俺は異世界の潤滑油!~油使いに転生した俺は、冒険者ギルドの人間関係だってヌルッヌルに改善しちゃいます~

あけちともあき

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73・カレーコを求めて

第220話 油煮にマサラガラムを投入する……

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 執政官の頼みで、何か新しいグルメを作ることになってしまった。
 さてどうする?

 砂漠の王国と言えば油煮である。
 オブリーオイルを贅沢に使い、その中で食材を煮て食べる。
 何とも素晴らしい香りで美味しいのだが、そこにあえてマサラガラムをどーん!!

 いけるか?
 いや、いけるだろう。

 店舗を貸してもらい、油煮を作る。

「外国の人なのに上手いもんだね! ……あれ? 今、油をどこから出した?」

「僕は油使いなんでね」

「無から油を!?」

 店の人に驚かれながら、僕はまずオーソドックスな油煮を作ったのだった。
 具材はオブリーの実と、オアシスに生息する貝だ。
 この貝、どこからやってきたんだろうなあ……。

 砂漠の王国ではメジャーな食材らしい。

 店主は僕の料理する姿をじっと見ており、「普通の油煮だが……」とか言っている。
 執政官は僕が何か凄いことをするのを待っているようで、ずっとニコニコしているではないか。
 やりづらいからあまり注目しないでいただきたいなあ。

 マサラガラムを取り出し、これを油煮にちょっと入れてみる。
 おっ、色が変わった。
 そしてとんでもなく香しい匂いが漂い始めたぞ。

 少量だとこうなるのか。

 店主と執政官の顔色が変わる。
 まあ、マサラガラムはこっちだと再現できないからな。

「このハーブは後々、アーランから輸出されてくると思うんで……」

「そうなのですか! それは楽しみです……!」

 それなりに生産量は確保できると思うが、あらゆる料理の味をスパイス風味に変えてしまう劇薬だ。
 ご利用は計画的に。

 マサラガラムで香りを変えた油煮は、大変好評だった。
 見た目は油煮なのに、全く別物の味になってしまったというので、執政官と店主は猛烈な勢いでこれを食べていた。
 そして食べ終わってから、放心状態になっている。

 マサラガラム、あまりにも魔性のスパイス。
 その後、この国にある食材だけで常識的な料理を作るなどした。

 スパゲッティ・ボンゴレのビアンコである……!!
 これは面白いパスタの作り方、ギルボウから習っておいたのだ。

 有用な技術である。
 くるくるっとスパイラルになったちっこいパスタに、オブリーオイルにピーカラ、そしてオアシス貝を使って……。
 なに、にんにくが無い!?

 それっぽいハーブで誤魔化せ誤魔化せ!
 弱にんにくみたいなハーブはこの国でよく使われていて、ガンガンに使えばまあまあボンゴレビアンコが作れる。
 弱にんにくをそんなに使うの!? みたいな顔で執政官たちが見ていたのが印象的だったなあ。

 で、完成したボンゴレビアンコを執政官と店主が猛烈な勢いで食べた。

「な、なんという刺激!! だが我々の知っている味です! アーランと違い、我々は味に対して保守的です。だからあまりにもかけ離れた食べ物を提供されても、それはきっと流行らないでしょう。だからこそ、これはいい」

 にっこりする執政官。
 特に、くるくるっとしたパスタがいいらしい。
 全く同じ食材でも形を変えることで、特別感が出る。

「特別な日に食べる料理になることでしょう。ありがとう、美食の伝道師よ」

「あー、どういたしまして」

 こんなマイナーチェンジでいいのか!
 いや、今まで僕は暴れすぎていたのだ。
 異世界人、そんなに味の冒険をしまくったりしないのが普通なのである。

 目先がちょっと変わって、普段とは違う分量でも美味しくなる。
 その事実だけで十分だったのだ。

 大きな学びだなあ……。

 スッキリした顔をして戻って来た僕に、ツインとルリアが「またこの国を美食の底に沈めたのか」「不健康になるお料理はやめてくださいねえ~」とか言ってくるのだった。

 人を何だと思っているのか。
 ともかく、これでカレーコ探索のため、砂漠の王国への滞在が許された。
 正確には、宿と食事はこの国が持ってくれる。

「全く、君にはいつも驚かされる……。僕らが想像もできないやり方で、国という巨大な怪物を相手取って手玉に取ってしまうのだからな。堅物だったあの人まで、今や君のファンだ」

 ツインが言うあの人というのは、父親であるデュオス王子であろう。
 男児が産まれると、第一王子と第二王子で権力争いが勃発し、国が割れてしまうということでツインは神殿に里子に出されたのだ。

 イケメンで聡明、人格にも優れていて武芸百般に通じるツイン、確かに王宮にいたら争いの中心になってしまったことだろう!
 王国の判断は正しいと言える。
 まあ、そのお陰でデュオス殿下は気力をなくし、死んだ目で公務をこなすだけのマシーンになっていたのだが。

 そんなデュオス殿下は、僕の美食と出会ったことで魂を取り戻した。
 今は健康体のまま、美食をひたすら食べるため、肉体改造を繰り返しているぞ。
 そろそろ普通の騎士よりもムキムキになってるんじゃないだろうか?

 あと、そんな旦那に付き合って運動をしていた第二王子夫人は、出会った頃のポテッとした印象がもうどこにもない。
 すらっとしていて、背筋もピンと伸びてて、明らかに十歳以上若返って見える。

 美食パワーである。

「改まって言うのもなんだが、ありがとうナザル殿。これからも頼む」

「もちろんです。大事なパトロンでもありますからね」

「二人とも、コゲタちゃんが外に飛び出して行きたくて仕方ないみたい~。お話は切り上げてまいりましょう~!」

「いこー!」

 コゲタはそう発するなり、ルリアの手を引っ張ってピューッと国の外に出ていった。
 よーし、それではカレーコ探し本番と行くか!

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