
 村のみんなは全滅だろう。

 親父も、おふくろもみんな死んだ。
 友達も村長も死んだだろう。

 だって、瓦礫は深い深い遺跡の中に、どんどんと流れ込んでいくのだ。
 何度も俺を押しつぶそうと、大きな岩の塊が襲ってきた。

 俺は油の力を使って、隙間をヌルヌルと抜ける。
 なんで俺にこんな力が宿ったのかは分からない。
 だけど、このお陰で生き延びられている。

「クソッ、クソックソッ! だけどこれじゃあ、時間の問題だ! くそっ、死にたくない、死にたくない、死にたくない!!」

 俺は叫びながら、必死に瓦礫に流されながらその中を泳ぎ続けた。
 ついに、遺跡の底に到着する。
 瓦礫が叩きつけられ、砕け散った。

 俺は精一杯油を呼び出して、瓦礫をたくさん取り込んでクッションにした。

「うぐっ……めまいがする……」

 力を使いすぎたみたいだ。
 どうやらこの力は、やりすぎると体力が削れてしまうらしい。

 危険だ。
 ここから脱出しないといけないのに、力を使い果たすわけにはいかない。

「ううう……。なんだか力を使うほど、気が遠くなる気がする……」

 俺の意識が薄くなっていくような……。
 ふむ……なんとなく要領を掴んできた。
 油は回収することで体力に戻るらしい。
 なんだ、今の思考は。

 俺じゃない誰かが俺の中にいるみたいだ。
 いやいや、僕は君だ。
 同じ人間だ。
 どうやら日本で死んだと思ったら、僕は君として転生していたらしい。

 俺が転生?
 俺がお前で、お前は俺で……。
 油を操る力を限界まで使ったことで、僕の記憶が蘇ってきたようだね。

 ここは若さに任せてずんずん進んでも仕方ない。
 年の功に任せて欲しいな。

 俺の中で、今の俺と年を取ったやつが主導権を争っている。
 だけど、なんとなく分かった。
 どっちも俺なんだ。

 そんな訳が分からないことを俺は否定したいけど、僕と言っているやつは受け入れている。
 うう、だんだん混ざり合っていく気がする……。

 俺が俺じゃなくなる……。
 いや、僕は僕だろう。
 新たな意識体として覚醒するだろうが、もともと君の中にあったものが出てきただけだ。

 まずはこんな肉体の主導権争いなどやめて、遺跡の脱出に尽力しよう。

 難しい言い方をするやつだ。
 でも、なぜか意味がわかる。
 俺は文字すら読めないのに、なんでそんな難しいことが分かるようになってるんだ。

「まあまあ。ここはこの油使いの力を用いて脱出しようじゃないか。どうやらこれは滑るだけじゃない。瓦礫をまとめて、僕だけが使える足場にして歩くこともできそうだ。量は限られているし、体力だって消費する。だけどいつかはお腹だって減るし、眠くなるだろう? 迅速に行こう」

 俺の体が動き出した。
 崩れやすい瓦礫を一塊にし、それを足場にポヨン、と跳ねる。
 一気に数メートル駆け上がった。
 
 メートル?
 そういう単位だ。感覚的にも分かるだろ。
 分かる。分かってきた。

 僕はだんだん、前世の記憶と今の自分で混ざり合い始めている。
 そうするたびに、力を使いこなせるようになっていく。

 瓦礫と土を混ぜてクッションにし、またその上から上へと跳ぶ。
 跳ぶと同時に油を回収して、次の足場を用意する。

 驚くような速度で、僕は崩落した遺跡を駆け上がっていった。
 火事場の馬鹿力というやつかも知れない。

 一時間と少しで、僕は遺跡の外に飛び出していたのだった。
 そこには、かつてあった村の姿はない。

 僕の中の少年の部分が、ちくちくと傷んだ。
 感傷だ。

 この事故で全てを失った僕は、これから一人で生きていかねばならない。
 だが、どうやら僕はツイていたらしい。
 途中で隊商が通りかかった。

「こんにちはー。地元の村が遺跡に飲まれちゃって」

「なんだって。ほんとか! うちは飯とかあんま余裕が無いが、何か仕事をしてくれたら連れてってやるぞ」

「本当!? じゃあお願いします。夜の見張りとかやるんで」

「おお、頼むぞ坊主! いやあ、しかし田舎のガキだってのに礼儀ができているなあ。全然物怖じしないし」

「生き残るために必死ですもん! 本当に助かりました。恩に着ます!」

 生前の営業スキルが生きるな。
 営業スキルってなんだ?
 まあいいか。

 僕は隊商の不寝番役として加えてもらった。
 もらえる食事は、硬いパンとチーズ、それと水くらいだが十分だった。
 どうにか生きていける!

 夜は起きて見張りをし、昼は寝て運んでもらった。
 そんな生活を二週間もやった。

 二週間?
 十四日のことだ。
 少年の僕が知っている暦とは違う。
 それは村でだけ使われていた暦だ。

 記憶の中の暦は、村のそれよりもずっと合理的に思えた。
 そして隊商は到着した。

 それは、見たこともないほど大きな遺跡だった。
 巨大な口が開いており、人々が行き来している。

 武装をした男女がいる。
 あれはなんだ?
 村に以前来た吟遊詩人が歌う、冒険者というやつか。

「坊主、これでお別れだな! 不寝番助かったぜ! 坊主が俺達を起こしてくれたりしたから、獣に荷物を奪われずに済んだ。もっとでかくなったら、正式なメンバーとして雇ってやるよ」

「ありがとうございます! 縁があったらぜひ! このご恩は忘れません!」

「本当に、ガキの癖に人間ができたやつだよなあ……じゃあな! ええと、ええと、なんだっけ」

「ナザルです!」

 こうして僕は、遺跡の国アーランへとやって来たのだ。
しおりを挟む
感想 77

あなたにおすすめの小説

おっさん付与術師の冒険指導 ~パーティーを追放された俺は、ギルドに頼まれて新米冒険者のアドバイザーをすることになりました~

日之影ソラ
ファンタジー
 十年前――  世界は平和だった。  多くの種族が助け合いながら街を、国を造り上げ、繁栄を築いていた。  誰もが思っただろう。  心地良いひと時が、永遠に続けばいいと。  何の根拠もなく、続いてくれるのだろうと…… ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇  付与術師としてパーティーに貢献していたシオン。  十年以上冒険者を続けているベテランの彼も、今年で三十歳を迎える。  そんなある日、リーダーのロイから突然のクビを言い渡されてしまう。 「シオンさん、悪いんだけどあんたは今日でクビだ」 「クビ?」 「ああ。もう俺たちにあんたみたいなおっさんは必要ない」  めちゃくちゃな理由でクビになってしまったシオンだが、これが初めてというわけではなかった。  彼は新たな雇い先を探して、旧友であるギルドマスターの元を尋ねる。  そこでシオンは、新米冒険者のアドバイザーにならないかと提案されるのだった。    一方、彼を失ったパーティーは、以前のように猛威を振るえなくなっていた。  順風満帆に見えた日々も、いつしか陰りが見えて……

異世界帰りの元勇者、日本に突然ダンジョンが出現したので「俺、バイト辞めますっ!」

シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
俺、結城ミサオは異世界帰りの元勇者。 異世界では強大な力を持った魔王を倒しもてはやされていたのに、こっちの世界に戻ったら平凡なコンビニバイト。 せっかく強くなったっていうのにこれじゃ宝の持ち腐れだ。 そう思っていたら突然目の前にダンジョンが現れた。 これは天啓か。 俺は一も二もなくダンジョンへと向かっていくのだった。

外れスキルは、レベル1!~異世界転生したのに、外れスキルでした!

武蔵野純平
ファンタジー
異世界転生したユウトは、十三歳になり成人の儀式を受け神様からスキルを授かった。 しかし、授かったスキルは『レベル1』という聞いたこともないスキルだった。 『ハズレスキルだ!』 同世代の仲間からバカにされるが、ユウトが冒険者として活動を始めると『レベル1』はとんでもないチートスキルだった。ユウトは仲間と一緒にダンジョンを探索し成り上がっていく。 そんなユウトたちに一人の少女た頼み事をする。『お父さんを助けて!』

【一時完結】スキル調味料は最強⁉︎ 外れスキルと笑われた少年は、スキル調味料で無双します‼︎

アノマロカリス
ファンタジー
調味料…それは、料理の味付けに使う為のスパイスである。 この世界では、10歳の子供達には神殿に行き…神託の儀を受ける義務がある。 ただし、特別な理由があれば、断る事も出来る。 少年テッドが神託の儀を受けると、神から与えられたスキルは【調味料】だった。 更にどんなに料理の練習をしても上達しないという追加の神託も授かったのだ。 そんな話を聞いた周りの子供達からは大爆笑され…一緒に付き添っていた大人達も一緒に笑っていた。 少年テッドには、両親を亡くしていて妹達の面倒を見なければならない。 どんな仕事に着きたくて、頭を下げて頼んでいるのに「調味料には必要ない!」と言って断られる始末。 少年テッドの最後に取った行動は、冒険者になる事だった。 冒険者になってから、薬草採取の仕事をこなしていってったある時、魔物に襲われて咄嗟に調味料を魔物に放った。 すると、意外な効果があり…その後テッドはスキル調味料の可能性に気付く… 果たして、その可能性とは⁉ HOTランキングは、最高は2位でした。 皆様、ありがとうございます.°(ಗдಗ。)°. でも、欲を言えば、1位になりたかった(⌒-⌒; )

~最弱のスキルコレクター~ スキルを無限に獲得できるようになった元落ちこぼれは、レベル1のまま世界最強まで成り上がる

僧侶A
ファンタジー
沢山のスキルさえあれば、レベルが無くても最強になれる。 スキルは5つしか獲得できないのに、どのスキルも補正値は5%以下。 だからレベルを上げる以外に強くなる方法はない。 それなのにレベルが1から上がらない如月飛鳥は当然のように落ちこぼれた。 色々と試行錯誤をしたものの、強くなれる見込みがないため、探索者になるという目標を諦め一般人として生きる道を歩んでいた。 しかしある日、5つしか獲得できないはずのスキルをいくらでも獲得できることに気づく。 ここで如月飛鳥は考えた。いくらスキルの一つ一つが大したことが無くても、100個、200個と大量に集めたのならレベルを上げるのと同様に強くなれるのではないかと。 一つの光明を見出した主人公は、最強への道を一直線に突き進む。 土曜日以外は毎日投稿してます。

元外科医の俺が異世界で何が出来るだろうか?~現代医療の技術で異世界チート無双~

冒険者ギルド酒場 チューイ
ファンタジー
魔法は奇跡の力。そんな魔法と現在医療の知識と技術を持った俺が異世界でチートする。神奈川県の大和市にある冒険者ギルド酒場の冒険者タカミの話を小説にしてみました。  俺の名前は、加山タカミ。48歳独身。現在、救命救急の医師として現役バリバリ最前線で馬車馬のごとく働いている。俺の両親は、俺が幼いころバスの転落事故で俺をかばって亡くなった。その時の無念を糧に猛勉強して医師になった。俺を育ててくれた、ばーちゃんとじーちゃんも既に亡くなってしまっている。つまり、俺は天涯孤独なわけだ。職場でも患者第一主義で同僚との付き合いは仕事以外にほとんどなかった。しかし、医師としての技量は他の医師と比較しても評価は高い。別に自分以外の人が嫌いというわけでもない。つまり、ボッチ時間が長かったのである意味コミ障気味になっている。今日も相変わらず忙しい日常を過ごしている。 そんなある日、俺は一人の少女を庇って事故にあう。そして、気が付いてみれば・・・ 「俺、死んでるじゃん・・・」 目の前に現れたのは結構”チャラ”そうな自称 創造神。彼とのやり取りで俺は異世界に転生する事になった。 新たな家族と仲間と出会い、翻弄しながら異世界での生活を始める。しかし、医療水準の低い異世界。俺の新たな運命が始まった。  元外科医の加山タカミが持つ医療知識と技術で本来持つ宿命を異世界で発揮する。自分の宿命とは何か翻弄しながら異世界でチート無双する様子の物語。冒険者ギルド酒場 大和支部の冒険者の英雄譚。

巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する

高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。 手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。

ようこそ異世界へ!うっかりから始まる異世界転生物語

Eunoi
ファンタジー
本来12人が異世界転生だったはずが、神様のうっかりで異世界転生に巻き込まれた主人公。 チート能力をもらえるかと思いきや、予定外だったため、チート能力なし。 その代わりに公爵家子息として異世界転生するも、まさかの没落→島流し。 さぁ、どん底から這い上がろうか そして、少年は流刑地より、王政が当たり前の国家の中で、民主主義国家を樹立することとなる。 少年は英雄への道を歩き始めるのだった。 ※第4章に入る前に、各話の改定作業に入りますので、ご了承ください。

処理中です...