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83・垂れ耳もふもふ、来たる
第254話 雪山の大空洞
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わーっと飛び出してきたコボルドたちが、お米を背負ったコボルドを出迎える。
雪山では大事な主食だもんな。
というか、雪山から降りて暖かいところで暮せばいいのではないか、なんて考えるのだが、暖かいところは長毛種のコボルドにはとても定住できない暑さなわけだ。
「あっ、みたことないのがいる」「なんだこれー」「こわい」
流石にここのコボルドたちは人間を警戒している。
外に出たことが無い子どもも多いようだし、危険に満ちている雪山だと、色々警戒したほうがいいのは確かだろう。
カクトスが前に出てきて、「彼らは客人だよ。米の美味しい料理の仕方を教えてくれるんだ。それから魔法を使う大魔道士もいる。彼女のお陰で我々は雪崩の中を突っ切って帰ることができたんだ」迫真の説明!
おーっとどよめくコボルドたちなのだった。
物わかりがいい。
信頼しているコボルドの兄貴分が信用しているのだから、自分たちも信じていい、という理屈かも知れない。
カクトスが騙されていないなら正しい。
で、僕らは本当に善人なので結果的に正しかった。
「みたことないひともいる!」「みみがたってる!」「おー!」
コゲタは警戒されないな。
ワーッと飛び出してきたコボルドたちが、コゲタを囲んでいる。
これに対し、うちのコゲタが先制攻撃!
「こんにちはー!!」
ハッとするコボルドたち。
みんな顔を見合わせた後、「こんにちはー!!」と元気に返した。
これでコボルド同士の敵味方識別は終了。
あとは仲良しなのだ。
コゲタが自己紹介し、リップルも細かい説明を請け負ってくれる。
その間に僕は長老に挨拶だ。
ほう、セントバーナードのコボルドですか。
でかい。
そして優しそう。
「どうもどうも、外から来た人間よ。雪山であなたがた人間に会った者は、歴代の長老でもわしくらいのものでしょう」
「そんなに人間って来ないものなんですか」
「大体は森の村で満足してこちらまで来ませんな」
「他に来るものがいても、皆草原を抜けられなかったようです」
「みてきたように仰る」
「見えますな。この雪山において、外の景色をみられるのがこの水晶板でして」
彼が指し示したのは、大変大きなキラキラ輝く板である。
というか、この洞穴やたら広くてしかも明るい。
あちこちにコボルドの抜け毛を使って作られた敷物があり、風も吹き込まないから室内はちょっと肌寒い程度。
何かを着ていれば全然問題ないな。
「水晶板は吹雪によって回る魔道タービンというのがあるんだそうで。カズテスが我ら遺跡の守り人のために残してくれた娯楽装置です」
「思ったよりも発展しているところに暮らしてるんだなあ……。待てよ、遺跡の守り人!?」
「はい。我ら雪山のコボルドは守り人です。我らに認められた者のみが遺跡の深奥に迫ることができるのです」
僕は全然そんなつもりなどなく、お米を手に入れた後に垂れ耳コボルドをもふりたいなあ、としか考えていなかったのである!
それがどうも、とんでもない大発見に立ち会ってしまったようだ。
そもそも大賢者カズテスは何をしていたと言うんだ……?
興味がある。
コボルドを愛し、スケアクロウを作り出して米を育てる永久機関を産み……。
そのコボルドたちがお米を食べていると。
ふーむ。
犬が好きで美味しいものが好きな魔道士だったのではないか?
まあ、ここは想像だけでやるのはやめておこう。
「じゃあ早速米を作りますけど、油はここだと再現が難しいですよねえ」
「油ですか。ありますよ」
「ないですよねえ……えっ、あるの!?」
「あります。ただ、それは本来火を燃やすためのものでして」
「なーるほど、食用油ではなかった」
見せてもらったら、普通に獣脂だった。
食べられるじゃん!
食べるという発想がこれまで無かったんだな。
暖房としても調理用としても油は大事だもんな。
では、ここは潤沢に油を使った焼き飯をご馳走しよう……。
ちょうどここには大きな鉄板が用意されていた。
鉄板!?
なんで?
「これもカズテスの遺産で……」
「なんでもありだなあカズテス」
油をたっぷり敷いて、米と具材を炒めた。
主に山で採れる食材はコケの類と、あとは熊とか鹿とか。
ははあ、いい感じに食べごたえがありますねえこれは。
大量の米を茹でて膨らませ、これをガンガンに炒める。
次々に焼き飯が完成していった。
コボルドが集まってきて、むしゃむしゃ焼き飯を食べる。
大好評だ。
長老もニコニコしながら焼き飯をもりもり食べて、
「油をこうも潤沢に使えるとは……。一つ頼みがありますぞ!」
「おっ、なんですか」
「カズテスの遺跡の最奥部まで到達し、油を覚えさせてきてはもらえませんか」
「……? 何を仰ってるのか」
「いや、実はこの遺跡はですね、食材の再現が可能になるようになっておりまして」
「はあはあ。それが遺跡の真価?」
「恐らく、もっと高尚な機能があるのだとは思うのですが……いかんせん我々はコボルド。美味しいものを再現機能しかできませんで。あ、再現したのがこのコケです。米や肉は再現できず、もっとこう、調理せねば食べられないものしか作り出せないのですよ」
ははあ、なるほど。
話を聞くに、植物しか再現できない。
だが穀物は再現できない。
そういうものらしい。
どれどれ、リップルを連れて、遺跡探索と行こうか。
雪山では大事な主食だもんな。
というか、雪山から降りて暖かいところで暮せばいいのではないか、なんて考えるのだが、暖かいところは長毛種のコボルドにはとても定住できない暑さなわけだ。
「あっ、みたことないのがいる」「なんだこれー」「こわい」
流石にここのコボルドたちは人間を警戒している。
外に出たことが無い子どもも多いようだし、危険に満ちている雪山だと、色々警戒したほうがいいのは確かだろう。
カクトスが前に出てきて、「彼らは客人だよ。米の美味しい料理の仕方を教えてくれるんだ。それから魔法を使う大魔道士もいる。彼女のお陰で我々は雪崩の中を突っ切って帰ることができたんだ」迫真の説明!
おーっとどよめくコボルドたちなのだった。
物わかりがいい。
信頼しているコボルドの兄貴分が信用しているのだから、自分たちも信じていい、という理屈かも知れない。
カクトスが騙されていないなら正しい。
で、僕らは本当に善人なので結果的に正しかった。
「みたことないひともいる!」「みみがたってる!」「おー!」
コゲタは警戒されないな。
ワーッと飛び出してきたコボルドたちが、コゲタを囲んでいる。
これに対し、うちのコゲタが先制攻撃!
「こんにちはー!!」
ハッとするコボルドたち。
みんな顔を見合わせた後、「こんにちはー!!」と元気に返した。
これでコボルド同士の敵味方識別は終了。
あとは仲良しなのだ。
コゲタが自己紹介し、リップルも細かい説明を請け負ってくれる。
その間に僕は長老に挨拶だ。
ほう、セントバーナードのコボルドですか。
でかい。
そして優しそう。
「どうもどうも、外から来た人間よ。雪山であなたがた人間に会った者は、歴代の長老でもわしくらいのものでしょう」
「そんなに人間って来ないものなんですか」
「大体は森の村で満足してこちらまで来ませんな」
「他に来るものがいても、皆草原を抜けられなかったようです」
「みてきたように仰る」
「見えますな。この雪山において、外の景色をみられるのがこの水晶板でして」
彼が指し示したのは、大変大きなキラキラ輝く板である。
というか、この洞穴やたら広くてしかも明るい。
あちこちにコボルドの抜け毛を使って作られた敷物があり、風も吹き込まないから室内はちょっと肌寒い程度。
何かを着ていれば全然問題ないな。
「水晶板は吹雪によって回る魔道タービンというのがあるんだそうで。カズテスが我ら遺跡の守り人のために残してくれた娯楽装置です」
「思ったよりも発展しているところに暮らしてるんだなあ……。待てよ、遺跡の守り人!?」
「はい。我ら雪山のコボルドは守り人です。我らに認められた者のみが遺跡の深奥に迫ることができるのです」
僕は全然そんなつもりなどなく、お米を手に入れた後に垂れ耳コボルドをもふりたいなあ、としか考えていなかったのである!
それがどうも、とんでもない大発見に立ち会ってしまったようだ。
そもそも大賢者カズテスは何をしていたと言うんだ……?
興味がある。
コボルドを愛し、スケアクロウを作り出して米を育てる永久機関を産み……。
そのコボルドたちがお米を食べていると。
ふーむ。
犬が好きで美味しいものが好きな魔道士だったのではないか?
まあ、ここは想像だけでやるのはやめておこう。
「じゃあ早速米を作りますけど、油はここだと再現が難しいですよねえ」
「油ですか。ありますよ」
「ないですよねえ……えっ、あるの!?」
「あります。ただ、それは本来火を燃やすためのものでして」
「なーるほど、食用油ではなかった」
見せてもらったら、普通に獣脂だった。
食べられるじゃん!
食べるという発想がこれまで無かったんだな。
暖房としても調理用としても油は大事だもんな。
では、ここは潤沢に油を使った焼き飯をご馳走しよう……。
ちょうどここには大きな鉄板が用意されていた。
鉄板!?
なんで?
「これもカズテスの遺産で……」
「なんでもありだなあカズテス」
油をたっぷり敷いて、米と具材を炒めた。
主に山で採れる食材はコケの類と、あとは熊とか鹿とか。
ははあ、いい感じに食べごたえがありますねえこれは。
大量の米を茹でて膨らませ、これをガンガンに炒める。
次々に焼き飯が完成していった。
コボルドが集まってきて、むしゃむしゃ焼き飯を食べる。
大好評だ。
長老もニコニコしながら焼き飯をもりもり食べて、
「油をこうも潤沢に使えるとは……。一つ頼みがありますぞ!」
「おっ、なんですか」
「カズテスの遺跡の最奥部まで到達し、油を覚えさせてきてはもらえませんか」
「……? 何を仰ってるのか」
「いや、実はこの遺跡はですね、食材の再現が可能になるようになっておりまして」
「はあはあ。それが遺跡の真価?」
「恐らく、もっと高尚な機能があるのだとは思うのですが……いかんせん我々はコボルド。美味しいものを再現機能しかできませんで。あ、再現したのがこのコケです。米や肉は再現できず、もっとこう、調理せねば食べられないものしか作り出せないのですよ」
ははあ、なるほど。
話を聞くに、植物しか再現できない。
だが穀物は再現できない。
そういうものらしい。
どれどれ、リップルを連れて、遺跡探索と行こうか。
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