俺は異世界の潤滑油!~油使いに転生した俺は、冒険者ギルドの人間関係だってヌルッヌルに改善しちゃいます~

あけちともあき

文字の大きさ
上 下
266 / 337
87・独り立ちを眺める夏

第266話 おお、コゲタがパーティを組んだのか

しおりを挟む
「いってきます!!」

「あっ、コゲタ、ついに冒険者として仲間と一緒に……!」

「いってきます!!」

 元気にコゲタが宣言してくれる。
 おお、なんだろうこの喜び半分、寂しさ半分の心地は。
 大切に育てていた子どもがついに独り立ちしてしまったような……。

 いやいや、僕は現在も、前世でも独り者だったからそう言う気持ちは全然分からないんだが。
 話を聞けば、コゲタは同じアイアン級の若者たちとパーティを組んで、今日は遺跡から職人街への資材運びの仕事をするらしい。

 力がないコボルドでも、荷運び用のロバをちゃんと連れていければ問題がない。
 コゲタは動物にとても好かれるので、最適な人材と言えよう。

 他の若者たちも、この間チェックしたが気の良い連中だ。
 コゲタと仲良くしてくれるだろう。
 だがなんだこの寂しさは。

「いってらっしゃい!!」

 だが!
 送り出す瞬間は元気にやるべきであろう。
 僕は空元気を振り絞り、コゲタを大きな声を出して見送ったのだった。

 その後、しおしおっとなった。

「ナザル殿がしおしおになっておられる」

 神官氏がやって来た。
 宿屋一階の神殿に住んでいるので、まあご近所さんといえばご近所さんだ。
 マルチーズコボルドのハムソンも元気に走ってきて、近くの椅子にぴょんと飛び乗る。

「コゲタが独り立ちしてしまった」

「ははあ、親の気持ちを味わいましたね。だが彼は仕事の後は帰ってくるのでしょう?」

「それはそうなんだが、今までずっと僕が連れ回してたからなあ。ついに自分で判断してパーティを組んで、仲間と冒険に出かけるほどに……」

「子どもはいつか育ち、巣立っていくものです」

「うーん」

「これは重症だ。ハムソン!」

「はいはーい! げんきげんき! げんきだーして! げんきげんき! げんきだーして!!」

 ハムソンが僕の周りをぐるぐる巡りながら踊る。
 なんか元気になってきた気がするぞう。

「あまり心配なようなら、ちょっと様子を見に行かれるのがよろしい。そもそもナザル殿も冒険者ですし、さらには遺跡に自分の畑を持つ実業家なのですから彼らの仕事を見に行くのは大変合理的なやり方なのです」

「なるほどー!! さすが知識神の神官だ……!! 凄い知恵が出てきたもんだ」

 僕はすっかり感心してしまった。
 
 ということで。
 水田の様子を見るのと同時に、コゲタたちの仕事振りを偶然を装いながら観察しに行こうではないか。
 僕はいそいそと出かける準備をした。

 水田で仕事をしてもらうために雇った職人たちに、差し入れも準備だ。
 ギルボウに頼んで、サッと食べられる美味しいカレー味の焼き肉を大量に作ってもらった。
 これをケータリングみたいなケースに入れてだな。

 出発である。

 既にコゲタたちは遺跡の中に入っている。
 僕が大量の荷物を抱えてやってくると、見張りの兵士たちが「おっ」という顔をした。

「ナザルさん、コゲタちゃんなら中で仕事してますよ」「仲間たちもみんなげんきで若々しくて、いやあ、いいもんですなあ……」

「なるほどなるほど……情報提供ありがとう」

 僕は兵士たちに礼を言い、第一階層をもりもり歩いた。
 おっ、いたいた……!!

 そーっと遠くから眺めてみる……。
 おお、なんか荷物をみんなで運び込んでいる。
 コゲタがよたよた重そうに運んでいるのを、仲間が応援しているな。

 いい空気だ!
 ぶっちゃけ、運ぶだけならコゲタには不向きな仕事だ。
 だがコゲタには動物との相性抜群という武器があるのだ!

 ほら、ロバが動き出したらコゲタとおしゃべりしながらずんずん歩いていく。
 なんとロバ二頭が荷車を引きながら、コゲタと一緒に歩くではないか。
 たった一人で二頭をコントロールできる!

 これがコゲタの強みだ。
 どうですがうちの子は。優秀でしょう。

 僕がニヤニヤしていると、コゲタが近くを通りかかり、鼻をくんくんさせた。

「ご主人のによいがする……」

「ナザルさんの? それは、ナザルさんは遺跡の中に畑まで持ってるすごい人だし、よく来るからでしょ」

「そっかー。でもちかくにいるみたい」

「お仕事で遺跡に来るのもよくあるでしょ」「ナザルさんもお仕事なら邪魔しちゃ悪いよ」

「そだね! いこー!」

 わいわいと新人パーティは行ってしまった。
 おお、コゲタ!
 頑張っているじゃないか。

 僕は感動で涙が出そうだよ。
 ということで、テンション高く第四階層まで降りて来た僕。

 水田での作業をもりもりやっている職人たちを集め、焼き肉を振る舞ったのだった。
 僕が大きな背負子に満載するくらいの量の焼き肉だぞ。

「いやあ、いいオーナーだよなあ」「慣れない仕事でどうなるかと思ったけど、なかなかこの米ってのの栽培も奥深いし」「こんなに水を張るなんてなあ」

 そうそう。
 遺跡の中には、作物の受粉を助けるためにたくさんの昆虫が放されている。
 彼らは遺跡の中に巣を作り、自らの糧を得る代わりに作物の実りを助けているのだ。

 で、水田にも当然それはいるんだが……。
 良からぬ虫も混じっていたり、あるいはどこから入り込んできたのか雑草まで出たりする。

 ということで、この水田には合鴨みたいなのが放されているのだ!
 こいつらがガアガア言いながら余計な虫や雑草をもりもり食べる。

 用が済んだら職人たちがご飯にする……!
 食物連鎖である。

 ということで、僕はコゲタの仕事振りと水田の視察の2つを、同時に進めることが出来たのである。

しおりを挟む
感想 77

あなたにおすすめの小説

おっさん付与術師の冒険指導 ~パーティーを追放された俺は、ギルドに頼まれて新米冒険者のアドバイザーをすることになりました~

日之影ソラ
ファンタジー
 十年前――  世界は平和だった。  多くの種族が助け合いながら街を、国を造り上げ、繁栄を築いていた。  誰もが思っただろう。  心地良いひと時が、永遠に続けばいいと。  何の根拠もなく、続いてくれるのだろうと…… ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇  付与術師としてパーティーに貢献していたシオン。  十年以上冒険者を続けているベテランの彼も、今年で三十歳を迎える。  そんなある日、リーダーのロイから突然のクビを言い渡されてしまう。 「シオンさん、悪いんだけどあんたは今日でクビだ」 「クビ?」 「ああ。もう俺たちにあんたみたいなおっさんは必要ない」  めちゃくちゃな理由でクビになってしまったシオンだが、これが初めてというわけではなかった。  彼は新たな雇い先を探して、旧友であるギルドマスターの元を尋ねる。  そこでシオンは、新米冒険者のアドバイザーにならないかと提案されるのだった。    一方、彼を失ったパーティーは、以前のように猛威を振るえなくなっていた。  順風満帆に見えた日々も、いつしか陰りが見えて……

異世界帰りの元勇者、日本に突然ダンジョンが出現したので「俺、バイト辞めますっ!」

シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
俺、結城ミサオは異世界帰りの元勇者。 異世界では強大な力を持った魔王を倒しもてはやされていたのに、こっちの世界に戻ったら平凡なコンビニバイト。 せっかく強くなったっていうのにこれじゃ宝の持ち腐れだ。 そう思っていたら突然目の前にダンジョンが現れた。 これは天啓か。 俺は一も二もなくダンジョンへと向かっていくのだった。

外れスキルは、レベル1!~異世界転生したのに、外れスキルでした!

武蔵野純平
ファンタジー
異世界転生したユウトは、十三歳になり成人の儀式を受け神様からスキルを授かった。 しかし、授かったスキルは『レベル1』という聞いたこともないスキルだった。 『ハズレスキルだ!』 同世代の仲間からバカにされるが、ユウトが冒険者として活動を始めると『レベル1』はとんでもないチートスキルだった。ユウトは仲間と一緒にダンジョンを探索し成り上がっていく。 そんなユウトたちに一人の少女た頼み事をする。『お父さんを助けて!』

【一時完結】スキル調味料は最強⁉︎ 外れスキルと笑われた少年は、スキル調味料で無双します‼︎

アノマロカリス
ファンタジー
調味料…それは、料理の味付けに使う為のスパイスである。 この世界では、10歳の子供達には神殿に行き…神託の儀を受ける義務がある。 ただし、特別な理由があれば、断る事も出来る。 少年テッドが神託の儀を受けると、神から与えられたスキルは【調味料】だった。 更にどんなに料理の練習をしても上達しないという追加の神託も授かったのだ。 そんな話を聞いた周りの子供達からは大爆笑され…一緒に付き添っていた大人達も一緒に笑っていた。 少年テッドには、両親を亡くしていて妹達の面倒を見なければならない。 どんな仕事に着きたくて、頭を下げて頼んでいるのに「調味料には必要ない!」と言って断られる始末。 少年テッドの最後に取った行動は、冒険者になる事だった。 冒険者になってから、薬草採取の仕事をこなしていってったある時、魔物に襲われて咄嗟に調味料を魔物に放った。 すると、意外な効果があり…その後テッドはスキル調味料の可能性に気付く… 果たして、その可能性とは⁉ HOTランキングは、最高は2位でした。 皆様、ありがとうございます.°(ಗдಗ。)°. でも、欲を言えば、1位になりたかった(⌒-⌒; )

~最弱のスキルコレクター~ スキルを無限に獲得できるようになった元落ちこぼれは、レベル1のまま世界最強まで成り上がる

僧侶A
ファンタジー
沢山のスキルさえあれば、レベルが無くても最強になれる。 スキルは5つしか獲得できないのに、どのスキルも補正値は5%以下。 だからレベルを上げる以外に強くなる方法はない。 それなのにレベルが1から上がらない如月飛鳥は当然のように落ちこぼれた。 色々と試行錯誤をしたものの、強くなれる見込みがないため、探索者になるという目標を諦め一般人として生きる道を歩んでいた。 しかしある日、5つしか獲得できないはずのスキルをいくらでも獲得できることに気づく。 ここで如月飛鳥は考えた。いくらスキルの一つ一つが大したことが無くても、100個、200個と大量に集めたのならレベルを上げるのと同様に強くなれるのではないかと。 一つの光明を見出した主人公は、最強への道を一直線に突き進む。 土曜日以外は毎日投稿してます。

元外科医の俺が異世界で何が出来るだろうか?~現代医療の技術で異世界チート無双~

冒険者ギルド酒場 チューイ
ファンタジー
魔法は奇跡の力。そんな魔法と現在医療の知識と技術を持った俺が異世界でチートする。神奈川県の大和市にある冒険者ギルド酒場の冒険者タカミの話を小説にしてみました。  俺の名前は、加山タカミ。48歳独身。現在、救命救急の医師として現役バリバリ最前線で馬車馬のごとく働いている。俺の両親は、俺が幼いころバスの転落事故で俺をかばって亡くなった。その時の無念を糧に猛勉強して医師になった。俺を育ててくれた、ばーちゃんとじーちゃんも既に亡くなってしまっている。つまり、俺は天涯孤独なわけだ。職場でも患者第一主義で同僚との付き合いは仕事以外にほとんどなかった。しかし、医師としての技量は他の医師と比較しても評価は高い。別に自分以外の人が嫌いというわけでもない。つまり、ボッチ時間が長かったのである意味コミ障気味になっている。今日も相変わらず忙しい日常を過ごしている。 そんなある日、俺は一人の少女を庇って事故にあう。そして、気が付いてみれば・・・ 「俺、死んでるじゃん・・・」 目の前に現れたのは結構”チャラ”そうな自称 創造神。彼とのやり取りで俺は異世界に転生する事になった。 新たな家族と仲間と出会い、翻弄しながら異世界での生活を始める。しかし、医療水準の低い異世界。俺の新たな運命が始まった。  元外科医の加山タカミが持つ医療知識と技術で本来持つ宿命を異世界で発揮する。自分の宿命とは何か翻弄しながら異世界でチート無双する様子の物語。冒険者ギルド酒場 大和支部の冒険者の英雄譚。

巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する

高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。 手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。

ようこそ異世界へ!うっかりから始まる異世界転生物語

Eunoi
ファンタジー
本来12人が異世界転生だったはずが、神様のうっかりで異世界転生に巻き込まれた主人公。 チート能力をもらえるかと思いきや、予定外だったため、チート能力なし。 その代わりに公爵家子息として異世界転生するも、まさかの没落→島流し。 さぁ、どん底から這い上がろうか そして、少年は流刑地より、王政が当たり前の国家の中で、民主主義国家を樹立することとなる。 少年は英雄への道を歩き始めるのだった。 ※第4章に入る前に、各話の改定作業に入りますので、ご了承ください。

処理中です...