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82・島の裏側へ
第248話 棒術スケアクロウの里
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「夜だから静かだなあ」
「ええ。我々スケアクロウは陽の光と水を栄養としていますから。それは島の裏側のスケアクロウも変わりません」
島の裏側と言われて一瞬こんがらがったが、なんのことはない。
僕らが最初に到着したところのスケアクロウたちだ。
彼らは自分の住んでいるところこそが島の表側であると言っている。
「宿泊できる場所は……藁を積み上げて作った小屋があります。我々スケアクロウの子どもを作るべく、藁を熟成させている場所ですね」
「あー、こちらには倉がない」
「ありませんね。あちらは森のコボルドの協力を得られるのでしょう。こちらはコボルドは山から降りてくる者たちがいるくらいで」
「山からコボルドが!?」
カズテスの島は、円錐状の雪山を囲む形になっている、シルクハットに似た構造だ。
その山にコボルドたちが住んでいるということなのだ。
そう言えば、船に乗ってたマキシフは寒いところに住んでいたような話をしていた気がする。
レトリバー種のコボルドは、熱帯雨林のコボルドの里にはいなかったもんな。
「じゃあそのコボルドは助けに来てくれない感じ……?」
「いえ、水路などは彼らに掘ってもらっていますし」
「建物は作ってもらってないと?」
「彼ら、家は雪と毛皮で作るんですよ」
「あー、なるほどー」
イグルーだ!
なるほど、イグルーを作って暮らしているからこそ、こちらにやってきても家を建てないのだ。
「様々な驚きがある島だ……。じゃあ今夜の我々の宿はこの藁束の下ということで。雨は防げるので?」
「ええ、それだけはバッチリと。そうでなければ、ここに米を保存できませんから」
「なーるほどなあ……」
表側のスケアクロウの里では、熱帯雨林のコボルド村と協力していた。
こちら側のスケアクロウの里……仮に、棒術スケアクロウの里と呼ぼう。
ここは雪山にあるコボルド村と協力しているのだ。
「こちらのお米を食べてもよろしい?」
「いいですよ。ただ、日が明けてからにされた方がいいでしょう。おっと」
里の入口辺りから、獣が入り込んでくる様子が見える。
スケアクロウは棒を携えて、ぶらぶらとそちらに向かって歩き出した。
「里を守る用事がありますので、あとはごゆっくり……」
「ああ、お気をつけて」
ここのスケアクロウはクールだなあ。
遠くで、棒で獣を叩く音と、「ぎゃうーん」という悲鳴が聞こえる。
見事撃退したようだ。
強い。
多分、僕が思うにシルバー級相当の実力者だろう。
棒術スケアクロウの里……。
謎に満ちている。
インディカ米をご馳走になると同時に、色々と調べておきたいところだ。
「いやあ……世界は広いなあ……。私は驚きっぱなしだよ。百年生きてて、こんなに知らないことばかりだとは思わなかった。私は狭い世界でイキっていたのかも知れない。ああ、昨日までの私が恥ずかしい」
なんかもちゃもちゃ言いながら、リップルが藁に埋もれてぐうぐう寝始めた。
コゲタは喜んで藁に突っ込んでいったと思ったら、そのままプスープスーと鼻息を吹いて寝ている。
今日は一日歩き詰めだったからなあ。
少しの間、ここでゆっくりして疲れを取ってもいいだろう。
僕に色々付き合わせる形になっているしな。
さて、藁屋根の下で僕もごろりと横になる。
隙間なく、みっしりと藁が詰まっているではないか。
なるほど、生半可な雨など通すまい。
壁も藁で編まれていて、隙間が見えない。
星空くらいは見えると思ったけどなあ……。
なんて考えているうちに、僕も寝てしまった。
目覚めると、日差しが差し込んできているではないか。
入口の藁は薄くなっているようで、ちょっと隙間があるのだ。
起き上がったら全身に藁がくっついている。
払い落としながら、入口に垂れ下がった藁をのけて外に出る。
たくさんのスケアクロウが動き回っていた。
おや?
小さいスケアクロウが棒を手にして「えい! やあ!」と一斉に素振りをしている。
その前には、師範っぽいスケアクロウが立っているではないか。
「あ、どうもどうも」
僕が挨拶しながら出ていったら、師範スケアクロウがこちらに向き直った。
「ああ、外から来たという旅人の方ですか! 珍しい。島の裏側には何度か来たという話は聞いていますが、こちらに人間がやってきたのは、恐らく何十世代かぶりでしょう」
「あー、そんなに珍しいんですか」
「ええ、珍しいんです。このカズテスの島はですね、回転しているんです。それで常に、船がやって来る方向を島の裏側が向いている。恐らくカズテスは、我々表側のスケアクロウの里に人間を近づけたくなかったのでしょう」
「ほー! なんでそんなことに?」
「山へ通じる道が、この里からしか無いからでしょう。山に、カズテスは己の研究成果を隠したと言われています。我々は悪しき人間から山を守るため、こうして戦う術を身に着けているのです。半端な魔法なら棒で打ち返す技もあります」
「すげー」
心底凄いよそれは。
なるほど、魔導士カズテスは、この島に彼の秘密を隠していたのだな。
その守り手として、スケアクロウと垂れ耳コボルド、それに草原のモンスターたちを置いたのだ。
で、彼らはどうやら人の善性みたいなものが見抜けるのではないか?
僕とリップルとコゲタが、何も警戒されずに迎え入れられたのだから。
……僕は善か?
いや、善だと思う。
善じゃないかな、多分。
「ええ。我々スケアクロウは陽の光と水を栄養としていますから。それは島の裏側のスケアクロウも変わりません」
島の裏側と言われて一瞬こんがらがったが、なんのことはない。
僕らが最初に到着したところのスケアクロウたちだ。
彼らは自分の住んでいるところこそが島の表側であると言っている。
「宿泊できる場所は……藁を積み上げて作った小屋があります。我々スケアクロウの子どもを作るべく、藁を熟成させている場所ですね」
「あー、こちらには倉がない」
「ありませんね。あちらは森のコボルドの協力を得られるのでしょう。こちらはコボルドは山から降りてくる者たちがいるくらいで」
「山からコボルドが!?」
カズテスの島は、円錐状の雪山を囲む形になっている、シルクハットに似た構造だ。
その山にコボルドたちが住んでいるということなのだ。
そう言えば、船に乗ってたマキシフは寒いところに住んでいたような話をしていた気がする。
レトリバー種のコボルドは、熱帯雨林のコボルドの里にはいなかったもんな。
「じゃあそのコボルドは助けに来てくれない感じ……?」
「いえ、水路などは彼らに掘ってもらっていますし」
「建物は作ってもらってないと?」
「彼ら、家は雪と毛皮で作るんですよ」
「あー、なるほどー」
イグルーだ!
なるほど、イグルーを作って暮らしているからこそ、こちらにやってきても家を建てないのだ。
「様々な驚きがある島だ……。じゃあ今夜の我々の宿はこの藁束の下ということで。雨は防げるので?」
「ええ、それだけはバッチリと。そうでなければ、ここに米を保存できませんから」
「なーるほどなあ……」
表側のスケアクロウの里では、熱帯雨林のコボルド村と協力していた。
こちら側のスケアクロウの里……仮に、棒術スケアクロウの里と呼ぼう。
ここは雪山にあるコボルド村と協力しているのだ。
「こちらのお米を食べてもよろしい?」
「いいですよ。ただ、日が明けてからにされた方がいいでしょう。おっと」
里の入口辺りから、獣が入り込んでくる様子が見える。
スケアクロウは棒を携えて、ぶらぶらとそちらに向かって歩き出した。
「里を守る用事がありますので、あとはごゆっくり……」
「ああ、お気をつけて」
ここのスケアクロウはクールだなあ。
遠くで、棒で獣を叩く音と、「ぎゃうーん」という悲鳴が聞こえる。
見事撃退したようだ。
強い。
多分、僕が思うにシルバー級相当の実力者だろう。
棒術スケアクロウの里……。
謎に満ちている。
インディカ米をご馳走になると同時に、色々と調べておきたいところだ。
「いやあ……世界は広いなあ……。私は驚きっぱなしだよ。百年生きてて、こんなに知らないことばかりだとは思わなかった。私は狭い世界でイキっていたのかも知れない。ああ、昨日までの私が恥ずかしい」
なんかもちゃもちゃ言いながら、リップルが藁に埋もれてぐうぐう寝始めた。
コゲタは喜んで藁に突っ込んでいったと思ったら、そのままプスープスーと鼻息を吹いて寝ている。
今日は一日歩き詰めだったからなあ。
少しの間、ここでゆっくりして疲れを取ってもいいだろう。
僕に色々付き合わせる形になっているしな。
さて、藁屋根の下で僕もごろりと横になる。
隙間なく、みっしりと藁が詰まっているではないか。
なるほど、生半可な雨など通すまい。
壁も藁で編まれていて、隙間が見えない。
星空くらいは見えると思ったけどなあ……。
なんて考えているうちに、僕も寝てしまった。
目覚めると、日差しが差し込んできているではないか。
入口の藁は薄くなっているようで、ちょっと隙間があるのだ。
起き上がったら全身に藁がくっついている。
払い落としながら、入口に垂れ下がった藁をのけて外に出る。
たくさんのスケアクロウが動き回っていた。
おや?
小さいスケアクロウが棒を手にして「えい! やあ!」と一斉に素振りをしている。
その前には、師範っぽいスケアクロウが立っているではないか。
「あ、どうもどうも」
僕が挨拶しながら出ていったら、師範スケアクロウがこちらに向き直った。
「ああ、外から来たという旅人の方ですか! 珍しい。島の裏側には何度か来たという話は聞いていますが、こちらに人間がやってきたのは、恐らく何十世代かぶりでしょう」
「あー、そんなに珍しいんですか」
「ええ、珍しいんです。このカズテスの島はですね、回転しているんです。それで常に、船がやって来る方向を島の裏側が向いている。恐らくカズテスは、我々表側のスケアクロウの里に人間を近づけたくなかったのでしょう」
「ほー! なんでそんなことに?」
「山へ通じる道が、この里からしか無いからでしょう。山に、カズテスは己の研究成果を隠したと言われています。我々は悪しき人間から山を守るため、こうして戦う術を身に着けているのです。半端な魔法なら棒で打ち返す技もあります」
「すげー」
心底凄いよそれは。
なるほど、魔導士カズテスは、この島に彼の秘密を隠していたのだな。
その守り手として、スケアクロウと垂れ耳コボルド、それに草原のモンスターたちを置いたのだ。
で、彼らはどうやら人の善性みたいなものが見抜けるのではないか?
僕とリップルとコゲタが、何も警戒されずに迎え入れられたのだから。
……僕は善か?
いや、善だと思う。
善じゃないかな、多分。
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